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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  イメージと現実のギャップ 核開発の現状

2024-09-10 22:52:01 | イラン

(イラン・イスファハンのチャイハネ(茶店)で水たばこを楽しむ若い女性 2017年旅行時に撮影。
当時は穏健派とされるロウハニ大統領の時代でしたが、当局は人々が集まって水たばこを楽しみながら政治談議を行うチャイハネを嫌い、その数は非常に少なくなっていました。

ガイド氏のつてでようやく探したこの店も、表の店内では水たばこは吸えず、奥の別部屋に用意される形。まるで非合法マリファナでも吸うような雰囲気。

そんな状況ですから、若い女性がこんな場所に出入りして大丈夫なのか?と心配にもなりましたが、彼女らは屈託なく水たばこを楽しんでいました)

【「イランはイスラムではない」「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」】
イランに関しては、強権的な神権政治、厳しいイスラム的な規制という大方のイメージがある一方で、実際のイラン社会の様相はそうしたイメージとは異なるものがあります。

****改革派大統領誕生のイラン、10年内に大変動か=「厳格な宗教国家」とは程遠い一面も****
7月初めにイラン・イスラム共和国で行われた大統領選挙の決選投票で、改革派と言われるペゼシュキアン元保健相が保守強硬派の候補を破って当選した。

同氏は欧米との対話を重視する立場。「保守強硬派による政策運営に不満を持つ人たちの受け皿として、支持を伸ばした」(NHK)とみられる。

外交などの最終的な意思決定権は最高指導者のハメネイ師(85歳)が握っているため目立った変化は期待できないという見方もあるが、ハメネイ後の体制は不透明で、今後10年以内の大変動を予測する向きもある。

米国やイスラエルと激しく対立、核開発を進める一方で、イスラム体制への支持率低下にも直面している中東の大国、イラン。その動向は日本にとっても無視できない。

(中略)
酒・豚肉もOK、国民は世俗的
イラン革命後の同国のイメージは、「キス攻撃」(親欧米的なパーレビ王朝下のイランで開催された試合に出場して健闘した日本のサッカー選手が、試合後に大勢のイランの若い女性から祝福のキスをされたというエピソード)から連想されるものとは正反対だ。

厳格なイスラム教の教えが社会を支配し、酒はご法度。女性は誰もがスカーフやチャドル(体全体を隠す布)で髪や体を覆い、外国人はもちろん、夫以外の男性との接触は禁止。

「70年代には欧米と同様のライフスタイルで暮らしていた人たちもいたはずで、彼らはどうしているのだろう」と疑問に感じることもあったが、政府の締め付けが厳しい中、イスラム共和国体制に同化せざるを得ないのだろうと思っていた。日本人の多くは、私と同様のイメージを抱いているはずだ。

そんなステレオタイプのイラン観を根底からぶち壊す本が今年出版された。同国に長期にわたり滞在した若宮總さんが執筆した「イランの地下世界」(角川新書)がそれだ。(中略)

同書によると、1979年のイスラム革命直後は、イラン人の多くは敬虔で、かつ宗教上の最高指導者(当初ホメイニ師、のちハメネイ師)が統治するイスラム共和国体制を支持していた。

しかし、その後のスカーフの強制や言論弾圧、イラン・イラク戦争(1980〜88年)、経済の低迷などを経て、現在は過半数が「イスラム体制を支持しないことはもちろん、もはや熱心なムスリム(イスラム教徒)ですらない」という。今回の大統領選挙の結果も、この指摘を裏付けていると言える。

敬虔なイスラム教徒でないことは、当然ながら行動に表れる。スカーフを適切に着用していないという理由で警察に拘束された女性の不審死をきっかけに燃え上がった2022年の反政府運動以後、スカーフで髪を隠さない女性が増加。

イスラム教でタブーとされている豚肉や酒、さらにはマリファナなどの薬物も、その気になれば比較的簡単に手に入る。

最近はイスラム教から離れる若者も少なくないという。本書の解説で高野秀行氏(ノンフィクション作家)が書いているように、「イラン・イスラム共和国は世界で最もイスラムに厳格な国家なのに、国民の圧倒的多数を占めるイラン人ムスリムは世界で最も世俗的」というパラドックスが存在するようだ。

最高指導者ハメネイ師の退場でどうなる?
同書で興味深いのが、周辺のアラブ諸国や、友好国とされるロシア、中国に対する一般イラン人の見方だ。

われわれ日本人はイランとアラブの区別がつかず、ほとんど同一視しているきらいがある。しかし、かつてイラン高原を中心に中央アジアから現在のトルコ、エジプトまで支配した古代のペルシア帝国(アケメネス朝、ササン朝など)を7世紀に倒したのは、イスラム教を奉じたアラブ軍だ。

イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。

イラン政府の公式の立場とは異なり、昨年10月以降のガザをめぐる武力衝突では、若者を中心にイスラエルを支持する国民が多いとの指摘には驚かされる。

また、イラン政府は近年、ロシア、中国との関係を深めているが、支持率が低下しているイスラム体制をバックアップしているとして、この両国も国民の間では人気がない。

そもそもロシアは、19世紀以降一貫してイランの領土を侵食してきた国だし、中国に対しては、一般国民の多くが「(欧米諸国の)経済制裁下で生じた空隙を突いてイランを食い物にする『招かれざる客』」と呼んでいるという。

実は、イラン国民に最も好かれている外国は日本なのだが、日本人のイランへの関心は薄く、イラン側の「壮大な片思い」になっていると説く。

最後に筆者は、今後10年程度の間にイラン政治に大きな変化が起こる可能性があると予測する。10年というのは、今年85歳になるハメネイ師の退場が、一つのターニングポイントになるとみられるからだ。

イスラム体制は今のまま存続できるのか、形を変えるのか。国民の一部に強い願望のあるパーレビ王朝の復活(前国王の息子が米国に居住)があるのか。それとも…。

7月下旬に日本記者クラブで、「大統領選後のイランと中東情勢」のテーマで会見した田中浩一郎慶応義塾大学教授は「イスラム体制が支持を失っているのは間違いないが、次が見えない。人口9000万の国が混乱した場合の影響はとてつもなく大きく、その不安定性は対岸のアラビア半島に及ぶ。日本は依然として原油の95%をあの地域から買っている」と語り、危機感を隠さなかった。

予想されるイランの政治変動は、日本にとって決して他人事ではない。今後の動向に注目したい。【9月10日 レコードチャイナ】
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私はイランには7年前に物見遊山の観光旅行を1回しただけです。
ですから、イラン社会の実相について語る資格はまったくありませんが、上記記事が指摘するイランのお固いイスラムのイメージと実際の人々の生活のギャップは私もそのとき強く感じました。

特に印象に残ったのは、「イランはイスラムではない」という現地の方の言葉です。

その意を説明すれば、イラン国民のアイデンティティーはペルシャ時代からの文化・風土にあり、イスラムはよそ者アラブ人がイランに7世紀頃に持ち込んだものに過ぎない・・・・という認識です。

上記記事の“イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。”という記述とも符合する話です。

「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」ということに関しても、同じような印象を持ちました。もちろん敬虔なイスラム教徒も多数いますが、それと併存してイスラムをあまり意識しない生活もありました。

私にとっては“目ウロ”の旅行でした。

今後のイラン政治については、ハメネイ師の死去がポイントになることは多くの者が指摘するところですが、その後どうなるのか・・・現段階で知り得る人はいません。

現実政治に目を移すと、改革派大統領が就任した後も、最高指導者や議会保守強硬派と改革派大統領が激しく衝突したという話も聞きません。

ペゼシュキアン大統領が穏便にうまくやっているのか・・・
あるいは、最高指導者や保守派内部で意識の変化があるのか。

上記記事の最後に登場する田中浩一郎慶応義塾大学教授は“イラン大統領選は「出来レース」か、改革派ペゼシュキアン氏の勝利はハメネイ師の思惑通り?選挙操作の可能性も”【7月13日 JPpress】で、改革派に勝たせることは最高指導者も了解の上であり、改革派が勝利するように工作された可能性もある・・・という大胆な主張をしています。(会員登録していないので記事前半しか読めていませんが)

最高指導者や保守派の意向はイスラエルへの対応や核開発にも絡んできます。

【核開発の現状】
イランの核開発については、アメリカはイランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの、これまでより一歩踏み込んだ情報評価を示しているとのこと。

****<米国で高まるイランへの警戒>核兵器製造準備へ米国が評価を変えた三つの可能性****
ウォールストリート・ジャーナル紙が、米国の国家情報長官が7月に議会に対して行ったイランの核計画についての報告において、イランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの情報評価を示していることを報じる解説記事‘Iran Is Better Positioned to Launch Nuclear-Weapons Program, New U.S. Intelligence Assessment Says’を8月9日付けで掲載している。概要は次の通り。

米国の情報機関の新たな評価によれば、イランは核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとのことである。イランは数個の核兵器のために必要な高濃縮の核物質をすでに製造している。

米国の情報コミュニティは、依然としてイランは現在、核装置を製造する作業自体は行っていないと評価している。イランの核兵器計画は、2003年にほぼ中断されたものとみられているが、最高指導者のハメネイ師がこれを再開させるよう考慮しているとの証拠もないとのことである。

一方、国家情報長官の7月の議会への報告では、イランが「核装置を生産すると決めれば、それに着手する準備を以前よりも整えている」と警告している。

また、この報告では、イランは「実験可能な核装置を製造するのに必要となる、核兵器開発の主要な活動には現在のところ従事していない」というこれまで何年もの間、用いられてきた標準的な表現が削除されている。

ハマスの指導者がイランにおいて暗殺され、イランがイスラエルを攻撃すると脅して以来、中東では緊張が高まっている。

米国はイランが核兵器を取得することを決して認めないとバイデン大統領は累次にわたって述べてきた。イランが核装置の製造に乗り出したと米国が判断すれば軍事行動をとる可能性が高まることとなる。

共和党は、バイデン政権の対応が不十分であると批判しているが、バイデン政権の方はトランプ前大統領が2015年のイラン核合意から離脱したため、イランが核活動を活発化させたと反駁している。

イランが行っているとされる作業の性格については、米国政府関係者は詳細を明らかにしなかったが、このところ、イスラエルと米国の関係者の間では、コンピューターモデリング、冶金などの分野を含め、イランが兵器化に関連した研究を行っていることが懸念されていた。そうした作業は、核兵器に必要な部品を準備する作業と実際の核装置の組み立ての間に位置するグレーゾーンである。

「今やイランは核兵器級のウランの製造技術を獲得したのであるから、次の論理的なステップは政治的な決定がなされた際に核装置を作るのに必要な時間を短縮するため、兵器化の活動を再開することである」とオバマ政権時に米国家安全保障会議(NSC)で勤務したゲイリー・セイモアは指摘した。

「最高指導者は兵器化の決定を下していないという評価には同意するが、同時に、最高指導者は核の敷居の最も高いところまで科学者が研究をすることを禁じているわけではないと考える」とイスラエル政府の元高官であるアリエル・レビテは述べた。(後略)【9月5日 WEDGE】
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イラン側には、イスラエル対応でも、核開発問題でも、今はいたずらに緊張を高めたくないとの思いもあるのかも。

イランの基本的な核開発に関する戦略は以下のようにも
“イランの意図についての専門家の間の有力な見方は、イランは「核取得能力(Break out capability)」を構築しようとしてきているというものである。これは、核取得の意思決定さえすれば時を置かずして、それを実現できる能力のことである。つまり、核オプションを保持し、核兵器を製造する能力の取得を目指しつつ、その手前で止める「寸止め」戦略をとっているとの見方である。”【同上】

なお、国際原子力機関(IAEA)は現状を以下のように評価しています。

****核爆弾4個に迫る量=イランの高濃縮ウラン―IAEA****
国際原子力機関(IAEA)が29日、加盟国に送付したイラン核開発に関する報告書によると、濃縮度最大60%のウランの保有量は3カ月前よりも22.6キロ増え164.7キロとなり、核爆弾4個分に迫る量に達した。ロイター通信などが報じた。

ウランは90%まで濃縮すれば核爆弾に転用可能とされる。イランが保有する濃縮度最大20%のウランは813.9キロ。イランは核兵器開発の意図を否定する一方、IAEAによる監視強化を拒んでいる。【8月30日 時事】 
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そのうえで、「大幅な増産を加速させている兆候はない」とも。

****イラン核開発めぐり IAEA事務局長「ウラン大幅増産の兆候はない」****
IAEA(=国際原子力機関)のグロッシ事務局長は9日、イランによる核開発に必要な高濃縮ウランの生産について、「大幅な増産を加速させている兆候はない」と述べました。

「(イランは)いくつかの作業を行っているが、濃縮ウランの大幅な増産を加速させていることを示す兆候は何もない」(グロッシ事務局長)

IAEAの定例理事会が本部のあるオーストリアのウィーンで9日から始まり、グロッシ事務局長はイランの新しい指導部と近い将来、核問題について協議を再開すると明らかにしました。

イランでは5月、ヘリコプターの墜落事故で当時の大統領と外相が死亡し、「核合意」の再建に向けた対話がとだえていました。核兵器の開発には、濃縮度90%の「兵器級ウラン」が必要とされていて、イランはすでに濃縮度60%のウランを貯蔵していることが確認されています。【9月10日 ABEMA Times】
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フィリピン  南シナ海における中国との緊張 反中国世論を刺激するスパイ疑惑も

2024-09-09 23:38:18 | 東南アジア

(【6月1日 NHK】マニラの公立高校で行われた中国の威圧的な行動に関する講演会)

【相次ぐ中比両国艦船の衝突】
南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)海域で互いに領有権を主張するフィリピンと中国が激しく争い、現場での衝突を繰り返していることは、これまでも何回か取り上げてきました。

両国艦船がぶつかったとき・・・と言われても、「そんなの何回もあるので、いつの衝突の話?」と確認が必要な状況です。

****中国・フィリピン、南シナ海での船舶衝突めぐり応酬****
中国とフィリピンは8月31日、係争中の南シナ海のサビナ礁近くの海域で、相手の沿岸警備船が故意に衝突したと非難し合った。両国間ではここ数週間、同様の衝突が相次いでいる。

中国中央テレビによると、中国海警局の報道官は、31日正午すぎにサビナ礁付近でフィリピンの船が中国の船に「意図的に衝突した」と発表。「中国は(この海域で)議論の余地のない主権を行使している」として、フィリピン船の「素人同然の危険な」行動を非難した。

一方、フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は、中国海警局の船艇5205がフィリピンの巡視船「テレサ・マグバヌア」に「直接的かつ意図的に衝突した」と述べた。

この巡視船はフィリピンの領有権を主張するため、4月からサビナ礁に停泊している。

タリエラ氏は、巡視船は3回衝突されたと明らかにした。衝突時に負傷した乗組員はいなかったが、船体が損傷し、穴も1カ所見つかった。

タリエラ氏によると、フィリピンの船舶が8月に中国の嫌がらせを受けたのはこれで5回目。 【9月1日 AFP】
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【米中の批難応酬】
フィリピンの後ろ盾となっているアメリカと中国の批難応酬も。

****米、比船への衝突を強く非難 中国の領有権主張は「違法」****
米国務省のミラー報道官は31日、南シナ海のサビナ礁でフィリピンの巡視船と中国海警船が衝突したことを受け、「中国による危険で過激な行動を非難する」との声明を発表し、危険行為をやめるよう求めた。フィリピン側の行動は「法によって認められている」とし、中国の南シナ海における領有権の主張は「違法だ」と批判した。

ミラー氏は「中国海警局船はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内でフィリピンの巡視船に意図的に衝突した」と指摘。8月になって「中国はフィリピンの海洋活動などを攻撃的に妨害している」と非難し、緊張を高めていることを強く批判した。

米国による防衛義務を定めた米比相互防衛条約に関し「南シナ海のどこにおいても、フィリピンの軍や公船、航空機に対する攻撃に適用される」と述べ、中国を牽制(けんせい)した。【9月1日 産経】
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*****「米軍機が妨害」と主張=中国、比船舶との衝突で批判強める****
南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島にあるサビナ礁で8月31日に発生した中国とフィリピンの船舶衝突を巡り、現場上空を米軍機が飛行していたとして、中国側が「妨害行為だ」と批判を強めている。

同礁近海では先月中旬から中比船舶の小競り合いが頻発。習近平政権は、比側を擁護する日米の言動に神経をとがらせている。

中国国営中央テレビ系のSNSアカウント「玉淵譚天」は31日、サビナ礁の現場付近上空を飛行していたとする米軍のP8A哨戒機1機の画像を公開。「米軍が海警局の法執行を邪魔立てした」などと報じた。米国から関連する発表は出ていないもようだ。【9月2日 時事】 
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【衝突した比艦船は日本供与の巡視船 日本も比支援の立場で中比対立に深く関与】
日本もフィリピン側を後押ししています。

*****日本、中国主張の法的根拠否定 南シナ海問題で反論****
在フィリピン日本大使館は31日までに、南シナ海に関する中国の主権主張は国連海洋法条約の規定に基づいておらず、同条約に基づく仲裁裁判所が中国の主権主張を否定した2016年の判断も中国は受け入れていないと批判する声明を出した。

南シナ海のサビナ礁に向かうフィリピン船が中国海警局の船に衝突され、放水砲を浴びたことを巡り「緊張を高める嫌がらせは容認できない」と投稿した遠藤和也大使に対する中国大使館の抗議に反論した。

日本大使館の声明は、日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だと強調した。【8月31日 共同】
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中国からすれば、「関係ないくせ、口はさむな!」というところでしょうが、日本側は「日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だ」という立場です。

実際のところ、日本は深く中比対立に関わっており、“口”だけでなく艦船をフィリピンに供与しています。
冒頭で取り上げた8月31日の中比両国艦船の衝突におけるフィリピン巡視船は日本が供与したものです。

【中国 「中比関係は岐路に立たされている」 妥協の意思はなし】
こうした事態に、中国共産党機関紙・人民日報は「中比関係は岐路に立たされている」との認識を示しています。

