孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  「アラブの春」の唯一の「成功例」が存続するのか、独裁の復活か

2021-12-19 21:50:54 | 北アフリカ
(民主化運動「アラブの春」のきっかけとなった若者の焼身自殺から11年となる17日に行われた、強権的な統治を強める大統領に抗議するデモ【12月18日 NHK】)

*****「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアで大統領が首相解任・議会停止****
「アラブの春」・・・北アフリカ・チュニジアの一都市の露天商の一人の若者が地方役人の理不尽な対応に抗議して焼身自殺したことに端を発する2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命は、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動として瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

しかし、その後の推移は周知のように、シリア・イエメン・リビアのように今も続く内戦の混乱をもたらすことになった国、エジプトのように混乱を経て強権支配政権に戻ってしまった国など、ほとんどの国で“失敗”に終わったとされています。

そうした“失敗”した「アラブの春」の中で、民主化を達成し、その後も維持しているとして、唯一の成功例とされているのが北アフリカ・チュニジアです。

チュニジアでは労働総連盟など4団体が与野党を仲介して民主化を軌道に乗せ、2014年成立の新憲法のもとで大統領選と議会選が2度ずつ行われました。4団体は「チュニジア国民対話カルテット」として15年にノーベル平和賞を受賞しています。
 
憲法学者だったサイード氏は無党派層に支えられて2019年に大統領に当選。一方、同年の議会選で第1党となった穏健イスラム政党ナハダは、メシシ氏の首相就任を支持しました。

しかし、“成功例”チュニジアの政治が、絶えない汚職、改善しない経済不況、更にコロナ禍のなかで今年7月以来危機に瀕しています。

外交・国防を指揮する大統領と内政を担う首相の間で政治の主導権をめぐる争いがあるとされていましたが、7月25日、サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止しました。
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サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止したのち、地質学者のブーデン氏を首相に任命し、初の女性首相が誕生しました。

****チュニジアで新内閣発足=初の女性首相****
チュニジアのサイード大統領は11日、ブーデン新首相率いる内閣を任命する大統領令に署名した。サイード氏は7月、反政府デモの拡大などによる「緊急事態」を名目にメシシ首相(当時)解任と議会停止を一方的に宣言。政府不在のまま大統領の権限拡大を図り、独裁的な強権姿勢に批判も強まっている。
 
同国初の女性首相となるブーデン氏は地質学者で、政治の要職に携わった経験に乏しい。既存政治の刷新を打ち出し国民の政治不信を払拭(ふっしょく)する狙いもあるとみられるが、手腕は未知数だ。同氏は汚職根絶と市民の生活改善に尽力する意向を表明。サイード氏も11日の演説で「困難な状況だが成功できる」と語った。【10月11日 時事】
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議会の停止・政界外の人物を首相指名ということで、実質的にサイード大統領のもとに政治権力が集中した形になっています。

11年前に打破したはずの「独裁」がまた復活したのか・・・・

****「アラブの春」きっかけの焼身自殺から11年 チュニジアでデモ****
北アフリカのチュニジアでは、民主化運動「アラブの春」のきっかけとなった若者の焼身自殺から11年となる17日、強権的な統治を強める大統領に抗議するデモが行われました。

デモが行われた12月17日は、チュニジアで11年前、路上で野菜を売っていた若者が警察の取り締まりに抗議して焼身自殺を図った日です。

これをきっかけに起きた民主化を求める市民の運動によって当時の政権が崩壊し、アラブ諸国に波及して「アラブの春」と呼ばれました。

チュニジアではその後、民主化が進みましたが、ことし7月、サイード大統領は経済の悪化や政治の混乱が続く国を立て直すためだとして、議会を停止し、強権的な統治を強めています。

この日、デモに参加した人たちは、大統領の措置が民主化の動きに逆行しているとして「自由を求める」などと訴えました。

市民の間で反発が広がる中、サイード大統領は、来年7月に憲法改正の是非を問う国民投票を実施した上で今の議会に代わる新たな議会の選挙を行う方針を示していますが、民主化のプロセスを再び軌道に乗せられるのか不透明な情勢です。【12月18日 NHK】
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上記記事にあるように、サイード大統領は、来年7月に憲法改正の是非を問う国民投票を実施した上で今の議会に代わる新たな議会の選挙を行う方針を示しています。

