セネガルへ妻が赴任した時、前任地のネパールから2頭のシェパード『ウィ』牡と『ラン』雌を連れて行った。ランはネパールで生まれた。ウィはランのお父さん。セネガルのダカールは、治安が悪いと聞いていた。シェパード2頭が良き警護をしてくれることを期待していた。
ネパールでは、赴任直後すぐ家に泥棒が侵入した。ウィはまだ子犬で泥棒が侵入したことを検知できなかった。泥棒は、私のニコンの一眼レフのカメラや下着などを持ち去った。一番ヒヤッとしたのが妻の革製のドクターズバッグをネパールのククリという蛮刀で真っ二つに切られていたことだった。下手すればククリで首を切り落とされていたかもしれないのだ。それから半年後には立派な成犬になり、雇っていたネパール人の元グルカ兵だったガードマン以上の警護を担って私たちを守ってくれた。
セネガルでも親子2頭でやはり雇った警備会社から派遣されたセネガル人ガードマンと一緒に警護し当たってくれた。雇っていたセネガル人の運転手にセネガル人ガードマンは犬に警護を任せてほとんど寝ていられるので楽な仕事だと言っていた。
こうしてセネガルでも夜は2頭が警護してくれたおかげで泥棒にやられることはなかった。でも違う問題が発生した。ランが成熟してきて繁殖期を迎えた。ウィの様子が父親から牡になった。妻と相談してランに不妊手術を受けさせることにした。良い獣医を紹介してもらおうといろいろな情報を集めてある獣医にたどりついた。ランの手術が終わって治療室から出て来たランの首の周りにプラスチックの大きな白いモノが巻かれていた。私たち夫婦の介護でランはまた元通りに元気になった。術後の抜糸などで再び獣医を訪ねると、なんとその獣医は偽獣医で逮捕されたという。白いランの首の周りのモノと獣医が偽獣医だったことが記憶に残った。
同じ集合住宅の友人から連絡が来た。出張で留守にするが、飼い犬が先日手術を受けて首に『エリザベス』をしているので抜糸が済むまで心配なのでできるだけ家に置いときたいと言う。『エリザベス』ってなあに?早速検索した。「エリザベスカラーとは、手術、皮膚病、怪我などによる外傷を持った動物が、傷口をなめることで傷を悪化させることを防ぐ為の、円錐台形状の保護具である。呼称は、16世紀イギリスのエリザベス朝時代に衣服に用いられた襞襟から来ている。」 そうだったのか。セネガルでランが偽獣医の手術を受けた後付けられていたのは『エリザベス』だったのだ。私は今までに犬をたくさん飼った。友人の犬とも仲がいい。快諾した。
出張前日に友人宅で鍵を預かって、餌の事トイレの事などの打ち合わせをした。友人の犬はあと数日で抜糸するのでまだエリザベスカラーを付けている。まだ8カ月なのでやんちゃな牡犬だ。台風10号が襲来しそうなので、友人の出張が予定通りにいくかわからないが、久しぶりに犬と時間を過ごせる。日本に帰国して犬を飼おうと何度も思った。チュニジアに年老いたウィを友人に託して置いて来たことが、また犬を飼うという事を許さなかった。すでにあきらめていた犬と過ごす時間、たった1日だが楽しみたい。