(ホンジュラスのシオマラ・カストロ新大統領就任式に出席した各国の元首らと共に拍手を送る頼台湾副総統(中央男性)。左から3人目女性はアメリカのカマラ・ハリス副大統領【1月28日 TAIWAN TODAY】)
【恐怖政治のニカラグア 中国の意を受け、アメリカへの当てつけのように台湾断交】
ニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ・・・・中米は残念ながら、汚職・腐敗、麻薬、暴力、貧困、そしてそこから逃げ出そうとする難民といったネガティブなイメージがつきまといます。
元左翼ゲリラの闘士であるオルテガ大統領が恐怖政治を敷くニカラグアもそんな国のひとつ。
****左翼ゲリラの成れの果て 恐怖政治を敷くニカラグア大統領****
1979年、米国の支援を受け中米ニカラグアで独裁体制を敷いていたソモサ一族に対し、ダニエル・オルテガ率いる左翼ゲリラが革命を起こした。
先進国で脱左翼、脱政治が進む中、「アメリカ帝国主義の圧政」と闘うゲリラの姿に拍手を送った人も多かった。米国で83年に封切られた映画『アンダー・ファイア』もニカラグアの貧者を救おうとするゲリラを美しく親しげに描いていた。
だがそのゲリラの末路は堕落もいいところで、「左翼は結局、庶民を不幸にする」という事例をベネズエラに続いて一つ増やしただけだった。
2021年11月の大統領選で、オルテガ大統領は自ら改変した憲法に従い、形ばかりの対抗馬を相手に4度目の再選を果たした。政府寄りの選挙管理委員会は6割以上の投票率と発表したが、国民の8割がボイコットしたと複数の海外紙が伝えている。
それでも22年1月に始まる5年任期を全うすれば27年初めまで連続20年も君臨することになる。1985年から90年の第1次オルテガ政権を含めれば計25年である。しかも現副大統領はオルテガ氏の妻だ。
勝利できたのはソモサ独裁も顔負けの恐怖政治にある。国家警察は同国初の女性大統領の娘で野党党首のクリスティアナ・チャモロ氏を6月に自宅軟禁した。この他、選挙前に計6人の大統領候補予定者と150人以上の政治家や野党勢力を投獄または軟禁状態にした。
革命で共闘した仲間も投獄し、第1次政権時の副大統領で作家のセルヒオ・ラミレス氏は、オルテガ氏の悪政を伝える小説を発表するため、隣国コスタリカに亡命せざるを得なかった。
弾圧は住民にも向けられる。人権団体によると、2018年4月に始まった反政府デモの取り締まりで少なくとも300人が死亡、150人以上が今も拘束されたままだ。18年以来、少なくとも8万人がコスタリカに亡命を要請している。
オルテガ氏の再選を支持したのはロシア、イラン、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどで、他の中南米諸国や米国は選挙結果を認めていない。米大陸の国々が加盟する米州機構(OAS)も大統領選を「正統性がない」と非難する決議を採択した。
これを受け、オルテガ政権は機構からの脱退手続きを始めた。このままオルテガ政権が孤立すれば、ベネズエラの二の舞になる。累積で10億㌦を超す世界銀行や米州開発銀行(IDB)など国際機関からの支援金が滞れば、住民弾圧がさらに強まりかねない。
ニカラグアの革命の末路は、もはや理想のかけらもない迷宮に入り込みそうだ。【1月16日 WEDGE】
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このニカラグア、昨年末に台湾と断交したこと、しかもアメリカ・バイデン大統領が主催した「民主主義サミット」にぶつける形で発表したことでも注目を集めました。
****ニカラグアが台湾と国交断絶を宣言した意図****
民主主義サミット開催日、中国によるアメリカのメンツ潰しか
中米ニカラグアは2021年12月9日に1990年から続いた台湾との外交関係を解消し、中国と国交を回復させたことを発表した。
ニカラグア政府は声明で「中華人民共和国こそ全中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の不可分の一部である」とコメント。この断交宣言を受け、台湾の外交部(外務省に相当)は「深い悲しみを覚え、遺憾である」とする声明を発表している。(中略)
ニカラグアは、なぜこのタイミングで台湾断交を発表したのだろうか。その意図について、台湾の有識者は「アメリカのメンツを中国が潰したかった」ためと指摘する。
ニカラグアが台湾と断交し中国との国交回復を表明した12月9日とは、アメリカ主導で開催された「第1回民主主義サミット」の初日であった。
現在、米中関係は、アメリカによる北京冬季オリンピックへの外交ボイコットが示すように、中国がやや形勢不利な状況だ。そこで中国はニカラグアと台湾の外交関係を利用し、アメリカの顔に泥を塗ることで対抗姿勢を表したというのである。
中国による民主主義サミットつぶし?
