孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  ゼレンスキー大統領のアメリカでの“もう一つの戦い”

2024-09-27 23:34:17 | 欧州情勢

(記者会見した米国のハリス副大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=ホワイトハウスで2024年9月26日【9月27日 毎日】)

【ロシアの電力インフラ攻撃でウクライナは今冬に過去最悪の電力不足も】
ウクライナではロシアに電力インフラを狙った攻撃が激しく、ウクライナは深刻な電力不足に直面しています。

****ウクライナ、今冬に過去最悪の電力不足も ロシアのインフラ攻撃で IEAが報告書****
国際エネルギー機関(IEA)は19日、ロシアの侵略に伴うミサイル攻撃などでウクライナの電力供給能力が危機的水準に達しており、今年冬に侵略開始後で最悪の電力不足が発生する恐れがあるとする報告書を公表した。IEAは電力不足を緩和するためには支援国によるウクライナの防空能力の強化や、修理部品の供給の迅速化などが必須だと指摘した。

IEAは、発電所や送電施設などを標的とした露軍のミサイルやドローン(無人機)攻撃でウクライナの電力インフラの損傷が進んでおり、電力供給能力は今年半ば時点で侵略前の約3分の1に低下していたと指摘。修理が追い付かず、今年夏は最大需要量12ギガワットに対して2ギガワット以上が不足したと報告した。停電も常態化し、1日に数時間しか電力供給が受けられていない地域もあるとした。

その上で、インフラの修理を進め、欧州からの電力輸入を続けた場合でも、今年冬は予測される最大需要量18・5ギガワットに対し、6ギガワット程度が不足する恐れがあると警告。「ウクライナはロシアの侵略後、2回の冬を乗り越えたが、今年冬は最も厳しい試練となることが予想される」とした。

国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)も19日、露軍の電力インフラ攻撃に関する報告書を公表。露軍が今年3月〜8月に計9回の大規模攻撃を行い、多数の電力インフラを破壊して市民生活に損害を与えたと指摘した。「ウクライナは今年冬、深刻な電力不足に直面する」とも予測。1日に最大18時間の停電が起きる恐れもあるとした。

民間人を危険にさらす電力インフラ攻撃について、ウクライナや欧米諸国は国際法違反だと非難。ロシアは電力インフラが軍事関連施設に当たると主張し、攻撃を正当化している。【9月19日 産経】
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****ウクライナのエネルギー不足深刻化の恐れ、G7が支援強化…ロシアの攻撃受け発電能力3分の1****
ロシアの侵略を受けているウクライナで、深刻なエネルギー不足が再び懸念されている。露軍が最近、ウクライナの発電所などへの攻撃を繰り返しているためだ。先進7か国(G7)などは23日、国連総会に合わせて米ニューヨークで開いた閣僚級会合で、エネルギー分野の支援強化を確認した。(中略)

会合後に発表された共同声明はエネルギー施設などへの攻撃について、「寒い冬の間、ウクライナの人々にとってきわめて重要な電力や暖房、水の確保を脅かすものだ」とロシアを強く非難した。エネルギー需要が増える冬に向け、支援の増強を国際社会に呼びかけた。(中略)

米政治専門紙ポリティコ欧州版は、ロシアが、ウクライナで稼働中の原子力発電所に電力を送る変電所を標的にしているとの見方を報じた。原発が運転を停止すれば電力不足の深刻化は必至で、ポリティコは「ウクライナの戦闘能力は低下し、経済は破綻し、和平交渉が始まったとしても立場は弱くなる」と指摘した。【9月24日 読売】
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原発頼みのウクライナにとって原発が止まると致命傷になります。ロシアにとっては原発そのものへの攻撃は大惨事につながるので難しいところですが(ウクライナはロシアが原発攻撃を計画していると主張していますが)、原発に電力を送る変電所を標的というのは「あり」でしょう。

戦争をしているのだから、「厳しい冬」、これまでと違う生活状況は当然だろう・・・というのはウクライナに対して厳し過ぎる言い方でしょうか。ただ、戦争をするかどうか、続けるかどうかは単に戦況だけでなく、そういう国民生活・経済がどうなるのかを含めて判断すべきことでしょう。

