孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  北欧2か国のNATO加盟問題で強気姿勢 シリアでもクルド人勢力へ圧力強化

2023-01-14 12:13:22 | 国際情勢
(逆さづりされたトルコ・エルドアン大統領の人形=12日、スウェーデン・ストックホルム【1月13日 共同】)

【北欧2か国のNATO加盟問題で強気姿勢を崩さないトルコ】
北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航しています。

トルコが難色を示している理由は、周知のように北欧2カ国のクルド人への対応へのトルコ側の不満が強いためです。トルコからすると北欧2カ国はテロリストをかくまっている・・・・という見方にもなるようです。

トルコにとっては、この問題は国内向けにアピールできるだけでなく、欧米に対する格好の交渉材料ともなっています。それだけに強気です。

****NATO加盟条件は「テロリスト」送還 北欧2国とトルコの協議難航****
北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航している。

トルコがNATO加盟を認める条件として、トルコ政府と対立する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)の関係者ら数十人の送還を求めているからだ。トルコのエルドアン政権は交渉に妥協しない姿勢を示し、国内での支持率向上を狙っている。
 
「トルコがいつ(NATO加盟を)国会で批准してくれるのか、見えてこない」。フィンランドのハービスト外相は今月8日、ブリンケン米国務長官、スウェーデンのビルストレム外相との会談後、記者会見で厳しい表情を見せた。
 
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、北欧2国は5月、安全保障強化のためにNATOへの加盟を申請した。だが、加盟には全加盟国の国会での批准が必要だ。加盟30カ国のうち批准していないのはハンガリーとトルコだが、ハンガリーは来年初めにも批准する見通しで、障害はトルコだけとなっている。
 
北欧2国は6月下旬、トルコと加盟批准に向けた覚書を交わした。覚書には批准の条件として、2国がトルコへの武器禁輸措置を解除することのほか、トルコが「テロリスト」とみなすPKKやPKKに近いシリアのクルド勢力の関係者らの送還を検討することが記されている。
 
トルコへの武器禁輸措置は既に解除されているが、問題は「テロリスト」の送還だ。フィンランドにPKK関係者は少ないが、スウェーデンは1990年代以降、多くのPKK関係者らの政治亡命を受け入れてきた。スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者だ。
 
反体制派を厳しく取り締まるトルコと、言論の自由などを重視するスウェーデンでは「テロリスト」の定義が異なり、両者の溝は深い。

スウェーデンの最高裁は7月、同国の永住権を持つトルコ人に対し、トルコ政府の送還要求を拒否する判決を出した。スウェーデン政府は送還について「国内法、国際法に則って対応する」との姿勢を崩していない。

一方、トルコはPKK関係者が少ないフィンランドについては加盟を批准する意向を示し、スウェーデンに圧力をかけている。

また、トルコメディアによると、トルコは6月以前は2国に「テロリスト」約30人の送還を求めていたが、その後は約70人に増えており、ハードルが上がっている。トルコのボズダー法相は今月5日、2国は「トルコが求めるテロリストを全員送還すべきだ」と強調した。
 
トルコ側に交渉妥結を急ぐ理由はない。トルコでは大統領選が来年6月に控えており、それまでに2国から「譲歩」を引き出せば、エルドアン氏の支持率向上につながるからだ。

また、この交渉は2国のNATO加盟を支援する米国に対し、トルコが要求しているF16戦闘機の供与やシリア北部への軍事侵攻の許可を引き出す材料としても使える。
 
中東政治に詳しいベルギーのシンクタンク「民主主義のための欧州財団」のマグヌス・ノレル客員研究員は、「トルコが来年6月より前に2国の加盟を批准する可能性は低い」と分析した上で、「たとえスウェーデンが譲歩したとしても、トルコは要求をつり上げるだろう」と指摘する。
 
一方、ブリンケン米国務長官は今月8日の記者会見で、両国が「間もなく(NATOの)正式な加盟国になるだろう」と述べ、交渉妥結への自信を示している。【12月12日 毎日】
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【スウェーデン最高裁、トルコ人引き渡し拒否 トルコは更に対応硬化】
北欧側も、人権にかかわる問題での安易な妥協はできません。
スウェーデン最高裁は12月19日、トルコ政府から2016年のクーデター未遂事件に関与したと訴えられているトルコ人男性の身柄引き渡しを阻止したことを明らかにしています。

****スウェーデン最高裁、トルコ人引き渡し拒否 クーデター未遂巡り****
 スウェーデン最高裁は19日、トルコ政府から2016年のクーデター未遂事件に関与したと訴えられているトルコ人男性の身柄引き渡しを阻止したことを明らかにした。

最高裁は、男性が在米イスラム指導者ギュレン師の支持者でクーデター未遂に関与したとトルコで訴えられていると指摘。トルコ政府の主張は政治犯罪に一部関係しており、政治的な見解を理由とする迫害の恐れがあるとの見解を示した。

