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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

闇の列車、光の旅

2010年07月11日 | 洋画(10年)
ブラジルに3年間いたことがある因縁で、中南米の映画が上映されると出来るだけ見に行くようにしてきたことから、『闇の列車、光の旅』もTOHOシャンテシネで見てきました。

(1)この映画の中心人物は、自分たちを取り囲んでいる厚くて高い塀を何とか乗り越えようとする若い二人です。
一人は、メキシコの田舎のギャング集団(ストリートギャング集団「マラ・サルバトゥルーチャ」のサブグループなのでしょう)から何とか逃れ出ようとするヒーローのカスペルであり、もう一人は、ホンジェラスの首都の貧民窟から逃れ出てアメリカに行こうとするヒロインのサイラです。
当初二人は、何の関係もなしに別々の生活を営んでいましたが、ヒロインらがアメリカに行くべく乗り合わせた列車(といっても、その屋根に不正乗車しているにすぎませんが)を、ヒーローがボスと一緒に襲撃した際に、離れていた二つの線が一つの線に合わさります。
その際にボスがサイラを暴行しようとするのをやめさせようとして、ヒーローはボスを殺してしまうことから、彼は「マラ・サルバトゥルーチャ」の仲間からつけ狙われます。はたして二人はアメリカに無事入国できるでしょうか、……。

この映画が興味深いのは、色々な出来事が複線的に描かれていることではないかと思いました。たとえば、
イ)ヒーローとヒロインが、メキシコとホンジェラスと、全然別の国で無関係に生活しているところから物語が始まります。
尤も、中米という酷く狭いところに人為的にひかれた境界線で別の国になっているだけのことで、言葉もスペイン語が共通ですから、それほど隔絶した感覚ないのかもしれませんが。

ロ)カスペルは、列車を襲撃する前に、自分の恋人をボスが暴行しようとして誤って殺してしまったことを知っていて、そのボスが再度サイラを暴行しようとしているのを見て抑えが利かなくなったのでしょう、思い余ってボスを殺してしまいます。ところが、ヒーローは、このボスの取立てで、このギャング集団の仲間になり、その後も目を掛けられてきたようなのです。

ハ)この列車襲撃の際に、カスペルは、自分が目をかけてきたスマイリーという少年を同行させますが、ボスを殺した後、スマイリーのためを考えて自分と同行させずにギャングのもとに戻します。その結果、逆にスマイリーは、ギャング団に忠誠心を示そうと、ヒーローを殺そうと追跡するようになります。

ニ)サイラは、自分を救ってくれたヒーローに好意を持ちますが、彼は、ボスに殺された恋人のことが忘れられないこともあって、ヒロインを遠ざけようとします。ですが、彼女はくじけずあくまでもカスペルについていこうとします、そして、……。

この映画を監督した日系アメリカ人のキャリー・ジョージ・フクナガ氏は、弱冠33歳で、これまで2本の短編映画しか製作していないにもかかわらず、無名の俳優たちを使いながら、初長編のこの作品を頗る感動的なものに仕上げたのは素晴らしいことだと思います(ちなみに、大層感動的な長編第1作目の『息もできない』を製作したヤン・イクチュンも35歳です!)。

(2)この映画では、メキシコのグアテマラよりに位置する町のストリートギャング集団「マラ・サルバトゥルーチャ」が登場します。
これは現実のギャング団であり、元々は、アメリカのロサンゼルスに住み着いたエルサルバドル難民を守るために結成されたエルサルバドル人だけのグループだったそうですが、現在ではアメリカだけでなく、中米全域にその活動拠点を広げる強大なグループとなっています(このように勢力が拡大したのは、アメリカ政府が多くのマラ・サルバトゥルチャを本国のエルサルバドルに強制送還してしまったことによるとされています)。

劇場用パンフレットに掲載されている川崎美穂氏の解説によれば、彼らは、「自らが凶暴なギャングであることを示すためのタトゥー」をいれています(「映画の中でも、彼らのアジトには専属の彫師がいて、稚拙なデザインを極めて不衛生な環境下で仲間に入れている場面がある」)(注1)。



また、「人を殺めた者は目の下にティアドロップス(注)のタトゥーを入れる場合が多い」とのこと(注2)。下図では見難くて恐縮ですが、右目の横下に小さな刺青が描かれています。




(注1)同じように国境を巡る物語である『フローズン・リバー』でも、その女主人公レイの腕にはタトゥーが入っていました(尤も、レイがギャング団の一味というわけではありません)。
(注2)映画の中では“ラグリマ”とスペイン語で言われていますが、そのタイトルをつけた非常に有名なクラシック・ギターの曲がF・タレガによって作曲されています。


(3)評論家諸氏は、総じてこの映画に対して好意的です。
渡まち子氏は、「劇中には、中南米の移民問題と犯罪組織の実態がリアルに描かれ社会性を感じさせるが、同時に、青春映画のみずみずしさをも放っている。容赦ない結末の中に、かすかな光が見えるのは、真っ直ぐに前を向くサイラの瞳のおかげかもしれない」として75点を、
福本次郎氏は、「映画は経済格差の底辺からなんとか這いあがろうともがく少女と、組織を裏切った少年の逃避行を通じて、中米の貧困の現実に迫る」作品であり、「貧しさが犯罪を生み、犯罪が産業を衰退させて更なる治安の悪化を生むという負のスパイラル。先のことなど考えず、今だけしか見つめられない彼らの現状が切ないほどリアルに再現されている」として70点を、
前田有一氏も、「ほのかな意外性を感じさせるラストシーンは、パウリナ・ガイタンのパーフェクトとしかいいようのない素晴らしい表情のおかげで、観客も一気に涙が噴出する。過酷極まりない長い旅の、そのつらさ全てがこの数秒間、一気に感動に変換されて押し寄せ」、「人々の満足度を大いに高める優れた締め方であった」として65点を、
それぞれ与えています。



★★★★☆



象のロケット:闇の列車、光の旅
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2 コメント

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こんにちは。 (hal)
2010-07-11 20:56:06
とてもわかりやすい解説ありがとうございます。
マラというギャング団は実在したんですね。
こういった情報を知るとより映画に対する興味がわきます。
涙と猫 (ふじき78)
2011-01-30 09:25:25
こんちは。
遅コメ失礼します。
ティアドロップスの刺青が「いなかっぺ大将」のとぼじてどぼじてな涙じゃなくって良かったと思います。

しかし、南米の映画って犬は見かけても猫は見かけない。猫の方が余裕がないと飼えないペットなのかな。あ、犬は番犬にもなるし、ある程度の有用性があるのか。

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