ロシアの電力インフラへの攻撃は続いています。

****ロシア、送電施設を攻撃 ウクライナ3カ所****
ウクライナのシュミハリ首相は26日、ロシア軍が前夜から南部ミコライウ州を含む3カ所の送電施設を攻撃したと発表した。被害程度は不明だが、シュミハリ氏は「電力供給停止の予定はなく、ロシアは目的を達成できなかった」と表明した。

ロシアによるインフラ攻撃が続き、ウクライナでは冬の電力不足の深刻化が懸念されている。訪米中のウクライナのゼレンスキー大統領は国連総会一般討論での演説などで、ロシアがウクライナの原発への攻撃を計画しているとの見方も示している。【9月27日 共同】
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前線付近の砲弾が飛んでくるなかで命がけの電力復旧作業を行う作業員は、ウクライナ市民にとっては「英雄」でもありますが、電力を届ける肝心の集落自体が攻撃で廃墟になってしまうという悲劇的な結末も。

****前線付近で命がけの電力復旧、作業員は「英雄」 ウクライナ****
ウクライナ東部ドネツク州のポクロウシク戦線までわずか数キロの集落で、ビタリー・アシネンコさんは同僚が電線工事を行う様子を不安げに見守っていた。 空は雲に覆われ、空気がしんとしている。「こんな天気だと、爆弾が飛んできても見えない」と話す。(中略)

自身のチームも軍部隊同様に「標的」にされるようになり、この地区で負傷した同僚もいるという。 数メートル上では、旧ソ連時代の高所作業車に乗った同僚が、砲弾の破片で断線した電線を急いでつなぎ合わせていた。

遠くで爆発音が鳴り響いた。「ロケット弾だ」。ビタリーさんは作業に戻った。

■今も残る人々のために
(中略)突然、砲弾が空気を切り裂いた。爆発の衝撃を受け、作業車のバスケットに入っていた作業員が身を縮めた。

「逃げろ! 早く!」と、ビタリーさんが叫んだ。作業員らは装甲車に飛び乗った。作業車はあわてて反転した。 次の日にまた戻ってくると、ビタリーさんは約束した。

だが、この日の作業は無駄になった。翌日、集落は廃虚と化していた。 【9月26日 AFP】
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【ゼレンスキー大統領 「終わりに近づいていると思う」「勝利計画」】
戦況についてはゼレンスキー大統領は強気姿勢を崩していません。

*****ゼレンスキー氏「東部でロシア軍の攻撃能力が低下」 戦況改善との認識示す****
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日のビデオ声明で、最激戦地の東部ドネツク州で「ロシア軍の攻撃能力を低下させることに成功した」と述べ、劣勢が続く戦況に一定の改善がみられるとの認識を示した。

露西部クルスク州への越境攻撃の結果、約4万人の露軍兵力を同州に引き付けられた上、多数の露軍兵を捕虜にしたとも表明。これらは戦争の見通しに「重要な要素」と指摘した。

ただ、ゼレンスキー氏は、露軍が全域の掌握を狙うドネツク州の小都市ポクロフスクとクラホベ方面で激戦が続いているとし、「戦況は(ウクライナ軍にとって)非常に厳しいままだ」と説明した。(後略)【9月20日 産経】
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東部戦線でロシアの激しい攻撃が報じられるなかで「本当だろうか?」という感もありますが、“大本営発表”ですので・・・。

****ロシアとの戦い「終わりに近づいていると思う」 ゼレンスキー大統領“ウクライナ強化”の重要性訴え****
ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカメディアの取材に対し、ロシアとの戦闘について「終わりに近づいていると思う」と述べるとともに、早急な支援強化の重要性を訴えました。

国連総会に出席するためアメリカを訪問中のゼレンスキー大統領はABCテレビの単独インタビューに応じ、「我々が思うよりも和平に近づいていると思う」「我々は戦争の終わりに近づいていると思う」と述べたということです。

また、アメリカのバイデン大統領に説明する、いわゆる「勝利計画」について、詳細は明らかにしなかったものの、「ウクライナを強化するものだ」「プーチンに戦争を止めさせることができるのは、強い立場に立つことだけだ」と述べたということです。

ゼレンスキー大統領は、ロシア領内を攻撃するために射程の長い兵器の使用を認めるようアメリカなどに訴えていて、ロシアとの和平交渉を有利に進めるためにも、こうした支援の重要性を指摘したものとみられます。【9月24日 RBS NEWS DIG】
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「終わりに近づいていると思う」・・・そうかな? 「勝利計画」・・・何それ?そんなものあるの? といった感じもしますが・・・

