恵比寿ガーデンシネマが、本年1月一杯で閉館することになり、その最後の上映作品だということで、気は早いのですが『人生万歳!』を見に行ってきました。
(1)『人生万歳!』は、ウディ・アレンの監督40作目に当たり、監督業も大層手慣れたものとなっているだけでなく、久し振りでホーム・グランドのニューヨークに戻ってきて制作したせいか、このところ鳴りをひそめていた持ち前の饒舌性とかウイットが溢れ返っていて、実に楽しい映画に仕上がっています。
なにしろ、登場人物が、冒頭からなんとなくカメラを意識しているなと思っていると、暫くしたら主人公のボリスが、はっきりと観客に向かってべらべら喋りだすのですから。
とこうしていると、メロディなる可愛い子ちゃんが登場し、アレヨアレヨという間にボリスと結婚。そこにメロディの母親が登場、夫が別の女性のところへ走ってしまったからと二人と同居するようになります。さらに驚いたことに、その夫までも、浮気相手の女性とは別れたと言いながらボリスの家に押し掛けてくる始末、という具合に、ハチャメチャのドタバタコメディなのです。
主人公のボリスと結婚してしまうメロディ役には、これまでだったらスカーレット・ヨハンソンが演じたことでしょうが、この映画ではエヴァン・レイチェル・ウッド。
いくら若いと言っても既に随分と実績のあるスカーレット・ヨハンソンでは、嫌みな老人ボリスを好きになってしまうおバカな女の子の役では似つかわしくないかもしれません。とはいえ、『それでも恋するバルセロナ』以降お目にかかっていないクマネズミとしては少々残念なところです。
もしかしたら、今度はエヴァン・レイチェル・ウッドが売れ出すのでしょうか(彼女は、『レスラー』に登場したようですが、印象に残りませんでした)。
なお、このメロディについては、ボリスから乗り換える若いイケメンに「ユニクロ」でばったり遭遇するというシーンがあります(尤も、メロディの母親が画策したことですが)。ユニクロは、映画『(500)日のサマー』におけるIKEAのようなデートスポットになっているのでしょうか?
また、メロディの母親は、田舎から突然ニューヨークに出てきたにもかかわらず、ボリスの友人にその写真の才能を見出されて、遂には個展を開催するまでのアーティストになります。
女性が大活躍しているアメリカと一概に言っても、それまで彼女が住んでいた南部では、偏見もあって才能の開花が見られなかったものの、一度ニューヨークに出ると一気に芸術家になってしまうというストーリーは、おそらくアメリカの実情(地域格差)を反映しているものと思われ、実に興味深いことだなと思えます〔例えば、村上隆氏の『リトルボーイ』展のように(2005年)、芸術の世界でニューヨークは、アメリカどころか世界の中心と言えるかもしれません。ただ、『脳内ニューヨーク』の場合には、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる主人公の妻は、ベルリンで個展が開催されますが!〕。
なお、この母親役はパトリシア・クラークソンが演じているところ、『エレジー』とか『それでも恋するバルセロナ』でも活躍していて、マサニお馴染みといった感じです。
とはいえ、この映画で最後まで違和感が残るのは、主人公のボリスを演じるラリー・デヴィッドが、まるで監督ウディ・アレンの“そっくりさん”の如く、風貌からしゃべり方に至るまでウディ・アレンそのものなのです。そこまでやるのなら、年齢的に無理だとされてはいますが(75歳)、以前のように彼自身が出演すればと思ってしまいます。なにしろ、2006年の『タロットカード殺人事件』までは、何かと出演していたのですから(クリント・イーストウッドだって、78歳で自分の映画『グラン・トリノ』に出演しているのですから)。
でも、このラリー・デヴィッドというコメディアンは、これまで全然知りませんでしたが、何かにつけて人の意見を否定するという実に嫌みな自称“天才物理学者”を誠にうまく演じていて、見終わった後は、しいてウディ・アレンでなくとも良かったのかなと思えてきます。
(2)恵比寿ガーデンシネマでは、今回の作品の監督であるウディ・アレンの作品をいろいろ見ました(たとえば、『ギター弾きの恋』(2001年)とか『メリンダとメリンダ』(2005年)、『ウディ・アレンの夢と犯罪』などなど)。
他にも目ぼしい映画が随分とこの映画館で上映され、クマネズミも見に行ったところなので(たとえば、『千年の祈り』とか『ロルナの祈り』、『マイ・ブラザー』などなど)、2010年は史上最高の映画国内興行収入との報道があったばかりにもかかわらずこの映画館が閉館する、というのは酷く寂しい気がします。
(3)前田有一氏は、「年の離れた小娘とじいさんが恋する話というのは、ウディ・アレンファンから見るとちょいと生々しすぎて引き気味にならざるをえない。アンタはいつまでロリ美少女を追いかけるんだよと、思わず突っ込みたくなる」ものの、「笑いと皮肉の利いた、これぞアレン映画の魅力。その切れ味はここ最近では見られなかったほどのもので、数年ぶりに舞台をNYに戻して撮影しただけのことはある」として70点を与えています。
渡まち子氏も、「すったもんだの出来事を経て、それぞれに似合いの相手をみつけ幸せになっていくキャラクターたち。物語は「いろいろあっても、人生は収まるところに収まっていくもの。心配無用だよ」とウィンクしているようだ。ただしそれには、自分とは違う世界の人間とも知り合って交流してみる勇気が大切。活路はいつも思いがけないところから開けていくのだ」として70点を与えています。
★★★☆☆
象のロケット:人生万歳!