****中比関係「岐路に」、南シナ海巡り人民日報が論説*****
中国共産党機関紙・人民日報は9日の論説で、南シナ海で緊張が高まっているフィリピンとの関係が「岐路に立たされている」との認識を示した。

どちらに進むべきかの選択を迫られているとした上で「衝突と対抗に出口はなく、対話と協議が正しい道だ」と指摘。フィリピンに対し「両国関係の将来を真剣に考え、2国間関係を正しい軌道に戻すために中国と協力すべきだ」と訴えた。【9月9日 ロイター】
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“岐路”・・・・・日米の支援を後ろ盾にフィリピンが更に緊張を高めて、武力衝突に至るか、あるいは、フィリピンが中国主張を認めて穏やかな海を取り戻すか・・・ということでしょうが、中国が妥協するという選択肢は含まれていないでしょう。

【硬化する比の対中国感情】
当然ながら、フィリピン世論の中国への風当たりは険悪なものになっています。中国との衝突はフィリピンにとって軍事的にも経済的にもハイリスクではありますが、マルコス大統領としても強硬な国内世論がある以上、中国に対して“弱腰”はとれないという事情もあります。

****フィリピン大統領 南シナ海情勢で中国に警告 背景は****
シンガポールで31日開幕した「アジア安全保障会議」で、フィリピンのマルコス大統領が南シナ海の情勢などをテーマに講演し、中国による妨害行為でフィリピン側に死者が出るような事態になれば、同盟国アメリカとともに、軍事的な対応をとる可能性を示唆し、中国側に警告しました。

フィリピンでは国民の間で中国への強い反発が広がっていて、専門家は「マルコス政権は、中国と国内世論の両方に対応するという難しい課題に直面している」と分析しています。(中略)

広がる強い反発「私たちは中国がしてきたことに怒っている」
南シナ海で威圧的な行動を続ける中国に対して、フィリピンでは各地で抗議活動が行われるなど国民の間で中国への強い反発が広がっています。

先月15日には、2012年から中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁に近いルソン島西部の港に、中国に抗議する団体のメンバーらが乗ったおよそ100隻の船が集まり、海上で大規模な抗議活動を行いました。

活動には、中国当局によって周辺の豊かな漁場から追い出された地元の漁師たちも加わり、船団を組んで南シナ海を航行し、中国への抗議を示しました。

首都マニラでも先月、市民およそ300人が南シナ海におけるフィリピンの主権を訴えながら、市街地の通りを練り歩きました。

参加者が通り沿いの住宅を訪ね、国旗を掲揚してともに抗議の意思を示すよう呼びかけると、多くの住民が家の軒先などに国旗を掲げていました。

参加した76歳の男性は、「私たちは、中国がしてきたことに怒っている。フィリピンのために闘おう」と話していました。

教育現場で中国の威圧的な行動を解説する講演も
フィリピンの教育現場では、中国の威圧的な行動について知ってもらおうという取り組みも行われています。

マニラの公立高校では、中国に対する抗議活動を行っている団体が、南シナ海の問題に関する講演会を開きました。

団体のメンバーは、中国当局の船がフィリピンの船に対して放水銃を使用してけが人も出ていることや、中国の船によって貴重なサンゴ礁が破壊されている実態などを写真や資料を交えて解説しました。

また、中国がSNSなどを通じて偽の情報を拡散し、フィリピン国内の世論の分断を図ろうとしているという指摘もあることを紹介し、生徒たちに注意を呼びかけていました。

生徒の1人は、「中国がこんなことをしているとは知りませんでした。私たちは勇敢になるべきだし、中国の抑圧を許してはいけません」と話していました。

団体によりますと、講演の依頼は国内各地の学校から寄せられているということです。

中国への反発が急速に拡大 背景に政権の情報公開
中国に反発する動きが急速に広がっている背景には、マルコス政権が南シナ海での中国の威圧的な行動を積極的に公開するようになったことがあります。

フィリピンでは、前のドゥテルテ政権が中国との経済的な関係を重視する一方、南シナ海での中国船の活動はほとんど公表しませんでした。

おととし(2022年)就任したマルコス大統領も当初は抑制的に対応していましたが、去年、フィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー光線の照射を受けたことをきっかけに、方針を大きく転換。

照射を否定する中国側に反論するため、現場で撮影したとする映像を公開するとともに、国内外のメディアに沿岸警備隊の巡視船などへの同行取材を認め、威圧的な行動を繰り返す中国船の実態を積極的に公開するようになりました。

その結果、民間の世論調査会社がことし3月に実施した調査では、フィリピンの主権を守るため南シナ海で軍のパトロールなどを増やすべきだと回答した人が7割以上を占めるようになりました。(後略)【6月1日 NHK】
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【比の反中感情を更に悪化させる“市長が中国籍で中国のスパイだった”という疑惑】
そうしたフィリピン世論を逆撫でするような事件も。
中国系犯罪組織に関与した疑いなどでフィリピン北部バンバン市長(「町長」とするメディアもあります)を解任されたアリス・グオ氏が実は中国国籍で「中国のスパイ」ではないかとの疑惑が出ています。

****出生や通学の記録なし…「中国のスパイ」疑惑の市長事件が波紋 フィリピンの反中感情に火****
フィリピン北部のバンバン市長を解任され、不法出国後に逮捕された中国系のアリス・グオ容疑者(34)を巡る事件が、比国内で波紋を広げている。

グオ容疑者は詐欺組織の運営に関与していただけではなく、実際は中国人で、比国籍を偽装していた疑いが浮上。中国による南シナ海での圧力を巡って比国内で反発が広がる中、市長が「中国共産党のスパイ」だったとの疑念が強まり、市民の反中感情は悪化している。

組織から殺害すると脅されていた
比当局は6日、中国系詐欺組織の運営に関与したとして、収賄容疑などでグオ容疑者を逮捕した。警察とともに共同記者会見に臨んだグオ容疑者は、「(組織から)殺害すると脅されていた」と述べた。

事件の端緒は3月、バンバン市内の「POGO」と呼ばれるオンラインカジノ施設への強制捜査だった。POGOはドゥテルテ前政権下の2016年に導入された制度で、比当局が認可したオンラインカジノ事業者を指す。

だが、近年は犯罪の温床になっていることが問題視され、恋愛感情を抱かせて金をだまし取るロマンス詐欺や、マネーロンダリング(資金洗浄)の拠点となっていた。

比捜査当局はバンバン市内のPOGOを巡り、運営側の中国人ら9人を逮捕した。その関連捜査で、組織の拠点がグオ容疑者の関連企業の土地にあったことから、グオ容疑者の事件への関与が浮上した。

一連の調べで浮かんだのは、グオ氏の経歴を巡る不審な点だ。病院での出生記録や学校への通学記録がなく、捜査当局が指紋を調べると、中国福建省出身で2003年にフィリピンに入国した「郭華萍」という中国人女性のものと一致、グオ容疑者の国籍に疑義が生じていた。

グオ容疑者はこれまで疑惑について、「私は生まれながらのフィリピン人。中国のスパイではない。悪意のある攻撃だ」と否定。だがフィリピン上院の公聴会を欠席したことで、上院が逮捕命令を出していた。

グオ容疑者は7月以降に船で不法出国。出国を受けて市長職を解任された。その後、マレーシアやシンガポールに滞在していたとみられるが、今月4日にインドネシアで拘束後に強制送還されていた。

中国系フィリピン人は動揺
事件を受け、比国内の交流サイト(SNS)などでは、「中国のスパイに派手な浸透工作を許した」「市長をさせたのは国の恥」などと、怒りの声が飛び交う。インドネシアからの送還時、グオ容疑者が比当局者と笑顔で楽しそうに過ごす画像も流出し、「国民への冒涜(ぼうとく)だ」と怒りに拍車をかけた。

8月には南シナ海のサビナ礁付近で、中国海警局の船がフィリピンの巡視船などに衝突する事案が相次いで発生。グオ容疑者の事件も相まって、フィリピンでは反中感情「中比関係は岐路に立たされている」が急速に高まっている。

この状況に対し、推定120万人前後とされる中国系フィリピン人は恐怖感を強めている。シンガポール紙ストレーツ・タイムズは識者の話として、既に中国系フィリピン人が「戦争が起きたら中比どちらを支持するのか」「POGOと関係はないのか」とからかわれる事案が起きたと報じた。記事では、グオ容疑者を巡る事件が、現地に根付いた華人らへの「敵対的行動」につながる恐れがあるとしている。

事件ではグオ容疑者を手助けしたフィリピン当局の協力者がいたとされ、マルコス大統領は「国民の信頼を損ねる腐敗だ」として徹底捜査を指示。現地メディアによると、グオ容疑者は資金洗浄など87の罪で刑事告発され、最長で1200年超の実刑となる可能性がある。【9月9日 産経】
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中国系フィリピン人への暴力といった事態になれば、習近平政権の対応は危険なレベルになる恐れもあります。

【名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家】
フィリピン・マルコス政権は対外的には中国との対立を抱えていますが、国内的にはドゥテルテ前大統領や長女サラ・ドゥテルテ副大統領などのドゥテルテ家との対立があります。名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家といったところ。

ドゥテルテ前大統領の麻薬犯罪絡みの超法規的殺人の扱いや、次期大統領選挙をめぐる思惑などが絡んでいます。
サラ氏の国民的人気を取り込んで大統領選挙に勝利したマルコス大統領に対し、サラ氏側には「一体誰のおかげで大統領になれたと思っているのか!」という怒りも。

****前大統領の「側近」逮捕=人身売買容疑など―フィリピン****
フィリピンのドゥテルテ前大統領の「側近」と言われる新興宗教団体の指導者アポロ・キボロイ容疑者が8日、児童虐待や人身売買などの疑いで捜査当局に逮捕された。同容疑者は、米連邦捜査局(FBI)からも児童を含む人身売買や女性への強制わいせつ容疑などで手配されていた。

ドゥテルテ氏はダバオ市長や大統領当時、頻繁にキボロイ容疑者のテレビ番組に出演し、麻薬密売人を違法に殺害したとされる「麻薬戦争」について自説を展開していた。

ドゥテルテ氏の長女サラ・ドゥテルテ副大統領は捜査当局の動きを「行き過ぎだ」と批判、1日には宗教団体の設立記念式典に出席した。【9月9日 時事】 
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名門マルコス家の老獪さに対し、新興ドゥテルテ家は粗っぽさも・・・。ただし、超法規的殺人も厭わない剛腕です。ただ、独裁者マルコス元大統領時代から考えるとマルコス家の方がもっと暴力的かも。
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フランス  新首相決定も、少数与党 左派「選挙が盗まれた」 極右「新首相は自勢力の監視下にある」

2024-09-08 21:51:10 | 欧州情勢

(【7月9日 共同】)

【6,7月総選挙ではマクロン大統領は極右政権誕生は阻止したものの、政局は左派・中道与党・極右の三すくみ状態】
与党が不人気のなかで国民の反極右に期待してマクロン大統領は総選挙に打って出て「マクロンの賭け」とも言われました。

総選挙結果は周知のように、6月30日の第1回投票でマリーヌ・ルペン氏が実質的に率いる極右政党「国民連合(RN)」が勢いを見せました。ルペン氏は、マクロン大統領が3選禁止で出馬できない次回大統領選挙の有力候補です。

この事態にマクロン大統領は、7月7日の上位候補者による決選投票では、中道・マクロン大統領派と左派連合の選挙協力・候補者調整を進めた結果、極右政党「国民連合(RN)」は失速して第3位に終わっています。

****意外にも極右は143議席****
フランス議会総選挙は2回投票制になっていて、上位2候補による決選投票ではなく、12.5%の得票があれば2回目に残ることができる。

そこで当初は、6月30日の第1回投票で優位に立った極右が、7月7日の第2回投票では過半数289議席に対して250議席(左派が190議席、大統領派が75議席、共和党が40議席)を獲得すると予想された。ことによっては、極右が過半数を獲得することもあり得るとされた。

これに慌てた大統領派と左派が共闘を決め、候補者調整を大胆に進めたので、投票日直前には、極右は第一党にはなるが190議席程度に留まると予想された。

ところが投票が終わると、意外にも極右は143議席しかとれず、左派が180議席で首位、大統領派が158議席で2位、右派は67議席となったのだ。【7月17日 八幡和郎氏 デイリー新潮】
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こうしてマクロン大統領は極右政党の過半数獲得という事態は回避したものの、極右に代わって今度はメランション氏率いる急進左派「不屈のフランス」(第1勢力となった左派連合の中核)という大敵を前にする形となりました。

フランス政局は左派・中道与党・極右の三すくみ状態となり、首相指名・組閣もままならず、首相指名は近づいたパリオリンピック後に先延ばしされました。それまでの間は、辞任した最年少アタル首相が暫定内閣であたることに。

****フランス下院、続く主導権争い 連立なお見通せず 18日開会、内政停滞の危機****
フランスで国民議会(下院)総選挙を受けた各党の連立協議がなお難航している。

どの勢力も過半数を獲得できず、マクロン大統領は自身の与党連合に有利な形での連立を模索しているが、第1勢力となった左派連合はマクロン氏陣営が主導権を握ろうとする動きに対して反発。新議会は18日に開会するが、内政停滞の危機が高まっている。

「勝者はいない。強固な安定多数を築こう!」 マクロン氏は10日に公表した書簡で、安定した大連立政権の樹立を各党に求めた。

下院選では今月7日の決選投票の結果、左派連合「新人民戦線」が最大勢力となり、与党連合は第2勢力、第1回投票で首位だった極右政党「国民連合(RN)」は第3勢力となった。ただ、いずれの勢力も過半数の289議席に届かず、マクロン氏は法案可決に必要な多数派の形成を目指している。

欧州メディアによるとマクロン氏が模索するのは、新人民戦線の切り崩しだ。構成政党のうち、社会党など比較的穏健な左派政党と協力し、与党連合と特に政策面で相いれない中核政党の急進左派「不屈のフランス」の排除を目指す。同時に中道右派の共和党も取り込みたい考えとされる。

ただ、不屈のフランスを率いるメランション氏は「敗北を受け入れろ」と主張し、マクロン氏主導の政権樹立を警戒。社会党も「マクロン氏の政策を受け継ぐ政権は組まない」との姿勢を崩していない。不屈のフランス抜きで左派と連携するのは難しそうだ。

多数派形成の見通しがたたないため、内政を担う新首相の指名も困難な状況。フランスでは、大統領が議会多数派の意向を踏まえて首相を指名する仕組みで、マクロン氏は連立の枠組みが定まるのを待って指名する考えとみられる。

一方、各党の政策が微妙に異なる新人民戦線側も、マクロン氏に提案する首相候補を明確に一本化できていない。

マクロン氏は16日、与党連合の敗北後、慰留していたアタル首相の辞任を受理した。アタル内閣は暫定内閣として当面、職務を続けるが、権限は限られ、下院での法案提出などに支障が生じる可能性がある。【7月17日 産経】
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【2か月の政治空白を経て、中道右派・共和党との連携で最年長新首相がようやく決定】
上記のような経過を受けて首相が決まらない状況が続いていたフランスですが、オリンピックも終了した9月、マクロン大統領は左派穏健派取り込みには失敗したものの、社会党と並んでかつての政権政党でもあった中道右派・共和党との連立でようやく新首相が決まりました。

最年少アタル氏から一転、バルニエ元外相という最年長首相の誕生です。
しかし、新内閣は中道・大統領与党と中道右派・共和党による少数与党となる見込みで、左右からの不信任案なども予想され、政権基盤は脆弱です。

****新首相にバルニエ元外相=政治空白、2カ月で幕―仏****
フランスのマクロン大統領は5日、7月の総選挙後に人選が難航していた新首相に、外相や欧州連合(EU)の要職を歴任した中道右派・共和党のミシェル・バルニエ氏(73)を任命し、組閣を指示した。

左派、中道、極右の3陣営が対立する現在の下院で、最多の支持を得られると判断した。アタル内閣の総辞職から続く政治空白は約2カ月で幕を閉じる。

総選挙で下院の過半数を制した陣営はなく、マクロン氏は当初、大連立内閣の樹立へ幅広い勢力の結集を呼び掛けた。しかし、左派が独自の首相候補を擁立するなど不調に終わり、マクロン氏の中道連合と共和党がバルニエ氏を支える選択肢が浮上した。

マクロン氏は左派のカズヌーブ元首相(61)や右派のベルトラン元保健相(59)の起用も一時検討。いずれも少数内閣は必至だが、バルニエ氏なら就任直後に下院で不信任案が可決されるリスクが比較的小さいとみられており、任命の決め手となった可能性がある。

一方、総選挙で最多議席を獲得した左派連合の主要政党「不屈のフランス」を束ねるメランション氏は「国民が許すとは思えない」とバルニエ氏の任命に反発。7日に行う抗議デモへの参加を支持者らに呼び掛けた。【9月5日 時事】 
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【新首相は強硬な移民対応 極右への忖度は否定】
中道右派とされるバルニエ新首相は、移民政策などでは強硬な立場を示しています。

****バルニエ仏新首相、移民政策に強硬姿勢 大統領の主要政策は堅持****
フランスのバルニエ新首相は6日、マクロン仏大統領の主要政策の一部を擁護する意向を示唆した。政府の移民問題に対する措置は強化するとし、強硬姿勢を示した。

首相指名後初のインタビューに応じたバルニエ氏は、同氏の政権にはマクロン氏率いる中道与党連合の議員らだけでなく保守派も含まれるだろうと発言。「希望する全ての人に門戸を開く必要がある」と述べた。

バルニエ氏は複数の問題を巡って右傾化の兆候を示しており、移民の流入については抑制に向けてより厳格な政策を求めると主張。「わが国の国境はざるのようで、移民の流れは制御されていないという感覚が依然としてある」と述べた。