トルコ政府はギュレン師がクーデター未遂事件の黒幕だと主張しているが、ギュレン師は関与を否定している。

フィンランドとスウェーデンはロシアによるウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請したが、加盟にはトルコを含めNATO30カ国全ての承認が必要。トルコ政府は両国の加盟を認めるために必要となる一連の条件を提示している。【12月19日 ロイター】
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トルコ側は反発しています。

****トルコ外相 ジャーナリスト引き渡し認めない判断を非難 スウェーデンNATO加盟に「非常に良くない展開」****
(中略)AFP通信によりますと、トルコのチャブシオール外相は20日、スウェーデン最高裁の判断について「非常に良くない展開」だと非難しました。

チャブシオール外相は、今月初めにスウェーデンからクルド人武装勢力のメンバーとされる男性1人が引き渡されたことについて、「もし1人を引き渡せば問題が解決すると思っているのなら、それは現実的ではない」と話して、トルコ側の承認を得るには不十分だと強調。「良い言葉ではなく具体的なステップが見たい」と話したということです。

また、チャブシオール外相は22日にトルコを訪問予定のスウェーデンの外相と議論するとしています。【12月21日 TBS NEWS DIG】
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【動揺するクルド人 スウェーデン政治状況に変化も】
一方、取引の材料とされかねない北欧のクルド人は動揺しています。ただ、スウェーデン政権にもクルド人へ配慮せざるを得ない政治事情もありました。

****スウェーデンのクルド人動揺 NATO加盟申請で****
クルド人団体は主要な避難先を失いかねないと不安を募らせる

スウェーデンは長い間、イスラム革命から逃れてきたイラン人や独裁政権から逃げてきたチリ人など、難民や反体制派にとって安全な避難先となってきた。国際舞台で同国が調停役としての名声を得ている理由でもある。
 
だが現在、そうした門戸開放政策が、ロシアのウクライナ侵攻を受けたスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を複雑なものにしている。トルコは、トルコとシリアの国境にまたがる場所に国を築きたいと考えるクルド人組織とスウェーデンが接触していることを理由に、NATO加盟に反対している。
 
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、クルド人武装勢力を含むテロリストをかくまっているとしてスウェーデンとフィンランドを非難している。

ここストックホルムのクルド人団体は、スウェーデンがフィンランドと共にNATO加盟を申請することで自国の安全保障強化に動く中、主要な避難先を失いかねないと不安を募らせている。加盟するにはトルコを含むNATOの全30加盟国の承認が必要だ。
 
「われわれはクルド人として、NATO加盟を決めたスウェーデンの決定を尊重する。だが、NATO加盟やトルコとの関係がわれわれの犠牲の上に成り立つことは望まない」。シリア北東のクルド自治区の北欧代表、シーアー・アリ氏はこう話した。

トルコと米国の当局者によると、エルドアン氏は長年、スウェーデンがトルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)と関係のあるシリアのクルド人組織のメンバーと接触していることを懸念している。

PKKは米国やトルコ、スウェーデンを含む欧州連合(EU)からテロ組織と見なされている。他の欧米諸国と同様、スウェーデンはPKKと他のクルド人団体を区別している。
 
トルコはスウェーデンに対し、武装組織との関係を断ち切り、メンバーを引き渡すよう求めている。
 
スウェーデンがトルコの求めに応じるとみる専門家はほとんどいない。スウェーデン外務省は事態打開に向け引き続き外交努力を続けているとしている。

だが、クルド人活動家の中には、トルコに反対するクルド人団体メンバーに対してスウェーデンの治安当局が強硬姿勢を強める可能性があると懸念していると話す人もいる。昨年にはクルド人の2児の母親が国家安全保障の脅威だとして国外退去を命じられた。

公式統計はないが、スウェーデンにいるクルド人は約10万人とされ、全人口の約1%に相当する。
 
スウェーデンに定住している多くのクルド人は高学歴で、政治活動も活発に行っている。市民社会に関わり政界にも進出するようになった。スウェーデンの国会議員のうち6人がクルド系だ。学校では母語としてクルド語の主要な方言を学ぶことができる。
 
トルコにとっての不満は、スウェーデンの政治家が、PKKの一派とトルコがみるクルド人民防衛隊(YPG)と面会を重ねていることだ。

YPGはシリアのイスラム国に対する作戦において陣頭指揮を執り、スウェーデン軍が支援する米国主導の有志連合から武器と軍事訓練を受けた。YPGの政治部門であるクルド民主統一党(PYD)がシリア北東の自治を担っている。
 
ストックホルムにあるクルド人コミュニティーセンターの代表は、YPGをウクライナ人に例えた。「彼らに罪はなく自分の身を守っている。イスラム国は人類に対する脅威だ」

前出のアリ氏は、自身の組織がPKKの一部と「思想的なつながり」をもつが、正式な関係はないと話した。独立した専門家によれば、両者は一段と接近しつつある。イラクでのトルコ軍による作戦で圧力を受けているPKKはメンバーをシリアに集めている。
 
