孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化

2023-12-08 23:28:18 | アフガン・パキスタン

(【12月7日 日経】左が駐中国大使に就いたビラル・カリミ氏と思われます)

【中国 タリバン暫定政権の大使受入れ 政権承認も視野に】
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが復権して2年以上が経過しています。
タリバンは、2年の節目にあたる8月には記念式典も開催しています。

****タリバン「米国追放」祝う 復権2年、治安改善を強調****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は15日、復権から2年を記念する式典を開いた。国営テレビが伝えた。

暫定政権のハナフィ第2副首相は演説で「アフガンに不安をもたらした米国などの侵略者を追放した」と主張、戦闘が終わり治安が改善したと強調した。暫定政権は米国に対する「ジハード(聖戦)勝利の日」として同日を祝日とした。

女性の教育や就労の制限を強める暫定政権を承認した国は一つもない。国民の貧困は深刻な状態で、治安面以外の統治は機能していないのが実態だ。首都カブールでは人権活動家が15日、政権に対する抗議デモを予定している。【8月15日 共同】
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一方、タリバンに抵抗する勢力は今月3日からオーストリア・ウィーンで会合を持っています。

****アフガン民主化の計画合意 ウィーンで反タリバン勢力****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権に対抗する「国民抵抗戦線」(NRF)など反タリバン勢力は3〜5日にオーストリアのウィーンで会合を開き、アフガン民主化に向けて結束して行動するための計画で合意した。多様な民族や異なる政治的立場を尊重する内容という。

反タリバン勢力がウィーンで会合を開くのは4月に続き3回目。北東部パンジシール州を中心に活動するNRFの指導者アフマド・マスード氏や崩壊した民主政権の閣僚、活動家ら約50人が参加した。少数民族や女性を含む政権樹立を求め、タリバンを交渉の席に着かせるため武装闘争が必要だと主張している。【12月6日 共同】
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アフガニスタン国内である程度の力を有しているのは、北東部パンジシール州を中心に活動するアフマド・マスード氏が率いるタジク人勢力ぐらいですが、“民主化に向けて結束して行動するための計画で合意”とは言うものの、具体的な道筋はほとんど描けていないのが実情でしょう。

タリバン支配が長期化して、目立った抵抗勢力の活動もない・・・ということになれば、“タリバン暫定政権を承認した国は一つもない”という現状も変化してきます。

タリバン承認の先鞭をつけそうなのが中国。

****中国、タリバン承認視野か 大使受け入れ、改革促す****
中国はアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が派遣した大使を世界で初めて受け入れた。タリバンを正統な政権として承認することを視野に入れているもようだ。

習近平指導部はアフガンの国際社会復帰を後押ししながら、暫定政権に「穏健な政策」を取るよう政治改革を促し、踏み込んだ対応を取った。

中国はタリバンの後ろ盾となり、2021年に米軍が撤退したアフガンで影響力を拡大する狙い。ただ、武力で政権を奪取し女子教育を認めないタリバン暫定政権を承認した国はなく、強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至だ。【12月6日 共同】
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中国外務省の汪文斌副報道局長は、5日の定例記者会見で「アフガンが国際社会から排除されるべきではない」としたうえで、タリバンへは「国際社会の期待に応え、穏健で慎重な内政・外交政策を進めるよう期待する」と述べています。

中国のアフガニスタンへの接近の目的はアフガニスタンの豊かな地下資源とも言われており、10月の「一帯一路フォーラム」にもタリバンを招待しています。

****タリバン、「一帯一路」フォーラム参加へ 中国との関係強化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、中国が17─18日に北京で開催する「一帯一路フォーラム」に参加する。中国との関係を強化する。アフガンの商業・産業省報道官がロイターに明らかにした。(中略)

今回の会議は、中国の習近平国家主席が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」の10周年に合わせて開かれる。

