孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ヨルダン川西岸地区で増加するユダヤ人入植者の暴力

2023-12-06 23:15:11 | パレスチナ

(ヨルダン川西岸でイスラエルの警察ともみ合うパレスチナの老人【12月5日 Newsweek】)

【ガザに注目が向いている状況で進む、西岸地区でのユダヤ人入植者の暴力・土地収奪】
パレスチナ・ガザ地区での惨状は連日多くが報じられていますが、パレスチナのもう一つのエリア、ヨルダン川西岸地区でもユダヤ人入植者による暴力が増加しています。

ハマスが実効支配するガザ地区に対し、ヨルダン川西岸地区はパレスチナ自治政府が統治する・・・ということになっていますが、(国際社会が国際法違反と批判するなかで)イスラエル政府の承認のもとでユダヤ人入植地が違法に拡大し、そのユダヤ人区域とパレスチナ人区域は壁で隔てられ、パレスチナ人区域は寸断される状況にもなっています。

また、西岸地区の多くの地域はイスラエル軍が警察権を持つ「B地区」(2000年時点で面積の23.8%)、行政権及び警察権を持つ「C地区」(60%以上)となっていて、自治政府の権限が及ばない地域が大半を占めています。(自治政府が行政権及び警察権を持つ「A地区」は17.2%)

“地区の面積は5,660km2だが、統治者によって3つの区分に分けられる。総人口は約380万人(2020年時点)であり、内訳はパレスチナ人が約309万人(81.2%)、ユダヤ人入植者が約71万人(18.8%)となっている。”【ウィキペディア】

このように西岸地区が入植地によって蚕食されている状況は、将来的なパレスチナ国家樹立にとって大きな問題となっています。

****ヨルダン川西岸で入植者急襲 村を追い出されるパレスチナ人****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にあるベドウィン(遊牧民)の村、ワディシークの住民約200人は、ヒツジやヤギを連れて徒歩で逃げた。1時間後、村には誰もいなくなった。

イスラエルとハマスの武力衝突が始まってから5日後の10月12日、イスラエル人数十人が押し寄せて、1時間以内に村から出ていくよう告げられたと住民の一人は話す。数十人の中には、入植者や兵士、警察官がいた。

住民の話によると、普段から村に対して嫌がらせをしていた入植者も交ざっていて、そのうちの何人かは軍服を着ていた。現場には、軍や警察の車両もあった。

AFPは、当時の状況についての取材を何度も求めたが、イスラエル軍からのコメントはまだない。(中略)

ワディシーク村は、西岸の主要都市ラマラから東に約10キロに位置する。現在は、十数家族と共に北方の村タイベに避難しているという村の指導者アブ・バシャールさんは、「襲撃に対する報復攻撃がわれわれに向けられている」と語った。

ガザでの武力衝突は、ヨルダン川西岸にも不穏な影響を及ぼしており、10月7日のハマスによる奇襲以降、イスラエル兵や入植者との衝突で110人以上が命を落としている。

1967年の第3次中東戦争で占領された西岸には約300万人のパレスチナ人が暮らす。域内にはイスラエル人入植地が各地に点在しており、入植者の数は49万人にも上る。しかし、本来これは国際法を破る行為だ。

衝突を機に、パレスチナ人への入植者による違法行為は2倍以上に急増している。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、脅迫、窃盗、襲撃など1日で平均3~8件発生している。

次に狙われるのは自分が暮らす村と不安を隠せない様子でAFPの取材に応じたのは、西岸のラマラとエリコの中間に位置する別のベドウィンの村に暮らすアリア・ムリハトさんだ。

「(夜は)安心して眠ることができない。悪夢のようだ」とし、「衝突が始まってから、入植者たちはより多くの武器を持つようになった」と訴える。

「入植者とイスラエル軍とによって、わたしたちは新たな『ナクバ』を経験している」
ナクバとは、アラビア語で災厄の意味を持つ。1948年のイスラエル建国宣言を受けての第1次中東戦争で、約76万人のパレスチナ人が追放された悲劇を指す。

OCHAによると、10月7日以降にヨルダン川西岸で避難を余儀なくされた人は607人に上っている。そのうちの半数以上は子どもだ。それ以前の避難者数は、1年半で1100人だった。

 ■「全てが破壊されていた」
1週間後、荷物を取りに行くためにワディシーク村への帰還が許された。村の指導者であるバシャールさんは「全てが破壊されていた。動物の餌もまき散らされていた」とAFPに説明した。

