『新宿スワン』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。
(1)園子温監督の作品であり(注1)、かつまた随分と評判が良さそうなので(注2)、映画館に行ってきました。
本作(注3)の冒頭では、新宿の光景が映し出されます。
主人公の19歳の白鳥龍彦(綾野剛)が、「歌舞伎町一番街」と書かれたアーチの下をくぐって街の中に入っていきながら、「俺は人生の最底辺にいた。何も考えずに新宿にやってきた。新宿は、底辺からのし上がるのには一番の街だ。全財産は100円。帰りの電車賃もない」などとつぶやきます。
そうこうしているうちに、街を歩いていたチンピラたちと殴り合いの喧嘩。
龍彦は殴られて倒されますが、そこに立っていたのが真虎(伊勢谷友介)。
真虎は、チンピラたちに「もうそこら辺でいいんじゃない。後が面倒だから。こいつも俺のダチだ」と言い、龍彦に向かっても「今からダチだ」と言います。
龍彦は、「放っておいてくださいよ。今から反撃すんだから」と強がりを言いますが、真虎は「バカじゃないの」と相手にしません。
場面は変わって、龍彦は真虎から食事をおごってもらっています。
龍彦が「なんで俺にこんなことを?」と不思議がると、真虎は「ダチと言ったから」と答え、更に「人生がなくなりかけて、プライドと言っていられなくなった、そんなヤツを探している。スカウトやんない?」と逆に尋ねます。
外にでると、龍彦が「スカウトって、何の?」と尋ねると、真虎は「クラブのスカウト、でもそう簡単じゃない」と答えます。
龍彦が「やってみる」と言って、そばを歩いている女の子の前に行って声をかけようとすると、真虎は「下手すると軽犯罪法で捕まるぞ」と警告します。
こんな経緯で、龍彦は、真虎の下でスカウトになるのですが、果たして彼の前に待ち受けているものは、………?
本作は、新宿歌舞伎町で暗躍するスカウトマンたちの争いを、今が旬な俳優を何人も投入して活写した映画で、これまでの作品で見られた園子温監督らしさは随分と引っ込んでいる分だけ面白さが前面に出てきて、1級の娯楽映画に仕上がっているなと思いました(注4)。
(2)本作における綾野剛の演技には目を見はりました。なにしろ、その前に見た『そこのみにて光輝く』や『夏の終わり』で落ち着いた文芸作品向けの演技(それぞれ素晴らしいものでした!)をしていたなと思ったら、本作では、金髪天パの原作そっくりの格好で登場し、殴り合いのアクションシーンまで演じるのですから(おまけに、33歳の彼が19歳の龍彦の役に扮するのです)!
また、真虎役の伊勢谷友介は、『るのうに剣心 京都大火編』、及び『るろうに剣心 伝説の最後編』で四乃森蒼紫に扮し、人斬り抜刀斎(佐藤健)らと小太刀二刀流で必死に戦っていたなと思っていたら、本作では頭脳明晰なスカウト役を随分と冷静に演じていて、本来のいい味を出しています。
さらに、龍彦と対峙する南秀吉に扮する山田孝之は、『土竜の唄 潜入捜査官Reiji』の月原旬と似たような雰囲気の役柄ですが(その時は金髪でしたが)、龍彦と激しく争いながらも昔関係があったというその役を巧みにこなしています。
もう一人、アゲハを演じる沢尻エリカも、『ヘルタースケルター』でのりりこ役とは役柄が異なるとはいえ(風俗嬢とモデル)、雰囲気は似ていて、なおかつ龍彦と手をつないで歌舞伎町の街を薄いものを羽織って裸足で走る姿は感動的ですらありました。
なお、本作では、山城(豊原功補)が社長のスカウト会社バーストと松方(安田顕)が社長のハーレムとが歌舞伎町で勢力を張り合っていて、一応の境界線は敷かれていたものの、一触即発の状況でした。
そんな時に、龍彦は、ハーレムの秀吉らに捕まって殴られた上に指を折られてしまいます。
その事件をうまく膨らませてハーレムに乗り込んだ山城社長は、松方社長と直談判して、ハーレムを吸収合併することに成功します。
こんなところを見ると、あちらの世界では、依然として勢力範囲拡大競争が行われ、ちょっとした事件がきっかけとなって、戦前の帝国主義的な戦争(領土の拡大を目的とするもの)が頻発しているのだな、という思いになります(注5)。
そんなことはどうでもいいのですが、本作では、南秀吉関係の話は終わっているとしても、その他の話は終わっているとも思えず、また主人公の龍彦はまだ19歳ですからこの先の活躍もいろいろ想像されます。続編が期待されるところです。
(3)渡まち子氏は、「彼(龍彦)の“泥臭い熱さ”が、どこかヒロイックに見えてくるが、冷静に考えると、彼らは女性を喰いものにする類の男たちだ。群雄割拠の世界観は面白いが、共感を抱くことはできなかった」として55点をつけています。
宇田川幸洋氏は、「綾野剛が、これまでの二枚目ぶりをかなぐりすててドン・キホーテ的な突貫青年を好演。龍彦をやたらに敵視するスカウト、秀吉(山田孝之)をはじめ、周囲は濃いキャラばかりで、欲望と策謀、バイオレンスたっぷりの世界を形成する」として★3つ(見応えあり)をつけています。
外山真也氏は、「作家性の強い監督が我を捨てて職人に徹した時に立ち現れる、娯楽性と作家性のせめぎ合いが生むいびつな面白さが、本作にも確かに存在する」として★4つをつけています。
(注1)園子温監督の作品は、最近では、『TOKYO TRIBE』を見ています。
なお、園監督の作品は、6月下旬に『ラブ&ピース』、7月に『リアル鬼ごっこ』、9月に『みんな、エスパーだよ!』が公開の予定で、この他にも『ひそひそ星』があるとかで、一体どうなっているのでしょう!
