孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  若い世代で広がるパレスチナ支持 世代間の溝 一方で、根深いイスラム嫌悪も

2023-12-07 22:25:34 | アメリカ

(米マサチューセッツ大学アマースト校の学長オフィスの前で抗議デモを行う学生たち(10月)【12月1日 WSJ】)

【キャンパスを席巻するパレスチナを支持する抗議デモ 「抑圧者vs被抑圧者」という若者の世界観】
パレスチナ・ガザ地区におけるイスラエルとハマスの戦争、ガザ住民の惨状は、従来からイスラエル支持の立場にあるアメリカ社会にあっても、特に若い世代の「パレスチナ支持」拡大という形で大きな影響を与えており、従来どおりイスラエル支持の上の世代との溝を深めています。

その様相はベトナム戦争当時の若者の「反戦」、それに対する上の世代の反発をも連想させます。

****米大学でのガザ攻撃抗議 世代間の溝あらわ****
「抑圧者vs被抑圧者」という若者の世界観、上の世代と相いれず

3年前、米マサチューセッツ大学アマースト校に入学したエリン・マレンさん(21)は、新型コロナウイルス禍で疲弊し、政治デモに参加する意欲もなかった。だが先月、彼女は後ろ手に手錠をかけられ、アマーストの刑務所の拘置施設にいた。パレスチナ自治区ガザで起きた紛争への抗議活動で逮捕された57人の学生の1人だった。

マレンさんは白人で、カトリック教徒として育てられた両親を持ち、アッパーミドルクラス(上位中間層)が暮らすボストン郊外で大きくなった。彼女の政治的「覚醒」は――現在大学に通う同世代の大学生らとともに――ベトナム戦争以来見られなかった米大学キャンパスでの騒乱が急増する要因となっている。

パレスチナを支持する抗議デモの波はキャンパスを席巻し、緊張の高まりやデモに抗議する反対デモ、場合によっては暴力につながっている。ガザ紛争によって世代間の溝も露呈する格好となり、上の世代の米国人は抗議デモの規模と激しさに驚いている。

マレンさんなどパレスチナを支持する大学デモ参加者たちは、世界は抑圧される者と抑圧する者に分断されているという確固たる信念が、自分たちの行動主義の根底にあると話している。

彼らによると、この見解はさまざまな集団が経験する苦難に当てはまるという。例えば、低所得者世帯は立ち退きを迫られ、黒人や褐色人種は警察から残忍な扱いを受け、安全な避難場所を求める移民は国境で入国拒否される。現在の紛争で言えば、パレスチナ人は領土の支配権をイスラエルから奪還できずにいる。

「ガザは二者間の戦争ではない」とマレンさんは言う。「いま起きているのは抑圧者に対する被抑圧者の抵抗なのだ」

米国がテロリスト組織に指定するイスラム組織ハマスに対するデモ参加者の共感は、傍観者を時にあぜんとさせ、いら立たせる。ハーバード大学とハリスの世論調査によると、パレスチナ人の怒り・不満によってハマスの10月のイスラエル攻撃は正当化されたと考える人は18~24歳の米国人の約半数を占める。これに対し、65歳以上ではわずか9%だ。

パレスチナを支持するイベントの参加者には多様な学生団体が含まれる。自分たちの支持する大義とガザ地区のパレスチナ住民の窮状は直接関連づけられる、と彼らは主張する。

今月のある抗議イベントでは主催者の「占領に反対するペンシルベニア大学学生組織(PAO)」の呼びかけに対し、ペンシルベニア大の化石燃料企業への投資に反対する「フォッシル・フリー・ペン」、学内の警察取り締まりに反対する「ポリス・フリー・ペン」、「チャイナタウン保存のための学生組織(SPOC)」などが応じ、大学理事会の会議開催に合わせてデモを実施した。(中略)

世代間の変化
現在の大学生が小学校に入学したのは、火災訓練の代わりに銃乱射事件の訓練が始まり、親たちが2008年の景気後退に直面していた頃だ。成長するにつれ、気候変動危機が注目を集め、2016年にドナルド・トランプ氏が米大統領に選ばれたのを機に地域社会は二極化した。

