孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  対応が急務の経済活性化にとって「奥の手」の戸籍制度改善 しかし、その実現可能性は小さい

2023-12-18 23:38:27 | 中国

(中国 の戸籍謄本【2022年7月18日 レコードチャイナ】)

【改善の兆しが見られない不動産不況 地方政府財政も悪化 経済全体が低迷】
中国の不動産不況は未だ改善の様子は見られないようです。

****中国の新築住宅価格 主要都市の8割以上で下落 今年最多を更新****
不動産不況が続く中国で、11月の新築住宅価格指数が主要70都市の8割以上にあたる59の都市で、前の月と比べて下落しました。下落した都市の数としては今年最多を更新しています。

中国国家統計局の15日の発表によりますと、11月の新築住宅価格指数は首都の北京のほか、広州や深センなど、主要70都市のうち59都市で、10月と比べて下落しました。

新築住宅の価格指数が下落した都市の数は、前の月の発表と比べて3つ増え、今年最多を更新しています。9月と比べて指数が上昇したのは9都市で、2都市が横ばいでした。

また、中古住宅の価格指数は、横ばいだった杭州を除く69都市で、10月と比べて下落しています。

中国政府は住宅ローン金利や頭金比率の引き下げなど、不動産市場に対する支援策を進めていますが、依然として住宅購入を控える傾向が続いています。

一方、11月の消費動向を示す小売売上高は、去年の同じ月と比べて10.1%増加しました。去年の新型コロナウイルスの感染拡大で中国国内の消費が落ち込んだことの反動とみられています。【12月15日 】
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不動産市場の低迷は、土地使用権の売却収入を大きな柱にしていた地方政府財政を悪化させ、消費マインドも冷え込み、経済全体の低迷につながっています。

以前は「強気」が目立った中国社会も、経済低迷で様変わりの様相とも。

****中国「ゼロコロナ解除」から1年、帰国した日本人は皆「数年前までの自信満々の雰囲気はどこへ」と…数々の統計で浮かぶ苦境****

既にデフレ経済入りか
中国国家統計局が12月9日に発表した11月の消費者物価指数(CPI)は2カ月連続で前年比マイナスとなった。下落率は0.5%と、2020年11月以来、約3年ぶりの大きさだった。

雇用や所得への不安を抱える家計の財布のひもは固い。自動車などの耐久財が値下がりするとともに、航空チケット代などもマイナスに転じた。

家計の購買力を示すとされる「食品とエネルギーを除くコア指数」は0.6%の上昇にとどまった。新型コロナのパンデミック前は1%台半ばから後半の伸びだったが、このところ1%以下で推移している。

11月の生産者物価指数(PPI)も前年に比べて3.0%下落した。1年2カ月連続の低下で、マイナス幅は10月の2.6%から拡大した。

中国人民銀行は「長期的なデフレを生む要素はない」としているが、この傾向は来年以降も続くことが予測されている。

中国は既にデフレ経済入りしたと言っても過言ではない状況だ。デフレ化の元凶とも言える不動産市場には改善の兆しが見えてこない。

公務員になりたがる若者たち
引き金となった中国恒大集団の経営再建の目途は一向に立たない。関係者からは「この問題を先送りしている中国政府の姿勢がかえって景気低迷を長期化させる要因となる」との批判が高まっている。

不動産不況は、地方政府で働く公務員の懐に大打撃を与えている。

地方政府では、土地使用権の売却収入が収入の約4割を占めていた。この収入が激減したことで公務員への賃金未払いが常態化し、多くの都市では半年間も続いているという (12月4日付朝日新聞)。

だが、皮肉な現象も起きている。大卒でも4割が職に就けないとされる若者の間で、空前の公務員ブームが生まれているのだ。

11月26日に行われた国家公務員試験の共通科目筆記試験は、採用予定人数3万9600人に対して受験者数は303万3000人と、史上初めて300万人を突破した。競争倍率は約77倍である。

難関を突破すれば安定した生活が保障される時代は、もう終わった感も強い。だが、若者たちは「溺れる者 は藁をもすがる」気持ちなのだろう。

雇用市場におけるミスマッチもさらに悪化する可能性が高い。来年夏に卒業する大学生や大学院生は前年比21万人増の1179万人と、過去最多を更新する見通しだからだ。

「中国政府も経済の悪化を認識している」と市場
中国経済に対する海外の見方も厳しくなっている。 米大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは12月5日、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。地方政府や国有企業の過度な負債、不動産市場の低迷が中国経済を脅かしているというのがその理由だ。