AFP取材班も、荒らされた家々を目の当たりにした。たんすは空っぽになり、子どもたちのベッドも破壊されていた。カーテンは引き裂かれ、紙くずやサンダル、おもちゃなどが床に散乱していた。

村内と周辺では、入植者が乗る車両がうろついていた。一部はイスラエルの旗を掲げていた。バシャールさんは「私たちを追い出して、土地を奪取するための長期的な計画だ。ガザでの衝突に注意が向いているうちに進めようと思ったのだろう」と話した。

イスラエルの人権活動家ガイ・ハーシュフェルドさんもバシャールさんと同じ見方を示す。「入植者はこの衝突を好機とみて、『C地域』からユダヤ人以外を全て追い出そうとしている」

ハーシュフェルドさんが言う「C地域」とは、イスラエル軍が全権を持つ被占領地を指し、西岸の60%に及ぶ。

実際のところ、入植者たちの行動はイスラエル社会でもあまり良くは思われていない。それでも、右派のベンヤミン・ネタニヤフ政権からは強力な支持が得られている。

西岸にはイスラエル兵が多数配置されているものの「軍は入植者による暴力に対しては介入しない」と、人道支援の調整を行うNGO「ヨルダン川西岸保護コンソーシアム」のアレグラ・パチェコ代表は話す。 「イスラエル兵の存在により、さらなる暴力行為につながることが多い」 【11月2日 AFP】
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****ヨルダン川西岸で激化する、イスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為...住民が語るその実態 “LEAVE OR DIE”****
<「私には未来が見えない。それでも自由主義世界の良心がこの状況を変え一筋の希望の光を見せてくれると信じ、どうにか私たちは生きている」イスラエルの人権擁護団体の職員は取材にこう語った>

パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘が続くなか、ヨルダン川西岸ではイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為が激しさを増している。

イスラエルの人権擁護団体ブツェレムの職員で西岸に住むナセル・ナワジャにスレート誌記者のアイマン・イスマイルが取材し、実態を聞いた。以下はナワジャの話をイスマイルが書き起こし、編集したものだ。
◇ ◇ ◇

イスラエル人入植者はまるで兵士だ。パレスチナ人への襲撃作戦を遂行しようと、軍服姿で家々に夜襲をかける。白昼堂々と来ることもある。私たちを殴り、暴力行為が記録されないようにスマホを取り上げ、踏みつぶし、金品を奪う。そして最後には決まってこう脅す。「24時間以内に出ていかなければ撃ち殺す」
彼らは既に6つの村から、全住民を力ずくで退去させた。

私は生まれたときから西岸C地区のスシヤ村で暮らしている。パレスチナ人の小さな村だ。世界の目がガザに向いているのをいいことに、入植者たちはテロと暴力でC地区を支配し、土地を乗っ取ろうとしている。彼らは逮捕されるべき犯罪者だが、今では彼らが法律と化している。

3年前から暴力は日に日に増えてきた。入植地の近くで暮らしていれば、乱暴な連中の顔は分かる。4日前の夜、彼らは私の近所の家を襲い、男の住人4人を銃で脅して外に追い立てた。そして家の所有者の頭にM16自動小銃を突き付け、「死にたくなければ出ていけ」と恫喝した。

これほど恐ろしい思いをするのは初めてだ。イスラエルの警察に助けを求めたが、今は戦時だから何もできないとあしらわれた。戦争が起きてから増えたのは確かだが、暴力自体はイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲を仕掛けた10月7日の前から存在していた。

10月16日、1人の入植者がブルドーザーで私たちの村に押し入り、その様子をイスラエル軍の兵士たちはただ見ていた。以来、村は完全に包囲されている。水も医療も物資もなく、薬も手に入らない。入植者が道路を封鎖しテロ行為を行うので、子供は学校にも行けない。

彼らは道路を破壊し、オリーブ畑の木々を根こそぎにし、井戸とソーラーパネルを壊した。こうした狼藉を働く入植者をイスラエル軍は保護し、警察は見て見ぬふりをする。

パレスチナ人の命は軽いから、反撃どころか抗議すらできない。文句を言えば、その場で撃たれる。数日前も近くの村である家が略奪に遭い、放火された。殺されたパレスチナ人も大勢いる。罪に問われないと分かっているから、入植者はこんなまねをするのだ。