(注2)この記事によれば、「週末2日間で動員17万5,337人、興行収入2億5,232万4,500円を記録し、公開以来、5週連続1位を獲得していた『シンデレラ』からトップの座を奪った」とのこと。
ただ、こちらの記事によれば、6月8日の時点では、『トゥモローランド』と『予告犯』に継ぐ3位に落ちています。
(注3)本作の原作は、和久井健氏の漫画『新宿スワン』(講談社)。
なお、原作マンガは全38巻ながら、劇場用パンフレット掲載の「原作概要」によれば、「映画化の主なベースとなっているのは第1巻~第4巻の通称『秀吉編』」とのこと。
(注4)出演者の内、ハーレムの幹部役の金子ノブアキは『白ゆき姫殺人事件』、豊原功補は『寄生獣 完結編』、バーストの幹部役の村上淳は『さよなら歌舞伎町』、安田顕は『龍三と七人の子分たち』で、それぞれ見ました。
(注5)「ちょっとした事件」というのは、例えば、戦前の柳条湖事件とか盧溝橋事件とかが思い起こされます。
なお、バーストとハーレムの抗争が戦前の帝国主義的な戦争と違っているのは、バーストの上には紋舞会〔会長が天野(吉田鋼太郎)〕というヤクザ組織があることや(もしかしたら、戦前の国際連盟が相当するのかもしれません)、秀吉がクスリを取り扱って撹乱要因になっていること、などでしょうか。
ただ、現時点で世界を見回してみると、領土拡張的な戦争が行われていることは稀なような気がします(ロシアによるクリミア併合はありましたが)。戦争が起きているのは、専ら宗教的あるいは民族的な理由によるもので、どれも内戦的な色彩を強く帯びているように感じます。
★★★★☆☆
象のロケット:新宿スワン
(1)園子温監督の作品であり(注1)、かつまた随分と評判が良さそうなので(注2)、映画館に行ってきました。
本作(注3)の冒頭では、新宿の光景が映し出されます。
主人公の19歳の白鳥龍彦(綾野剛)が、「歌舞伎町一番街」と書かれたアーチの下をくぐって街の中に入っていきながら、「俺は人生の最底辺にいた。何も考えずに新宿にやってきた。新宿は、底辺からのし上がるのには一番の街だ。全財産は100円。帰りの電車賃もない」などとつぶやきます。
そうこうしているうちに、街を歩いていたチンピラたちと殴り合いの喧嘩。
龍彦は殴られて倒されますが、そこに立っていたのが真虎(伊勢谷友介)。
真虎は、チンピラたちに「もうそこら辺でいいんじゃない。後が面倒だから。こいつも俺のダチだ」と言い、龍彦に向かっても「今からダチだ」と言います。
龍彦は、「放っておいてくださいよ。今から反撃すんだから」と強がりを言いますが、真虎は「バカじゃないの」と相手にしません。
場面は変わって、龍彦は真虎から食事をおごってもらっています。
龍彦が「なんで俺にこんなことを?」と不思議がると、真虎は「ダチと言ったから」と答え、更に「人生がなくなりかけて、プライドと言っていられなくなった、そんなヤツを探している。スカウトやんない?」と逆に尋ねます。
外にでると、龍彦が「スカウトって、何の?」と尋ねると、真虎は「クラブのスカウト、でもそう簡単じゃない」と答えます。
龍彦が「やってみる」と言って、そばを歩いている女の子の前に行って声をかけようとすると、真虎は「下手すると軽犯罪法で捕まるぞ」と警告します。
こんな経緯で、龍彦は、真虎の下でスカウトになるのですが、果たして彼の前に待ち受けているものは、………?
本作は、新宿歌舞伎町で暗躍するスカウトマンたちの争いを、今が旬な俳優を何人も投入して活写した映画で、これまでの作品で見られた園子温監督らしさは随分と引っ込んでいる分だけ面白さが前面に出てきて、1級の娯楽映画に仕上がっているなと思いました(注4)。
(2)本作における綾野剛の演技には目を見はりました。なにしろ、その前に見た『そこのみにて光輝く』や『夏の終わり』で落ち着いた文芸作品向けの演技(それぞれ素晴らしいものでした!)をしていたなと思ったら、本作では、金髪天パの原作そっくりの格好で登場し、殴り合いのアクションシーンまで演じるのですから(おまけに、33歳の彼が19歳の龍彦の役に扮するのです)!