一方、左派連合は7月の総選挙で最大勢力となったにもかかわらず、マクロン氏が同連合から首相を選出しなかったことに不満を示し、週末にデモを行うよう呼びかけている。【9月7日 ロイター】
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新首相の移民対応は、極右支持層にも受け入れやすいないようですが、今後の政局のカギを握る極右を忖度したものではないとしています。

****新内閣、移民抑制へ=フランス首相、極右忖度は否定****
フランスのバルニエ新首相は6日、民放テレビTF1による就任後初のインタビューで、7月の総選挙で極右・国民連合(RN)に投票した有権者の判断を尊重すると述べた。その上で、今後発足する内閣は、RNも唱える移民抑制策に優先的に取り組むと表明した。

新内閣はバルニエ氏が所属する中道右派・共和党と、マクロン大統領の中道連合による少数与党となる見込み。下院で不信任を回避できるかは極右の動向にかかっている。

バルニエ氏は以前から移民対策に積極的。インタビューでは「自分にはRNの主張との共通点は何もない」と訴え、極右に対する忖度(そんたく)はないと否定した。【9月7日 時事】 
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【新政権に対し、左派は「盗まれた総選挙」として激しく抗議】
新政権に激しく反発しているのが第1勢力となった左派。
極右阻止の選挙協力によるいささか棚ぼた式の勝利とは言え、1位は1位です。
第1勢力となりながら政権から排除された左派は新首相に反対し、大規模な抗議行動を行っています。

世論調査でも、現段階での新政権への評価は厳しいようです。

****フランス全土でデモ、マクロン氏の首相選出に抗議****
フランスのマクロン大統領が中道右派のベテラン政治家ミシェル・バルニエ氏を首相に指名したことを受けて、フランス全土で7日、抗議デモが行われた。

これに先立ち、左派連合は7月の総選挙で最大勢力となったにもかかわらず、マクロン氏が同連合から首相を選出しなかったとして、デモを呼びかけていた。

総選挙では左派連合、マクロン氏が率いる中道連合、極右「国民連合(RN)」のいずれも過半数議席を獲得できず、マクロン氏が5日、英国の欧州連合(EU)離脱時にEU側の首席交渉官を務めたバルニエ氏を首相に指名した。

左派連合に参加する極左「不屈のフランス」のジャン・リュック・メランション党首は、民主主義では敗北を受け入れる謙虚さが必要だと主張。デモ参加者に「長い戦いに着手する」よう呼びかけた。

主催者側の発表によると、フランス全土で約30万人、うちパリで16万人が平和的なデモを実施した。警察の発表ではパリのデモ参加者は2万6000人となっている。

バルニエ氏は6日、新政権に保守派、中道連合のほか、左派の一部が参加することを望むと述べた。10月初めに議会で政策目標を説明する予定で、不信任案の採決に直面する可能性がある。

同氏が率いる共和党は総選挙で第5勢力にとどまった。左派はバルニエ氏が大幅な歳出削減を進め、移民に強硬な姿勢を示すと警戒している。

抗議デモは国内130カ所で行われた。デモ参加者はマクロン氏が有権者を裏切ったとして、弾劾を求めている。

世論調査機関エラベが6日公表した調査結果によると、有権者の74%はマクロン氏が選挙結果を無視したと回答。選挙が「盗まれた」との回答は55%だった。【9月8日 ロイター】
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【極右は倒閣には同調しないという余裕・様子見の姿勢 「新首相バルニエ氏は極右RNの監視下にある」】
一方、左派主導の内閣不信任成立に決定的影響力を持つ極右「国民連合(RN)」は、倒閣には同調しないと余裕というか様子見の対応です。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。

新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。
バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】
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全国的抗議行動を展開する左派、「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と豪語する極右・・・どうみても今後の政権運営は左右両方からの圧力で難しそうです。

マクロン大統領も極右・ルペン氏も、最終目標である2027年次期大統領選挙を見据えながらの政治闘争になります。
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イスラエル  人質6人の遺体発見で強まる停戦・人質解放に向けた国内外の圧力

2024-09-07 23:48:21 | パレスチナ

(イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。人質殺害に反発し停戦合意を求めるデモ、テルアビブで1日撮影。【9月2日 ロイター】)

【人質6人の遺体発見でイスラエル国内の怒りの矛先は・・・】
パレスチナ・ガザ地区で人質6人の遺体が発見されたとのニュースを見たとき、正直なところ、この件がガザ情勢に大きく影響してくるとは思いませんでした。

****ガザで人質6人の遺体発見 イスラエル軍****
イスラエル軍は1日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)で人質6人の遺体を発見したと発表した。

軍の声明によると、遺体は8月31日に南部ラファ(Rafah)の地下トンネルで見つかり、収容された。イスラエルに搬送され、身元が正式に確認された。

6人のうち1人は、イスラエル系米国人のハーシュ・ゴールドバーグポリンさんだった。
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は、人質の死亡に「打ちのめされ、憤っている」と述べた。

昨年10月7日のイスラム組織ハマス(Hamas)によるイスラエル南部への越境攻撃では、251人が人質となった。約100人が依然拘束されており、イスラエル軍はそのうち数十人が死亡したとみている。【9月1日 AFP】
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人質遺体発見は、その死亡がハマスによるものか、イスラエル軍の空爆によるものか判然としないものを含めて、これまでもときどき報じられていますので、ハマスによる米国人を含む6人の人質殺害ということで、イスラエル・ネタニヤフ政権は国内世論のハマスへの怒りを背景にガザ攻撃を強化するのだろう・・・イスラエルを支援するアメリカの動きも強まるのだろうな・・・ぐらいに漠然と思っていました。

しかし、イスラエル国内の批判の矛先はハマスよりむしろ人質救出よりハマス壊滅を優先するネタニヤフ首相に向けられました。

****イスラエルで30万人規模のデモ 人質6遺体発見で政府に抗議****
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、イスラエル国内で1日、イスラム組織ハマスとの停戦合意や拉致された人質の解放を求める大規模デモがあった。8月31日にガザで人質6人が遺体で見つかり、イスラエル国内ではネタニヤフ首相の停戦交渉の進め方に不満が高まっている。

地元メディアによるとデモには約30万人が参加。イスラエル最大の労働組合のトップは2日、ストライキを呼びかけ、反発は大きなうねりとなっている。

「戦争をやめろ」「(救えなかった)私たちを許してほしい」。1日、商都テルアビブの中心部には約30万人が集まり、人質の早期解放を求めた。

夫が人質で、自身もハマスに一時拘束されたアビバ・シーゲルさん(63)は「ネタニヤフ氏が人質を見殺しにした」。ITエンジニアのオル・セラさん(46)は「最も大切なのは人質の生還だ。ネタニヤフ氏は選挙で負けることを恐れて戦争を続けている」と非難した。

今回、遺体で見つかったのは、20〜40代の男女6人。イスラエル軍が発見する直前に殺害されたとみられる。イスラエル紙ハーレツによると、6人のうち3人は、今回、停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった。

反発の背景にはネタニヤフ政権が8月29日の閣議で、ガザとエジプトとの境界地帯に軍の駐留継続を決めたことがある。武器の密輸を防ぐ目的とされたが、ハマスは猛反発し、停戦交渉が停滞する原因になってきた。

一方、ガラント国防相は「人質の命を犠牲にしてまで、駐留を優先させることは道義的に恥ずべきことだ」として、政権内で唯一決定に反対。人質の遺体発見後には「今すぐ、境界地帯の駐留の決定を撤回すべきだ」とX(ツイッター)に投稿した。

これに対して、ネタニヤフ氏は「ハマスは交渉成立を望んでいない。ハマスを追いかけ、決着をつける」との声明を出し、ハマスの「壊滅」を優先させることを強調した。

国民の間ではハマスとの戦闘より、人質交渉を優先すべきだという声が多数派になっている。地元民放が7月上旬に公表した世論調査では、ガザでの紛争において「最も重要なことは何か」との問いに対して、67%が人質の解放と答え、戦闘の継続は26%にとどまった。

ただ今回の遺体発見前まで、ネタニヤフ氏の支持率は回復傾向にあった。イスラエル紙マーリブが8月9日に公表した世論調査では、政敵のガンツ前国防相とネタニヤフ氏の「どちらが首相に適任か」との問いに、ネタニヤフ氏が42%、ガンツ氏が40%で、昨年10月の戦闘開始後、初めてガンツ氏を上回った。

30日公表の調査では再びガンツ氏が上回ったものの、ハマスの最高指導者がイランで暗殺され、イランが報復を宣言する中、安全保障上の緊張が追い風になった可能性がある。【9月2日 毎日】
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停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった人質が、停戦交渉の停滞のために殺害される結果となったことが、ネタニヤフ首相の停戦交渉に消極的な対応への批判として高まったようです。

デモには約30万人が参加・・・イスラエルの人口は955万人程度ですので、そのことを考えると相当規模のデモです。
一時はゼネスト状態に。

****イスラエルでゼネスト開始、交通網・港湾など混乱 経営者も支持****
イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。

パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されていた人質6人が遺体で見つかったことを受けて、ネタニヤフ首相に人質解放に向けた合意を結ぶよう圧力をかけることが狙い。1日にゼネストの実施を呼びかけていた。

スモトリッチ財務相はゼネストを許可しないよう労働裁判所に求めており、現地時間午前に審理が始まる予定だが、すでにさまざまな産業でストの影響が出ており、製造・ハイテク業界など多くの経営者団体もゼネストを支持している。

空輸ハブであるベングリオン空港が一部のサービスを中止しているほか、多くの地域でバスや路面電車の運行が停止・縮小されている。主要商業港のハイファ港でも労働者がストを実施。病院も業務を縮小し、銀行の業務は停止されている。

多くの民間企業は営業しているものの、経営者は従業員がストに参加することを認めており、さまざまなサービスで混乱が生じている。【9月2日 ロイター】
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ストの方は、裁判所の違法判断ですぐに中止されましたが、国を揺さぶる大きなうねりとなりました。

ネタニヤフ首相の政敵でもあるガンツ前国防相は、ネタニヤフ首相のガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留に固執する姿勢を批判。

****ガザ境界の軍駐留必要なし、停戦交渉反対理由にならず=ガンツ前国防相****
イスラエル戦時内閣を6月に離脱したガンツ前国防相は3日、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留について、駐留継続の必要はなく、人質解放に向けた停戦合意の反対理由にすべきでないとの考えを示した。

ネタニヤフ首相は2日の会見で、フィラデルフィ回廊への軍駐留は不可欠だとの見解を改めて強調している。

しかしガンツ氏は、イスラエルにとって一番の脅威はフィラデルフィ回廊ではなくイランだと指摘。回廊はイスラム組織ハマスやその他のパレスチナ武装勢力がガザに武器を密輸するのを防ぐ上で確かに重要だが、軍駐留によって完全に止めることはできないと付け加えた。

またネタニヤフ氏がいったん回廊から撤退すれば、国際的な圧力で再駐留が難しくなると訴えたことについても「必要ならばフィラデルフィ回廊に戻ることはできる」と反論した。

その上でガンツ氏は、ネタニヤフ氏が国際的な圧力に耐えて再駐留に動けるほどの強さがないのであれば、野に下ってもらわなければならないと述べ、総選挙の実施を求めた。

ガザ停戦交渉を巡るネタニヤフ氏の姿勢には、米国などから不満が強まっている。

ガンツ氏は「この話はフィラデルフィ回廊ではなく、本当の戦略的判断が欠如しているということだ」と語り、ネタニヤフ氏の対応を批判した。【9月4日 ロイター】
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【バイデン米大統領はネタニヤフ首相に不満表明 英も武器輸出を一部停止】
国際的にも、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカ・バイデン大統領がネタニヤフ首相の交渉への姿勢に不満を明らかにしており、ネタニヤフ首相との溝が深くなっています。

****バイデン氏「イスラエルの取り組み不十分」、ネタニヤフ氏は反発****
バイデン米大統領は2日、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されている人質の解放に向けた合意の最終案をまもなく提示すると述べた。同時に、イスラエルのネタニヤフ首相は合意確保に向け十分に取り組んでいないとの考えを示した。

バイデン氏は、ネタニヤフ首相は人質解放に向けに十分な努力をしているかとの記者団の質問に対し、「ノー」と回答。ただ、詳細については語らなかった。

また、イスラエルとハマスの双方に最終的な合意案を提示するかとの質問に対し、まもなく提示すると答えた。

交渉が成功するかどうかとの質問に対しては「希望が尽きることはない」とした。

イスラエル軍は1日、ガザ最南部ラファの地下トンネルで人質6人の遺体を収容したと発表。発見される直前に殺害されたという。人質のうち1人は米国人男性だった。

ホワイトハウスによると、バイデン大統領とハリス副大統領は米国の人質交渉チームとも会談。その中で大統領は人質殺害に対する「衝撃と憤り」を表明し、残りの人質解放に向けた次のステップについて話し合ったという。

一方、ネタニヤフ首相は、圧力をかけるべきはイスラエルではなくハマスだと反発。記者会見で、「今、われわれは真剣さを見せろと要求されているのか、譲歩を要求されているのか。これはハマスにどんなメッセージを送っているのか。もっと人質を殺せと言っているのだ」と反発した。

また、バイデン氏を始め真剣に和平実現に取り組む人物がイスラエルにさらなる譲歩を求めるとは考えておらず、むしろそうする必要があるのはハマスだと述べた。

イスラエルの関係筋も、バイデン氏が人質交渉を巡りハマスのヤヒヤ・シンワル指導者ではなくネタニヤフ氏に圧力をかけたことは「留意すべき」と語った。

バイデン氏が、ネタニヤフ氏の対応が不十分と発言したことも、ハマスが人質6人を殺害した直後に出されたというタイミングからみて危険な見解だとした。

こうしたイスラエルのコメントに対し、米国当局者は、バイデン大統領は人質死亡についてハマスに責任があると明言していると反論。「行方不明の人質の解放を急ぐよう、イスラエル政府に求めている」と述べた。【9月3日 ロイター】
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アメリカと並んでイスラエルに武器支援を行っているイギリスも武器輸出の許可を一部停止すると発表。イスラエル支持の外交姿勢に変化が出ているとも見られています。

****英、イスラエルへの武器輸出を一部停止 外交シフト示唆****
英国は2日、イスラエルに対する武器輸出の許可を一部停止すると発表した。固い絆で結ばれた西側同盟国でさえ、イスラエルから自国防衛に必要な武器を奪うことなく、パレスチナ自治区ガザの戦争終結に向けて圧力をかける方法を模索している様子を示している。

英政府は、イスラエルへの約350件の武器輸出許可のうち、30件を禁止すると発表した。F16戦闘機やドローン(無人機)の部品も含まれている。一部の武器が国際人道法に違反して使用される「明確なリスク」があると説明した。

ただ、英国からイスラエルへの武器輸出は比較的少なく、今回の停止措置は概して象徴的なものだ。

だがアナリストらは、イスラエルにとって後方支援や軍事支援よりも重要な、英国の外交的な後ろ盾の変化を示すものだと指摘する。また、他の同盟国も追随する外交的な余地をもたらし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって頭痛の種となる可能性がある。【9月4日 WSJ】
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【強気姿勢は変えないネタニヤフ首相だが、停戦・人質解放を求める内外の声は強まる】
こうした国内外の圧力の中でもそれに屈しないのが強気ネタニヤフ首相の真骨頂・・・・というか、屈して停戦となれば、国内的には総選挙要求が強まり、総選挙となれば自身の政治生命が終わるため、どうしても後に引けないとも言えますが。

人質6人の遺体が見つかったことを謝罪しつつも、ハマスとの停戦交渉での「譲歩」を拒否する姿勢を重ねて強調しています。

****イスラエル軍の駐留を主張…ネタニヤフ首相「圧力に屈しない」****
イスラエルのネタニヤフ首相は「圧力には屈しない」として、エジプトとパレスチナ自治区ガザ地区の国境沿いにイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

エジプトとガザ地区の境界は「フィラデルフィア回廊」と呼ばれ、戦略上、重要であることからイスラム組織ハマスとの主な対立点となっています。

人質解放と停戦をめざす交渉は、イスラエル側が「フィラデルフィア回廊」への駐留継続を要求したことで再び停滞しています。

ネタニヤフ首相は2日、「圧力には屈しない」として「フィラデルフィア回廊」にイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

イスラエルでは6人の人質が遺体で見つかったことを受け、大規模な抗議デモがおこなわれていて、即時停戦を求める声が強まっています。こうした中、アメリカのバイデン大統領は人質解放をめぐり、ネタニヤフ首相の努力が不十分だとの認識を示しました。

──ネタニヤフ首相は(人質解放) 問題についてもっとやるべき?十分に行動している?
アメリカ バイデン大統領「ノー」

また、今週中に人質解放に向けた合意案をイスラエルとハマス双方に提示するかと問われ、「非常に近づいている」と述べました。【9月3日 日テレNEWS】
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強気姿勢を続けるネタニヤフ首相ですが、アメリカ・バイデン政権の停戦交渉に向けた切迫感は強まっています。

****ガザ停戦に向けた米国の仲介、人質殺害で切迫感強まる****
米国系イスラエル人など人質6人が処刑されたことを受け停戦合意の実現が急がれる

パレスチナ自治区ガザで人質となっていた米国系イスラエル人が殺害されたことを受け、米政府は、イスラエルとイスラム組織ハマスとの停戦合意に向けた新たな案を早急に取りまとめる必要に迫られている。

だが政府当局者らは、ハマスが拘束している人質には7人の米国市民も含まれていることから、新たな案が最終案とはならない可能性もあると認めている。

ハマスはカリフォルニア生まれのハーシュ・ゴールドバーグポリン氏(23)を含む6人の人質を処刑した。これによりジョー・バイデン米大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相には、停戦とハマスによる人質解放実現に向けた圧力がさらに高まった。人質の殺害は、米政府が週内にも各当事者に示す予定だった合意案の文章を巡り、中東の仲介国と調整を続けている中で起きた。