私たちに逃げ場はない。パレスチナ自治政府は無力で、自分たちの領土でさえ入植者に手出しができない。(後略)
【12月5日 Newsweek】
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【“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”】
西岸地区におけるユダヤ人入植者の暴力増加は、ハマスの攻撃によって、“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”という状況が背景にあります。

****「テロリストと一般人を区別していない」ガザ以外のパレスチナ自治区で、イスラエル人入植者の暴力が増加****
(中略)イスラエル政府は、パレスチナ自治区に自国の市民を移住させるという 入植政策 をとっている。政府は、西岸地区に移住した入植者に対し、住宅や教育、イスラエル国内までの交通を提供している。

一方、パレスチナ人に対する政策は厳しい。国際社会の意見に反しイスラエルはその違法性を否定しているが、パレスチナ人の家や土地を奪い、道路の通行を禁止するほか、電気や水などのインフラを断つなど、生活が困難な環境に追い込んでいる。

壁の建設で進む分断
2002年から、イスラエルと西岸地区を隔てる巨大な分離壁が建設されている。
分離壁は、イスラエルと西岸地区の境界線を超えて、イスラエル人専用の道路や、入植者が暮らす土地とつながっており、パレスチナ人の村を飛び地状態に分断している。

国連人道問題調整事務所 によると、イスラエルとハマスの軍事衝突以降、西岸地区における入植者の暴力行為が倍増したという。

家を襲い放火…。入植者が集団で暴力、死者100人越えか
一部のイスラエル人入植者が、パレスチナ人の家を襲い、 破壊行為や放火 といった暴力行為をはたらく事態が相次いでいる。1000人ほどの入植者がガソリンを持って集まり、パレスチナ人の村を丸ごと 焼き払う 事件もあった。

入植者による1日あたりの暴力事件は、10月6日まで平均3件だったのに対し、ハマスが突如イスラエルを攻撃した10月7日以降、平均7件にまで増えている。

時事通信 によると、11月6日の時点で、イスラエル軍や入植者との衝突により、110人以上のパレスチナ人が命を落としている。

イスラエル人活動家の思い「支援はないに等しい」
アリク・アッシャーマンさんは、イスラエルと占領地の人権保護活動に取り組むイスラエルの団体「人権のためのラビ」の事務局長だ。

アルジャジーラ によると、ヨルダン川西岸地区に暮らすパレスチナ人のうち、8万〜10万世帯が、オリーブやオリーブオイルの生産を主な、あるいは二次的な収入源として暮らしている。

入植者による暴力は、オリーブ収穫期に増加する傾向にあるため、「人権のためのラビ」は収穫期にオリーブ園にパレスチナ農民と同行し、入植者から保護する活動に励んでいる。(中略)

「ハマスがイスラエルに対して行ったことについては、なんの言い訳も、説明も、正当化もできない」
「でも今や、一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない」

アッシャーマンさんは、28年間、活動に従事している。「消極的」だとは言うが、活動に賛同して支援してくれるイスラエル人も多くいたという。
「いまはもう、そういった人々はいなくなった。支援はないに等しい」【11月21日 BuzzFeed】
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【ようやくアメリカも批判 イスラエル政府も 実効性は疑問】
上記のような西岸地区におけるユダヤ人入植者の暴力に対し、イスラエルを支持するアメリカも“容認しない”との姿勢を見せています。

****米、入植者のビザ発給制限へ=西岸での襲撃容認せず****
ブリンケン米国務長官は5日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸で激化するパレスチナ人襲撃を巡り、関与したユダヤ人入植者に対し、ビザの発給を制限する方針を発表した。家族も対象となる可能性があり、バイデン政権として西岸での暴力を容認しない厳しい姿勢を示す狙いがある。

ブリンケン氏は声明で「西岸の市民へのあらゆる暴力行為の責任を追及し続ける」と強調した。対象者は「西岸の平和と安全、安定を損なう行為に関与したとみられる個人」で、暴力に加え、生活必需品の入手を不当に妨げる行為も含まれる。

パレスチナ当局によると、イスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した10月7日以降、西岸などで260人以上が死亡した。入植者の活動を監視する人権団体はロイター通信に対し、西岸での暴力事件の件数が今年、15年ぶりの高い水準を記録したと説明している。【12月6日 時事】
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もちろん、ビザの発給を制限だけでは何の効果もないでしょう。アメリカが本気で“容認しない”と言うなら、イスラエル政府に強く働きかける必要があります。