クルド人の大義を支持する人たちは現在、スウェーデン国内の非常に大きな政治的影響力から恩恵を受けている。マクダレナ・アンデション首相率いる連立政権は、たった1人の議員の票で過半数を得て成り立っている。クルド系でイラン生まれの元ゲリラ兵、アミネ・カカバベ議員だ。シリア北部のクルド自治区との協力強化を政府に促してきた。

カカバベ氏は、どんなものであれエルドアン氏の要求を政府がのむなら、予算や政権の続投に賛成票を投じるつもりはないと明言する。同氏は7日、法相に対する不信任決議案の採決で決定票をもっていたが棄権し、政権存続に一役買った。政府がトルコに対して一歩も引き下がらないとの確約を得たためだという。
 
とはいえ、カカバベ氏の姿勢を踏まえると、トルコが今後も要求を続けた場合、スウェーデンのNATO加盟は選挙のある9月までずれ込むかもしれない。同氏が再選しても、選挙の結果次第ではその影響力が薄れる可能性がある。(後略)【2022年6月9日 WSJ】
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単なる難民保護ではなく、スウェーデン国内政治においてクルド人の影響力は相当に大きなものがあるようです。
しかし、その後スウェーデンでは中道左派政権から移民に厳しい極右政党が閣外協力する中道右派政権に代わっていますので、事情はやや変化しています。

【クルド人側には逆効果も懸念される過激な行動】
危機感を強めるクルド人側は一部に過激な行動も。

****クルド人団体がエルドアン氏逆さづり動画 トルコ、スウェーデンに抗議****
スウェーデンに拠点を置くクルド人団体がトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を逆さづりにする動画を投稿したことを受け、トルコ政府は12日、スウェーデン大使を呼び出して厳重に抗議した。
 
スウェーデンは現在、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて北大西洋条約機構加盟を目指しているが、加盟国のトルコが難色を示しており、本件により加盟実現が遠ざかる恐れがある。
 
クルド人団体は11日、第2次世界大戦中のイタリアの独裁者ベニト・ムソリーニの処刑写真と、エルドアン氏を模した人形が逆さづりになっている場面を映した動画をツイッターに投稿。

「独裁者の末路は歴史で示されている」「エルドアンは今こそ辞任する時だ。(トルコ・イスタンブールの)タクシム広場で逆さづりにならないようこの機に辞任せよ」とキャプションを添えた。【1月13日 AFP】
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こうした過激な行動は、トルコの対応を硬化させ、スウェーデン国内のクルド人への風当たりを強くするだけではないでしょうか。

【シリアでもクルド人への圧力を強めるトルコ シリア政府との関係改善に向けた動き】
トルコは、上記のように北欧のクルド人対応に圧力をかける一方で、シリア・アサド政権との関係を改善して、シリア北部のクルド人勢力への圧力を強めています。

****トルコとシリア、首脳会談の可能性 新和平で=エルドアン氏****
トルコのエルドアン大統領は5日、シリアとの新たな和平プロセスの一貫として同国のアサド大統領と会談する可能性があると明らかにした。両国は対立しているが、先週には2011年のシリア内戦開始以来で最高レベルとなる国防相の会談が実現した。

10年以上に及ぶシリア内戦で、トルコは反政府勢力を支援しているのに対し、ロシアは政府側を支援している。内戦により数十万人が死亡、数百万人が避難を余儀なくされ、地域や世界の各勢力が介入している。ただ、戦闘は当初に比べて沈静化している。

エルドアン氏はアンカラで演説し、モスクワで行われた国防相会談という節目の次の一歩はトルコ、ロシア、シリアの外相会談による交流促進になると発言。「外相会談を実現した後、状況次第になるが首脳会談を行う」と述べた。【1月6日 ロイター】
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(中略)アサド政権排除の急先鋒(きゅうせんぽう)だったトルコは、昨年からエルドアン氏がアサド政権との関係改善に言及するようになった。
 
トルコにとっては、シリアとの国境沿いを支配するクルド人勢力の排除が安全保障上の最優先課題だ。ロイター通信によると、トルコ政府高官は「(シリアとの国防相会談で)クルド人勢力などのテロリストに対してどう共闘できるかが議論された」と明かした。
 
また、トルコでは今年6月までに大統領選が予定されている。350万人以上いるシリア難民にトルコ市民の反発が強まっており、エルドアン氏は、アサド政権との対話で難民帰還への取り組みをアピールする狙いもあるとみられる。
 
アサド政権への接近の動きに、アサド政権から逃れた避難民や反体制派は反発。在英の反体制派NGO「シリア人権監視団」によると、反体制派地域のシリア北西部では、トルコとシリアの関係改善の動きに抗議するデモが起きている。
 
アサド政権に制裁などで圧力をかけ続ける米国務省のプライス報道官は今月5日、「我々はアサド政権と関係を正常化することはなく、他国が正常化することも支持しない」と述べた。【日系メディア】
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