先週、40年近く使ったウォーターベッドを破棄した。最初の結婚は7年で離婚に終わった。二人の子供を引き取った。2年間一緒に暮らした。その時思った。このままだと3人がダメになってしまう。可愛い子には旅をさせろ。二人の将来を考えた。長男を全寮制の高校へ。長女は、英語を身に付けさせるためにアメリカへ行かせた。毎月、二人に仕送りするために、予備校、専門学校、自分が経営した塾、家庭教師を掛け持ちした。腰痛が悪化した。ウォーターベッドが腰痛に良いと聞いた。何としてでも二人の子が大学を卒業するまで支えなければと思っていた。ウォーターベッドは百万円くらいしたが、月賦払いで買った。腰痛が消えた。高価だったが、100万円でも40年使えば、1年2万5千円だ。1日68円ということになる。
縁あって再婚できた。妻の仕事の関係で海外勤務に、私は自分の仕事をやめて同行した。ネパール、セネガル、旧ユーゴスラビア、チュニジア、ロシアのサハリンに暮らした。サハリン以外の国ではウォーターベッドを使った。ウォーターベッドの便利なことは、シリンダーの水を抜くと意外と小さくまとめることができるので引っ越しが楽。こうしてウォーターベッドは、私たち夫婦とずっと一緒だった。妻が日本の病院に勤務するため、帰国した。終の棲家として温暖な地の集合住宅を購入した。ここでもずっとウォーターベッドを使った。ウォーターベッドの水は、1年に1回取り替えなければならない。さすがに40年も使い続けるとビニール製のシリンダーが漏れてきた。製造元のフランスベッドに問い合わせると、すでにウォーターベッドの販売をやめていて、シリンダーの在庫もないと言われた。ネットで調べると、中古のシリンダーがあったので買った。私たちも歳をとった。毎年の水替えが、しんどくなった。ベッドを買い替えることにした。でもウォーターベッドを捨てる気にはならなかった。水を替えもせず、私の書斎に置いておいた。40年間以上ずっと私と一緒だった。悲しいことがあった日も、嬉しいことがあった日も、私はウォーターベッドの上で寝た。愛着というか、何か体の一部のような気持ち。でも思った。私が死んだら、誰かがこのウォーターベッドを処分しなければならない。迷惑はかけたくない。処分しようと決心した。
町に何でも屋がある。この街に越してきて、いろいろやってもらってきた。頼むとさっそく来て、ウォーターベッドを運び出してくれた。前夜に妻と二人でウォーターベッドを分解しておいた。
ウォーターベッドを運び出した書斎は、広々した。一向に進まない私の終活。よくもまあ、これほどのごったくがたまったものだ。妻が勤めに出た後、一人で書斎を片付けていた。
何かの拍子に腰のあたりが「ギクッ」。ぎっくり腰! 思った。ウォーターベッドのお陰で、長い間腰痛を防げたのだと。そのウォーターベッドはもうない。