(1)『人生万歳!』は、ウディ・アレンの監督40作目に当たり、監督業も大層手慣れたものとなっているだけでなく、久し振りでホーム・グランドのニューヨークに戻ってきて制作したせいか、このところ鳴りをひそめていた持ち前の饒舌性とかウイットが溢れ返っていて、実に楽しい映画に仕上がっています。
なにしろ、登場人物が、冒頭からなんとなくカメラを意識しているなと思っていると、暫くしたら主人公のボリスが、はっきりと観客に向かってべらべら喋りだすのですから。
とこうしていると、メロディなる可愛い子ちゃんが登場し、アレヨアレヨという間にボリスと結婚。そこにメロディの母親が登場、夫が別の女性のところへ走ってしまったからと二人と同居するようになります。さらに驚いたことに、その夫までも、浮気相手の女性とは別れたと言いながらボリスの家に押し掛けてくる始末、という具合に、ハチャメチャのドタバタコメディなのです。
主人公のボリスと結婚してしまうメロディ役には、これまでだったらスカーレット・ヨハンソンが演じたことでしょうが、この映画ではエヴァン・レイチェル・ウッド。
いくら若いと言っても既に随分と実績のあるスカーレット・ヨハンソンでは、嫌みな老人ボリスを好きになってしまうおバカな女の子の役では似つかわしくないかもしれません。とはいえ、『それでも恋するバルセロナ』以降お目にかかっていないクマネズミとしては少々残念なところです。
もしかしたら、今度はエヴァン・レイチェル・ウッドが売れ出すのでしょうか(彼女は、『レスラー』に登場したようですが、印象に残りませんでした)。
なお、このメロディについては、ボリスから乗り換える若いイケメンに「ユニクロ」でばったり遭遇するというシーンがあります(尤も、メロディの母親が画策したことですが)。ユニクロは、映画『(500)日のサマー』におけるIKEAのようなデートスポットになっているのでしょうか?
また、メロディの母親は、田舎から突然ニューヨークに出てきたにもかかわらず、ボリスの友人にその写真の才能を見出されて、遂には個展を開催するまでのアーティストになります。
女性が大活躍しているアメリカと一概に言っても、それまで彼女が住んでいた南部では、偏見もあって才能の開花が見られなかったものの、一度ニューヨークに出ると一気に芸術家になってしまうというストーリーは、おそらくアメリカの実情(地域格差)を反映しているものと思われ、実に興味深いことだなと思えます〔例えば、村上隆氏の『リトルボーイ』展のように(2005年)、芸術の世界でニューヨークは、アメリカどころか世界の中心と言えるかもしれません。ただ、『脳内ニューヨーク』の場合には、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる主人公の妻は、ベルリンで個展が開催されますが!〕。
なお、この母親役はパトリシア・クラークソンが演じているところ、『エレジー』とか『それでも恋するバルセロナ』でも活躍していて、マサニお馴染みといった感じです。
とはいえ、この映画で最後まで違和感が残るのは、主人公のボリスを演じるラリー・デヴィッドが、まるで監督ウディ・アレンの“そっくりさん”の如く、風貌からしゃべり方に至るまでウディ・アレンそのものなのです。そこまでやるのなら、年齢的に無理だとされてはいますが(75歳)、以前のように彼自身が出演すればと思ってしまいます。なにしろ、2006年の『タロットカード殺人事件』までは、何かと出演していたのですから(クリント・イーストウッドだって、78歳で自分の映画『グラン・トリノ』に出演しているのですから)。
でも、このラリー・デヴィッドというコメディアンは、これまで全然知りませんでしたが、何かにつけて人の意見を否定するという実に嫌みな自称“天才物理学者”を誠にうまく演じていて、見終わった後は、しいてウディ・アレンでなくとも良かったのかなと思えてきます。
(2)恵比寿ガーデンシネマでは、今回の作品の監督であるウディ・アレンの作品をいろいろ見ました(たとえば、『ギター弾きの恋』(2001年)とか『メリンダとメリンダ』(2005年)、『ウディ・アレンの夢と犯罪』などなど)。
他にも目ぼしい映画が随分とこの映画館で上映され、クマネズミも見に行ったところなので(たとえば、『千年の祈り』とか『ロルナの祈り』、『マイ・ブラザー』などなど)、2010年は史上最高の映画国内興行収入との報道があったばかりにもかかわらずこの映画館が閉館する、というのは酷く寂しい気がします。
(3)前田有一氏は、「年の離れた小娘とじいさんが恋する話というのは、ウディ・アレンファンから見るとちょいと生々しすぎて引き気味にならざるをえない。アンタはいつまでロリ美少女を追いかけるんだよと、思わず突っ込みたくなる」ものの、「笑いと皮肉の利いた、これぞアレン映画の魅力。その切れ味はここ最近では見られなかったほどのもので、数年ぶりに舞台をNYに戻して撮影しただけのことはある」として70点を与えています。
渡まち子氏も、「すったもんだの出来事を経て、それぞれに似合いの相手をみつけ幸せになっていくキャラクターたち。物語は「いろいろあっても、人生は収まるところに収まっていくもの。心配無用だよ」とウィンクしているようだ。ただしそれには、自分とは違う世界の人間とも知り合って交流してみる勇気が大切。活路はいつも思いがけないところから開けていくのだ」として70点を与えています。
★★★☆☆
象のロケット:人生万歳!