アフガン当局は2010年、国内に銅、金、リチウムなど推定1兆─3兆ドル相当の未開発鉱床があると述べたが、現在の推定価値は不明。

中国はアフガン東部の巨大な銅鉱山を開発する可能性について協議を進めている。
同報道官によると、アジジ氏はアフガン北部のワハーン回廊に中国への直結道路を建設する計画について中国との協議を継続する。

中国、タリバン、パキスタンの当局者は5月、一帯一路の対象にアフガンを加え、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)をアフガン国境まで拡大する意向を示している。

タリバン政権を正式に承認した国はないが、中国政府は先に、新たな駐アフガン大使を任命。タリバン暫定政権発足後に外国の大使が任命されたのは初めてだ。中国はアフガンの鉱山事業に投資している。【10月16日 ロイター】
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“強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至・・・”とは言え、かねてより欧米と対立している中国としては“今更”といったところもあるでしょう。 

ただ、経済状態がよくない中国としても、今この時期に欧米との軋轢を強めるのは得策ではないとの考えもあると思われますので、タリバン暫定政権承認まで至るのかどうかは不透明です。

****習近平氏がEU首脳と会談 「国際協調」の方向に舵を切る中国****
元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が12月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・習近平国家主席とEU首脳らとの会談について解説した。

中国の習近平国家主席がEU首脳らと会談
欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長は12月7日、中国の習近平国家主席と北京で会談した。イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を中国側へ正式に通知したことを踏まえ、習指導部は中国離れが広がらないようヨーロッパをつなぎ止めたい考えとみられる。

ヨーロッパとの関係修復も狙いか
飯田)11月には米中首脳会談もありました。そしてEU首脳との会談があり、最近の習主席は外交でいろいろ出てきますが、どんな狙いがあると分析しますか?

兼原)ヨーロッパは日米欧など、中国以外での経済が大きいのです。中国はこれを分断しないといけないので、一生懸命ヨーロッパを分断しようとしています。しかし、日米は離れないので、ヨーロッパを取りにいく。

ヨーロッパはどちらかと言うと経済の方に関心があるので、中国はそこに目をつけていますが、なかなかうまくいっていないと思います。

ヨーロッパ側もアメリカと切れるわけにはいきませんし、中国は独裁主義で人権侵害が激しい。経済は大事ですが、「どうなのかな」とヨーロッパは考え始めているのです。中国は弱いところを取りにいくので、東欧の小さい国から取っていく。(中略)

それがまた「分断しにきた」という話になり、ヨーロッパ側が怒ったのです。上手くいっていないので、それを修復する意味もあると思います。

国際協調の方に舵を切る中国
兼原)中国はいま経済がよくありません。ロックダウンをやりすぎたのです。(中略)

私たちも長い間正座していましたが、足が痛いと言いながらも立ち上がって元気になり、最近は物価も上がって消費が伸びているではないですか。

しかし、習近平さんはやりすぎて血が通わなくなり、壊死と言うと言いすぎですが、もはや血が通わないのです。消費が伸びなくなってしまった。だったら自由にすればいいのですが、習近平さんは自由にさせることが嫌いなので、半分締め付けながら進めるため、物価(指数)も0%からマイナスになっている。とにかく経済を何とかしたいのでしょうね。(中略)

最近は「一帯一路」もうまくいっていません。先日、首脳会合を開きましたが、以前は三十数ヵ国が来たのです。それが二十数ヵ国くらいに減ってしまった。ヨーロッパはハンガリーくらいで、イタリアもやめてしまいました。アフガニスタンのタリバンを呼ぶなど、「何をやっているのか」という感じです。(中略)

アメリカに対しても修復に入っているので、「いまは喧嘩するときではない」という方針なのだと思います。(後略)【12月8日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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【タリバン暫定政権とパキスタンの関係は悪化 パキスタン当局によるアフガニスタン不法滞在者強制送還には国連機関も批判】
一方、独自性を主張するタリバン暫定政権と、タリバンを育て、支えてきたパキスタンとの関係がギクシャクしていること、イスラム過激派のテロに手を焼くパキスタンがテロの温床となっていると考える国内アフガニスタン難民をアフガニスタンに強制送還していることは、これまでも取り上げてきました。


