(【1月4日 khb東日本放送】3日、エルサレム旧市街のイスラム教聖地ハラム・アッシャリフ(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)を訪問するイスラエルのベングビール国家治安相)
【「最も右寄り」とされるネタニヤフ政権発足】
イスラエルで極右勢力を取り込んだイスラエル史上対パレスチナ最強硬内閣がスタートする見込みであること、過去の武力闘争挫折を知らないパレスチナの若者らが新たな過激武装組織を結成していること、イスラエル・パレスチナ双方で過激な勢力が勢いを得て、対立が先鋭化する危険があることなどは、昨年12月3日ブログ“イスラエルでは最強硬内閣発足予定、パレスチナでは若者らが新たな過激組織 再び衝突の危険”でも取り上げました。
事態はそうした懸念を現実のものとする方向で進んでいます。
****イスラエル、ネタニヤフ政権発足へ 民族主義重視、入植地拡大を強調****
イスラエルの右派政党「リクード」党首のネタニヤフ元首相は29日、極右、宗教政党との連立政権を正式に発足させる。ネタニヤフ氏は2021年以来、約1年半ぶりの首相復帰となる。
イスラエルでのユダヤ人の優位性や国際法違反とされるユダヤ人入植地の拡大などを掲げ、民族主義を重視する政権となる見込みで、国際社会とのあつれきは避けられない。
リクードと極右、宗教政党は11月の総選挙で勝利した後、約2カ月にわたって連立のための政策協議を続けてきた。政権発足に先立ち、ネタニヤフ氏が28日に発表した「政権の方針」によると、人口の7割以上を占めるユダヤ人がイスラエルで独占的な権利を持つことや、占領を続けるヨルダン川西岸やゴラン高原などで入植地を拡大することを強調。
一方で、イスラエルの安全保障を維持しつつ、近隣地域や隣国との平和を促進し、格差の是正や貧困問題などに取り組むとした。
極右政党党首のベングビール氏は新設される「国家安全相」に就任。警察やヨルダン川西岸で活動する国境警察を管轄し、警察の政策に介入できる。ベングビール氏は、警察の銃の使用条件を緩和する意向を示しており、警察とパレスチナ人との衝突が激しくなる可能性がある。
別の極右政党党首であるスモトリッチ氏は財務相と副国防相を兼任し、ヨルダン川西岸の一部地域で入植地の建設に権限を持つ。
また、19年に汚職疑惑で起訴されたネタニヤフ氏は、裁判所の判決を国会で「無効化」できる法律の制定を検討。法相には司法「改革」に積極的な人物を据えた。
ネタニヤフ氏は新政権について、国際社会の懸念を振り払おうとしている。今月、サウジアラビア資本の衛星テレビ局「アルアラビーヤ」のインタビューで、極右政治家は選挙で勝利後、「穏健になっている」と強調。首相となるネタニヤフ氏が彼らの「かじ取りをする」と主張している。
また、20年にアラブ首長国連邦(UAE)などとの国交正常化を果たしているネタニヤフ氏は、次の目標を「サウジとの国交正常化」であると宣言。サウジと関係を回復すれば、イスラエルとパレスチナの和平も促進されるとの自説を展開している。
だがイスラム教スンニ派の「盟主」であるサウジは、イスラム教シーア派国家のイランに対抗するためイスラエルと水面下でやり取りしているものの、国交正常化のためには「パレスチナ問題の解決が先」との姿勢を崩していない。また、ヨルダン川西岸で入植地が拡大されれば、サウジなどのアラブ諸国の反発は避けられず、新政権の戦略は不透明だ。
パレスチナとの「2国家共存」を主張する欧米諸国との関係も見通せない。新政権はパレスチナとの交渉には消極的で、同盟国・米国は新政権を「政策で評価する」姿勢を示す。
対イランを巡っては、米国が核合意の復活を目指す一方、ネタニヤフ氏は強く反対。ネタニヤフ氏はイランの核開発が進んだ場合、米国への事前通告なしでイランを攻撃する可能性も示唆しており、米国は警戒を強めている。
ロシアによるウクライナ侵攻を巡っては、イスラエルは「中立」を保ちつつ、米国の圧力を受けてウクライナへの支援も一部実施してきた。だがネタニヤフ氏はプーチン露大統領との関係が良好で、今後の動きが注目される。【12月29日 毎日】
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【国連総会の本会議で、パレスチナ人らの権利侵害などについて国際司法裁判所(ICJ)に見解を示すよう求める決議採択】
こうした「最も右寄り」とされる対パレスチナ強硬政権の成立を懸念するアラブ諸国などの懸念を反映して、国連ではイスラエルのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区などへの占領政策をめぐり、国連総会の本会議で、パレスチナ人らの権利侵害などについて国際司法裁判所(ICJ)に見解を示すよう求める決議が採択されました。
****イスラエル占領で意見要請 国連総会、国際司法裁に****
国連総会本会議は30日、イスラエルによる東エルサレムとヨルダン川西岸の占領に関し、国際司法裁判所(ICJ)に意見を求める決議案を87カ国の賛成で採択した。イスラエルや米国、英国など26カ国が反対し、日本を含む53カ国が棄権した。
決議は国際法を考慮した上で、国連や加盟国にとってイスラエルの占領政策によるパレスチナ人の権利侵害がどのような法的問題をはらむのか、ICJに見解を示すよう要請した。
