『トゥモローランド』を吉祥寺オデヲンで見ました。
(1)ジョージ・クルーニー(注1)が主演で、評判が良さそうなので(注2)、見に行ってきました。
本作(注3)の冒頭では、フランク(ジョージ・クルーニー)が、「調子はどう?これまでに起こったことをお話します。それは未来についての物語」と観客に向かって話します。
すると、若い女〔あとで、ケイシー(ブリット・ロバートソン)だと分かります〕の声がして「悪い話がしたいの?」と尋ねるものですから、フランクが「そう」と答えると、女の声は、「ハッピーな感じにしたら。話の順序を変えたらどう?」と言います。
それで、フランクは「子供の頃の話。未来は良かった」と語り始めます。
次の場面は1964年のニューヨーク万博。
11歳の少年のフランクが会場の中に入っていきます。
彼は、発明コンテストに出品するために、ジェットパックを作って持ってきたのでした。
ただ、受付の男(ニックス:ヒュー・ローリー)から、「使えるのかい?目的は?」などと訊かれ、「一応は使えますが、飛ぶのは時間的にまだ。でも、飛べたら楽しいよ。やる気が湧くはずで、世界に役立ちます」と答えますが、「飛べないなら何の役にも立たない。またね」と受付を拒否されてしまいます。
失意のフランク少年がベンチに座っていると、少女(アテナ:ラフィー・キャシデイ)が近づいてきて、「T」マークのピン・バッジを手渡しながら、「振り向かないで、あっちを見ていて。20数えたら、私を追いかけてきて。誰にも気付かれないように。私は未来よ」と言うのです。
そこで、フランク少年は、ニックスに付き従っているアテナの後を追って、同じように、「イッツ・ア・スモールワールド」のパビリオンに入り、ボートに乗ったりしますが、「T」マークのピン・バッジに光が当たると別の進路が開け、その先にはトランスポーターが待ち構えていて、それに乗ると未来都市(トゥモローランド)に連れて行かれます。
それから、場面は現代となり、17歳の女子高生ケイシーが登場します。
彼女もまた、ひょんなところで「T」マークのピン・バッジを手にします。
さあ、それにはどんな意味があるのでしょうか、そして物語はどのように展開していくのでしょうか、………?
本作で描かれる未来都市(トゥモローランド)は、よく見かける未来都市の域を一歩も出るものではなく、また相変わらず悪の支配者(トゥモローランドを支配する)がいて、それを倒して平和が訪れるという構図になっています。それに、現在の地球はこのままだと人間による環境破壊によって滅びてしまう、でも未来を信じてそれに自分たちで諦めないで立ち向かえば明るい未来がひらけてくるというおなじみのテーマが描き出されていて、全体として退屈な作品でした。
(2)とはいえ、本作には、クマネズミの興味を引く面白い場面がいくつかあります。
例えば、フランクが、未来都市(トゥモローランド)から追放されてから隠れ住んでいる棲家(注4)の内部構造はとても興味深いものがあり、またそこをニックス提督の部下のアンドロイドが急襲するのですが、なかなか面白いアクションシーンです。
また、フランクらは、その隠れ家をバスタブでできたロケットに乗って抜けだして、パリのエッフェル塔にまで行き、そこから今度はスペース・シャトルに乗り換えて未来都市(トゥモローランド)に向かいますが、バスタブのロケットで出発するところからエッフェル塔が二つに割れてロケットが打ち上げられるまでの映像はなかなか見応えがあります。
でも、よく理解できない点がいくつかありました(もちろん、クマネズミの理解不足によるのでしょうが)。
イ)未来都市(トゥモローランド)は、「Plus Ultra」という組織が作り上げたとされ、その組織はトーマス・エジソンとかジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズ等によって始められたとされています。実に錚々たるメンバーながら(注5)、出来上がっている未来都市はよく見かけるもの(注6)の域を一歩も出るものではないような気がします。何年後の未来が描かれているのかわかりませんが、どうしてこんな古色蒼然とした感じが漂っているのでしょうか?
なお、その都市は、一面の麦畑の向こうにそびえ立っているのですが、このチグハグさには何か意味があるのでしょうか?
ロ)フランクは、未来都市において、超光速のタキオンを使って過去と未来を見ることのできるモニターを作ったことによって、人類が破滅する未来を知ってしまいます(注7)。
でも、ケイシーは、モニターは、未来の光景を受信するばかりでなく、発信もしていることを見抜き(注8)、地球の未来を救うにはモニターを破壊する必要があるとわかります。
それで、フランクらは未来都市に向かうのです。
でも、モニターに映っている通り、あと少しで地球が滅亡してしまうのであれば、そんな未来都市など存在するわけがなく、そして未来都市が存在しないのであれば破壊すべきモニターも存在していないのではないでしょうか?