今回の民主主義サミットで「台湾の国際社会における存在感が増した」という認識を示すのは、台湾大学政治学部の陳世民副教授だ。(中略)
陳副教授は「欧米諸国からの制裁を受けたこの1カ月の間にニカラグアは中国に接近し、中国との国交回復を宣言するに至った。国交回復を民主主義サミット初日に発表したことは台湾への外交的ダメージを狙っただけでなく、アメリカをはじめとする民主主義陣営のメンツを潰すという意図が濃厚である」としている。
さらに「台湾と中南米の国々との外交関係は、多くの場合、アメリカの国家との友好関係に支えられている。アメリカとニカラグアの関係が崩れたことが、台湾とニカラグアの外交関係に影響する可能性は高かった」と指摘した。
ニカラグアとの国交断絶により、中華民国(台湾)と国交を結ぶ国は14カ国となった。台湾の国際的な孤立を危ぶむ声もあるが、陳副教授は国交がある国が1桁台にでもならない限り、台湾への影響は「象徴的」なものに過ぎず、大きな損失は出ないだろうとの考えを示している。
台湾外交の変化も影響か
また、ニカラグアとの国交断絶は、近年の台湾の外交政策の転換も少なからず影響しているという。以前の台湾は、発展途上国に金銭を援助することで外交関係を維持していた。しかし、蔡英文政権で外交政策は「援助外交」から「地道外交」へと転換。外国への支援は金銭によるものから投資やインフラ整備、社会福祉へと変わり、以前のように相手国に求められるままに金銭や物資の援助をすることはなくなった。
実は、近年、台湾はニカラグアのオルテガ大統領の要求を拒否したことがあり、オルテガ大統領の不興を買っていた。その点でも、台湾とニカラグアの断交は必然の結果と言える。
ここ数年、中国政府の働きかけにより、台湾、すなわち中華民国と国交を結ぶ国は減少傾向にある。中国にとっては「外交努力の賜物」にも見えるが、陳副教授は「中国政府はその意味をよく考えるべきだ」と指摘する。
陳副教授によると、台湾が国際的に「中華民国」と認められる機会が少なくなるということは、すなわち台湾市民の「中華民国」という名への愛着が失われ、「台湾」というアイデンティティーが強まることにつながるという。将来、中華民国が「台湾」に改名したとしたら、それは「一つの中国」を標榜する中国にとって非常に都合が悪いことだろう。
2021年後半、台湾はリトアニアとの関係強化が実現するなど外交上の大きな成果があった。中台及びアジア太平洋地区の経済・学術交流、人材育成を推進する「中華亜太菁英交流協会(APEIA)」で秘書長を務める王智盛氏は、中国にはこの風向きを変えなければならないというプレッシャーがあったはずだと指摘する。
実際にニカラグア大統領選挙からわずか1カ月後に両国は国交回復、中国は中華民国と国交のある国を自身の陣営に引き入れていく姿勢を強調しているのだ。
アメリカが110ほどの民主国家を招いて民主主義サミットを開催したそのとき、民主主義サミットに招待されなかったニカラグアに近づき、台湾との断交を実現させた中国。王氏は、これをアメリカのメンツ潰しであると同時に、中国がアメリカと世界の「話語権(自身の言説を受け入れてもらう権利、ディスコース・パワー)」を争う姿勢にほかならないとみている。
王氏は台湾とニカラグアの断交について、「根底に米中の価値観の相違による争いがある。中国が譲歩することはないだろう」とし、「中国は民主主義サミットに参加していない国を集め、民主主義サミットを反撃の場として利用しようとしたのだ」と分析している。〈台湾『今周刊』2021年12月10日 〉【2021年12月21日 東洋経済online】
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【ホンジュラスで親中国左派政権 ただし、新大統領はアメリカとも協調】
同じ昨年12月、台湾と国交を持つ数少ない国のひとつ、中米ホンジュラスで新たな親中国の左派政権が誕生し、台湾にとって更に厳しい予測も指摘されていました。
****ホンジュラス大統領に親中派=女性初、対立候補が敗北認める****
11月28日に実施された中米ホンジュラスの大統領選挙で、中国との関係を重視する左派野党連合のシオマラ・カストロ氏(62)が30日、当選を決めた。まだ開票途中だが、対立候補の右派与党・国民党のナスリ・アスフラ・テグシガルパ市長(63)が敗北を認めた。女性大統領は同国初となる。就任日は来年1月27日で、任期は4年。
