取引銀行から『親展』と記された封書を妻が受け取った。私はどうせ妻より先にいなくなるので、銀行を始めとして世帯主から保険証など後々手続きが面倒な事を失くそうとしている。
先日テレビの番組で第22代文化庁長官にして第9代東京芸術大学学長の宮田亮平氏の特集を観た。宮田氏は私より2歳年上だ。才能、経歴などどれをとっても私とは比べ者にならない。そんな宮田氏がテレビ番組の中で「私はヒモでした」と言った。「ヒモ」私も同じくそう呼ばれた。「40代後半まで私は妻に食べさせてもらっていたので、何でも私の名前は妻の次でした。世帯主も妻。保険証も私は被保険者でした」を聞くと私の宮田氏への関心は、いやがおうでも高まった。寄ってたかっていじめられていたいじめられっ子を大鵬のような大きくて心優しい相撲取りが救いに現れたようなものだ。普段卑屈に物事を捉えている私を少し元気にしてくれた。
『親展』の中身は「2019年7月吉日 お客さま各位 株式会社 〇〇銀行 外貨預金口座からの外貨現金金のご出金に関するお知らせ 平素は弊行をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。弊行は、マネーロンダリングへの厳格な対応を求められるなか、外貨預金口座のお取引につきまして、下記の取扱いとさせていただきます。(①外貨預金によるご入金:既に取り扱いを終了しております。②外貨現金によるご出金:2019年8月30日(金)をもって終了させていただきます。) 詳しくはお取引店までお問い合わせください。 以上」
私は『親展』とある手紙の最後の“以上”にカチンときた。手紙文の内容も一方的で実に銀行らしい文章である。完璧な上から目線。私の知る範囲で文末の「以上」は、よほどの親しい中でしか使ってはならないと受け止めている。銀行と私たち夫婦はけして親しい関係にない。銀行に電話で問い合わせた妻から私にメールが入った。「〇〇銀行に電話しました。相変わらずの意味不明な、上から目線の銀行員。手紙の内容がよくわからないから電話したのに、外貨の責任者が出るのに3人も人が変わった。代わった人は典型的ないやな銀行員。問い合わせの客の質問にわかるように答えることもできない。外貨の取り扱いをやめるということらしい。入金も出金も外貨をやめるということで、〇〇銀行本体が決めたので利用者はそれに従えみたいなものです。入金はすでに今年4月にやめている、出金も9月にやめたいということで外貨口座持っている人に手紙出した。外貨口座持っている人すべてに手紙を出しました。マネーロンダリングと関係ない私に来た手紙にも文面はすべて同じなので悪しからずみたい。外貨預金を外貨で引き出したいときは8月いっぱいまで。手続きは銀行に行き手続して3営業日かかる。手数料は1ドル1.5円、つまり1000ドル出すと1500円、10000ドルで15000円、100000ドルだと150000円。ドルを自分の円建て口座に移すときは1ドル1円の手数料。外貨を外貨のまま他の金融機関に送金することは可能。ドルのキャッシュを銀行窓口で扱わないということらしい。現在行っているドルの定額積み立て預金は引き続き継続可能で問題ないが、ドル現金の引き出しは9月以降できないということでした。手堅い銀行だから〇〇銀行使っているけど、なんだかがっかり。もっと安心して利用できる銀行はないものかね。以前の〇〇銀行もひどかった。皆がタンス預金に走る気持ちもわからないわけではないね。こんなんでよくで続けているよね。」
私はかつて自分で仕事をしていた時、銀行との関りで良い思いをしたことがない。知人の保証人になっていて、知人が倒産夜逃げして、彼の借金を代理弁済した。あの時の銀行の私に対する非情な犯罪者に対するような態度は、忘れない。妻は事業で銀行と関わったことはない。そんな妻でさえ銀行に対する見方は厳しい。かつての銀行の悪いところを、いまだに引きずっている。今やどんな事業でもネットで簡単に人と関わることなく、済ませる時代になった。海外の銀行からも虎視眈々と日本参入を狙っている。異業種異形態の銀行業務への参入もある。銀行の業績は、回復が見られない。無理もない。日本の銀行が復活できるなら、その時は、『親展』の封書の文末は「まずは、書中をもって、お詫びかたがたご連絡いたします」になっているであろう。