【ウクライナの今後を死活的に左右する米大統領選挙】
****ゼレンスキー大統領、「勝利計画」をバイデン氏に説明…ホワイトハウスで会談****
米国のバイデン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日、ワシントンのホワイトハウスで会談した。バイデン氏は追加の軍事支援を行う方針を伝え、支援国による首脳級会合を10月12日にドイツで開くと表明した。

米政府によると、追加軍事支援は総額約80億ドル(約1兆2000億円)規模となり、地対空ミサイルシステム「パトリオット」の追加供与などが含まれる。バイデン氏は会談で、「ウクライナが将来のロシアの侵略から国を守るために十分な能力を持てるようにしなければならない」と強調した。ゼレンスキー氏は「あなたの決意は我々が勝利するためにきわめて重要だ」と述べ、支援への謝意を伝えた。

ゼレンスキー氏は、ロシアの侵略終結に向けた「勝利計画」をバイデン氏に説明し、支持を求めた。内容は不明だが、両首脳は「計画の外交、経済、軍事面」について協議したという。両首脳は10月の支援国会合に合わせ、再び会談することで合意した。

米欧がウクライナに供与した長射程兵器の使用制限緩和についても協議したとみられるが、会談後の両政府による発表に言及はなかった。

ゼレンスキー氏は米大統領選の民主党候補のハリス副大統領、議会上下両院の超党派の議員団とも会談した。ゼレンスキー氏はハリス氏との会談で、「我々は米国と共にあることによってのみ、戦争に勝利し、公正な平和に近づくことができると信じている」と述べた。

一方、ゼレンスキー氏が27日、共和党大統領候補のトランプ前大統領とニューヨークで会談することが決まった。トランプ氏はウクライナ支援の継続に批判的な立場を示している。【9月27日 読売】
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ウクライナが求めている長射程兵器の使用制限緩和については“ワシントン・ポスト紙によると、米国製の長距離兵器によるロシア領内への攻撃容認を求めたが、バイデン氏は認めなかった。”【9月27日 共同】とのこと。

ウクライナにとって、11月の米大統領選挙でどちらが勝つのかは、死活的に重要な問題です。自身ではどうにもできないのはゼレンスキー大統領にとっては胃が痛くなるところでしょう。

****ウクライナの行方、米大統領選が左右 ハリス氏「支援は国益」 トランプ氏「停戦が利益」****
バイデン米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領との26日の会談で、支援継続の決意を表明した。米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領もバイデン氏の路線を踏襲する構え。

一方、27日にゼレンスキー氏と会談する共和党候補のトランプ前大統領は早期の停戦交渉を主張しており、両候補の姿勢は大きく異なる。大統領選の結果はウクライナの行方を左右する。

ハリス氏は26日、ゼレンスキー氏との会談を前に「ウクライナ支援は慈善事業でなく、米国の戦略的利益」だと述べた。

あえて「国益」を強調した背景には、大統領選を前にしたウクライナ支援をめぐる党派的な対立がある。米メリーランド大の最新の世論調査によると、支援継続への支持は民主党支持者で63%に上ったのに対し、共和党支持者では37%にとどまった。

バイデン氏は26日、米国製の長射程ミサイルによるロシア国内への攻撃を認めなかったと報じられたが、「ウクライナが勝つために必要な支援を行う」と述べ、従来より踏み込んで対露勝利が支援の目的だと言明した。同様の決意を示したハリス氏は「それどころかウクライナに領土の大部分を放棄するよう迫る者がいる」とも語った。

ハリス氏の発言は、ウクライナが戦場で優位に立つ前に交渉を急げば譲歩を強いられ、プーチン露大統領の思うつぼになるとの趣旨で、トランプ氏を念頭に置いている。ただ、ハリス氏は戦争終結の道筋に関し自らの構想を語っていない。

対照的にトランプ氏は一貫して、再選すればプーチン氏と速やかに交渉し停戦に導くと言明している。今月の討論会では司会者から「ウクライナの勝利は米国最大の利益と思うか否か」を問われ、「戦争終結が最大の利益」と断言。長引けば「第三次大戦を招く」と警告した。