中央選管によると、開票率52.6%の段階で、カストロ氏は得票率53.4%、アスフラ氏は同34.1%。両氏は30日、互いのツイッターで和やかに会談する様子を公開し、アスフラ氏は「きょう私はカストロ氏の自宅を訪ね、勝利を祝った」と表明。カストロ氏は「アスフラ氏は国民の意思を受け入れ、私の大統領選勝利を認めた。ありがとう」とつづった。
ホンジュラスは台湾と外交関係を結ぶ数少ない国の一つだが、カストロ氏は選挙戦で一時、「当選すれば、すぐさま中国と外交、通商関係を結ぶ」と主張。ホンジュラスは、台湾の後ろ盾である米国への経済依存度が非常に強いものの、新政権が近い将来に台湾と断交し、中国と国交を開く可能性もある。【2021年12月1日 時事】
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ただ、対立候補が“和やかに会談”ということにも示されるように、親中国左派政権とはいっても、前出ニカラグアの恐怖政治などとは異なるもののようです。
台湾問題のほか、ホンジュラスはエルサルバドル、グアテマラと並んでアメリカへの移民が多い地域で、押し寄せる移民が重大な政治問題になっているアメリカにとってもホンジュラス新政権への働きかけが重要な意味合いを持ちます。
新大統領就任式には、移民問題を任されている(結果を出せずに評価は急降下しましたが)ハリス副大統領も出席したようです。台湾からは副総統が出席。
****バイデン政権の中米政策も占うホンジュラス新政権の船出****
1月27日に行われたホンジュラス新大統領の就任式は、バイデン政権の対中米政策の今後を占う上で注目されていた。
ホンジュラス史上初の女性大統領となるシオマラ・カストロ新大統領は、左派であるだけでなく、かつてベネズエラのチャベスやニカラグアのオルテガと盟友関係にあり、軍部のクーデタで追放され、現在ホンジュラス政界に復帰しているセラヤ元大統領の妻である。
従って、どのような性格の左派政権となるのか、特に、移民流出の根本問題に取り組むというバイデン政権に協力的なのかが、米国にとって極めて重要となる。
さらには、カストロは台湾との外交関係を中国に切り替えることを一時は公約としており、当選後は、台湾との関係を当面維持すると態度を変えているが、その成り行きも注目される。
米国を代表して就任式に出席したのはカマラ・ハリス副大統領だ。バイデンから中米対策を任せられているハリスにとっては、昨年のグアテマラ訪問で外交的センスにミソをつけ、ワシントンでも力不足を批判されていることもあり、副大統領としての存在感を示す名誉挽回の機会ともなるものであった。
結果的には、就任式は予定通り執り行われ、ハリスとカストロとの波長も合い、コロナ対策支援や民間投資誘致などの実績も挙げ、移民対策を含めて将来への期待を持たせるものとなったと言えよう。
他の要人としては、台湾副総統、コスタリカ大統領、アルゼンチン副大統領ら現職に加えてルーラら元大統領、チリの次期大統領、スペイン国王らも出席したが、かつての盟友であったベネズエラ、ニカラグア、キューバはいずれも外相または副大統領の出席に留まり、政権としては、「暴政のトロイカ」と称される上記3国とは一線を画す姿勢が窺われた。
台湾としては、ニカラグアが北京に切り替えた分の経済支援のリソースをホンジュラス、あるいはグアテマラにシフトし、移民流出防止にも貢献できるであろう。
議会議長選任で見えた根深い腐敗体質
問題は、就任式直前に起きた国民議会議長の選任を巡る、与党議員の造反である。大統領選挙では、カストロのリブレ党と救世主党が連合し、カストロが候補者となる代わりに議会議長は救世主党から選出するとの約束があった。
ホンジュラスは定数126の一院制で、カストロのリブレ党は50議席、連合を組んだ救世主党は10議席を獲得したが、議会議長選挙の段階でリブレ党から、造反者が出て、議長選出手続きが混乱した。
造反に怒ったリブレ党支持者が議会に押しかけたため、造反議員を含む反対派は、議会外で投票を行い、他方、カストロ支持派は、議場で議長候補を選出し、2人の議長が選ばれた。
造反の理由は、10人程度の少数会派から議長を取ることに納得できないとのことのようであるが、造反議員の背後には腐敗した旧政権与党がいて、反汚職、反麻薬のカストロの選挙公約の実現を阻むために工作が行われたとの見方もある。