米当局者らは、数週間にわたる交渉で最終枠組みに少し近づいたとし、新たな案は、8月に示された「橋渡し案」より踏み込んだ内容になると述べた。

新たな案は、ハマスに拘束されている人質とイスラエルで収監されているパレスチナ人囚人の交換を具体的にどう行うか、ガザとエジプトの境界地帯「フィラデルフィ回廊」でいつまでイスラエル軍の駐留が認められるか、などの詳細が含まれる見込み。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は3日、新たな合意案は、戦闘を停止して「残りの人質の解放を確実にする」ものであり、「ガザ住民に対して大規模な支援が直ちに届けられる」ことにつながる内容だと記者団に述べた。

またカービー氏によれば、バイデン氏も2日、交渉状況についてブリーフィングを受けるためシチュエーションルーム(危機管理室)入りするなど、今回の動きに個人としてもかなり力を入れている。
カービー氏は「週末の殺害を受け、この件を終結させるために必要な切迫感はさらに強くなった」とも述べた。【9月4日 WSJ】
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なお、イスラエル国内では人質解放のためには「フィラデルフィ回廊」駐留を諦めなければならないとする声が反対派より多い状況になっています。

****ガザ境界駐留、半数否定的 人質解放を重視、世論調査*****
イスラエル紙マーリブは6日、世論調査の結果を公表し、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界でのイスラエル軍駐留に関し「人質解放のために諦めなければならない」と回答した人が48%に上った。

ネタニヤフ首相は安全保障上の理由から駐留継続を主張しているが、人質解放を重視する国民との間で認識の差があることが明らかになった。

マーリブ紙は4〜5日、約500人を対象に調査を実施。「人質が解放されなくても駐留を諦めてはならない」との回答は37%、「分からない」が15%だった。【9月7日 共同】
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ソーシャルメディアでの偽情報拡散 X(旧ツイッター)、ブラジルでサービス停止

2024-09-06 22:42:17 | インターネット SNS

(【8月31日 日経】 Xのオーナー、マスク氏(左)とサービス停止命令を出したブラジル最高裁のアレシャンドレ・ジモラエス判事)

【国家関与の偽情報拡散も】
ネット情報が人々の生活に深く浸透するなかで、偽情報などによる政治的利用も深刻な問題になっています。

国家が敵対国に対し、一定の目的で偽情報を拡散させるケースも。アメリカの場合は、中国・ロシアからの攻撃対象になっています。

*****中国のネット世論操作活動、米有権者標的に=SNS分析企業調査****
米大統領選投票日を11月5日に控え、中国が米国の有権者になりすましてソーシャルメディアを利用し、米政治家を中傷し分断をもたらすようなメッセージを流していることが分かった。ソーシャルメディア分析企業グラフィカが新調査を発表した。

「スパムフラージュ」と呼ばれる工作は、中国国家当局とつながりがある世論操作活動の一環。スパム(迷惑メッセージ)を拡散したり、世論誘導のために標的を絞った宣伝活動をネット上で展開したりしている。

専門家によると「スパムフラージュ」は少なくとも2017年から行われているが、こうした工作は選挙が近づくにつれてより活発になっている。50を超えるウェブサイトやソーシャルメディアプラットフォームで数千のアカウントを活用している。

グラフィカの調査チームを率いるジャック・スタッブズ氏は「米国を標的とした中国の世論操作活動が進化し、虚偽的な行為がより高度になっている」と指摘。スパムフラージュが米国の政治的な会話に潜入し、虚偽的行為による攻勢を一段と強めていると説明した。

具体例としては、米国の反戦活動家になりすまし、交流サイト(SNS)のXで複数のアカウントを使って、トランプ前大統領にオレンジ色の囚人服を着せて 「詐欺師」と称したり、バイデン大統領を「臆病者」と呼んだりするミームを作成したものがあるという。

スパムフラージュのメッセージは、民主党もしくは共和党のどちらか一方の政治的立場を支持するものというより、米国社会や政府への批判を高めることを狙っているとみられる。【9月4日 ロイター】
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****米司法当局、ロシアの情報工作を摘発 プーチン氏側近が関与か*****
米司法省は4日、ロシア政府が11月の米大統領選に干渉するための情報工作で使用していた32のドメイン(インターネット上の住所)を差し押さえたと発表した。

発表によると、プーチン露大統領の側近のキリエンコ大統領府副長官が工作を統括し、メディアを偽装して、ウクライナ侵攻などを巡ってロシア寄りに米世論を誘導しようとしていた。

司法省によると、露政府は遅くとも2022年以降、露企業に協力させて、「ドッペルゲンガー(分身)」と称される作戦を展開してきた。ワシントン・ポスト紙やCNN、FOXニュースなど米国の主要メディアに似せた偽サイトを作成。人工知能(AI)も活用して作成した偽の記事や映像を流して、世論の誘導を図った。

一例として、「ホワイトハウスの計算違い」という見出しの偽記事では「ウクライナへの支援継続は失敗だと米国の指導者が認識する時だ」と訴えていた。米国民を装ってネット交流サービス(SNS)のアカウントを作り、偽記事を紹介する投稿もしていた。

米当局が入手した「古き良き米国」と題した情報工作の内部文書は、米大統領選に向けて「ウクライナ侵攻への対処よりも米国内の問題解決に税金を使うべきだ」という世論を喚起することがロシアの利益になると説明。情報工作の対象として、接戦州の有権者、中南米系、ユダヤ系などを挙げ、「目的」の欄には共和党のトランプ前大統領の当選を目指すと示唆する記述もあった。

また、司法省は4日、身分を隠して米国のインフルエンサーと契約し、ネット番組を通してロシアに有利な情報を流布していたとして、露国営メディア「RT」のロシア人社員2人が外国エージェント登録法違反などの罪で連邦地裁に起訴されたことも明らかにした。

RT社員らは、100万人以上の登録者がいるユーチューバーと月40万ドル(約5700万円)などの条件で契約し、制作した動画の司会者に起用。2000件近い動画を公開し、ユーチューブだけでも延べ1600万人以上が視聴した。

今年3月にモスクワ郊外で起きた銃乱射事件については、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)ではなく、ウクライナが関与したとする「陰謀論」を流していた。

ガーランド米司法長官は「今回のドメイン差し押さえは、選挙干渉や民主主義を弱体化させる試みには、積極的に対抗していく姿勢を明確にするものだ」と強調した。

米大統領選を巡っては、米当局は16年と20年の選挙でロシアが介入したとみている。今回は、イランが民主・共和両党の陣営にハッキングを仕掛けた疑いも浮上している。【9月5日 毎日】
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「古き良き米国」と題した情報工作の内部文書・・・そんな露骨で、分かりやすいものが存在するというのもいささか不思議ですが・・・。

【SNSのX(旧ツイッター)、ブラジルでサービス停止 特異な存在、オーナーのマスク氏】
上記のような国家が関与する偽情報はごく一部で、大多数は不特定多数の個人がネットに垂れ流す偽情報でしょう。
SNSの運用にあたってはそうした偽情報や不当情報・危険情報の監視が求められていますが、どこで線を引くのか、どこまで徹底させるかは言論の自由との兼ね合いで難しいところもあります。

現在、一番問題になっているのか、SNSのX(旧ツイッター)と、そのオーナーであるイーロン・マスク氏。

ブラジルでは、ボルソナロ前大統領に有利な偽情報の拡散をめぐって、マスク氏とブラジル政府・司法の対立が激化、Xの全面停止に至っています。

****ブラジル最高裁判事とマスク氏の対立激化 スターリンク資産凍結****
ブラジル最高裁の判事と実業家イーロン・マスク氏の対立が激化している。マスク氏が率いる米宇宙開発企業スペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」は29日、ブラジル国内の資産が凍結されたと発表した。

きっかけはマスク氏が2022年に旧ツイッターを買収して改称したSNSの「X」だ。

ブラジル最高裁のアレシャンドレ・ジモラエス判事は28日、マスク氏が24時間以内にブラジルでの新たな法的代表者を指名しない限り、Xのサービスを停止すると警告した。

続いて翌29日にはスターリンクが、ジモラエス判事から「スターリンクの資産を凍結し、ブラジル国内での金融取引を禁止する」との命令を受けたと明らかにした。同社はX上で「法的に対処する」意向を示している。

ブラジル高等選挙裁判所(選挙管理委員会に相当)長官を兼任するジモラエス判事は、同国における偽情報撲滅の闘いを主導しており、その過程でマスク氏と対立してきた。

ジモラエス判事が過去に停止を命じたXアカウントの中には、2022年大統領選で選挙制度の信用失墜を狙った極右のジャイル・ボルソナロ前大統領の支持者のものが含まれていた。

同判事は4月、凍結したアカウントの一部をマスク氏が復活させたとして、マスク氏に対する捜査を命じた。一方、マスク氏側は、ジモラエス判事が言論の自由を抑圧していると非難している。

マスク氏はジモラエス判事が「検閲」に従わせるためにXの前法定代理人に逮捕をちらつかせたと主張し、今月、Xのブラジル事業を閉鎖した。ただし、ブラジルのユーザーは引き続き、Xにアクセスできている。

マスク氏はこのほかにも、公金を使ってボルソナロ前大統領とその側近に有利な偽情報の拡散を計画したとされ、ブラジルの別の司法捜査の対象にもなっている。【8月30日 AFP】AFPBB News
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****ブラジル最高裁がXのサービス停止命令 偽情報対策で マスク氏は反発****
ブラジルの最高裁判所がイーロン・マスク氏が運営するSNS=Xについて、偽情報対策のため国内でのサービス停止を命じました。

現地メディアによりますと、ブラジル最高裁は30日、旧ツイッター=Xについて国内でのサービス停止を命じ、電気通信庁へインターネットから遮断するよう通告しました。

グーグルやアップルには5日以内にアプリストアから削除するよう求め、使用した個人や企業には1日あたりおよそ130万円の罰金を科すとしています。

最高裁は偽情報対策として一部アカウントの凍結を求めていましたが、マスク氏は検閲だと反発し、現地事務所を閉鎖していました。

最高裁の判事は「Xはブラジルに無法地帯をもたらしている」などとしていますが、マスク氏は「真実を知られることを抑圧的な政権が恐れている」と反発しています。【8月31日 テレ朝news】
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****最高裁のX全面停止に反発高まる ブラジル、判事弾劾模索の動きも****
ブラジルで最高裁命令によりX(旧ツイッター)が8月31日から遮断されたことを受け、全面停止は「厳しすぎる」との反発の声が国内で高まっている。ルラ政権への批判が上がっているほか、命令を下した最高裁のデモラエス判事の弾劾を模索する動きも出ており、波紋が広がりそうだ。

「北朝鮮へようこそ」。ボルソナロ前大統領は停止命令を受け、Xが利用できない北朝鮮とブラジルを重ね、米IT大手メタの短文投稿サイト「スレッズ」上で、ルラ政権への批判を展開した。野党議員らは判事の弾劾のほか、国会での議論を求めるなど圧力を強めている。

命令の中には、規制を回避できるVPN(仮想専用線)などを使ってXを利用した個人に1日5万レアル(約130万円)の罰金を科すとの内容もある。同国の弁護士会は8月31日、市民への高額な罰金は憲法に抵触する可能性があるとして最高裁に再考するよう申し立てた。

ブラジルのX利用者は、スレッズやブルースカイなど他の交流サイト(SNS)に流れ始めた。【9月3日 共同】
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Xの場合、単に偽情報・ヘイトスピーチを垂れ流しているというだけでなく、オーナーであるマスク氏自信がそうした一方の政治的傾向の言動を強めており、自身の政治的思いを表現する場としてXを利用しているという特殊な側面があります。

****マスク氏、ナチス擁護論を拡散=「見る価値あり」、即削除****
米実業家イーロン・マスク氏は4日までに、自身がオーナーを務めるX(旧ツイッター)に、ナチス・ドイツ擁護者が出演したポッドキャスト番組を「見る価値がある」と投稿、拡散した。

多くの批判を集め、その後削除。「間違いだった。部分的に聞いただけで、全部ではなかった」と釈明した。同氏は昨年にも、反ユダヤ主義的な投稿に同調し、後に謝罪した。

問題となったのは、米FOXテレビの元看板司会者タッカー・カールソン氏のポッドキャスト。出演した自称歴史家のダリル・クーパー氏が、ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を第2次世界大戦への準備不足から生じた事故かのように表現した。

カールソン氏は2日、クーパー氏を「米国で最も優秀で誠実な歴史家」とたたえ、番組をXに投稿。マスク氏は翌3日、これにコメントする形で拡散した。

カールソン氏による称賛に対し、ユダヤ系団体の名誉毀損(きそん)防止同盟は「ナチスに殺害されたユダヤ人600万人の記憶への侮辱」と批判した。【9月5日 時事】 
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マスク氏は最近はトランプ前大統領と意気投合し、トランプ氏勝利の場合は、財政のコストカッター、首切り人として存分に腕をふるう予定とか。

****トランプ氏、政府効率化に向けた委員会設置へ トップにイーロン・マスク氏を起用****
アメリカ共和党の大統領候補であるトランプ氏は、政府の効率化に向けた委員会を設置し、トップに実業家のイーロン・マスク氏を起用すると述べました。

「政府の効率化委員会を設置するつもりだ。イーロンは忙しくないので、トップを率いることに同意してくれた」(トランプ前大統領)

トランプ氏は5日、ニューヨークで講演し、大統領に返り咲いたら連邦政府の財政の効率化を目指す委員会を設置し、6カ月以内に無駄な政府支出を削減するための行動計画を策定する考えを示しました。また、委員会のトップには実業家のイーロン・マスク氏を起用することを明らかにしました。

マスク氏もSNSに「機会があれば、アメリカのために貢献できることを楽しみにしている。報酬も肩書も評価も必要ない」と投稿しました。【9月6日 ABEMA Times】
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Xに関してはブラジルだけでなく欧米諸国でも問題となっています。世論に対する大きな影響力を持つソーシャルメディアに対し各国は規制を強化する流れにあります。

****ブラジルに続く?...「X」即時停止命令は他国にも広がるのか EU高官は「禁止もあり得る」と警告***
<イーロン・マスクとブラジル当局の数カ月にわたる緊張状態の末、ブラジル全域で「禁止」されることになったX(旧ツイッター)。各国で規制が進むが、停止命令を出す国は出てくるのか──>
(中略)
「自由の国」アメリカではどうなるか?
一方、アメリカでは合衆国憲法修正第1条で言論の自由が強力に保護されている。
とはいえ、ソーシャルメディア運営企業だからといって、規制を完全に免れられるわけではない。

例えば、Xは2023年9月、ソーシャルメディア・プラットフォームに対するコンテンツモデレーション取り組みの公開を義務付けたカリフォルニア州法が、言論の自由を侵害するとして訴訟を起こしたが、同年12月に訴えを退けられた。

カリフォルニア州法は、相応の年間売上高があるソーシャルメディア運営企業に対し、コンテンツモデレーションへの取り組みを詳細に記した報告書を半期ごとに提出するよう義務付けている。

報告書には、好ましくない投稿数とそれらに講じた措置について、データを明記しなければならない。カリフォルニア州連邦地方裁判所判事ウィリアム・シャブは、Xが同法を凍結するよう求めた訴えを退け、次のように述べた。

「報告義務は、ソーシャルメディア運営企業にかなりのコンプライアンス負担を強いるように思われるが、合衆国憲法修正第1条の文脈においては、この報告義務が不当である、あるいは過度の負担になるとは考えられない」(中略)

EU高官は「X禁止もあり得る」と警告
欧州では、ソーシャルメディア・プラットフォームに対する規制が厳しさを増している。欧州連合(EU)は2022年11月、デジタルサービス法(DSA)を施行した。

この法律は、オンラインプラットフォームに対して、コンテンツモデレーションとユーザーの安全性について厳格なルールを定めている。

EU上級代表サンドロ・ゴジ(仏マクロン大統領率いる政党「再生」所属で欧州議会選区から選出)は8月、Xがデジタルサービス法を順守しなければ、欧州で禁止される可能性があると警告した。
コンプライアンス違反の場合は巨額の罰金が科され、欧州運営業者によるブロックもあり得ると、ゴジは述べている。

デジタルサービス法は、欧州のオンライン仲介サービス事業者すべてに適用されている。また、欧州で暮らす4億5000万人の10%以上にサービスを提供している、「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOP)」に対しては、いっそう厳格なルールが設定されている。

VLOPには具体的な義務が課されており、違法コンテンツの拡散や社会的危害などの全体的リスクを緩和しなければならない。(中略)

ブラジルにおけるXのサービス停止措置、EU高官からの警告、コンテンツモデレーションの取り組みについて公開を定めたカリフォルニア州法。これらを踏まえれば、各政府がソーシャルメディア・プラットフォームをいっそう厳しく規制する流れが強まっていることは明らかだ。

偽情報やヘイトスピーチ、そして、世論に対する大手テックの大きすぎる影響力に対する懸念から生まれたこのような変化は、まだ始まったばかりなのかもしれない。【9月3日 Newsweek】
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【犯罪利用監視を怠ったとして通信アプリ「テレグラム」CEO、フランスで逮捕】
偽情報というより、犯罪に利用されやすいということで問題になっているのが通信アプリ「テレグラム」ですが、創業者でロシア人のパベル・ドゥロフCEOが監視を怠った疑いがあるとしてフランスで逮捕されています。

****通信アプリ「テレグラム」CEO、パリで逮捕 犯罪利用を監視しなかった疑い 現地メディア報道***
通信アプリ「テレグラム」のCEOが24日、フランスの空港で逮捕されたと現地メディアが報じました。テレグラムが犯罪に利用されているにもかかわらず、監視を怠った疑いがあるということです。