コロナ下で学校が閉鎖され、黒人男性ジョージ・フロイドさん殺害事件後には抗議デモで街路が封鎖された。彼らはいま所得格差が過去最大級に広がった社会に出て行く準備をする中、高い比率で広がる不安やうつと闘っている。

ピュー・リサーチの2022年の世論調査によると、18~29歳の層で社会主義に賛成する人は約半数に上り、市場経済を支持する人の割合よりも多い。多くの人々は市場経済が彼らの直面する複合的な災難の原因だと考えている。(中略)

デモや公式声明の中で、(ハマスの)この攻撃を「武装蜂起」や「抵抗行動」と呼ぶデモ参加者もいる。だがそのような位置づけは特にユダヤ人指導者には許しがたいものだ。彼らは大学管理者に対し、こうした表現を反ユダヤ主義的だと非難するよう求めている。

キャンパス内でパレスチナの大義を支持する多くの人々は、公然と発言するのは気が引けると話す。嫌がらせを受けたり、反ユダヤ主義者と呼ばれたりすることを恐れるためだ。

ハーバード大やコロンビア大などでは、ハマスの攻撃に関してイスラエルを非難した学生の名前と顔を電光掲示板に表示したトラックがキャンパス周辺を走行した。多くの集会では、参加者に匿名性を守るマスクを着用し、写真を撮影せず、取材記者を避けるよう促している。

各大学の学長らは、言論の自由を擁護し、激怒する卒業生をなだめ、ユダヤ系やアラブ系の学生が嫌がらせを受けないようにすることの間でバランスに苦慮している。各大学はここ数週間、反ユダヤ主義の高まりに対処する諮問委員会やタスクフォース、研究センターの設置を相次ぎ発表している。

コロンビア大学では、イスラエルを支持する集会の宣伝ポスターをはがした女子学生に対し、抗議した男子学生が木製の棒で殴られた。テュレーン大学とマサチューセッツ大学では、パレスチナ支持者が抗議デモの最中にユダヤ人学生を殴打した。コーネル大学では、ユダヤ教の食事規定に従った食堂を銃撃すると脅した疑いで学生が起訴された。さらに全米各地の大学生が、ガザ地区でハマスの人質になっているイスラエル人のポスターを引き剝がしたり、落書きで汚したりしている。

「決して屈しない」
全米の抗議デモで目を引くテーマの一つは「入植者植民地主義」、すなわち入植者が先住民を追い出し、暴力的に帝国を建設することへの反対だ。シオニズム――ユダヤ人国家としてのイスラエルを支持すること――は、かつて欧州が米州大陸やアフリカを植民地化したのを現代に置き換えた形だと大学デモ参加者たちの多くは考えている。

「われわれは植民地支配者やその同調者に決して屈しない」。ジョージ・ワシントン大学の「パレスチナの正義のための学生組織」はインスタグラムのアカウントでこう述べた。「入植者の植民地は滅び、われらの土地は解放され、われわれは再び故郷に戻るだろう」

米大学ではアフリカ系米国人や女性・ジェンダー、中東などの研究分野で、かつて社会から取り残されていたコミュニティーの歴史や経験を学ぶ授業が増えている。人種的に多様化した学生層に対応するため、各大学では約50年前から、欧米の規範を超えた分野を取り扱う講座に注目し始めた。(中略)

冒頭のマサチューセッツ大学のマレンさんは、ハマス批判は多くの場合、パレスチナ運動の正当性を損なうために利用されると指摘。彼女は「関係する全ての人々に深い共感」を覚えるとし、10月7日の攻撃を容認はしないが、いわれのないものではなかったと語る。

イスラエルは、パレスチナ人を「(ガザという)屋根のない監獄、すなわち強制収容所」に閉じ込めることで、暴力のお膳立てをした、と彼女は言う。「メディアの描き方では、その状況が非常に理解しづらいが、実際にはかなり分かりやすい構図の紛争だ」(後略)【12月1日 WSJ】
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いつも言うように、国家としてのイスラエルの政策・行動への批判が「反ユダヤ主義」として括られ、タブー視されることには違和感を感じます。