問題解決は、最高裁判所に委ねられるようであるが、判事の多くは前政権が任命しており、カストロには不利は裁定が行われる可能性が高い。
同国の国内ポリティクスは推し量り難いが、いずれにせよ、国会議員を含めて根深い腐敗体質があるようで、議会での多数を失えばカストロの国内改革も前途多難が予想される。
なお、麻薬密売の共犯が疑われるエルナンデス前大統領は、中米議会(中米統合機関の立法府)議員に就任し不逮捕特権を獲得した。
カストロ大統領は、腐敗防止に国連の関与を求める方針のようであるが、国内で足を引っ張られる事の無いよう、慎重な取り組みが求められる。
バイデン政権にとっても地域の拠点国としたいホンジュラスの安定が損なわれれば、直ちに移民急増につながってしまうが、他方、内政干渉もできないので、忍耐強い対応が必要になりそうである。【2月15日 WEDGE】
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【ホンジュラス新政権 台湾との関係維持 背景にアメリカの影響か】
台湾政策については、台湾との関係を維持することになったようです。背景には米中対立の構図があるとも。
****中台外交レースの舞台は中米へ 米国は台湾承認国家を繋ぎ止められるか****
1月末に就任した中米ホンジュラス初の女性大統領、シオマラ・カストロ氏は選挙のとき、台湾と断交し中国と国交を樹立すると公言していたが、早々に外相がこれを否定し、台湾の数少ない拠点は当面、安泰となった。
現在台湾を国と認めているのはバチカン市国を含め世界で14カ国しかない。うち7カ国は南太平洋やアフリカ沖の小さな島国で、主軸は中南米だ。と言っても、南米はパラグアイ1国、中米はグアテマラ、ホンジュラスと、81年に英国から独立した小国ベリーズ、そしてカリブに浮かぶ島国、ハイチである。
ここでホンジュラスが中国に寝返ってしまえば、もはや中米は「拠点」とは呼べなくなる。中国の外交、援助攻勢を前に「風前の灯」感が強まってしまう。(中略)
そんな逆風の中、ホンジュラスが台湾を維持することに目新しさがあるとすれば、米国の存在だろう。
従来、例えば98年に南アフリカが台湾を切る際、米クリントン政権からは特段の外交圧力はなかった。米国の影響力が最も強い中米の国で「絶対に台湾とは断交しない」と歴代大統領が公約してきたエルサルバドルが18年に台湾から離れたときも、米国の言い分は重視されなかった。
一方、22年1月のホンジュラス大統領の就任式にはバイデン政権のハリス副大統領が列席し、その存在感をアピールした。両国は中米から米国への移民を抑えるプロジェクトで合意し、米国からの投資促進も約束されている。
ホンジュラスと米国との緊密さに中台問題は本来関係がないが、ここに来て、米国と中国の対立が微妙に影響し始めている。「中南米における中国の影響を抑えるため」といった露骨なことをハリス氏は言わない。だが、ホンジュラスとしてはそれなりのそんたくを働かせたのか、早々に「台湾維持」を発表した。中台の外交レースに米国が微妙に絡むケースと言えそうだ。【2月16日 藤原章生氏 WEDGE Infinity】
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なお、前出【2月15日 WEDGE】にもある、腐敗の象徴たるエルナンデス前大統領が15日に逮捕されています。
不逮捕特権云々との関連はわかりません。
****ホンジュラス前大統領を逮捕=麻薬密輸容疑、米が引き渡し要求****
中米ホンジュラスの国家警察は15日、任期満了で1月27日に退任したばかりのエルナンデス前大統領を、米国への麻薬密輸容疑で逮捕した。米司法当局が身柄引き渡しを要求しており、今後、最高裁で可否を協議する。
ホンジュラスは南米から米国への麻薬密輸の中継地。国家警察によると、エルナンデス容疑者は2004年以降、南米産コカイン約500トンの米国への密輸に関与していた疑いがある。任期中には麻薬組織に便宜を図る見返りに、巨額の賄賂を受け取っていたとも報じられている。【2月16日 時事】
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