****凄まじい数のアフガン難民がパキスタンから強制送還される理由****

パキスタンから追い出され、アフガニスタンへの帰還を余儀なくされる人々

パキスタン政府は10月はじめ、不法滞在の外国人に対する規制を強め、強制送還を実施すると発表した。実際に11月1日から、国外退去に従わない人たちの逮捕・強制送還を始めている。

これに関して国連の人権当局は、「人権の大惨事」を防ぐために強制送還を避けるようパキスタン政府に訴えている。

不法滞在の移民の数は?
パキスタンによる今回の措置は「主にアフガニスタン移民をターゲットにしているとみられている」と米紙「ニューヨーク・タイムズ」は報じる。

同国には、長年にわたってアフガニスタンの人々を受け入れてきた歴史がある。カタールメディア「アルジャジーラ」はこう解説する。

「1970年代後半から1980年代にかけて、ソ連による侵攻を受け、数万人のアフガニスタン人がパキスタンに逃亡した。さらに9.11の同時多発テロ事件後、米国の攻撃を受けたことで、また多くのアフガニスタン人が流入した。そして2021年にタリバンが政権を握ると、60万から80万人のアフガニスタン人がパキスタンに到着したと考えられている」

パキスタン政府によれば、10月31日より以前、約400万人の外国人が国内にいた。そのうち約380万人がアフガニスタン人だったという。そして政府承認の滞在資格を得ているアフガニスタン人は、そのうち220万人。160万人以上が不法滞在扱いであり、なかにはパキスタン生まれで、アフガニスタンに行ったこともない人々もいる。

パキスタンの命じた出国期限は11月1日午前0時だった。以降、これまでに20万人以上のアフガン人がアフガニスタンに入国したと見られている。

なぜ強硬な姿勢をとるのか
今回の措置の背景には、パキスタン国内で武力攻撃が急増していることがある。これは「アフガニスタンの武装組織による戦闘員、そして移民のせいだ」とパキスタン政府は主張しているのだ。

「『不法』難民の国外追放が決定された10月3日、パキスタンのサルフラズ・ブグティ内相は、今年国内で起きた24件の自爆テロのうち、14件はアフガニスタン人によるものだと述べた」という。

関係悪化の原因のひとつとしてアルジャジーラが指摘しているのは、パキスタン・タリバン運動(TTP)と呼ばれる武装集団だ。

「2007年に設立されたTTPは、組織の目標について、イスラム法の強硬な解釈をパキスタンに浸透させることと述べている。このグループは1年前、パキスタン政府との停戦協定を破棄した後、数百件の致命的な攻撃をおこなったとして告発されていた」

パキスタン側は、このTTPとアフガニスタンのタリバン政権は繋がっていると考えているのだ。なお、アフガニスタンはこれを否定している。【11月11日 COURRiER Japon】
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当然ながら、タリバン弾圧を逃れてパキスタンに来たアフガニスタン人も多数存在しますので、このような者の強制送還は人権問題になります。

一方で、タリバン暫定政権側もパキスタンのこのような強制送還を批判しています。
“背景には、経済や雇用が悪化する中で多数の送還を受け入れれば、いっそう国内が混乱しかねないという懸念もありそうです。さらに、別の懸念も指摘されているんです。”【11月13日 NHK】

パキスタン同様に多くのアフガニスタン難民を受け入れてきたイランも強制送還措置をとっているようです。

****イランもアフガン人を強制退去させている****
「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」は、イランから帰国するアフガニスタン人も急増していると報じている。同国はパキスタンと同様の措置をとっているからだ。

「今年の8月だけで約4万6000人のアフガニスタン人がイランからアフガニスタンに自主的に帰国し、さらにその後、4万3000人が書類不備を理由に国外追放されている」という。そして「イラン政府は11月以降、臨時就労許可を持つアフガニスタン人の求職活動を禁止」している。