トランプ氏に近い一部の専門家や議員は、支援の縮小や停止で浮いた予算を中国の台湾侵攻に対する抑止力強化にシフトすべきだと唱える。

トランプ氏は25日の集会で、ロシアとの交渉を拒否しているとゼレンスキー氏を非難したばかり。ゼレンスキー氏との会談で、約80億ドル(約1兆1560億円)の大型支援でゼレンスキー氏を迎えたバイデン、ハリス両氏に対抗して、どのような構想を伝えるか注目される。

一方、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマリア・スネゴバヤ上級研究員は「ウクライナの前線が崩壊し、露軍が首都に迫れば誰が大統領になろうと問題」と述べ、トランプ氏が再選しても、戦況次第で米国の関与が強化される可能性を示している。【9月27日 産経】
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【トランプ前大統領 辛辣なゼレンスキー批判 それでもゼレンスキー大統領としてはトランプ氏との関係構築も必要】
トランプ前大統領のゼレンスキー氏批判は辛辣です。

****トランプ氏がゼレンスキー大統領を「最高のセールスマン」と揶揄…ウクライナ支援「無駄使い」主張***
米共和党のトランプ前大統領は23日の演説で、ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について「最高のセールスマンだ。米国に来るたびに600億ドルを持ち帰る」と述べた。米国のウクライナ支援が「無駄使い」にあたるとの認識を改めて示したものだ。ペンシルベニア州インディアナでの集会で語った。

トランプ氏はウクライナへの支援を削減し、国内の移民対策などに予算を回すべきだと主張している。4月に約610億ドルのウクライナ支援予算が成立した際には、共和党議員らに圧力をかけて与野党合意を遅らせた。

トランプ氏は集会で、ゼレンスキー氏が支援をさらに引き出すため、米大統領選で民主党のハリス副大統領の勝利を強く望んでいると一方的に主張した。

一方、ゼレンスキー氏は米誌ニューヨーカー最新号のインタビューで、当選すれば「24時間以内」に侵略を終わらせるというトランプ氏の主張について、「トランプ氏は戦争を止める方法を知っていると思っているかもしれないが、本当は知らないと思う」と批判した。(後略)【9月24日 読売】

****トランプ氏、ゼレンスキー氏を非難「ディールを拒否」****
米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ前大統領は25日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーはロシアとの戦いを終結させるための「取引(ディール)」を拒否していると非難した。

トランプ氏はノースカロライナ州での選挙集会で「われわれは取引することを拒否する男、ゼレンスキーに何十億ドルも与え続けている」と発言。(後略)【9月26日 AFP】
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ただ、トランプ氏勝利も五分五分の確立でありうるため、ゼレンスキー大統領としてはトランプ氏との関係も作って置く必要があります。

ゼレンスキー大統領の「トランプ氏は戦争を止める方法を本当は知らない」といったトランプ批判で、一時は両者の会談は中止も報じられていましたが、結局は会談することになりました。

****トランプ前大統領がゼレンスキー大統領と会談することを明らかに ロシアとの取り引き「ディール」実現に自信****
アメリカのトランプ前大統領が、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談することを明らかにしました。トランプ氏は戦闘終結のためのロシアとの取り引きの実現に自信を見せています。

トランプ前大統領(米・ニューヨーク 26日)
「明日会うのを楽しみにしているが、彼とは意見が合わないだろう」

トランプ前大統領は、“27日にニューヨークでゼレンスキー大統領と会談する”と明らかにした上で、戦闘を終わらせるためのロシアとの取り引き=「ディール」の実現に自信を示しました。

トランプ前大統領
「プーチン大統領とゼレンスキー大統領とのディールを私はかなり早く作れると思います。(どんなディールですか?)どんなディールかは言いたくない」

一方、ホワイトハウスでゼレンスキー大統領と会談したハリス副大統領は、「アメリカにはウクライナの領土の大部分を放棄させようとしている人たちがいる。それは和平の提案ではなく降伏の提案だ」とトランプ氏を強く批判しました。【9月27日 TBS NEWS DIG】
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バイデン・ハリス氏には支援の継続・強化を求めつつ、プーチン寄りとされるトランプ氏とも一定の関係を維持しなければならない・・・ゼレンスキー大統領の“もう一つの戦い”です。
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