また、真虎役の伊勢谷友介は、『るのうに剣心 京都大火編』、及び『るろうに剣心 伝説の最後編』で四乃森蒼紫に扮し、人斬り抜刀斎(佐藤健)らと小太刀二刀流で必死に戦っていたなと思っていたら、本作では頭脳明晰なスカウト役を随分と冷静に演じていて、本来のいい味を出しています。
さらに、龍彦と対峙する南秀吉に扮する山田孝之は、『土竜の唄 潜入捜査官Reiji』の月原旬と似たような雰囲気の役柄ですが(その時は金髪でしたが)、龍彦と激しく争いながらも昔関係があったというその役を巧みにこなしています。
もう一人、アゲハを演じる沢尻エリカも、『ヘルタースケルター』でのりりこ役とは役柄が異なるとはいえ(風俗嬢とモデル)、雰囲気は似ていて、なおかつ龍彦と手をつないで歌舞伎町の街を薄いものを羽織って裸足で走る姿は感動的ですらありました。
なお、本作では、山城(豊原功補)が社長のスカウト会社バーストと松方(安田顕)が社長のハーレムとが歌舞伎町で勢力を張り合っていて、一応の境界線は敷かれていたものの、一触即発の状況でした。
そんな時に、龍彦は、ハーレムの秀吉らに捕まって殴られた上に指を折られてしまいます。
その事件をうまく膨らませてハーレムに乗り込んだ山城社長は、松方社長と直談判して、ハーレムを吸収合併することに成功します。
こんなところを見ると、あちらの世界では、依然として勢力範囲拡大競争が行われ、ちょっとした事件がきっかけとなって、戦前の帝国主義的な戦争(領土の拡大を目的とするもの)が頻発しているのだな、という思いになります(注5)。
そんなことはどうでもいいのですが、本作では、南秀吉関係の話は終わっているとしても、その他の話は終わっているとも思えず、また主人公の龍彦はまだ19歳ですからこの先の活躍もいろいろ想像されます。続編が期待されるところです。
(3)渡まち子氏は、「彼(龍彦)の“泥臭い熱さ”が、どこかヒロイックに見えてくるが、冷静に考えると、彼らは女性を喰いものにする類の男たちだ。群雄割拠の世界観は面白いが、共感を抱くことはできなかった」として55点をつけています。
宇田川幸洋氏は、「綾野剛が、これまでの二枚目ぶりをかなぐりすててドン・キホーテ的な突貫青年を好演。龍彦をやたらに敵視するスカウト、秀吉(山田孝之)をはじめ、周囲は濃いキャラばかりで、欲望と策謀、バイオレンスたっぷりの世界を形成する」として★3つ(見応えあり)をつけています。
外山真也氏は、「作家性の強い監督が我を捨てて職人に徹した時に立ち現れる、娯楽性と作家性のせめぎ合いが生むいびつな面白さが、本作にも確かに存在する」として★4つをつけています。
(注1)園子温監督の作品は、最近では、『TOKYO TRIBE』を見ています。
なお、園監督の作品は、6月下旬に『ラブ&ピース』、7月に『リアル鬼ごっこ』、9月に『みんな、エスパーだよ!』が公開の予定で、この他にも『ひそひそ星』があるとかで、一体どうなっているのでしょう!
(注2)この記事によれば、「週末2日間で動員17万5,337人、興行収入2億5,232万4,500円を記録し、公開以来、5週連続1位を獲得していた『シンデレラ』からトップの座を奪った」とのこと。
ただ、こちらの記事によれば、6月8日の時点では、『トゥモローランド』と『予告犯』に継ぐ3位に落ちています。
(注3)本作の原作は、和久井健氏の漫画『新宿スワン』(講談社)。
なお、原作マンガは全38巻ながら、劇場用パンフレット掲載の「原作概要」によれば、「映画化の主なベースとなっているのは第1巻~第4巻の通称『秀吉編』」とのこと。
(注4)出演者の内、ハーレムの幹部役の金子ノブアキは『白ゆき姫殺人事件』、豊原功補は『寄生獣 完結編』、バーストの幹部役の村上淳は『さよなら歌舞伎町』、安田顕は『龍三と七人の子分たち』で、それぞれ見ました。
(注5)「ちょっとした事件」というのは、例えば、戦前の柳条湖事件とか盧溝橋事件とかが思い起こされます。
なお、バーストとハーレムの抗争が戦前の帝国主義的な戦争と違っているのは、バーストの上には紋舞会〔会長が天野(吉田鋼太郎)〕というヤクザ組織があることや(もしかしたら、戦前の国際連盟が相当するのかもしれません)、秀吉がクスリを取り扱って撹乱要因になっていること、などでしょうか。
ただ、現時点で世界を見回してみると、領土拡張的な戦争が行われていることは稀なような気がします(ロシアによるクリミア併合はありましたが)。戦争が起きているのは、専ら宗教的あるいは民族的な理由によるもので、どれも内戦的な色彩を強く帯びているように感じます。
★★★★☆☆
象のロケット:新宿スワン