ラジオ・フリー・ヨーロッパによれば、イランも40年以上にわたってアフガニスタン人を受け入れてきた。その数は数百万人にのぼるが、イラン政府は、アフガニスタン人受け入れに対する「国際援助の不足にしばしば不満を抱いてきた」という。

2021年8月にタリバンが政権を掌握した際、国を出た360万人のアフガニスタン人のうち、70%以上がイランに入国している。【前出 COURRiER Japon】
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当然ながら難民問題を扱う国連の機関はこうした強制送還を批判しています

****アフガン強制送還は「命が失われるおそれ」UNHCRが見直し求める****
パキスタン政府が不法滞在しているアフガニスタン人を強制的に帰国させていることに対し、難民問題を扱う国連の機関が「多くの人命が失われるおそれがある」として、見直すよう強く求めました。

パキスタン政府は先月、テロ対策として不法滞在している170万人のアフガニスタン人に対し、今月1日までに国外に退去するよう命じたうえで、従わなければ強制送還すると警告していました。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所の担当者は21日、国外退去命令が出されてからパキスタン国内でアフガニスタン人に対する逮捕や拘束、強制送還などの件数が急激に増えていると指摘。

推計で37万人以上がアフガニスタンに帰国し、その大部分が女性や子どもなどの弱い立場の人々で、現地では最低気温が氷点下となっていることなどから、「適切な収容施設がなければ人命が失われるおそれがある」と警告しました。

そして、「アフガニスタンへの帰国はいかなる場合でも安全で自発的なものでなくてはならない」としたうえで、保護が必要な人々に適切な処置を行うようパキスタン政府に求めました。【11月23日 TBS NEWS DIG】
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タリバン暫定政権とパキスタンの不和は下記のようなニュースにも現れています。

****「ようこそ」の看板めぐり検問所一時閉鎖 パキスタン・アフガン国境****
パキスタン・アフガニスタン国境で最も通行量が多いトルカム 検問所が6日、「パキスタンへようこそ」と書かれた看板が原因で一時閉鎖された。

パキスタンとアフガニスタンの関係はここ数か月で一段と悪化している。パキスタンはイスラム主義組織タリバンが、アフガニスタンからパキスタンを攻撃する武装勢力について対策を講じていないと非難している。一方、タリバンはこの主張を否定している。

武装勢力による攻撃激化を受け、パキスタン政府は不法滞在しているアフガニスタン人に自主退去を促し、従わなければ強制送還を行うと発表。国連によると、10月以降40万人以上がアフガニスタンに帰国した。

帰国を選んだ人の多くは、交易の要所であるトルカム検問所を利用した。同検問所は今年、両国の緊張の高まりを受け、頻繁に閉鎖している。

両国とも、今回の一時閉鎖について互いを非難している。
パキスタン側の検問所の高官はAFPに、閉鎖は「パキスタン政府の強制送還方針に不満を持ったタリバン」によるもので、「看板の設置は口実にすぎない」と話した。この高官は匿名を希望した。

しかし、両国当局によると、パキスタン当局はその後、看板の撤去を命じた。(中略)

検問所があるナンガルハル州当局のクライシ・バドルーン氏によると、看板はパキスタンによって撤去された。また「協議の結果、パキスタンは新しい看板を設置しないことに合意した」とAFPに話した。

バドルーン氏は先に、パキスタンはこの看板を隠れみのにして、アフガニスタン側の領土を侵害する新たな検問所の設置をたくらんでいる疑いがあると主張していた。

歴代アフガニスタン政府は、英国支配時代に定められたパキスタンとの国境を認めていない。 【12月7日 AFP】
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「パキスタンへようこそ」という看板がなぜ問題になるのか・・・要領を得ない記事ですが、両国関係が悪化しているのは間違いないようです。

全くの想像ですが、パキスタン側には「これまでさんざん支援して、ここまで育ててやったのに。恩知らずめが!」という思い、タリバン側には「いつまでも上から目線でものを言ってくる。ウザい奴だ! アフガニスタンは自分たちが統治する国だ」という思いがあるのでしょう。

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