中国政府は格付け機関の評価に攻撃的な発言を行うことが多かったが、今回の反応は抑制的だった。市場では「中国政府も経済の悪化を認識している」との声が上がっている。

習近平指導部はようやく重い腰を上げようとしている。 中国共産党中央政治局は12月8日、景気の安定化に向けた取り組みを強める考えを示した。

財政政策を強化する方針が示されたが、気になるのは、中長期の主要な経済政策の方針を決定するとされる第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の日程が示されなかったことだ。

不動産不況という目下の大問題についての方針が指導部の間でいまだに定まっていないからではないかとの不安が頭をよぎる。

あまりに大きいゼロコロナ政策の傷跡
約3年間続いたゼロコロナ政策が解除されてから、12月7日で1年が経った。 1年前は「これで経済はV字回復する」との期待が大いに高まったが、ゼロコロナ政策の傷跡はあまりに大きいと言わざるを得ない。

12月3日付英フィナンシャル・タイムズは、借金の返済ができず中国当局のブラックリストに載った人の数が、2020年初期の約570万人から大幅に増加し、過去最高の約854万人となったことを報じた。18歳から59歳の人たちが大多数を占めていることから、「景気回復の大きな足かせになる可能性が高い」という。

今年の出生数が900万人を割り込むなど、急速に進む少子高齢化も暗い影を投げかけている。

歯止めがかからない少子化により、中国各地では産婦人科や幼稚園などが相次いで閉鎖されているとの噂が後を絶たない。メンタルをやられている若者も多く、中国のうつ病患者の3割は18歳以下が占めるという(11月20日・10月13日付Record China)。

数年前までの「自信満々の中国」はどこに
一方、農村部では、高齢者の半数超が独居または夫婦のみで生活しており、日本と同様「老老介護」が当たり前になりつつある(11月6日付東洋経済オンライン)。 認知症患者は既に1500万人に上ると言われている(12月3日付東京新聞)。

最近、中国を訪問した日本人から「数年前までの自信満々の雰囲気はどこに行ってしまったのか」との感想を聞くことが多くなった。

中国社会から活気が消えている。これは、そのうち中国にも長い「失われた時代」が到来することの証左なのではないだろうか。【12月13日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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地方政府の財政悪化によって、地方政府債務が持続不可能な水準になっており、破綻すると国内銀行システムに深刻な打撃を与えかねない「金融時限爆弾」にもなっている・・・という話もありますが、そこらの話はまた別機会で。

習近平政権も危機感を強めており、上記記事にもあるように、12月8日、景気の安定化に向けた取り組みを強める考えを示しています。

****中国 来年の経済政策「内需拡大」方針 「反腐敗」も強化 引き締め図る****
中国共産党は8日の会議で来年の経済政策を議論し、「内需の拡大」と「質の高い発展」を目指す方針を確認しました。

国営の新華社通信によりますと、中国共産党は8日に習近平国家主席が主宰する重要会議「中央政治局会議」を開きました。

このなかで習近平国家主席は安定的な経済成長を実現するために内需の拡大とともに、「質の高い発展」を目指す方針を示し、積極的な財政政策を継続することを確認しました。

会議では汚職を取り締まる「反腐敗闘争」を強化する方針も示されました。

秦剛・前外相や李尚福・前国防相が相次いで解任される中、党として引き締めを強める狙いとみられます。【12月8日 TBS NEWS DIG】
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「内需の拡大」というお題目はいいとして、具体策となると中央政府も苦しいところでしょう。もっとも、不動産不況を解消し、経済を活性化させる「奥の手」(「禁じ手」?)がない訳ではありません。

周知のように中国では、都市戸籍と農村戸籍に分かれており、農村戸籍の者は都市における住宅取得や経済活動が著しく制約されています。

この戸籍制度をなくしてしまえば、あるいは、容易に「都市戸籍」を入手できるようにすれば、農村から都市へ人々が流入し、住宅購入・経済活動も一気に拡大します。土地に住民が縛り付けられ、都市・農村に大きな格差が生じている社会の「歪み」も是正できます。

ただ、そうした都市への人口移動は都市の財政負担を重くするため、なかなかそこに踏み切れない・・という事情もあるようです。

****中国の矛盾示す戸籍制度、改革阻む社会不安の恐怖****
中国では、1950年代を起源とする戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。

中国中部の河南省で、ヤン・グアンさん(45)が一介の農民から外車を乗り回して2件の不動産を所有するビジネスマンへと飛躍できたのは、同国で誰もが欲しがる「都市戸籍」を入手したからだ。