それとも、フランクらの行動によってモニターが破壊されて地球の破滅が回避されるということが予め予想されているのでしょうか?でもその場合には、モニターに地球の破滅が映しだされることもないはずです(そんな事態にならないのですから)。
ハ)あるいは、本作では、過去―現在―未来が単線的につながっているのではなく、それぞれがパラレルワールドとして存在しているということなのでしょうか?
ケイシーが「T」マークのピン・バッジに触ると、向こうに未来都市が見える麦畑の中にいる自分を発見しますが、ピン・バッジがパラレルワールドの間を瞬間的に移動できる装置になっているということなのかもしれません(バッジが保有するエネルギーが小さいために、しばらくすると、元の場所に戻ってしまうのでしょう)。
でも、パラレルワールドに未来都市があるというのであれば、ニックス提督は、どうしてフランクらの行動を妨害しようとするのでしょうか?ひいては、なぜ彼は地球の滅亡を願うのでしょうか(注9)?というのも、パラレルワールドに未来都市があるのであれば、異次元の世界の地球が“未来”にどうなろうとも、彼には関係がないように思えるからですが。
(3)渡まち子氏は、「本作は、決して分かりやすくはないし、パラレルワールドの誕生やその仕組みもはっきりしない。つまりこれは単純明快な子供向けSF映画ではなく、私たちはどこで道を誤ってしまったのか?これから先、どうすればいいのか?と自問できる大人にこそ必要な、夢物語なのだ」として70点をつけています。
前田有一氏は、「なにしろディズニーはこの映画で、テロリストの心さえ溶かそうとしている。テロリストを洗脳いや教育する映画。彼らはいよいよ映画で戦争すら終わらせる気なのか。そんなことを考えながら、大人のみなさんはこいつを見てみてほしい」として65点をつけています。
藤原帰一氏は、「未来とは現実逃避の夢であり、夢がなければ生きてはいけないことを教えてくれる映画です」と述べています。
(注1)ジョージ・クルーニーは、最近では、『ゼロ・グラビティ』で見ました。
(注2)本作は、公開初登場で第1位でした。ただし、この記事によれば、最近の興行成績ランキング(6/20~6/21)では、前回のエントリで取り上げた『海街diary』が第3位、本作が第4位。
(注3)本作の監督は、『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』のブラッド・バード。
(注4)劇場用パンフレット掲載の「ストーリー」では、ニューヨーク州ピッツフィールドとされています(ただ、ネットで調べると、ピッツフィールドはマサチューセッツ州にあるようですが)。
(注5)アメリカ人のエジソンだけでなく、クロアチア生まれの発明王ニコラ・テスラとか、フランス人のエッフェルやヴェルヌ、イギリス人のウェルズというように、各国の人たちで構成されています。
(注6)例えば、真鍋博氏が描いたイラストでしょうか。
(注7)それで、フランクは、未来都市を追われ、現代の社会に戻っているのです。ただ、ケイシーとアテネがやっとのことで彼の家に入ると、幾つものモニターに、地球の大変な様子が映しだされており、なおかつあと59日で地球が滅亡するとされているのです(ただ、モニターが破壊された後、フランクが「世界は1年前に終わるはずだった」と言っているのはよく理解できませんが)。
(注8)例えば、ケイシーが学校で受ける授業では、暗い未来ばかりを教師が語り、彼女が「対策は?」と尋ねても、誰も取り合ってはくれません。これは、モニターが発信する映像が直接人間の脳に送り込まれて、地球が滅亡するのが当然のことと思われてしまっているからでしょう。でも、そうだとしたら、ケイシーは、どうしてその影響を受けなかったのでしょうか(まあ、そういう人間だから、ケイシーはアテネによって選ばれたのでしょうが)?