****チュニジア大統領、22年に国民投票と議会選実施表明 新憲法制定へ****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領は13日、来年7月に新憲法制定へ向けた国民投票、同12月に国民代表議会選挙をそれぞれ実施する方針をテレビ演説で明らかにした。ロイター通信が伝えた。
 
サイード氏は今年7月に議会を停止し、国家の全権を事実上掌握している。今後のロードマップを示した形だが、独裁的な統治の長期化に国内外の懸念が強まりそうだ。
 
演説での説明によると、来年1月からオンラインで公聴会を実施し、新憲法起草を目的とした専門家会議も設置。国民投票は7月25日に行うという。また、来年12月17日に予定する議会選まで現在の議会停止状態を維持するとした。
 
サイード氏は「我々は革命と歴史の道のりを正したい」と訴えた。アラブ諸国で数少ない独裁制から民主制への転換の成功例とされてきたチュニジアでの政治的後退に、欧米主要国からも危惧する声が出ている。【12月14日 毎日】
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チュニジアの迷走の背景には、独裁政権打倒でも一向によくならない、あるいはむしろ悪化している経済・失業の問題があります。

そして経済苦境の改善に議会・政府が有効に対処できていない現実があります。

そうはいっても、通常なら首相解任・議会停止の時点で「独裁」復活として国際的に批判されるところでしょう。今後1年間、議会停止が続くということなら、なおさら。

“チュニジアでの政治的後退に、欧米主要国からも危惧する声が出ている”のは、かなり抑制された反応のようにも思えます。欧米としても“「アラブの春」の唯一の成功例”を否定したくない・・・という空気があるのかも。

****経済失速、議会停止 チュニジアの「アラブの春」の末路*****
「アラブの春」の発端となった北アフリカのチュニジアは、唯一の民主化の成功例と見なされてきた。だが2020年の国民一人あたりの国内総生産(GDP)は11年の革命の前より2割近く低下し、国民の暮らし向きが良くなっているとは言い難い。

チュニジアは21年11月中旬、国際通貨基金(IMF)との借り入れ交渉を開始した。支援要請を受けたIMFは、チュニジア政府に対して、まず補助金および肥大化した公的部門の賃金の削減を実施するよう促している。
 
チュニジア経済は、新型コロナウイルス禍の後退と共に回復が期待されていた。しかし、11月下旬に発表された政府資料では、GDP成長率や財政赤字の対GDP比率、総債務の対GDP比率が軒並み悪化した。

同国の雇用相は11月15日の時点で、チュニジア最大の労働組合「チュニジア労働総同盟」(UGTT)との合意事項の履行を確約するなど余裕を見せていただけに、急激な方向転換となった。
 
経済の先行きが怪しくなるなか、政治面でも内政において芳しくない動きが顕在化し始めている。11月9日、第二の都市スファックスの沿岸地域のアグエレブ町で、埋め立て処分場の再開に抗議していたアブデル・ラゼリ・ラシェヘブさん(35歳)が治安部隊の催涙ガスで死亡する事件が発生した。その後、悪化するごみ危機を巡り、怒りの収まらない群衆と治安部隊との対立は拡大し、今日まで続いている。
 
チュニジアでは21年7月、大統領のサイード氏が首相の解任と議会の停止を行い、議会制民主主義からの逆行を印象付けた。

サイード氏は12月13日、国営テレビを通じた演説で総選挙を「来年12月」とし、それまでは議会が開かれないことになる。

議会を主導していたイスラム政党アンナハダは「クーデター」とサイード氏を非難しているが、アンナハダ政権下の経済苦境にコロナ禍も重なり政府批判の声が高まっていたこともあり、国民の中にはサイード氏の「独裁」を歓迎する声も少なくない。
 
また空席となった首相の座には、初の女性首相としてナジュラ・ブーデン・ラマダン氏がサイード氏により任命されていたが、10月には、テレビ番組にてこれを非難していた国会議員とジャーナリストが、国家の安全保障を犯そうとしたとの容疑で逮捕されている。11月末に彼らは釈放されたが、22年1月には公聴会が予定されているなど、完全な自由の身には程遠い。
 
「アラブの春」の唯一の民主主義が存続するのか、転機にある。【12月19日 WEDGE】
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コメント
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