そうした何らかの働きかけがあったのか、イスラエル政府も一応形の上では・・・ 

****イスラエル国防相、ヨルダン川西岸入植者による暴力急増を非難****
イスラエルのガラント国防相は5日、ヨルダン川西岸地区のイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力を非難し、法治国家では武力を行使する権限があるのは警察と軍隊だけだと述べた。

ガラント氏は記者会見で、「悲しいことに、過激派による暴力事件が起きており、われわれはこれを非難しなければならない」と述べた。

ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人による入植地が拡大する中、ここ数カ月で暴力事件が急増している。【12月6日 ロイター】
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ガラント国防相はネタニヤフ首相が進める司法改革に反対し国防相を解任されかけた人物ですが、入植活動を推進する極右政治家も参加するネタニヤフ政権においてどこまで統一的なものとなっているのか、更に、実効性があるのか・・・わかりません。

【戦闘員1人につき民間人2人犠牲・・・「非常に良い比率だ」】
“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”ということでは、ガザ地区における多大なパレスチナ民間人の犠牲に対するイスラエル側の“鈍感さ”も同根でしょうか。

****戦闘員1人につき民間人2人犠牲…イスラエル軍「良い比率」 苦言も****
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、AFP通信は4日、1万6000人を超すパレスチナ側の死者のうち、ハマス戦闘員が約5000人に上ると報じた。民間人の死者は約1万人となり、計算上は戦闘員の2倍となっているが、イスラエル軍のコンリクス報道官はこの数字について「非常に良い比率だ」と答え、議論を呼んでいる。

コンリクス氏は4日放映された米CNNの番組で、「他の都市部で市民を人間の盾として使っているテロ組織と軍の紛争に比べれば、この比率はとても良く、世界で唯一だろう」と言明。この発言がテロ組織の戦闘員の殺害を優先し、民間人の犠牲をいとわないとも受け取られた。(中略)

コンリクス氏の発言を受け、国連事務総長のドゥジャリク報道官は5日の記者会見で「悪趣味だ」と評し、市民の犠牲を減らすという最優先事項が「成功しているとは言えない」と苦言を呈した。

コンリクス氏も5日になり、死者数は確定していないと述べ、自身の発言について「言葉をもっと選ぶべきだった」とCNNに釈明した。【12月6日 毎日】
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【イスラエル警察 ハマスの性暴力を報告】
イスラエル側の暴力だけを取り上げるのは片手落ちで不公平でしょうから、ハマス側の暴力についても。
ハマスは否定していますが・・・

****ハマス、イスラエル奇襲時の性暴力疑惑を否定****
イスラム組織ハマスは4日、10月7日のイスラエルへの越境攻撃の際に、同組織の戦闘員が民間人にレイプなどの性暴力を行ったとされる批判を「根拠のないうそ」として全面的に否定した。

イスラエル警察は、ハマス戦闘員がキブツ(生活共同体)や基地を襲撃した際、レイプから遺体損壊に至るまでの性暴力を行った証拠を集めたと発表した。

これに対しハマスは、「パレスチナのレジスタンスであるわれわれを極悪視するため、根拠のないうそや疑惑を広めるシオニストによるキャンペーン」の一環だと非難。イスラエルの女性団体や人権団体による主張についても、10月7日の戦闘開始以来イスラエルが繰り返している「うそ」の一つだと一蹴した。

イスラエルでは先週、警察幹部が議員らに対し、目撃者、医療従事者、病理学者から「衝撃的な証言1500件以上」を捜査当局が収集したと報告。

「少女らが上半身も下半身も衣服をはぎ取られたり」、若い女性が集団レイプされ、手足を切断されて殺害されたりという悲惨な目撃証言もあったと語った。

さらに、「性器や腹部、脚、臀部(でんぶ)」を負傷し、「乳房を切除」されるか、「銃創」を負っていたという証言もあり、初動要員は「両手を後ろ手に縛られ、陰部から血を流している女性の遺体」もあったと話していると述べた。

ハマス襲撃時のジェンダーに基づく暴力に関する調査委員会の委員長は先月、「10月7日に(ハマスに)レイプなどの性暴力を受けた被害者の大多数は殺害されており、証言は得られない」と述べた。(後略) 【12月5日 AFP】
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上記のハマスの性暴力に関する報告を受け、アメリカのバイデン大統領は5日、「ここ数週間、生存者や目撃者が想像を絶する残酷さの恐ろしい証言を共有している」と述べ、国際社会に対し、非難するよう呼びかけています。

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