(注9)ニックス提督は、「我々が、直接、人間の頭に破滅の未来を送り込んだら、人は、それを利用したんだ。世界中がこの世の終わりに酔いしれた。自分たちが行動しても、未来が良くなるとは思っていない。タイタニックが沈んだのは、沈みたかったからだ。悪いのはモニターじゃない、人間の方だ」などと言いますが、強弁にすぎないでしょう(自分で「未来」の映像を送り込んで人の意識を変えてしまっているのですから)。
★★★☆☆☆
象のロケット:トゥモローランド
(1)ジョージ・クルーニー(注1)が主演で、評判が良さそうなので(注2)、見に行ってきました。
本作(注3)の冒頭では、フランク(ジョージ・クルーニー)が、「調子はどう?これまでに起こったことをお話します。それは未来についての物語」と観客に向かって話します。
すると、若い女〔あとで、ケイシー(ブリット・ロバートソン)だと分かります〕の声がして「悪い話がしたいの?」と尋ねるものですから、フランクが「そう」と答えると、女の声は、「ハッピーな感じにしたら。話の順序を変えたらどう?」と言います。
それで、フランクは「子供の頃の話。未来は良かった」と語り始めます。
次の場面は1964年のニューヨーク万博。
11歳の少年のフランクが会場の中に入っていきます。
彼は、発明コンテストに出品するために、ジェットパックを作って持ってきたのでした。
ただ、受付の男(ニックス:ヒュー・ローリー)から、「使えるのかい?目的は?」などと訊かれ、「一応は使えますが、飛ぶのは時間的にまだ。でも、飛べたら楽しいよ。やる気が湧くはずで、世界に役立ちます」と答えますが、「飛べないなら何の役にも立たない。またね」と受付を拒否されてしまいます。
失意のフランク少年がベンチに座っていると、少女(アテナ:ラフィー・キャシデイ)が近づいてきて、「T」マークのピン・バッジを手渡しながら、「振り向かないで、あっちを見ていて。20数えたら、私を追いかけてきて。誰にも気付かれないように。私は未来よ」と言うのです。
そこで、フランク少年は、ニックスに付き従っているアテナの後を追って、同じように、「イッツ・ア・スモールワールド」のパビリオンに入り、ボートに乗ったりしますが、「T」マークのピン・バッジに光が当たると別の進路が開け、その先にはトランスポーターが待ち構えていて、それに乗ると未来都市(トゥモローランド)に連れて行かれます。
それから、場面は現代となり、17歳の女子高生ケイシーが登場します。
彼女もまた、ひょんなところで「T」マークのピン・バッジを手にします。
さあ、それにはどんな意味があるのでしょうか、そして物語はどのように展開していくのでしょうか、………?
本作で描かれる未来都市(トゥモローランド)は、よく見かける未来都市の域を一歩も出るものではなく、また相変わらず悪の支配者(トゥモローランドを支配する)がいて、それを倒して平和が訪れるという構図になっています。それに、現在の地球はこのままだと人間による環境破壊によって滅びてしまう、でも未来を信じてそれに自分たちで諦めないで立ち向かえば明るい未来がひらけてくるというおなじみのテーマが描き出されていて、全体として退屈な作品でした。
(2)とはいえ、本作には、クマネズミの興味を引く面白い場面がいくつかあります。
例えば、フランクが、未来都市(トゥモローランド)から追放されてから隠れ住んでいる棲家(注4)の内部構造はとても興味深いものがあり、またそこをニックス提督の部下のアンドロイドが急襲するのですが、なかなか面白いアクションシーンです。
また、フランクらは、その隠れ家をバスタブでできたロケットに乗って抜けだして、パリのエッフェル塔にまで行き、そこから今度はスペース・シャトルに乗り換えて未来都市(トゥモローランド)に向かいますが、バスタブのロケットで出発するところからエッフェル塔が二つに割れてロケットが打ち上げられるまでの映像はなかなか見応えがあります。
でも、よく理解できない点がいくつかありました(もちろん、クマネズミの理解不足によるのでしょうが)。
イ)未来都市(トゥモローランド)は、「Plus Ultra」という組織が作り上げたとされ、その組織はトーマス・エジソンとかジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズ等によって始められたとされています。実に錚々たるメンバーながら(注5)、出来上がっている未来都市はよく見かけるもの(注6)の域を一歩も出るものではないような気がします。何年後の未来が描かれているのかわかりませんが、どうしてこんな古色蒼然とした感じが漂っているのでしょうか?
なお、その都市は、一面の麦畑の向こうにそびえ立っているのですが、このチグハグさには何か意味があるのでしょうか?
ロ)フランクは、未来都市において、超光速のタキオンを使って過去と未来を見ることのできるモニターを作ったことによって、人類が破滅する未来を知ってしまいます(注7)。
でも、ケイシーは、モニターは、未来の光景を受信するばかりでなく、発信もしていることを見抜き(注8)、地球の未来を救うにはモニターを破壊する必要があるとわかります。
それで、フランクらは未来都市に向かうのです。
でも、モニターに映っている通り、あと少しで地球が滅亡してしまうのであれば、そんな未来都市など存在するわけがなく、そして未来都市が存在しないのであれば破壊すべきモニターも存在していないのではないでしょうか?