現地メディアによりますと、通信アプリ「テレグラム」の創業者でロシア人のパベル・ドゥロフCEO(39)が24日、パリ郊外の空港で警察に逮捕されました。

テレグラムが麻薬密売などで利用されているにもかかわらず、必要な監視を怠った疑いがあるとして、正式な捜査に入る前の予備的捜査の一環で捜索令状が出されていました。

ドゥロフ氏はプライベートジェット機でアゼルバイジャンからの移動中だったということです。

テレグラムは2013年にドゥロフ氏が兄とともに立ち上げ、UAE=アラブ首長国連邦のドバイを拠点にしています。【8月25日 TBS NEWS DIG】
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500万ユーロ(約8億円)の保釈金で保釈されたドゥロフCEOは、「テレグラムは無法地帯の楽園だ」という見解は「全くの誤り」「毎日数百万件におよぶ有害な投稿やチャンネルを削除している」と強調し、“テレグラムユーザーが現在、世界で950万人に達しているとしながら「成長の痛みとして、犯罪者が悪用しやすくなる事態が起きた」との考えを示し、「だからこそ、この点での大幅な改善を個人的な目標にしている」と続けた。改善は「社内で」既に進行中で、詳細は今後公表されるとした。”【9月6日 AFP】

なお、強権支配国家では、政府への抵抗運動で活用されるSNSが目の敵にされるという側面もあります。
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韓国  ソウル市で外国人家事労働者の受入れ始まる 批判・疑問・課題も

2024-09-05 22:28:43 | 人口問題

(3日、韓国人家庭で家事支援を始めたフィリピン人女性=ソウル市提供【9月3日 読売】 
部屋の様子からそれなりの収入のある家庭のように見えます。ひとをフルタイムで雇うということは費用的には相当な額になりますので、誰でも負担できるものではないでしょう)

【ソウル市で外国人家事労働者の受入れ始まる】
周知のように、韓国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は0.72と、日本(1.20)と比べても大幅に低く、世界的にも異例の「超少子化」が進んでいます。

その韓国で直近足元で出生数が8年半ぶりに増加したという話もありますが、コロナ禍の影響が大きく、長期的な少子化傾向に変わりはないとも見られています。

****第2四半期の出生数が8年半ぶりに増加****
韓国統計庁が8月28日に発表した「2024年6月の人口動向」によると、2024年第2四半期(4~6月)の出生数が前年同期(5万6,147人)比1.2%増の5万6,838人となった。同期間の合計特殊出生率(注)は0.71で、前年同期と同一の水準だった。同時に発表した6月の出生数は前年同月(1万8,585人)比1.8%減の1万8,242人だった。

「ハンギョレ新聞」(8月28日)は統計庁の見解を次のように紹介している。
出生数が前年同期比で増加したのは、2015年第4四半期(10~12月、前年同期比0.6%増)以来、8年半ぶり。2024年4月(前年同月比2.9%増)と5月(同2.6%増)の出生数の増加が第2四半期の出生数増に大きく寄与した。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期された婚姻の件数が2022年下半期から2023年上半期にかけて増加したことで、出生数も増加したと考えられる。2024年下半期まで出生数増加が続く可能性がある。

新型コロナ禍の反動による婚姻件数の増加が落ち着けば、合計特殊出生率は再び低下すると予想される。【9月4日 JETRO】
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韓国政府もいろんな対策をとってはいますが・・・その一つが、ソウル市の外国人家事労働者の受入れ。
共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を図り、少子化に歯止めをかける狙いです。

併せて、少子化による労働者不足の解消も目的としています。

第1陣としてフィリピンから100人が韓国に入り研修を受けていましたが、4週間の研修を終えて各家庭に派遣されています。

****フィリピンの家事労働者 研修終えきょうから各家庭へ派遣=ソウル市****
韓国のソウル市と雇用労働部が推進する「外国人家事管理士試験事業」に参加するフィリピンの家事労働者100人が3日、4週間の研修を終え、各家庭で働き始めた。ソウル市が伝えた。

100人は8月6日に入国し、仕事内容や韓国語、セクハラ予防、安全教育などについて計160時間の研修を受けた。

応募があった計731世帯から157世帯が選定され、最終的に142世帯に家事管理士が派遣されることが決まった。

派遣されるのは、「共働き家庭」が115世帯(81%)、「妊婦がいる家庭」が12世帯(8.5%)、「子どもの多い家庭」が11世帯(7.7%)、「母子・父子家庭」が4世帯(2.8%)となっている。

ソウル市の関係者は「キャンセルが多かったため、申請すれば1カ月からでも利用できる」と話した。12歳以下の子どもがいるソウル市に在住する世帯が対象で、「代理主婦」「トルボムプラス」などのアプリから常時申請を受け付けているという。 

市のガイドラインによると、フィリピンの家事管理士の業務範囲は育児と育児関連の家事などで、サービスを6時間以上利用する場合は、子どもの安全が確保される範囲内で簡単な掃除や親などの衣類の洗濯も可能だ。

高齢者の世話、大人のための調理、雑巾がけ、買い物、冷蔵庫など電化製品の掃除、アイロンかけなどは業務範囲に含まれていない。

育児に関連する範囲内で同居している家族に対する家事業務を「付随的に」遂行できるというのが原則だが、どこまでを付随業務とみなすのか判断が分かれることもありそうだ。

契約時に可能な業務範囲内で希望するサービスを定め、契約後に業務を追加したい場合は、家事管理士に直接指示することはできず、サービス提供事業者と協議して調整しなければならない。

ソウル市の担当者は「フィリピンの家事管理士たちが現場で業務を支障なく遂行するよう支援する」と話した。【9月3日 聯合ニュース】
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【家事労働者の人権・労働環境保護に留意する必要】
一般論で言えば、家庭内の家事労働は通常の外での業務に比べ“外から見えにくい”特質があるため、外国人労働者への差別・虐待・暴力・不当な労働などが横行しやすい危険がありますので、そのことへの配慮が必要になります。

中東でのアジアからの家事労働出稼ぎ者が虐待を受ける事件は多発していますし、アジア内においても同様の事案があります。

****マレーシアの外国人家政婦、3分の1近くが強制労働状態=ILO****
国際労働機関(ILO)は15日、マレーシアの家庭で家事に従事する外国人労働者の約3分の1が強制労働状態にあるという調査結果を発表した。

ILOによると、強制労働の指標は、▽過剰な労働時間▽残業代未払い▽低賃金▽行動制限▽退職妨害ーー。調査は、東南アジアの家事労働者1,201人へのインタビューに基づくもので、マレーシアの家事労働者の29%が強制労働の状態にあると判定された。一方、シンガポールとタイはそれぞれ7%、4%だった。

ILOは、3カ国すべての家事労働者の平均労働時間は他部門の労働時間をはるかに超えており、最低賃金を得ている者はいなかったとし、3カ国に対してILOの「家事労働者と強制労働に関する国条約」を批准し、家事労働を正当に評価し労働者を雇用者に縛りつけない仕組みづくりを行うよう促した。

アジアでは、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなどの発展途上国の女性が家政婦として雇用されることが多いが、マレーシアでは近年、インドネシア人の家事労働者が虐待される事件が多発する他、外国人労働者を搾取する企業への非難も起こっている。ILOによると、マレーシアの家事労働者の約80%はインドネシア人。マレーシアとインドネシアは、昨年、家事労働者保護に向けた協定を締結している。

タイの労働省の広報担当者であるワナラット・スリスクサイ氏は通信社「ロイター」の取材に対し、タイでは2012年に導入された家事労働者保護に向けた法律を受けて、同国の家事労働者の待遇は改善されていると述べた。マレーシアとシンガポールの担当者からのコメントは得られなかった。【2023年6月 Asia infonet】
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【不法滞在・犯罪増加を懸念する向きも】
一方で、韓国では外国人労働者受入れ拡大で不法滞在・犯罪増加を懸念する向きもあります。

****少子高齢化進む韓国、外国人労働者の受け入れ拡大…不法滞在や外国人犯罪増加を懸念する声****
韓国政府が外国人労働者の受け入れを拡大している。急速な少子高齢化による働き手不足を背景に、尹錫悦ユンソンニョル政権は外国人労働者の受け入れを進める考えだ。(中略)

韓国政府は2004年、人手不足の製造、建設、サービス、農畜産、水産の5分野で外国人労働者に「非専門就業」の資格を与え、期限付きの単純労働を認める制度を導入した。

家事支援は対象外で、外国人の就労は結婚移住者など一部に限られていたが、韓国政府は今回試験的にフィリピン人の家事支援就労を認めた。試験結果を踏まえ、受け入れ拡大を今後検討する。

韓国は04年の制度導入以降、労働者を送り出すベトナムやフィリピンなど十数か国と協定を結んだ。韓国語教室を開くなど定着支援に力を入れ、受け入れ業種も拡大してきた

非専門就業資格で今年受け入れる外国人労働者は16万5000人を予定しており、コロナ禍前の19年の約3倍に上る見通しだ。現在はこの資格で30万人余りが暮らしており、在留外国人全体の12%を占める。

韓国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の推計人数)は0・72と世界最低水準を記録した。高学歴化が進み、製造業などの担い手は外国人労働者なしでは立ち行かないと指摘されている。工場では管理職だけが韓国人で働き手が外国人というケースは珍しくない。

韓国政府は昨年末、外国人政策を一元的に管理する「出入国・移民管理庁(仮称)」の新設案を公表した。永住する移民の本格的な受け入れを視野に入れている模様だが、不法滞在や外国人犯罪の増加などを懸念する声も出ている。【9月3日 読売】
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【現実的に費用対効果は? そもそも少子化対策としての効果は?】
また、サービスを利用した場合、費用的にかなり高額になりどれだけの世帯がふたんできるかという問題、さらに、そもそも、この取組が少子化の歯止めになるのかという根本的な疑問があるようです。

****世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンからの「切り札」導入も露呈した「根深い問題」とは?****
<出生率低下を食い止めるべく、ソウルで外国人家事労働者の受け入れを開始。共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を目指したが、数々の疑問の声が──>

試験的事業として、外国人家事労働者を受け入れる──韓国の首都ソウルの呉世勲(オ・セフン)市長が、そんな提案をしたのは2年前のことだ。

外国人労働者の「手頃な」サービスを提供して韓国人女性の育児の負担を軽減し、少子化に歯止めをかけるのが目的で、国内の家事労働者の減少や急速な高齢化に対応する狙いもあった。

シンガポールや香港の政策を参考に、韓国政府とソウル市が進める同事業は本格始動したばかり。家事労働者の国家資格制度があるフィリピンから来た100人が9月3日から約半年間、ソウル市内の家庭に勤務する。派遣先として優先されるのは共働き家庭や一人親家庭だ。

この思い切った事業には、家事労働者の業務範囲や文化の違いへの懸念など、数々の疑問の声が上がっている。最大の問題の1つになっていたのは報酬だ。より正確には、韓国の最低賃金(時給)9860ウォン(約1075円)を支払うべきかという問いだった。

外国人家事労働者の人権を保障するには最低賃金を適用するべきだという考えに対し呉は、「同意しない」と明言。「賃金水準は市場原理に従い、技能や貢献に応じたものであるべきだ」と主張した。

これに対して、韓国女性団体連合は今年3月8日の国際女性デーのイベントで、呉は「ジェンダー平等の障害」で、家事の価値を下げ、外国人労働者差別を助長していると非難。

外交分野でも、駐韓フィリピン大使がILO(国際労働機関)などの基準を引き合いに出し、両国は「同一賃金や無差別を支持する国際条約を批准している」と指摘した。

こうした経緯の末、研修のため8月上旬に来韓したフィリピン人家事労働者らは最低賃金を保証された。週5日間、1日4時間サービスを利用する場合、社会保険料負担などを含めた月額費用はおよそ119万ウォン(約13万円)だ。

だが新たに、大きな疑問が浮上している。フィリピン人家事労働者を雇うのは、韓国人家庭にとって割に合うのか。
若年層の共働き家庭が1日最低8時間、保育のためにサービスを利用したら、月額費用は約238万ウォンに上る。韓国の30代の家計所得中央値は509万ウォン(約55万5000円)。つまり、家計所得のおよそ47%を支払うことになる。

外国の「成功例」の結果は
費用対効果だけではない。もう1つの(そして、おそらく最も)重要な問いは、少子化対策として有効かどうかだ。
韓国の合計特殊出生率は世界最低レベルが続く。昨年の出生率は0.72で、8年連続で過去最低を更新。ソウルでは、国内最下位の0.55だ。

悲惨な状況を考えれば、韓国政府が外国の政策に目を向けたのも無理はない。だが成功例として挙げる「シンガポールモデル」の結果は、宣伝とは裏腹だ。

シンガポールの外国人家事労働者計画が始まったのは1978年。女性の就労を促進したとしても、出生率は低下傾向で、昨年は初めて「1」を下回る0.97を記録した。同じく成功例とされる香港の場合も同様だ。

今回の試験的事業をめぐる批判は、韓国政府の育児観や外国人労働者への見方の現実をあらわにしてみせた。人口減少に効果的に取り組むには、国外に助けを求める前に、ジェンダー不平等や家事・育児の男女格差という国内の根本的課題に向き合うべきだ。

「コリアンドリーム」を追うフィリピン人家事労働者は、少子化問題の救世主ではない。【9月3日 Newsweek】
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同様に少子化に悩むシンガポールや香港の外国人家事労働の果たしている効果・役割については別途検討する必要があります。

両国で少子化が改善されていなくても、もし外国人家事労働がなかったらもっと悪化したかも・・・という可能性もありますので。

少子化対策としての効果は小さくても、労働者不足を補う手段としては有効という見方もあります。

“ジェンダー不平等や家事・育児の男女格差という国内の根本的課題に向き合う”のが一番重要というのは正論ではありますが、なかなか変化しない部分でもあります。であれば、補完策としての外国人家事労働もニーズがあるなら検討してもいいように思いますが、補完策に頼ることで、根本的課題への取組がなおざりにされるというのは困ります。 検討が必要でしょう。

制度の提案者であるソウル市長が、最低賃金適用に反対した・・・というところに、家事・育児の価値を低く見ている、外国人労働者を“安価な労働力”と見なしている・・・そうした基本的な問題があるように思えます。
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ドイツ  東部州議会選挙で極右政党AfD勝利 続く経済苦境 VW社、国内工場閉鎖検討

2024-09-04 23:12:12 | 欧州情勢

(テューリンゲン州議会選に向けたAfDの選挙集会(8月31日)画像の人物はビョルン・ヘッケAfD党首。
ヘッケ氏はナチス時代のレトリックを使い、極端な民族主義・極右的見解で物議を醸してきた。ベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥ずべき記念碑」と呼び、ナチスの過去を「180度逆転」させるよう提唱した。

ヘッケ氏はナチスの準軍事組織ナチスSA(突撃隊)のスローガン「ドイツのためにすべてを」を使用したとして何度も有罪判決を受け、罰金を科せられている。ドイツの裁判所はヘッケ氏を「ファシスト」と呼んでも名誉毀損に当たらないとの判決を下している。)【9月3日 Newsweek】)

【難民申請者によるテロ事件で、難民への反発が高まる】
8月23日夜、ドイツ西部ゾーリンゲンのフェスティバルで、3人が死亡、8人が負傷する刺傷事件が起きました。
過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出しています。

****ドイツ3人殺害 「イスラム国」が犯行声明 計画知りながらも通報しなかった疑いで15歳少年逮捕****
ドイツ西部で23日、祭りの最中に男が来場者らを刃物で襲い3人が殺害された事件で、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出しました。また、警察は事件の計画を知りながら通報しなかった疑いで、15歳の少年を逮捕しました。

ドイツ西部のゾーリンゲン市で23日夜、市の創立650周年を祝う祭りの最中に、男が刃物で来場者らを次々と襲い、3人が死亡、8人が重軽傷を負いました。

ロイター通信によりますと24日、過激派組織「イスラム国」が「パレスチナやほかの地のイスラム教徒のための報復だ」とする犯行声明を出したということです。

また、ドイツメディアは警察が24日、事件の計画を知りながら警察に通報しなかった疑いで、中央アジア・キルギス出身の15歳の少年を難民保護施設で逮捕したと伝えています。

逃走中の実行犯の男は襲撃の際、アラビア語で「神は偉大なり」を意味する「アラー・アクバル」と叫んでいたということです。

警察は実行犯は1人とみていて、無差別のテロ事件として捜査しています。【8月25日 ANNニュース】
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犯人は22年にシリアから入国して難民申請していた男性でしたが、この事件によってドイツ社会で難民への反発が高まっているとのこと。

****独刃物襲撃、拘束のシリア人逮捕 22年に難民入国、社会反発****
ドイツ西部ゾーリンゲンで3人が刃物で殺害された襲撃事件で、検察は25日、殺人やテロ組織に参加したなどの容疑で警察が拘束していたシリア人の男(26)を逮捕した。報道によると、男は2022年末に入国して難民申請をしていた。ドイツ社会で難民への反発が高まっている。

検察は男について過激派組織「イスラム国」(IS)の一員の疑いがあるとし「異教徒をできるだけ多く殺害しようと、首や上半身を繰り返し刺した」と指摘した。ISは24日に犯行声明を出しており、関連を調べる。

事件後、難民政策への批判が噴出し、最大野党キリスト教民主同盟のメルツ党首は難民を巡る対応の厳格化を主張した。【8月26日 共同】
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メルケル前首相時代から難民受入れに寛容な政策をとってきたドイツですが、こうした難民に反発する世論の空気に反応してショルツ首相は在留資格のない難民の強制送還を強化する方針を示しています。

****ドイツ刃物襲撃事件、首相が強制送還の強化表明****
ドイツのショルツ首相は26日、週末に3人が刺殺された西部ゾーリンゲンを訪れ、在留資格のない難民の強制送還を強化する方針を示した。(中略)

ショルツ氏は「ドイツに留まることができない人々を確実に国外に退去させるため、できる限りのことをしなければならない」と発言。難民申請は最初に到着した国で行うとする欧州連合(EU)の「ダブリン規則」に言及した。