ただ、アメリカ社会にあっては「イスラエル批判=反ユダヤ主義」というとらえ方が根強くあるようです。

【対応を迫られる大学当局】
上記記事にもあるように、ハーバード大学など多くの大学で、上の世代である卒業生からの学生のパレスチナ支持行動への激しい批判もあって(寄付金などに直結します)、学生の行動を封じ込めようとしています。

それでもイスラエル支持の米議会には不満なようで、大学学長が議会の公聴会で詰問されており、学長は学内での「反ユダヤ主義」拡大への懸念を表明しています。

****学内で反ユダヤ主義、劇的拡大 ハーバード大学長が議会で懸念****
米ハーバード大のゲイ学長は5日、下院教育労働委員会の公聴会で、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、学内で「反ユダヤ主義が劇的に拡大している」と懸念を示した。マサチューセッツ工科大(MIT)とペンシルベニア大の学長も出席し、同様の見解を示した。

ハーバード大ではハマスがイスラエルに奇襲を仕掛けた10月7日、学生団体が「責任は全面的にイスラエルにある」としてパレスチナへの抑圧的な政策を問題視する声明を発表。投資会社の経営者らが「関係した学生は雇用しない」として氏名の公表を大学側に求めるなど混乱が続いている。【12月6日 共同】
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ただ、ハーバード大学長が「表現の自由」にも一定に配慮する発言をしたことで、「反ユダヤ主義」を容認しているとの批判に曝されているとか。

****米ハーバード大学長、非難の矢面に 「反ユダヤ主義容認」発言受け****
米ハーバード大学のクローディン・ゲイ学長は5日、下院教育労働委員会の公聴会で、学内で反ユダヤ主義的な言動が拡大する中、言論の自由を優先する考えを示した。反ユダヤ主義を容認していると受け止められ、一部議員が辞任を要求するなど、非難の矢面に立たされている。
 
公聴会ではエリス・ステファニック議員(共和党)が、一部学生が新たなインティファーダ(反イスラエル闘争)を呼び掛けていることについて、「イスラエルおよび世界でユダヤ人に対するジェノサイド(大量殺害)」を扇動しているに等しいと指摘。ゲイ学長に、そうした言動は大学の行動規範に反しないかただした。

ゲイ学長はそれに対し「反対意見や、攻撃的な、もしくは憎悪に基づいた意見であっても、われわれは表現の自由に対するコミットメントを奉じている」と説明。ただし「いじめやハラスメント(嫌がらせ)、脅迫など、規範を侵害する発言についてはわれわれは行動を起こす」と述べた。

これを受けてステファニック議員は即時辞任を要求。上院のテッド・クルーズ上院議員(共和党)は「恥ずべき」発言だと批判した。

大学への寄付者らも、ゲイ学長に対し、より明示的なイスラエル支持と、親パレスチナの学生グループへの非難を打ち出すよう求めた。

こうした批判を受け、ゲイ学長は6日、SNSで、誤解があったとし、「ユダヤ人社会もしくは特定の宗教・人種グループへの暴力やジェノサイドを呼び掛けることは卑劣な行為であり、ハーバードに居場所はない。本学のユダヤ人学生を脅す者には責任を取ってもらう」と述べた。 【12月7日 AFP】AFPBB News
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【「自由」「民主主義」のリベラルなイメージとは異なるアメリカの保守的な価値観】
こうした「パレスチナ支持」「反イスラエル」といった「異論」への徹底した嫌悪・封じ込めを求める動きというのは、近年のアメリカ社会の中絶規制、反移民の強硬策、教育現場でのLGBTや人種に言及する本の「禁書」扱いなどと相まって、アメリカ社会のコア部分に存在する極めて保守的な価値観を改めて感じます。

考えてみれば、黒人差別をなくすための公民権法が成立したのがわずか60年ほど前の1964年で、それまでは人種差別が許容されていた社会でもありますから、「自由」「民主主義」のリベラルなイメージとは異なる保守的な価値観が根深く存在するのも当然のことかも。