それとも、フランクらの行動によってモニターが破壊されて地球の破滅が回避されるということが予め予想されているのでしょうか?でもその場合には、モニターに地球の破滅が映しだされることもないはずです(そんな事態にならないのですから)。
ハ)あるいは、本作では、過去―現在―未来が単線的につながっているのではなく、それぞれがパラレルワールドとして存在しているということなのでしょうか?
ケイシーが「T」マークのピン・バッジに触ると、向こうに未来都市が見える麦畑の中にいる自分を発見しますが、ピン・バッジがパラレルワールドの間を瞬間的に移動できる装置になっているということなのかもしれません(バッジが保有するエネルギーが小さいために、しばらくすると、元の場所に戻ってしまうのでしょう)。
でも、パラレルワールドに未来都市があるというのであれば、ニックス提督は、どうしてフランクらの行動を妨害しようとするのでしょうか?ひいては、なぜ彼は地球の滅亡を願うのでしょうか(注9)?というのも、パラレルワールドに未来都市があるのであれば、異次元の世界の地球が“未来”にどうなろうとも、彼には関係がないように思えるからですが。
(3)渡まち子氏は、「本作は、決して分かりやすくはないし、パラレルワールドの誕生やその仕組みもはっきりしない。つまりこれは単純明快な子供向けSF映画ではなく、私たちはどこで道を誤ってしまったのか?これから先、どうすればいいのか?と自問できる大人にこそ必要な、夢物語なのだ」として70点をつけています。
前田有一氏は、「なにしろディズニーはこの映画で、テロリストの心さえ溶かそうとしている。テロリストを洗脳いや教育する映画。彼らはいよいよ映画で戦争すら終わらせる気なのか。そんなことを考えながら、大人のみなさんはこいつを見てみてほしい」として65点をつけています。
藤原帰一氏は、「未来とは現実逃避の夢であり、夢がなければ生きてはいけないことを教えてくれる映画です」と述べています。
(注1)ジョージ・クルーニーは、最近では、『ゼロ・グラビティ』で見ました。
(注2)本作は、公開初登場で第1位でした。ただし、この記事によれば、最近の興行成績ランキング(6/20~6/21)では、前回のエントリで取り上げた『海街diary』が第3位、本作が第4位。
(注3)本作の監督は、『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』のブラッド・バード。
(注4)劇場用パンフレット掲載の「ストーリー」では、ニューヨーク州ピッツフィールドとされています(ただ、ネットで調べると、ピッツフィールドはマサチューセッツ州にあるようですが)。
(注5)アメリカ人のエジソンだけでなく、クロアチア生まれの発明王ニコラ・テスラとか、フランス人のエッフェルやヴェルヌ、イギリス人のウェルズというように、各国の人たちで構成されています。
(注6)例えば、真鍋博氏が描いたイラストでしょうか。
(注7)それで、フランクは、未来都市を追われ、現代の社会に戻っているのです。ただ、ケイシーとアテネがやっとのことで彼の家に入ると、幾つものモニターに、地球の大変な様子が映しだされており、なおかつあと59日で地球が滅亡するとされているのです(ただ、モニターが破壊された後、フランクが「世界は1年前に終わるはずだった」と言っているのはよく理解できませんが)。
(注8)例えば、ケイシーが学校で受ける授業では、暗い未来ばかりを教師が語り、彼女が「対策は?」と尋ねても、誰も取り合ってはくれません。これは、モニターが発信する映像が直接人間の脳に送り込まれて、地球が滅亡するのが当然のことと思われてしまっているからでしょう。でも、そうだとしたら、ケイシーは、どうしてその影響を受けなかったのでしょうか(まあ、そういう人間だから、ケイシーはアテネによって選ばれたのでしょうが)?
(注9)ニックス提督は、「我々が、直接、人間の頭に破滅の未来を送り込んだら、人は、それを利用したんだ。世界中がこの世の終わりに酔いしれた。自分たちが行動しても、未来が良くなるとは思っていない。タイタニックが沈んだのは、沈みたかったからだ。悪いのはモニターじゃない、人間の方だ」などと言いますが、強弁にすぎないでしょう(自分で「未来」の映像を送り込んで人の意識を変えてしまっているのですから)。
★★★☆☆☆
象のロケット:トゥモローランド