ドイツのメディアによると、当局は昨年、今回の事件の容疑者である26歳のシリア人の男をブルガリアに強制送還しようとしたが、男が難民収容施設にいなかったため、送還できなかった。【8月26日 ロイター】
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【反移民感情の受け皿となっている極右政党AfDが東部州の議会選挙で躍進】
特に旧東ドイツでは旧西ドイツ地域との経済格差が今もなお残っており、旧東ドイツ地域住民の不満を、移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げ、更には治安悪化を招いているとして「反移民」という形で吸い上げ、支持を広げてきたのが極右政党AfD「ドイツのための選択肢」です。

そのドイツ東部のテューリンゲン州とザクセン州で9月1日、州議会選が実施されましたが、予想されていたように極右政党AfD「ドイツのための選択肢」が躍進し、テューリンゲン州では第1党となっています。

*****反移民のAfDが第1党になったドイツ東部州議選 欧州での右派伸長、改めて鮮明に****
ドイツ東部2州で1日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、テューリンゲン州で移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第1党となった。同党が2013年の結党以来、州議会で第1党となるのは初めて。ザクセン州でも第1党に肉薄した。

選挙は来年9月の総選挙の前哨戦とみられており、惨敗したショルツ首相の中道左派、社会民主党(SPD)など連立与党3党は警戒を強めている。欧州での極右・右派の伸長が改めて鮮明となった。

独メディアが報じた暫定集計によると、テューリンゲン州でAfDは32・8%を得票し、前回選挙から9・4ポイント増。2位は国政最大野党の中道右派、キリスト教民主同盟(CDU)で23・6%。SPDは6・1%にとどまった。

ザクセン州ではCDUが得票率31・9%で首位を維持したが、2位のAfDは30・6%と僅差だった。

両州とも単独過半数に達する党はなく、今後は連立交渉が焦点。テューリンゲン州でAfDによる政権が発足する可能性は低いとみられている。

AfDは移民・難民の受け入れ反対を主張し、欧州連合(EU)にも批判的。ウクライナ侵略を続けるロシアへの制裁にも反対している。独当局は特にテューリンゲン州の党支部長、ヘッケ氏についてナチス・ドイツに近い思想を持つ「極右過激派」とみて警戒している。

テューリンゲン、ザクセン両州は1990年のドイツ統一以前の旧東ドイツに位置する。旧西ドイツ地域との経済格差はなお残り、AfDは近年、旧東ドイツ地域で住民の不満を吸い上げ、支持を広げてきた。22日には旧東独のブランデンブルク州で議会選があり、AfDは州議会第1党のSPDをしのぐ勢いを見せている。

欧州では6月のEU欧州議会選で極右・右派勢力が伸長。同月末のフランス下院選第1回投票では極右政党の国民連合が得票率で首位となった。【9月2日 産経】
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今回選挙はAfDがもともと強い地域での選挙であり、また、ナチスのイメージを彷彿とさせるAfDとの連立を他党は否定していますので、AfDは第1党になっても州政権の獲得はないと予想されていますが、それでも国政全体への影響は大きなものがあります。

****独首相、与党惨敗「苦い」 右派躍進、連立崩壊説も****
ドイツのショルツ首相は2日、ドイツ東部2州の1日の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党などに躍進し、国政与党が大敗したことを「苦い結果だ」と述べた。来年9月の総選挙を前に、連立政権の崩壊もささやかれている。

ショルツ首相はフェイスブックへの投稿で、2州では「極右団体」に認定されるAfDの躍進に「慣れてはいけない。経済を弱体化し、社会を分断する」と警鐘を鳴らし、支持拡大の阻止に取り組む考えを強調した。

地元メディアは与党の敗因を「寛容な移民政策やウクライナ支援の継続、環境保護政策への偏重にノーを突き付けた」と分析。【9月3日 共同】
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寛容な移民政策やウクライナ支援の継続、環境保護政策・・・連立与党が掲げてきたものであり、AfDが否定しているものです。

【欧州各国でも同様の右傾化】
反移民の世論、その受け皿としての極右政党の台頭はドイツだけでなく、欧州に共通する現象となっています。

****反移民、欧州で強まる右傾化 独仏英、結束に影****
ドイツ東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。欧州では、欧州議会選で欧州連合(EU)に批判的な極右や右派が議席を増やし、フランスや英国では極右や右派ポピュリスト政党が台頭するなど右傾化が強まる。特に欧州をけん引する大国に顕著な動きで、結束の弱体化が懸念される。
 
ドイツやフランス、英国で躍進した右派や極右政党は反移民を掲げる。移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げなどを招いたとする声も少なくなく、不満の受け皿となって支持を拡大した。

6〜7月のフランス国民議会総選挙では、反移民、反EUを掲げる極右「国民連合(RN)」が第3勢力にとどまったものの党史上最多の議席を獲得。

7月の英下院総選挙では、反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が二大政党に次ぐ得票率で初めて議席を獲得し、存在感を示した。

6月の欧州議会選でドイツやフランスの与党が大敗を喫する中、イタリアのメローニ首相率いる右派政党は伸長した。【9月2日 共同】
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欧州における右傾化はここ数年ずっと言われていることで、極右勢力はときに拡大したり、ときには思ったほど結果をだせず・・・といったことを繰り返しています。それは極右勢力への抵抗感もまた強いことを示してもいますが、そうしたことを繰り返しながら徐々に右傾化の裾野が広がっているようにも思えます。

【経済的にも苦境が続くドイツ 基幹産業自動車の中核メーカーVWが国内工場閉鎖を検討】
経済面で見ると、ドイツ連邦統計局が1月15日に発表した2023年のGDP統計の速報値によれば、ドイツと日本の経済規模(米ドル建て名目GDP)が2023年に逆転したとされています。

しかし、これはドイツ経済が好調なためではなく、ドイツの高インフレと円安ユーロ高によるもので、実質的な経済力を示す購買力平価で測ったGDPでは、引き続き日本が上位にあります。 

現実のところドイツ経済を取り巻く環境は厳しく、23年のマイナス成長に続き、2024年もドイツ経済の不調が続いています。

ドイツ経済の基幹産業と言えば自動車産業ということになりますが、欧州各国は安価な中国製EVの拡大に不安を感じています。EUは中国製EVに対し高関税をかけることを検討していますが、そうしたなかで中国依存が高いドイツ産業界は中国の報復を恐れ、中国製EV高関税に反対しています。

****脱炭素に踊らされたドイツの「悲惨すぎる末路」…国際競争力が地に落ち、産業の空洞化も深刻、過度な中国依存が裏目に****
(中略)
EUが温暖化防止のためとして、ガソリン車とディーゼル車の駆逐を宣言してから、すでに久しい。EU各国はEV車の普及に注力し、購入の際の補助金など、さまざまな政策を実施してきた。それどころか今では、35年からはガソリン車とディーゼル車の販売を禁止するという、まさに自由市場経済に逆らった荒技まで打ち出している。

しかし、EUがどんな飴と鞭を使ってもEV車は売れない。特にEU製のEVは高くて売れない。今ではたいていの政府で、補助金も尽きてしまった。だから、どうしても買わなければならないなら、当然、中国の安価なEV車が選ばれる。

そこで困ったEUが思いついた次の対策は、自分たちがもっと競争力のあるEV車を作ろうということではなく、中国のEV車へ関税をかけること。中国のEV車が安価であるのは中国政府からの不当な補助金のおかげであるから、制裁すべきという理屈だ。

景気が落ち込んでいるドイツの主原因
ただ、これまで中国市場の閉鎖性に抗議し、自由貿易を謳ってきたのはEUだった。しかもEV車の優遇策は中国に限らず、EU各国も同じだ。それでもEUは7月より、BYDに17.4%、Geely(吉利汽車)に20%、SAIC(上海汽車)に38.1%の関税を掛け始めた。

ちなみに、中国のEV車のせいで特に困っていたのが、ドイツのメーカー。ところが、中国EV車への課税に一番強く反対したのが、ドイツ政府だった。

なぜなら、もし、中国が怒って報復関税を掛けてくれば、中国市場に一番大きく依存しているドイツの自動車メーカーが最大の犠牲者となるからだ。

Statistaの今年の統計によると、20年、ドイツ製の乗用車の39.4%が中国向けだった(メーカー別では、フォルクスワーゲンが43%、ベンツが32%、BMWが33%)。この割合が昨年は34.3%にまで減少し、多くのメーカーが生産縮小を余儀なくされている。

これ以上縮小すれば、死活問題だ。つまり、今や、中国EV車への関税があってもなくても困っているのが、ドイツのメーカーと言える。

ドイツはすでに景気が落ち込んでいる。主原因は高すぎるエネルギー価格と、高すぎる税金と、肥大した官僚主義。膨大な書類の処理に時間を取られ、高い電気で高い製品を作って高い税金を払えば、当然、国際競争力は地に落ちる。

だから現在、誰もドイツに投資したがらず、それどころかエネルギー多消費企業が次々とドイツを後にし、産業の空洞化が深刻な問題だ。以前は、たとえ製造工程を外国に出しても、企業の頭脳である研究・開発部門は国内に残すと言われたが、今ではそれさえ外国に移している。

では、企業はどこへ行っているのか? 昨年はドイツ企業の中国への直接投資が、初めて1000億ユーロを超えた。これは、ドイツが国外で行っている直接投資の7.2%を占めるという。一部の政治家や評論家が、いくら中国の政治的リスクや人権問題を訴えても、ドイツ企業は今も中国市場を巨大なチャンスと見ているのだ。

ドイツにとって「脱中国」は夢のまた夢
たとえば世界一の化学コンツェルンであるBASFは100億ユーロを投資し、その生産拠点の多くをドイツから中国の湛江市に移した。これは、過去にドイツ企業が中国で行ったうち、最大の投資だという。また、70年代から中国に進出し、中国における西側老舗といえるフォルクスワーゲン社は、ドイツで計画していたEV車の製造を取りやめ、安徽省に25億ユーロで新工場を建設した。

要するに、ドイツにとっては脱中国など夢の夢。さらに言うなら中国には、レアメタルはもちろん、太陽光パネル、医薬品、ノートブック、また、自転車のフレームも、ベビーカーも、とにかくありとあらゆる物を売ってもらう必要もある。(後略)【8月10日 川口マーン恵美氏 現代ビジネス】
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「脱炭素に踊らせた」云々は保守派川口氏の見解です。

ドイツで計画していたEV車の製造を取りやめ、安徽省に25億ユーロで新工場を建設したフォルクスワーゲン社が、ドイツ国内の工場2カ所の閉鎖を検討していることが明らかになりました。実施されれば、国内初の閉鎖となります。

****フォルクスワーゲンがドイツ国内工場2カ所の閉鎖検討 EV車で厳しい開発競争に****
ドイツの大手自動車メーカー「フォルクスワーゲン」がドイツ国内の工場2カ所の閉鎖を検討していることが明らかになりました。実施されれば、国内初の閉鎖となります。

フォルクスワーゲンは2日、声明を発表し「情勢は非常に緊迫しており、単純なコストカットでは乗り越えられない」と厳しい経営状態を明らかにしました。

ロイター通信によりますと、ドイツ国内の車両工場と部品工場の2カ所の閉鎖を検討しているということです。

世界屈指の販売台数を誇るフォルクスワーゲンですが、近年は電気自動車開発などでより安価な中国勢との開発競争にさらされていて、経営合理化を目指し、2026年までに日本円でおよそ1兆6000億円のコスト削減を行うと発表していました。

今週中にも労働者側と話し合いの場がもたれる予定ですが、すでに労働組合が対決姿勢を示していて、波乱が予想されます。【9月3日 テレ朝news)】
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ドイツ国内で中国産EVに押されているというより、43%が中国向けというVWにあって、中国市場での不振が大きいとも想像されます。

これに関連し、米CNNは「VWの中国での業績不振は、中国の電気自動車(EV)メーカー、特に比亜迪(BYD)に負けていることによるもので、BYDは欧州におけるVWの事業にも脅威を与えている」と報じています。

【「脱原発」の一方で、高い電気代】
自動車を含めドイツ経済にとって足かせとなているのが高い電気・エネルギー価格。
緑の党を含め連立政権は「脱原発」を推進しています。

****国外逃避が止まらない…!「電気代が異常に高い」ドイツがいま陥っている「産業の空洞化」と「雇用の喪失」****
(中略)
脱原発は「歴史的業績」?
いずれにせよ、これ(原発の冷却塔破壊による不可逆的脱原発)により、ドイツはもはや電気の高騰と逼迫から抜け出せない。

元々、ドイツのエネルギー政策とは、メルケル時代より一貫して、1)原発を止め、2)CO2削減のために石炭火力も止め、3)再エネ100%に移行していく。そして、その繋ぎとして、4)安いロシアガスを使うという計画だった。 

ところが、(ウクライナ)戦争のせいで、その頼みの綱のロシアガスが、突然、途絶えてしまった。もっともガスを止めたのはロシアではなく、ドイツがロシアに「経済制裁」を掛けるとして輸入を減らしていったからだ。 

すると、まもなく誰かが、ロシアからドイツへ直結している海底パイプラインを爆破してくれた。

だから今のドイツは、原発と石炭火力だけでなく、ガスも足りなくなった。確実に増えているのは再エネだけだが、気まぐれな再エネは、いくら増えても電力の安定には繋がらなかった。(後略)【8月23日 川口マーン恵美氏 現代ビジネス】
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中国  中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催 変化するアフリカ向け融資

2024-09-03 23:47:08 | 中国

(中国の中国のアフリカ諸国向け融資 【9月3日 Bloomberg】 灰色部分はパンデミック期)

【4日から北京で中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催】
9月4日から北京で開催される中国・アフリカ協力フォーラムサミットに向けて、アフリカ各国首脳が続々と北京入りしています。

****中国・アフリカ協力フォーラムサミットが間もなく開催、各国首脳が続々と北京に到着****
2024年中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)サミットが4日から6日まで北京で開催されます。同サミットに出席する各国首脳が1日と2日に相次いで北京に到着しました。

南アフリカのラマポーザ大統領は2日、北京に到着しました。中国と南アフリカの貿易額は2023年、556億ドル(約8兆1300億円)に達し、中国は15年連続で南アフリカ最大の貿易相手国となり、南アフリカも14年連続でアフリカにおける中国最大の貿易相手国となっています。

赤道ギニアのオビアン・ンゲマ大統領は1日、北京に到着しました。同大統領が今年5月に中国を公式訪問した際、両国首脳は全面的な戦略的パートナーシップの構築を発表しました。

セーシェルのラムカラワン大統領は1日、北京に到着しました。中国とセーシェルの貿易額は2023年、前年同期比14.1%増の1億400万ドル(約152億円)に達しました。

コンゴ(DRC)のチセケディ大統領は1日、北京に到着しました。中国はコンゴにとって最大の貿易パートナーであり、最大の投資国です。

ジブチのゲレ大統領は2日、北京に到着しました。ジブチは中国・アフリカ協力フォーラム、中国・アラブ協力フォーラムのメンバーであり、「一帯一路」の共同建設に積極的に参加しています。

レソトのマテカネ首相は2日、北京に到着しました。中国が支援した太陽光発電プロジェクト、病院、道路プロジェクトなどはすべて竣工(しゅんこう)し、引き渡されました。

今回のサミットは2018年以来のもので、中国とアフリカ諸国ファミリーのもう一つの対面交流であり、中国で6年ぶりに開催される規模が最も大きく、外国指導者の出席者数が最も多い外交イベントでもあります。【9月2日 レコードチャイナ】
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中国・アフリカ協力フォーラムは2000年に創設され、3年ごとにアフリカと北京で交互に開催されています。

前回は2021年のコロナ禍のなか、セネガルの首都ダカールで閣僚会合が開催され、コロナ支援が中心議題となりました。また、初めての長期目標である「中国・アフリカ協力ビジョン2035」が採択されました。

どのくらいの参加国があるのか・・・気になりますが、何故か私が目にした中国メディアはそれについて触れていません。そういう数字が大好きな国のはずですが。

思ったほど増えなかった、あるいは前回から減少したのか、ドタキャンなどもあるので開催日にならないと確定しないのか・・・わかりません。

【毛沢東時代からの中国のアフリカ重視】
中国は毛沢東時代からアフリカ諸国との関係強化・開発支援を外交の柱として取り組んできました。単に革命の理念だけでなく、国連など国際社会においての中国支持を期待してのことでもありますが、そういう面では最近の国際政治における“グローバルサウス”重視の数歩先を行っていたとも言えます。

毛沢東の大躍進政策の失敗で、国内的には中国は1959年から1961年にかけて、1600万から2700万人とも言われる餓死者がでる状況でしたが・・・

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自分たちと同じように第2次大戦後に独立したアフリカ諸国に対する支援を、中国政府は「南南協力」と名づけた。

従来の開発途上国(南)に対する支援が、先進国(北)からの垂直型プロジェクトだったのに対して、中国は同じ開発途上国同士(南+南)の協力関係を提唱したのだ

今日の視点からは慧眼というべきだが、当時、独立直後の中国も国連非加盟(71年、中華民国に代わって代表権を得た)で世界の外交コミュニティからは外れたポジションにあった。【2022年8月23日 小林邦宏氏  President Online】
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【「一帯一路」で拡大したアフリカへの投融資】
近年の「一帯一路」の枠組みのなかでのアフリカとの関係について、中国メディアは以下のように自賛しています。

中国はアフリカ52ヶ国及びアフリカ連合(AU)と「一帯一路」共同建設協力に関する覚書に調印しています。

****中国企業のアフリカでの工事請負契約額、7千億ドル超す****
中国商務部の唐文弘(とう・ぶんこう)部長助理(次官補)は20日、国務院新聞(報道)弁公室の記者会見で、中国の各部門、各地方、各企業は交流と協力を深め、アフリカとの経済・貿易協力の推進で豊かな成果を得ていると語った。

中国とアフリカの貿易額は過去最高の更新を繰り返し、2023年は2821億ドル(1ドル=約146円)に上り、21年より11%近く増え、2年連続で記録を更新し、高い強靭(きょうじん)性を示した。中国と約半数のアフリカ諸国の貿易額は2桁以上の伸びとなり、貿易の高い活力を示した。