そうした価値観・感情は短期的には「トランプ政治」で盛り上がりを見せていますが、長期的には非白人が増加するなかで次第に追い詰められていくことにも。その時、追い詰められた側の危機感が何を起こすのか・・・議会襲撃のような「茶番」ではすまないものも・・・・ドラマ「侍女の物語」が描くような暴力的な力によって支配される超保守的・差別的社会も全くの絵空事ではないのかも・・・。

アメリカの場合、通常時に州知事の指揮下で治安維持(暴動鎮圧)や災害救援などにあたる州兵が存在(陸軍だけでなく空軍も 最大規模はテキサス州の2万1000人 小国の国軍並みです)しますので、クーデターや内戦の可能性も否定できません。議会襲撃事件では暴徒鎮圧で動員されましたが、逆の立場で関与する可能性も・・・。

【根深いイスラム嫌悪も表面化】
若い世代を中心としたパレスチナ支持(上の世代が言うところの「反ユダヤ主義」)が広がる一方で、根深い反イスラム感情、「イスラム嫌悪」もまた表面化しています。

****6歳少年がイスラム教徒だとして刺され死亡、憎悪犯罪で家主起訴 アメリカ****
米イリノイ州で14日、イスラム教徒だという理由で6歳の少年が刃物で殺害されたほか、女性(32)がけがを負う事件があり、家主(71)が殺人とヘイトクライム(憎悪犯罪)などの罪で起訴された。被害者2人は親子とされる。
ジョセフ・ズーバ被告は、第1級殺人、第1級殺人未遂、ヘイトクライム、加重暴行の罪で起訴された。

ウィル郡保安官事務所は15日の声明で、パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が、今回の事件の背景にあると説明した。(後略)【10月16日 BBC】
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バイデン政権も“来年の大統領選に向けてアラブ系の支持をつなぎ止めたい”との思惑もあって、対応を。

****米国内の「イスラム嫌悪」に対抗する国家戦略策定へ バイデン政権****
ホワイトハウスはアメリカ国内の「イスラモフォビア=(イスラム嫌悪)」の広がりに対抗する国家戦略を策定すると発表しました。
シカゴ近郊で先月14日に、パレスチナ系の6歳の少年がイスラム教徒だという理由で、大家の男に刃物で殺害されるなど、アメリカではイスラエルとハマスの衝突以降、イスラム教徒を標的としたヘイトクライムへの懸念が高まっています。

ホワイトハウスは1日の声明で、バイデン政権としてアメリカにおける「イスラモフォビア=(イスラム嫌悪)」に対抗する初の国家戦略を策定するとし、誰もが安心して生活できる自由を確保すると強調しました。

アラブ系アメリカ人の間では、イスラエルへの支持を表明したバイデン大統領への不満が高まっていて、最新の調査ではバイデン氏の支持率が急落しています。

今回の国家戦略策定の背景には、来年の大統領選に向けてアラブ系の支持をつなぎ止めたいという思惑もうかがえます。【11月2日 テレ朝news】
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殺人にまで至るのは「病気」のなせるところでしょうが、もっと一般的なものの方が怖いかも。

****アメリカン航空、「パレスチナ」と書かれたトレーナーの乗客に「脱がなければ、警察に」と指示か****
アメリカン航空は、「パレスチナ」と書かれたトレーナーを着ていた乗客に対して、客室乗務員が「脱がなければ警察に通報する」といった趣旨の話をしたとされる事案について現在調査中と発表した。(中略)

X(旧Twitter)での投稿によると、この出来事は11月28日、アメリカ・ニューヨークからアリゾナ州フェニックスへの午後12時59分のフライトで起こったという。そこで客室乗務員は乗客のトレーナーが「政治的」で問題だと述べたという。(中略)

アメリカ・アラブ反差別委員会もアメリカン航空を非難し、この出来事は「差別的であるだけでなく、パレスチナ人とそのアイデンティティーに対する広い偏見に寄与している」との声明を発表した。

イスラエルとハマスとの紛争は、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症の脅威、ハラスメントや差別的犯罪の増加につながっている。(後略)【12月4日 HUFFPOST】
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