パレスチナのマンスール国連大使は採択後「国際法と平和を信じているのであればICJの意見を支持し、イスラエル政府に立ち向かうべきだ」と訴えた。【12月31日 共同】
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賛成国には中国・ロシアも含まれています。
国際司法裁判所(ICJ)の見解に法的な拘束力はないが、権威ある司法的な見解として尊重されます。
2003年にも、イスラエルが占領地に「テロ」防止の名目で建設する「分離壁」について、国連総会はICJに見解を示すよう要求。翌年にICJは国際法違反と判断。イスラエルはこれを受け入れていません。
今回の決議に対してネタニヤフ首相は声明で、占領を否定した上で、「イスラエル政府はこの決議に縛られない」としています。【日系メディアより】
イスラエルの同盟国アメリカも、イスラエル新内閣の「2国家共存」を否定するような強硬路線には懸念を持っており、改めてバイデン政権が「2国家共存」の考えであることをイスラエル新内閣に伝えています。
****「2国家共存」支持強調=イスラエル新外相と電話会談―米長官****
ブリンケン米国務長官は2日、イスラエルのコーヘン新外相と電話会談し、就任に祝意を表明した。その上で、パレスチナ国家樹立を認める「2国家共存」への米国の支持を改めて表明し、実現を危うくする政策に反対すると強調した。国務省が発表した。【1月3日 時事】
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【新政権の国家治安相で極右政党「ユダヤの力」党首のベングビール氏が「神殿の丘」訪問】
上記のような国際社会がイスラエル新政権への懸念を有するなかで、周知のように、新政権の国家治安相で、極右政党「ユダヤの力」党首のベングビール氏が3日、エルサレムにあるイスラム教とユダヤ教双方の聖地「神殿の丘」を訪問しました。ベングビール氏はこれまでも同地を訪問していますが、閣僚就任後は初めて。
ユダヤ教で「神殿の丘」とされる“聖地”は、イスラム教では「ハラム・シャリーフ」と呼ばれる場所で、イスラム教徒にとっても“聖地”。
同地がある東エルサレムは、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領しましたが、区域の管理はイスラエル側と占領前に統治していたヨルダンとの合意で、ヨルダン政府傘下の組織が行ってきました。
聖地で礼拝ができるのはイスラム教徒のみで、ユダヤ教徒や他の宗教の信者は「訪れることはできるが、礼拝は認めない」という取り決めがあります。ベングビール氏はこの現状を変更し、ユダヤ教徒の礼拝を認めるように訴えてきました。
“地元メディアによると、同氏はこの日午前7時ごろに訪れ、治安部隊に守られながら、敷地内に約13分間滞在したという。同氏はこれまでも繰り返し訪れてきたが、閣僚になってからは初めて。この時間にイスラム教の礼拝者はほとんどおらず、衝突などは起きなかったという。”【日系メディア】
ただ、パレスチナ側は強く反発しています。
****イスラエル極右閣僚が聖地訪問、パレスチナ側は猛反発****
イスラエル極右政党「ユダヤの力」党首でネタニヤフ新政権の国家治安相に就任したベングビール氏が3日、エルサレムにあるイスラム教とユダヤ教双方の聖地「神殿の丘」を訪問し、パレスチナ自治政府が猛反発するなど波紋を広げている。
ベングビール氏はツイッターに「神殿の丘は全ての人に開かれている」と投稿。ユダヤの力はかねてから、ヨルダン政府傘下のイスラム組織が管理し、ユダヤ教徒に訪問だけを認めている神殿の丘について、礼拝を認めるよう主張してきた。
昨年、ヨルダン川西岸地区などで幾つかの問題を巡ってイスラエル軍とパレスチナ側が暴力的な衝突を繰り返してきただけに、ベングビール氏の訪問で両者の緊張が一層高まることが懸念されている。
パレスチナ公式メディアWAFAが発表した声明によると、自治政府のアッバス議長は国連安全保障理事会に非難決議を求める意向だ。
国連のグテレス事務総長は神殿の丘やその周辺で緊張をエスカレートさせかねない動きを慎むよう求めている、と国連の副報道官は明らかにした。
米国家安全保障会議の広報担当者も、エルサレムの聖地の現状維持を損なうような一方的な行動は認められないと述べた。
一方イスラエル首相府高官の1人は、ネタニヤフ首相は神殿の丘でイスラム教徒のみに礼拝を認めている現状の取り組みを全面的に守る意思があると強調し、事態鎮静化に努めている。【1月4日 ロイター】
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欧米を含む各国から懸念や反発の声が上がった背景には、第2次インティファーダ(反イスラエル民衆蜂起)の経験があります。
2000年、当時野党だったリクード党首のシャロン元首相がこの区域を訪れたことをきっかけに、イスラエル治安部隊とパレスチナ人による軍事衝突が発生。インティファーダは5年近く続き、多くの犠牲者を出しました。
更に、ベングビール氏は一昨年も集団で「神殿の丘」を訪れ、パレスチナ人と衝突、ハマスが参戦する戦争の要因ともなっています。