投資協力が着実に拡大した。中国の対アフリカ直接投資残高は23年末時点で400億ドルを超え、アフリカの主要な投資元国となった。中国企業は過去3年に、現地で110万人以上の雇用を創出したほか、農業、加工・製造、商業・貿易・物流などの業種をカバーする経済貿易協力区を建設し、千社以上の企業を呼び込み、現地の税収や収入の拡大、輸出による外貨獲得に大きく貢献している。

インフラ協力の効果が顕著である。アフリカは中国第2の海外工事請負市場となっている。中国企業の過去10年間のアフリカにおける工事請負契約額は合計7千億ドル以上、完成工事高は4千億ドル以上に上り、交通、エネルギー、電力、住宅、民生などの分野でプロジェクトを実施し、経済・社会の発展を大きく促した。

新興分野における協力の推進エネルギーが蓄積しつつある。中国は航空・宇宙分野で、アルジェリアやエチオピアなど向けに気象衛星や通信衛星を打ち上げた。

電子商取引(EC)分野ではアフリカと連携して「シルクロードEC」(「一帯一路」構想に基づくEC分野の国際協力推進に向けた取り組み)を拡大するとともに、アフリカ良品ネット通販フェスティバルを開催した。

ルワンダの駐中国大使が出席したライブコマースでは、同国産のコーヒー3千袋が瞬く間に完売した。中国のEC企業はケニア市場を深く開拓し、現地で1万人近い若者に雇用機会を創出している。

公衆衛生・健康分野では、中国企業がマリ、ウガンダ、カメルーンなどで医薬投資を行い、現地の医薬品へのアクセスを改善している。【8月23日 新華社】
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【従来のバラマキ型かた収益性重視に変化】
ここ数年は従来のバラマキの見直しに加え、新型コロナの影響もあってアフリカとの関係は数字上は縮小していましたが、昨年のアフリカ諸国向け融資は、2016年以来初めて年間で増加したとのこと。

****中国のアフリカ諸国向け融資、昨年は16年以来初の増加****
中国の昨年のアフリカ諸国向け融資(承認ベース)は総額46億1000万ドルと前年から3倍余りも急増し、2016年以来初めて年間で増加したことが、ボストン大学グローバル開発政策センターが29日公表した研究報告で明らかになった。

中国は習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」政策の下、アフリカ諸国向け融資が2012─18年に年間100億ドルを上回る水準を維持していたが、20年に新型コロナウイルスの感染拡大が始まると規模が縮小した。

報告によると、昨年の融資は半分強に相当する25億9000万ドルがアフリカ地域や各国の金融機関を対象としていた。「アフリカの金融機関に焦点を当てているのは、アフリカ諸国の債務問題に巻き込まれるのを避けるリスク軽減戦略である可能性が高い」という。

また、昨年は融資の10%が太陽光と水力発電の3つのプロジェクト向けとなっており、中国が融資対象を石炭火力発電から再生可能エネルギーへと切り替えようとしている様子も読み取れるという。

2000─23年の融資総額は1822億8000万ドルで、大半がエネルギー、運輸、ICT(情報通信技術)向けだった。【8月29日 ロイター】
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コロナパンデミックで大幅減少したのは間違いないですが、すでにパンデミック以前から減少傾向はあらわれていました。そのあたりの話はあとでまた取り上げます。

アフリカ支援で毛沢東以来の伝統を感じさせるものとしては・・・

****中国が掘った数千の井戸、アフリカ大陸を潤す****
西アフリカの玄関口と呼ばれるセネガルから東アフリカのケニア、「サイザル麻とライラックの国」タンザニアから「千の丘の国」ルワンダまで、中国はアフリカ各地で何千もの「幸福の井戸」を掘り、数百万人に安全な水を届け、希望に満ちた大陸を潤してきた。

習近平国家主席は2015年12月に開かれた中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)ヨハネスブルグサミットで、中国とアフリカが共同で「十大協力計画」を実施すると発表した。中国が長年にわたりアフリカの農村で続けてきた井戸掘削プロジェクトは、計画遂行に向けた重要な措置となっている。

幸福の井戸は人々の日常生活を改善し、生産と開発を力強く支えるとともに、中国とアフリカの実務協力を促進する役割を果たしており、共同発展に向けた協力の象徴でもある。【9月2日 新華社】
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前出記事で中国のアフリカ諸国向け融資が昨年は16年以来初の増加だったとありますが、基本的には最近の中国の対外融資は従来のバラマキ型から収益性を重視したものに変化してきています。

****中国、「ばらまき」から収益性重視か-曲がり角の対アフリカ融資****
中国の習近平国家主席がアフリカ各国の首脳を北京に今週迎える際、習氏はアフリカ側への貸し付け規模を縮小し、中国が引き換えに何を求めているのかをより明確に示すとみられる。つまり、リターンの向上とトラブルの減少だ。

アンゴラやジブチを含むアフリカ各国に対し、中国は10年以上にわたり巨大経済圏構想「一帯一路」を通じ1200億ドル(約17兆6000億円)を超える政府支援融資を投じ、アフリカ大陸全域に水力発電所や道路、鉄道を建設してきた。

こうした関係は、中国がエネルギーや鉱物へのアクセスを確保するのに役立つと同時に、国内にたまっていた生産・建設容量のはけ口を提供することにもなった。

しかし、こういったインフラ整備と外交には「債務のわな」や搾取、汚職といった批判がつきまとい、ここ数年、債務苦境の波がアフリカを襲い、3カ国がデフォルト(債務不履行)に陥り、長期にわたる再編が始まったことで、その非難はさらに強まった。

ケニアでの38億ドル規模の鉄道のように、未完成で何もない大地のまま終わるプロジェクトもあり、こうしたアフリカでの事業は一帯一路に絡む空約束を象徴しているかのようだ。

だが、そうした問題にもかかわらず、4日から始まる第9回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)に出席するため各国首脳が北京に続々と到着しているのは、中国がアフリカ大陸の経済において外国勢として支配的な役割を担っていることを浮き彫りにしている。

今回の会合にはナイジェリアのティヌブ大統領やルワンダのカガメ大統領、南アフリカ共和国のラマポーザ大統領らが参加する予定だ。

FOCACに向け、双方は中国の「ばらまき」型の政策によって築かれた緊密な関係が継続することを期待している。ただ、国内経済低迷への対応に追われる習氏は、対アフリカ支援の軸足をより間接的な官民パートナーシップにシフトさせようとしている。

ノートルダム大学で中国・アフリカ関係を研究しているジョシュア・アイゼンマン教授は「大口融資に沸き立った時代は終わった。次にやって来るのは、以前ほど大規模でも壮大でもないファイナンスだろう。より収益性の高いものになる」との見方を示した。

タンザン鉄道
ボストン大学のグローバル開発政策センターによると、中国の政策銀行を通じたアフリカへの貸し付けは、2000年の9870万ドルから爆発的に増加し、16年には最高額の288億ドルに達した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期には急減したが、昨年は46億ドルまで持ち直した。

この間、中国は商業銀行を通じても貸し付けを行ってきた。そのバランスは今後数年で、利益を生み出す融資に向け大きく傾きそうだ。

中国の新しいアプローチを代表するプロジェクトには、ギニアでの200億ドルの鉄鉱石鉱山・鉄道やウガンダとタンザニアでの50億ドルの石油パイプライン、軍事政権が「国を運営する」ために必要だというニジェールでの4億ドルの石油関連融資などがある。

ザンビア外務省は先週、ヒチレマ大統領が北京を訪れ、タンザニアとザンビアを結ぶ全長1160マイル(約1870キロメートル)の「タンザン鉄道」を活性化させる投資契約に調印すると発表した。

両国の当局者は、10億ドル規模のこの契約がどのような構成かについてほとんど語っていないが、官民パートナーシップに基づくものになると予想されている。

タンザン鉄道はもともと、中国が1970年代に資金を提供し建設。中国によるアフリカに対する初の主要支援プロジェクトの一部だった。

アフリカ各国が2000年代に中国を頼ったのは、アフリカ勢が切実に必要としていた大規模なインフラ整備のための資金を得る選択肢がほとんどなかったことが一因だ。世界銀行や国際通貨基金(IMF)などが課してきた環境や人権といった条件なしに融資が受けられることも、対中依存を強める結果となった。

しかし、膨れ上がった債務はすぐに各国の財政に打撃を与え始めた。中国が支援したプロジェクトの多くは期待に応えられず、パンデミックによって状況は一段と悪化。20年にザンビアがデフォルトに陥った危機をきっかけに、対アフリカ融資における中国の役割に新たな監視の目が向かった。

その後、ガーナもデフォルトし、他の十数カ国が高い債務リスクにさらされている。特にアンゴラは現在、対外債務の3分の1超える約170億ドルの借入金を中国に負っている。【9月3日 Bloomberg
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【現地権力者のニーズに対応する中国支援 「パンとサーカス」】
中国が1970年代に資金提供し建設した全長1860キロメートルのタンザン鉄道は、その後荒廃し、当初の計画から大幅に縮小し運営されています。

****国連の経済封鎖で窮地に陥ったタンザニアに手を差し伸べた中国****
タンザニアのダルエスサラームとザンビアのカプリムポシ間を「タンザン鉄道(タンザニア・ザンビア鉄道)」が走っている。

現在のタンザニア・ザンビア地域(ザンビアはかつての英領北ローデシア)が植民地支配から独立したのは60年代に入ってからのこと。北ローデシアは銅鉱石の産地で、植民地時代には南ローデシア(現ジンバブエ)を経由して南アフリカ共和国の港湾から輸出していた。
しかし65年、南ローデシアの自治政府が一方的に独立を宣言し、しかも当時の南アフリカ共和国と同様のアパルトヘイト(人種隔離政策)を実施するとしたために国連が南ローデシアを経済封鎖してしまったのだ。

こうなると、ザンビアは銅鉱石を輸出できなくなってしまう。南ローデシアを経由せずに、ザンビア産の銅鉱石をインド洋岸の港湾まで運ぶための新たな鉄道建設の必要性が一気に浮上してきたのだ。

このタイミングでタンザニアの初代大統領ジュリウス・ニエレレは中国を訪問した。そこで中国当局からタンザン鉄道の建設を提案され、70年に中国・タンザニア・ザンビアの3者間で契約が締結されたのである。それに先立つ67年からタンザニア・ザンビアの両国では社会主義化政策が進められていった。

両国の中国への恭順は、大統領をはじめとする政治指導者たちの服装にも表れていった。植民地時代からの旧宗主国の文化であるスーツ姿から、タンザニア・スーツと呼ばれる人民服風のものを着て公式の場に現れるようになったのだ。

4億ドル超の借款と2万人以上の中国人労働者を派遣
工事に際して中国はタンザニア・ザンビアの両国に合計4億320万ドルの借款を与え、約2万人の中国人労働者が現地に派遣されて、約3万人の現地人労働者とともに働いた。そして76年、中国は完成したタンザン鉄道をタンザニア・ザンビアの両国に引き渡す。これによって、両国は経済の屋台骨を支える資源・銅鉱石を輸出するルートを獲得したのである。

このケースは他のアフリカ諸国からも注目されたはずだ。国連の制裁は対南ローデシアであったが、それによって窮地に立たされたタンザニア・ザンビアを、中国が独自の支援で救った。アフリカで中国の存在感が一気に高まったのは間違いない。【2022年8月23日 小林邦宏氏  President Online】
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中国人労働者の人海戦術による鉄道建設の様子などを昔写真で見た記憶があるような・・・

上記記事は「アフリカの権力者がよだれを垂らして欲しがる」という鉄道建設とセットのスタジアム建設の話につながり、その理由は「パンとサーカス」 

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かつてのローマ帝国では、統治のための2大ツールとして「パンとサーカス」が掲げられていた。パンというのは、国民の腹を満たすこと。

中国からの支援による鉄道の建設・復旧で経済が活性化すれば国民の腹も満たされるはずだから、鉄道はパン。

そして、サーカスは娯楽を与えることだった。つまり、飢えをなくし、ストレス発散につながる娯楽を提供できれば、国民は多少の汚職があっても文句はいわない、という考えだ。【同上】
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中国の良くも悪くも現地政権のニーズに対応した支援の在り方を象徴する話です。現在ではアフリカの40以上の国々で、中国からの支援によって建設されたスタジアムが威容を誇っているそうですが、このスタジアム、抵抗運動などが起きると、抵抗者を集めての虐殺場所にも変わります。南米チリ・アジェンデ政権崩壊時のサッカー場のように。
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中朝関係  「消えた足形」や北朝鮮労働者問題など「不協和音」が目立つことも 

2024-09-02 23:21:21 | 東アジア
(かつてあった習近平氏と金正恩氏の足形 大連【8月3日 東京】)

【「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」に隠された中朝指導者の本音】
「唇亡歯寒」・・・・もし唇がないとしたら歯が寒いというたとえで、互いに助け合う関係にある一方がなくなると、他の一方の存在も危うくなることをいう。【イミダス】

朝鮮戦争を共に戦った北朝鮮と中国の関係は「唇歯相依の関係」あるいは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」とアピールされることもありますが、実際のところは、上から目線で北朝鮮に指図することが多い一方で、アメリカなどへの配慮から北朝鮮をないがしろにしがちな中国に対し、金正日にしても金正恩にしても北朝鮮指導者は好ましい感情は持っていないとは言われています。 

北朝鮮国内の住民学習会では「日本が100年の敵なら中国は1000年の敵だ」といった表現も使われるほどに北朝鮮当局の中国に対する警戒心は強いとも言われます。

中国からすれば、北朝鮮はいつも勝手なことばかりして中国の足を引っ張る面倒な存在・・ということにも。

【「消えた足形」 北朝鮮労働者の本国送還を中国が要求】
そうした本音はともかく表向きは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」ということで国際社会に対峙するというのが中朝関係です・・・・が、最近不協和音が表に出てくることもしばしば見られます。

最近北朝鮮がロシアに接近していることも影響しているとも。

****「嘘つき」発言に苛立つ習近平…「中朝友好の足形」を埋め、「金正恩」と8カ月間交流なし プーチンと北朝鮮との蜜月も一因か****
習近平中国国家主席と金正恩朝鮮労働党総書記、ロシアのプーチン大統領の三角関係に大きな変化が生じている。プーチン氏が金氏に約1億5千万円ものロシア製最高級車「アウルス」を2台も贈呈するなど両者は蜜月関係であるのに対して、習氏と金氏は今年元旦に新年の祝電交換以来、交流が途絶える一方、習・プーチン間では中国によるウクライナ戦争への消極的な対ロ支持をめぐり、すき間風が吹いている。【相馬勝/ジャーナリスト】
***
消えた中朝友好の「銅の足形」 習近平主席と金正恩総書記の不仲説も
習氏と金氏の不仲説がささやかれるようになったのは、ある出来事が表に出たことがきかっけだった。習氏と金氏が2018年5月に中国東北部の大連市で首脳会談を行った際、両首脳が景勝地の浜辺の道路を並んで歩いて歓談したことを記念した2人の「銅の足跡」がアスファルトで埋め戻されて消えていたのだ。

この大連での首脳会談は、金氏が18年3月、最高指導者就任後初めての外遊となった北京訪問からまだ2カ月も経っていないなか行われたもので、短期間での習氏との2回の首脳会談は習氏が金氏との関係を極めて重視していたことを示しており、「銅の足形」も中国側の提案で造られたものだ。

今年7月に韓国メディアが報じたところによると、付近の住民らは「銅の足形」が消されたのは地方政府当局者の指示で、昨年の秋ごろだったと証言しており、造られて5年以上も経過したあと壊れされたのは、昨年秋までに両者の関係に大きな亀裂が生じたことを暗示している。

金正恩氏「中国はうそつき」とポンペオ米国務長官に発言
それは何だったのか。昨年1月に出版されたマイク・ポンペオ前国務長官の回顧録にそのヒントが書かれていた。そのなかで、ポンペオ氏は18年3月に北朝鮮を極秘裏に訪問した際の金氏と会談内容を記している。

ポンペオ氏が「在韓米軍を撤退させれば金委員長が喜ぶと中国がアメリカにいつも話している」と伝えたところ、金氏は笑ってテーブルを叩きながら、「中国人は嘘つきだ」と述べた。

そして、金氏は「在韓米軍は中国の脅威から自分を守るために必要だ」と述べ、「中国が在韓米軍の撤退を望んでいる理由は、朝鮮半島をチベットや新疆のように扱いたいからだ」と語ったという。

この金氏の発言は習氏にとっては衝撃的だったことは容易に想像できる。「中国人は嘘つき」で、中国が朝鮮半島をチベット自治区や新疆ウイグル自治区のように弾圧するという内容の言葉を米国政府高官に訴えるのは尋常ではない。

習氏は金氏の本心を初めて知ったに違いない。だからこそ、5年以上も保存していた両者の友好の印を破壊させたのではないか。

しかも、金・ポンペオ会談は、初の習・金会談と近い時期に行われていることからも、習氏は金氏の偽善性を強く感じたに違いない。

「朝露軍事同盟」復活に警戒感
その後、習氏は今年の元旦には金氏に祝電を交換するが、習氏はバイデン米大統領とも祝電を交換しており、あくまでも儀礼的なものだ。

習・金両氏の首脳会談は19年6月に習氏が平壌を訪問して以来、実現していない。それは世界的な新型コロナウイルスの流行で北朝鮮が国境を閉鎖していたためともいえるが、流行の終息後、金氏は昨年9月にロシア極東部を訪問したほか、今年6月にはプーチン氏が平壌を訪問し、両者は9カ月間で2回も首脳会談を行っているのに比べて、この間、習・金両氏の首脳会談が1回も行われていないのは極めて不自然だ。