河南省の省都、鄭州市に住むヤンさんは、医療や教育、ローンその他行政サービス給付が出生地と結びつき、農村から都市に移住するには許可申請手続きが必要な中国の戸籍制度(戸口)を、国家が全ての人民に牛の耳にあるような「識別票」を付けている、と表現する。

ヤンさんは「この識別票によって各人が享受できる権利にはさまざまな差が生まれ、果たすべき義務も違ってくる」と述べた。一般的に都市戸籍は、農村戸籍よりも経済発展に伴う多くの恩恵に浴することができる。

2000年代初め、鄭州市が住居を購入した人に対して、一時的に都市戸籍を付与する措置を打ち出すと、ヤンさんはその機会をとらえ、事業者登録をした上で同市全域に店を開いて、自らの運命を好転させたのだ。

1950年代を起源とするこの戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。

背景には、不動産市場の不況が続き、消費が低迷する中で、より多くの人々を都市に呼び込んで経済のてこ入れを図ることが焦眉の急になっているという事情がある。

中国公安省は8月、人口300万人までの都市の戸籍制度廃止と、人口300万─500万人の都市部での戸籍制度の大幅な制限緩和をすると宣言。浙江省と江蘇省は、新たな居住者に対してほぼ完全に門戸を開く計画を発表した。

ただ、中央政府の戸籍制度に関する議論に参加している2人の関係者はロイターに、改革は停滞しており、特に大都市では大きく局面が打開される公算は乏しいと明かした。

その裏側には、戸籍制度改革を巡る当局のジレンマが透けて見える。経済的な面からは改革に強い妥当性が認められる半面、社会の安定を損ねるのではないかとの懸念や、重い借金を背負う各都市にさらなる費用負担が加わる可能性が、改革を断固進めることに「二の足」を踏ませているからだ。

華夏新供給経済学研究院の創始者で、戸籍問題を含めて政府に政策助言を行っているジャー・カン氏は「戸籍改革はなかなか受け入れるのが難しい。単純に望ましいというだけで可能になる話ではない」と述べた。

ジャー氏によると、中央政府も地方政府も戸籍制度の制限緩和に反対ではないが、実行できるかどうかは各都市の予算と行政サービス能力に左右されるという。

複数の政策アドバイザーは、最大級の都市の場合は供給できる住宅が限られるし、環境汚染や渋滞に直面しており、それらがより多くの人口を吸収する上で制約になると説明した。

また、中小都市ならば新規住宅は有り余っているが、借金が膨れ上がっているので医療や介護、教育といったサービスを拡充する余裕はない。

2人目の政策アドバイザーは「中国の都市化は質的にはみすぼらしい」と自嘲した。

中国では過去40年間で起業のチャンスが広がり、交通インフラや住宅への投資が実施されたのに伴って、大半の都市の規模が劇的に拡大したものの、いわゆる都市化率は先進諸国の80─90%という水準をかなり下回っている。

現在、人口14億人のうち都市部に居住するのは約65%と2013年の55%から高まった。だが、都市戸籍取得者は48%で、実際の居住者とのかい離はずっと埋まらない。

中国の農村戸籍は土地使用権と結びついていて、農村から都市への出稼ぎ労働者が、特に経済が振るわない時期に都市戸籍を申請しようとしない原因とみられる。農村戸籍のままなら、都市で仕事が見つからなくても地元に戻って農業で暮らしていけるという、ある種の保険の役割を果たしているのがその理由だ。

共産主義の中国は、土地の私有は認められず、使用権を自由に売買することもできない。

2人目の政策アドバイザーは「土地制度の改革を前に進めなければならない。多くの土地が有効活用されていない」と提言したが、指導部は積極的に動いていないと付け加えた。

<消費抑える出稼ぎ労働者>
戸籍制度は、毛沢東政権時代の飢饉において、食糧配給と人民の出生地をひも付けし、飢えた農民が大挙して都市に流入するのを防ぐ目的で導入された。