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同党首(ベングビール氏)は昨年、東エルサレムのアラブ人の聖地「ハラム・シャリーフ」に集団で立ち入り、パレスチナ人と衝突した。この場所はユダヤ人にとっても「神殿の丘」と呼ばれる聖地だが、歴代政権はユダヤ人の立ち入りを抑制してきた。この衝突にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装組織ハマスが参戦、11日間にわたる戦争の要因になった。
ベングビール氏は選挙でも、パレスチナ人を銃撃するイスラエル軍兵士の免責、国家に忠誠を誓わないパレスチナ人の国外追放、自治区西岸の併合などを主張、パレスチナ問題に強行方針を繰り返した。
そもそも同氏は人種差別主義を標榜した組織の出身。そのあまりの過激な言動で、イスラエル軍への入隊を拒否された経歴の持ち主だ。
94年にパレスチナ人29人を殺害したユダヤ系米国人の肖像写真を長年自宅に飾っていたことも有名だ。【2022年11月6日 WEDGE】
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イスラエル首相府は3日、これまでにも閣僚による訪問はあったとした上で、聖地の扱いについて「従来の方針を維持し、いかなる変更も行わない」とする声明を出しています。
ただ、ベングビール氏がネタニヤフ首相に知らせずに単独行動を行ったとは考えにくいので、おそらくネタニヤフ首相黙認のもとで行われた「神殿の丘」だったのでしょう。結果、大騒ぎになることも承知のうえでの黙認だったのでしょう。
日本の閣僚による靖国参拝に似たような微妙な政治マターですが、ネタニヤフ首相として保守の立場上、「行くな」とは言えないし、おそらくベングビール氏との連立を決めた時点で合意がなされていた問題でしょう。
とは言え、“次の目標を「サウジとの国交正常化」であると宣言”しているネタニヤフ首相としては、こうした極右閣僚の行動は悩ましいところかも。
イスラエル国内には、(復権のために極右と連立はしたものの)しかるべき時期にネタニヤフ首相は極右を切り捨てて穏健・中道派と手を組むのでは・・・との見方もあるようです。
いまのところ、パレスチナ側の報復的な反応は下記記事にあるぐらいに収まっています。
****ガザからロケット弾発射=閣僚の聖地訪問に対抗か***
イスラエル軍は3日、パレスチナ自治区ガザからロケット弾1発が発射され、自治区内に着弾したと発表した。
ネタニヤフ新政権のベングビール国家治安相が同日、エルサレムの旧市街にあるイスラム教聖地ハラム・アッシャリフ(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)を訪問。これに反発したいずれかの武装組織が対抗措置として撃った可能性がある。【1月4日 時事】
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【日本が議長となる安保理審議】
ロイター通信は4日、アラブ首長国連邦(UAE)と中国が、国連安全保障理事会に対し、ベングビール氏の訪問についての公開会合を開くよう要請した、と報じています。
中国の名前が出ているところが興味深いところ。中国はイスラエルの技術力に関心があるところでしょうが、「アラブの大義」を尊重し、アラブ諸国に寄りそうというこれまでの外交方針のようです。
安保理審議(5日開催とも)となると、どこまでイスラエル非難を強調するのか、1月の議長国である(先日、非常任理事国に選出された)日本のかじ取りも注目されます。
****エルサレムに関する安保理審議****
(中略)アラビア語メディアはいずれも、アラブ及ぶイスラム協力機構の国連大使約50名が3日国連に安保理議長(1月の議長は日本)を訪問し、イスラエル国家安全保障相の訪問を非難すると共に、この問題を議論するために5日午後安保理を開催することを要請したと報じています。(中略)
この問題は、今年から安保理非常任理事国となった日本にとり、初の大きな挑戦かと思いますが、とりあえずは国際社会の圧倒的多数は勿論、バイデン大統領も同地の現状変更に反対としており、今回の安保理審議では大きな確執とはならなそうな気がしますが,仮にアラブ諸国やイスラム諸国、さらには中ロ等が決議案の中にイスラエル非難の文言を明確に入れようとすると、イスラエルと米等との間で確執が生じる可能性が強く、議長たる日本の采配ぶりが注目されます。
この問題は、今年から安保理非常任理事国となった日本にとり、初の大きな挑戦かと思いますが、とりあえずは国際社会の圧倒的多数は勿論、バイデン大統領も同地の現状変更に反対としており、今回の安保理審議では大きな確執とはならなそうな気がしますが,仮にアラブ諸国やイスラム諸国、さらには中ロ等が決議案の中にイスラエル非難の文言を明確に入れようとすると、イスラエルと米等との間で確執が生じる可能性が強く、議長たる日本の采配ぶりが注目されます。
いずれにせよ今年は、パレスチナ問題が国連での大きなもんだとなる年となりそうです。【1月5日 中東の窓】
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