とくに、金氏は6月19日、平壌滞在中のプーチン氏と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、いわゆる「軍事同盟」を復活させた。プーチン、金両氏が軍事協力を公然と約し、万一、朝鮮半島で南北間の戦争が起きた場合、ロシアが北朝鮮を助けて軍事介入する可能性が浮上したのだ。

中朝条約の軍事介入条項は死文化したと言われるようになって久しいので、朝露間の新条約により、中朝露3国間の関係は中国に不利な形でバランスが崩れ、これが中国をさらにいら立たせているのは確実だ。

かつて中朝両国は「唇歯相依の関係」あるいは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」ともいわれてきたが、いまでは「唇歯の関係」は朝露両国関係であり、中朝関係は普通以下の関係になってしまった感がある。

北朝鮮労働者の中国派遣に「待った」
これを裏付けるように、韓国の中央日報は中国が7月上旬、北朝鮮に対して、中国内のすべての北朝鮮労働者の本国送還を要求したと報じた。

これを受けて、北朝鮮は中国で外貨を稼ぐ一部の情報技術労働者をロシアに移動させているともいう。

米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」も、北朝鮮が今年5月ごろから中国国内の北朝鮮大使館などの公館向けに一定年齢以上の労働者らの帰国を急ぐよう指示していたと伝えており、両国間で北朝鮮労働者をめぐる軋轢が生じているのはほぼ間違いないとみられる。

国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が3月に発表した報告書によると、北朝鮮は10万人の労働者を海外に送り出すことで、年間7億5,000万ドル(1ドル=約147.77円)から11億ドルを稼いでおり、出稼ぎは北朝鮮にとって極めて重要な外貨源だ。

そのうちの9割は中国に滞在しており、北朝鮮労働者の帰還強要は、習氏の金氏への揺さぶりの一種で、金氏のプーチンとの関係強化に対する不満表明と見てとれよう。

また、習氏はプーチン氏が決めたウクライナ侵攻に対しても、支持を公言するものの、金氏がロシアへの弾薬などの武器供与を積極的に行うなか、習氏は極めて消極的な姿勢を維持しており、習氏とプーチン氏との関係にも異変が生じているようだ。

中国の「洪水避難民救出」提案を拒否
このようななか、7月下旬に中国遼寧省丹東市と国境を接する北朝鮮平安南道新義州市で記録的な豪雨が発生し、鴨緑江の水位が上昇し、新義州の島々に住んでいた北朝鮮住民を中心に1千人以上が死亡する大災害が発生した。それは、実は金氏の判断ミスによる人災との指摘がなされている。

中国側は7月27日、鴨緑江の水位上昇で、下流の北朝鮮の水力発電ダムの水門を開く必要があることが明らかになったとして、北朝鮮側に洪水避難民の救出を申し出たという。

中国の丹東警察当局者は「(北朝鮮の)島の住民を安全に中国に移動させることができる」と語ったが、金氏は「島民が中国に行けば、その後、韓国に逃げてしまう」と語るとともに、「中国による救出や支援は拒否せよ。私が明日、現地に急行する」と指示。

北朝鮮当局はなすすべもなく、ダムの水門を開き、住民が犠牲になるのを見ているほかはなかったという。

金氏が翌28日朝、現地到着したころには多くの住民が流されて、犠牲者が激増してしまった。その失敗を挽回するため、金氏は被災地を回り、急造のテントや食料などの支援を指示し、自身も避難民の中に入り激励したものの、結果的に金氏の判断の遅れで、多くの犠牲者が出る事態となった。

これを糊塗し、住民の反発を招かないよう、金氏は避難民1万3千人を首都平壌に移送し、支援を続けることにしたのだが、いかにも後知恵だ。

北朝鮮では食糧の不足や思想統制強化で、「金王朝」に対する不満が高まっており、金氏自身も「王朝崩壊」への不安を捨てきれないようだ。

このところの中国との関係悪化やロシアとの関係強化も、結局のところ、金氏の中国への猜疑心のなせる業ともいえ、習氏は今後も金氏に悩まされそうだ。【8月23相馬勝氏 デイリー新潮】
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“習氏は金氏の本心を初めて知ったに違いない”・・・それはないでしょう。冒頭にも書いたように、中朝指導者が互いに相手を嫌っているのは昔からの話ですから。

ただ、そうした「本心」をあろうことかアメリカ高官に語り、しかも、それが回顧録として公にされたことに、習近平氏が「あの若造が・・・誰のおかげで「将軍様」でいられると思っているのか」と立腹したのは想像できるところです。

【その後も不協和音が ただし、北朝鮮をめぐる米中などの対応に影響してくるのかどうかは別問題かも】
「消えた足形」「北朝鮮労働者の本国送還」以外にも不協和音が。

****北朝鮮、無線巡り中国に異例反発 局設置計画「違反」と国連へ通告****
中国が北朝鮮との国境近くにFMラジオ放送などに使う無線局の設置を計画していることに対し、北朝鮮が国内の周波数に深刻な干渉を及ぼす恐れがあるとして反対していることが25日分かった。

北朝鮮は事前調整の要請がないとして、国連専門機関に国際規則違反だと通告した。複数の外交筋が明らかにした。中朝間の意見対立が表面化するのは異例。

中朝は今年、国交樹立75年の節目に当たるが、外交筋の間では関係冷え込みが指摘されており、今回の問題にも影響した可能性がある。中国が安全保障分野を含めてロシアに急接近する北朝鮮を快く思っていないとの見方もある。

国際的な周波数管理を担う国際電気通信連合(ITU、本部ジュネーブ)が6月に関係国に公表した情報などによると、中国は自国内に191の無線局の設置を計画している。

外交筋によると、北朝鮮はこのうち中国遼寧省丹東市など国境近くの17無線局を問題視。事前調整がなく、電波の利用方法などを定めた国際ルール「無線通信規則」に抵触すると7月にITUに指摘した。【8月25日 共同】
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****中朝、公用ビザ運用を厳格化 外交免除、北朝鮮側に不満か****
中国と北朝鮮が外交・公用ビザの相互免除制度の運用を厳格化したことが31日分かった。

これまで30日間の滞在期限の超過を黙認している可能性が指摘されていたが、超過に許可申請が必要とする規定を新設した協定が7月下旬に発効した。中国側が協定に言及する一方、北朝鮮メディアは触れておらず、北朝鮮側に不満があるとの見方が出ている。

中国内の北朝鮮人労働者を巡り、中国は滞在期限を守るよう原則的な対応を取っているとされ、厳しい姿勢が外交・公用ビザの免除制度にも反映された形だ。外交筋は、今回の協定が最近、中朝関係をぎくしゃくさせている要素の一つだと分析している。【8月31日 共同】
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こうした“ぎくしゃく”した中朝関係が、北朝鮮をめぐる米中などの対応に影響してくるのか・・・そこはわかりませんが、目立った変化はないかも。

中国にとって北朝鮮・金王朝の存在は、アメリカの影響力が中国国境に及ばないための緩衝地帯ですから、その維持のためには今後とも表面的には「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」がアピールされると思われます。
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中国・新疆ウイグル自治区でのウイグル族弾圧に関し、中国は米による「虚偽のストーリー」と一蹴

2024-09-01 22:36:09 | 中国

(国際大バザールの前を警戒する武装警察の車両=7月5日、中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市【7月5日 共同】
私事ながら、2005年カシュガルへの旅行の飛行機乗り継ぎで立ち寄ったウルムチの国際大バザール付近で、不注意から、パスポート、エアチケット、全所持金、クレジットカードなどが入ったバッグを置引きされてパニックに陥った・・・・そんな思い出もある場所です)

【2009年7月5日に起きた「ウルムチ暴動」 以後、中国政府は同化政策・監視を強化】
中国政府による中国新疆ウイグル自治区のウイグル族弾圧が厳しさを増し、国際的に大規模人権問題として意識され始めたのは、15年前の2009年7月5日に起きた「ウルムチ暴動」と呼ばれる事件がきっかけでした。

*****日本ウイグル協会「デモ参加者1万人が一晩で消えた」 ウルムチ暴動15年、中国を批判****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチで2009年に起きた大規模暴動から5日で15年となるのを前に、日本ウイグル協会は4日、東京都内で記者会見を開いた。

「ウイグル族による暴動」との表現は中国の一方的な発表に基づくものだとし、「中国は都合よく切り取った情報だけを公表し、事件の背景や不都合な事実を隠している」と批判した。

事件は09年7月5日、ウルムチ市内で発生。広東省の工場でウイグル族の工員が漢族に襲われて死亡した事件への抗議デモがきっかけとなり、一部が暴徒化して漢族や治安部隊と衝突。当局発表で197人が死亡、1700人以上が負傷した。

協会のレテプ・アフメット会長は「ウイグル人が中国人との共存は無理だと考えるようになった事件だ」と指摘。警察の無差別発砲や漢族の暴行があったとの証言や動画もあり、1万人規模にふくらんだデモの参加者が「『一晩で消えた』との証言も多い」と主張し、「実際の死者数は3千人超、行方不明者は1万人超とみられる」と訴えた。

中国政府は00年以降、自治区の学校でのウイグル語教育を順次廃止。アフメット氏は、当時、毎年10万人程度のウイグル族の若者が強制労働に従事させられ、不満が高まっていたことが事件の背景にあると紹介し、「事件の背景や当局の暴力を全く伝えず、悲惨な衝突に変えてしまった中国政府の責任は重い」と非難した。

事件後に逮捕され行方不明となった青年の事例も挙げた。「母親はメディアに問題提起後、国家機密を漏らした罪で逮捕された。国際社会は天安門事件には注目するが、この事件には無関心だ」と批判。

中国当局によるウイグル族への強制収容や強制労働など、西側諸国が現在批判している問題につながる事件だったとして、「国際社会は中国の一方的な情報をうのみにせず、私たちの小さな訴えに耳を傾けてほしい」と訴えた。【7月4日 産経】
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事件後、中国政府は同化政策を徹底し、監視社会を作り出していると言われてもいます。

****中国、ウイグル族の同化を加速 大規模暴動から15年、監視徹底****
中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市で少数民族ウイグル族による大規模暴動が起きてから5日で15年がたった。

習近平指導部は徹底した監視と取り締まりで治安を確保。脱イスラム教や中国語教育の強制でウイグル族の漢族社会への同化を加速させている。多くの住民は迫害を恐れ、不満を表すのも困難な状況だ。

指導部は経済振興が進んだと主張して統制を正当化。ただ欧米では人権抑圧を問題視する声が強い。ウイグル族に強制労働させているなどとの批判が絶えない。

2009年の暴動で激しい衝突があったウルムチ市の国際大バザールは、5日も武装警察などが厳重に警戒した。当局はモスク(イスラム教礼拝所)が共産党に不満を持つウイグル族の拠点になることを警戒。商店主は、10年代後半から「当局の圧力で大切な金曜日の集団礼拝に行けなくなった」と語った。

オーストラリアのシンクタンクは20年、ウイグル族など少数民族を収容する施設が自治区に380カ所以上あると報告。米国務省は21年、100万人以上が拘束されたと指摘した。【7月5日 共同】
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【中国との対立のなかでウイグル弾圧を非難するアメリカ】
アメリカはこうしたウイグル族弾圧を中国批判のカードとして使っているようにも見えます。

****米、中国のウイグル弾圧非難 信教理由、1年間で1万人収監*****
米国務省は26日、世界の信教の自由に関する2023年版報告書を発表した。中国政府がイスラム教徒の少数民族ウイグル族やチベット仏教徒らに対する弾圧を継続し、信教を理由に1年間で最大1万人以上を収監したと非難した。

ブリンケン国務長官は記者発表で、中国政府によるウイグル族への「ジェノサイド(民族大量虐殺)と人道に対する罪」を批判した。(後略)【6月27日 共同】
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*****米、新たに中国5社に輸入禁止措置 ウイグル強制労働関与で****
米政府は8日、新疆ウイグル自治区の少数民族の強制労働に関与し、人権を侵害しているとして、新たに中国企業5社からの輸入を禁止すると発表した。

ウイグル強制労働防止法に基づき、香港に拠点を置くレアアース・マグネシウム・テクノロジーグループ・ホールディングス(0601.HK), opens new tabとその親会社のセンチュリー・サンシャイン・グループ・ホールディングス(0509.HK), opens new tab、紫金鉱業グループ(601899.SS), opens new tabの子会社などが対象となる。

指定企業はこれで70社を超え、綿衣料品や自動車部品、ビニール床材、太陽光パネルなど扱う企業が含まれる。

これに対し、在ワシントン中国大使館の報道官は「いわゆる『新疆での強制労働』は反中国勢力が拡散したひどい嘘であり、米国の政治家が新疆を不安定化し、中国の発展を阻止するための道具に過ぎない」と反発。「中国は中国企業の正当かつ合法的な権利と利益を今後もしっかりと保護する」と述べた。【8月9日 ロイター】
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【中国はアメリカによる「虚偽のストーリー」と一蹴】
中国政府はアメリカなどが批判する「収容施設への隔離」とか「強制労働」といったものを否定し、アメリカなどによる「捏造」だとしています。

併せて、現地では中国政府指導のもとで経済発展著しく、多くの住民がその恩恵に浴しているとも。

*****米国、新疆へのデマ製造に自国納税者の数百万ドル浪費****
中国北西部の新疆ウイグル自治区がまたにぎやかな観光シーズンを迎えている。カシュガル市の旧市街やウルムチ市の大バザールなど海外でも知られる人気スポットには観光客がひしめき合っている。

2023年に人口2580万人の同自治区に国内外から訪れた観光客は延べ2億6500万人。観光収入は2967億元(1元=約21円)と、同年のハワイの倍に上った。

観光産業の活況は、新疆のエネルギッシュな社会・経済発展の一面にすぎない。そんな新疆について荒唐無稽なデマをばらまいている国がある。米国だ。だが自国納税者の公金を使って激しい中傷キャンペーンを繰り広げても、その発展を止めることはできない。

コリン・パウエル元米国務長官の首席補佐官だったローレンス・ウィルカーソン氏は18年の講演で、新疆ウイグル自治区を利用して中国の不安定化を図ることを示唆した。これはワシントンの陰謀を暴露するものと広く受け止められている。

新疆の人々にとってはあまりにとっぴな計画だが、ワシントンは近年、中国封じ込めのための新疆利用に明らかに力を入れている。その最初の陰謀の一つが、この地区への狂ったような中傷キャンペーンだ。

強制労働、少数民族の弾圧、さらにはジェノサイド(民族大量虐殺)。根も葉もない告発は笑いぐさにすぎない。だがワシントンは見え透いた目的のため、これらの虚偽のストーリーに毎年途方もない額の税金を費やしてきた。

例えば、主に米議会から資金提供を受けている全米民主主義基金(NED)は、反中分離主義のウイグル族組織を支援するために毎年数百万ドル(1ドル=約146円)を提供している。

NEDのウェブサイトによると、21年にウイグル族の「人権擁護」プロジェクトに提供した資金の総額は258万ドルに上る。それ以前の助成金の額を示したページは「準備中」とされ、22年と23年の助成金額はまだ公表されていない。NEDはこのサイトで「04年から20年までウイグル族団体に875万8300ドルの資金を提供した」とし、「ウイグル族団体を支援する唯一の機関である」と自称している。

米国の人々が支払わされているのは、デマ製造装置にかかる費用だけではない。いわゆる「ウイグル強制労働防止法」(UFLPA)などに基づく米国の根拠のない制裁によって生じた多くの商品の価格上昇による代償も、米国人納税者が負っているのだ。

例えば、中国製ソーラーパネルは米国製より20〜40%安い。だが残念なことに、米国は中国のソーラーパネル企業からの輸入を妨害し、輸入業者のコスト上昇を招くと同時に、再生可能エネルギーの目標達成に向けた自国の努力をより複雑なものにしている。

UFLPA事業者リストに掲載された企業は、衣料品、農業、多結晶シリコン、プラスチック、化学、電池、家電など幅広い分野に及んでおり、米国の製造業者や消費者への全体的な影響は広範囲に及ぶとみられる。

その一方で、米国の制裁が新疆の社会・経済の発展に深刻な打撃を与えているという証拠はない。

21年末に制定されたUFLPAが22年6月に発効してから初の通年データとなる23年の同地区の域内総生産(GDP)は前年比6.8%増え、1人当たり可処分所得は前年比7%増の2万8947元に達した。

多くの外国人ビデオブロガーが新疆の各地を旅して発信している通り、現地社会は繁栄しており、安定的で調和が取れ、ウイグル族やその他の少数民族を含む人々はより良い生活を送れるようになっている。

制裁の対象になった企業は、輸出規制で多少の逆風にさらされたものの持ちこたえ、倒産はしていない。これらの企業の製品は中国の広大な国内市場で消費されるか、別の国に輸出されている。米国市場を失うことは残念かもしれないが、致命的ではない。

ワシントンが新疆に対する高くつく中傷キャンペーンを続けても、より多くの米国の税金が無駄な事業に浪費されるだけだろう。【8月31日 新華社】
*******************

【中国主張の説得性を損ねる天安門事件等にかかる隠蔽体質】
世界ウイグル会議、日本ウイグル協会やアメリカの情報が真実で、中国の主張は事実を隠蔽する政治的プロパガンダに過ぎないと頭から決めつけるのも論理的ではないでしょう。

世界ウイグル会議、日本ウイグル協会の主張には、ややセンセーショナルな中国批判が含まれている可能性も。
アメリカの言う100万人以上が収容施設に拘束された云々も、個人的にはその数字に「本当だろうか?」という疑問も。

また、中国の言う経済成長の成果云々については、その利益を享受しているのは漢族とそれに繋がる一部ウイグル人だけで、多くのウイグル住民には及んでいないとされますが、本当にそうなのか、それも検証が必要でしょう。

ただ、中国は天安門事件についてその鎮圧の実態を隠蔽し、暴徒による暴動として封印しようという情報操作を行っていますので、ウイグルに関する主張についても、そういう隠蔽体質が疑われ、なかなかその主張を受け入れるのが難しいのも事実です。

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