この都市戸籍と農村戸籍を厳密に分ける仕組みにより、約3億人に上る出稼ぎ労働者の多くは、行政サービスを受けられる範囲が限られてしまう。

都市住民に比べれば医療費の還付額は少ないし、退職までの積立金でも雇い主からの拠出金は得られない。

結果として彼らは所得をより多く貯蓄に回し、マクロ的には当局が経済成長のより明確なけん引役になって欲しいと考えている家計消費が上向かない。

人民銀行(中央銀行)のアドバイザーの1人は、出稼ぎ労働者の消費額は都市戸籍取得者を23%ほど下回っており、中国の国内消費に換算すると国内総生産(GDP)の1.7%、2兆元(2810億ドル)を逸失している可能性があると推計する。

中国では、供給過剰に陥っている集合住宅の需要喚起も必要不可欠の課題だ。GDPの約25%を占める不動産市場は、民間デベロッパーの相次ぐデフォルト(債務不履行)で混乱が続いている。

ハーバード大学のマーティン・ワイト教授は、出稼ぎ労働者と都市住民の間での扱いがより公平になり、前者の雇用や福祉サービスの環境が上向き、住宅を買えるようになれば、不動産市場は相当程度改善すると予想した。

<天国と地獄>
ただ、中国指導部にとって、制御不能なほどの人数が都市に流入すれば、リスクをもたらしかねない。

2017年には、北京で出稼ぎ労働者の居住地域に火事が発生した後、市当局は都市戸籍を持たない人々を「追放」する取り組みに乗り出し、中国では珍しい政府への批判が高まった。

北京や上海、深セン、広州といった巨大都市は、社会の安定や調和の観点からこの先何年も、新たな人口流入に窓を開く「チャンスはない」とジャー氏は言い切る。

こうした中でビジネスマンへの転身に成功した鄭州市のヤンさんは、都市戸籍取得の前と後では生活が一変したと改めて振り返った。

当初は地方からの出稼ぎ労働者が暮らす地域で無許可の小さなコンビニを営み、警察の目を逃れて公園にわらを敷いて眠った夜も少なくなかったヤンさんだが、都市戸籍を得ると先行きが急に明るくなったという。

今や事業を拡大するとともに、都市戸籍取得者だけが許される二つ目の住居を購入。自家用車も手に入れて、活動的な社会生活を楽しんでいる。【12月10日 ロイター】
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戸籍制度の緩和は、コロナ前にひと頃話題になっていましたが、コロナによる移動禁止もあって最近はあまり耳にしません。

この中国の戸籍制度の問題は、昨日ブログで取り上げた欧米先進国の移民問題へのジレンマにも似ています。

生産活動の担い手としての移民労働は欲しいが、大量の移民流入で社会混乱が生じるのは困る・・・中国における都市へ流入する農民は、一種の移民みたいなものかも。

いずれにしても、中国経済は立て直しが必要とされていますが、欧米・日本なら「大いに議論して、解決策を・・・」となるところですが、中国は違います。

経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性があるという、いかにも中国政治の現実を示す話も。

****中国国家安全省 経済への批判的論評を処罰する可能性に言及 経済悪化の隠ぺいにつながるとの指摘も****
中国経済が減速するなか、中国政府は経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性を示唆しました。

スパイ行為の取り締まりなどを行う国家安全省はSNS上に「中国経済を貶めるさまざまな常とう句が次々に登場するが、その本質は『中国の衰退』といううその言説を作り上げ、中国の特色ある社会主義体制を攻撃し続けることにある」と投稿しました。

「国家安全保障を危うくする違法行為や犯罪行為を断固として取り締まり、処罰する」などとして、中国経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性に言及しました。

習近平指導部は今月11日から2日間、来年の経済政策の方針を決める「中央経済工作会議」を行い、そのなかで「世論の指導を強化し、中国経済の未来は明るいと宣伝しなくてはならない」と言及しています。

今回の措置はこの方針を受けたもので、中国経済が減速するなか、政府に対する批判的な意見を封じ込める狙いがあるものとみられます。

ただ、こうした措置は、経済悪化の事実を隠蔽することにつながりかねないという指摘や、言論空間のさらなる締め付け強化になるとの懸念が広がっています。【12月17日 TBS NEWS DIG】
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「中国経済の未来は明るいと宣伝しなくてはならない」・・・・新型コロナ感染流行初期、原因不明の肺炎とされていた頃にコロナウイルス感染の事実を発信したものの、「インターネット上で虚偽の内容を掲載した」として、2020年1月3日に訓戒処分を下され、その後自身もコロナ感染で死亡した李文亮医師に象徴される中国政治の隠蔽体質は、共産党一党支配の政治体制と不可分のものであり、決して改善しないもののようです。

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