孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア紛争から2年  憲法改正で権力維持を狙うサーカシビリ大統領

2010-08-14 20:08:43 | 国際情勢

(その美貌と若さで話題のベラ・コバリア経済発展相(28) “flickr”より By Georgian Economy
http://www.flickr.com/photos/53004535@N08/4884583813/# )

【南オセチア:住民流出、『ロシア軍の町』へ】
2008年8月7日、グルジアからの独立を求めていた同国北部の南オセチアにグルジア軍が攻撃、これに対抗してロシア軍が軍事介入して始まったグルジア紛争。ロシア軍はグルジア各地を空爆、やはり独立を要求していた西部のアブハジア自治共和国にもロシア人保護の目的で介入し、グルジア軍を撤退させました。
同月13日にサルコジ仏大統領の調停でロシアとグルジアは和平案に合意。ロシアは26日、南オセチアとアブハジアの独立を承認、今も両地域に駐留を続けています。
そのグルジア紛争から、2年が経過しています。

****グルジア紛争から2年 住民流出 進まぬ復興*****
グルジアの南オセチアとアブハジア自治共和国の分離独立を巡り、ロシアとグルジアが武力衝突したグルジア紛争から2年がたった。ロシアが独立を承認した両地域では復興が進まず、住民の流出が目立っている。一方、国土の統一を目指すグルジアにも解決策はなく、住民の間には閉塞感が漂っている。(トビリシ=星井麻紀)
(中略)
紛争前は人口約8万人だった南オセチア。紛争後の住民流出で、現在は2万~3万人程度とされる。うち、3500人は駐留ロシア軍だ。
グルジア議会のダビタイア副議長は、人口流出は「ロシアの支援が独立支持者の期待通りではなかったため」と分析する。ロシアは紛争後、南オセチアに260億ルーブル(約780億円)の財政支援をしたが、2009年末までに完了する予定だった被災者住宅の建設は、今春までに計画の3分の1も終わっていない。ロシア資本が入ってきてはいるか、雇用にはつながっていない。
グルジア側は、両地域との民間交流を活発化させることで「再統一」につなけたい考えだ。だが、境界はロシア軍の検問が幾重にも設けられ、現実には難しい。ダビタイア氏は「時間がたつほど、この地域は『ロシア軍の町』に変わってしまう」と焦りをにじませた。

ロシアのメドベージェフ大統領は8日、紛争後初めてアブハジア自治共和国を訪問。「ロシアによる独立承認は正しかったと時間が証明した」と自信を見せ、さらなる財政支援を約束した。南オセチアは紛争犠牲者の追悼集会を開催。ココイトイ大統領は「ロシアがいなければ、我々は抹殺されていた」とロシアに感謝する声明を発表した。
一方、グルジアのサアカシュビリ大統領は同日、「占領者の最後の一人がいなくなるまで我々の戦いは続く」とロシアヘの対決姿勢を改めて強調した。(後略)【8月11日 朝日】
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【グルジア:住民間の交流で再統一へ】
“グルジア政府は7月、両地域で社会、経済など4分野の支援・協力を進める「国家戦賂」を採択。両地域の地位問題などの解決を待たずに住民間の交流を取り戻すことで再統一の機運を作る計画”【同上】とのことです。
両地域を放棄することもできない、また、軍事的な手段が閉ざされたグルジアに残された選択肢としては、人道支援を展開することで領土再統一を果たすという姿勢を取り続けるしかない・・・というのが実際のところでしょう。

“紛争前は人口約8万人だった南オセチア。紛争後の住民流出で、現在は2万~3万人程度とされる”というのは、よくわからない南オセチアの内情を伝える数字としては興味深いものがあります。
当然、この住民流出には、南オセチアに暮らしていたグルジア人の紛争を逃れるための流出も含まれています。

約3千戸の簡易住宅が並ぶグルジア側の「避難民村」ツェロバニ村では、グルジア政府が避難民に月100ラリ(約6000円)を支給し、住居費や電気、ガス、水道代は無料です。居住区では学校や保育園などの建設も行われています。

南オセチア当局は紛争後、「人道的な特別措置」としてグルジア人避難民が南オセチアの自宅に一時的に戻ったり、親類や知人を訪ねるため「国境」の自由通過を認めてきました。しかし、昨年8月に境界で緊張が再び高まった時期に、南オセチア当局は「新型インフルエンザ流入の恐れ」を理由にすべての「国境」を閉鎖すると発表しています。現在はどうなっているのでしょうか?
南オセチア側のオセット人住民は「グルジア政府は避難民を生活保障でつなぎ留め、我々が帰還を拒んでいるかのように吹聴している」とグルジア側を非難していました。【09年8月7日 毎日より】
 
いずれにしても、互いに大きな犠牲を出した紛争のあとだけに、グルジア側の再統一の思惑が実現する余地はそう大きくはないように思えます。
紛争後ではなく、紛争前に両地域への手厚い支援・交流を行っていれば、和解へ向けた道もあったろうに・・・とも思われます。

【強化されるロシア軍事支援】
両地域に駐留するロシアは、軍事支援を強化しています。
****ロシア:対空ミサイル配備 グルジアから独立求める2地域****
ロシア軍は11日までに、グルジアからの独立承認を求めるアブハジアで、高性能の対空ミサイルシステム「S300」を配備した。ロシアは同じくグルジアからの独立承認を求める南オセチアでも対空ミサイルシステムを配備し、両地域への軍事支援を強化している。
インタファクス通信などによると、ロシアのゼーリン空軍総司令官は配備について「(両地域の)領土を守るだけではなく、領空侵犯を防ぎ、違法侵犯する航空機を破壊する狙いがある」と言明。グルジアが08年の紛争前にアブハジア上空に無人偵察機を飛ばしたことがあることから、けん制する狙いがある。
一方、ロイター通信によると、グルジア国家安全保障委員会のトケシェラシビリ書記は、ミサイル配備について「ロシアは南オセチアとアブハジアで軍を強化させている」と批判した。【8月12日 毎日】
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【改憲で首相へ】
ロシア政府はグルジアのサーカシビリ大統領が退任しない限り関係改善に応じない方針ですが、サーカシビリ氏は13年の大統領の任期切れ後も首相に転じて権力を維持するとの観測が浮上、波紋を広げています。
****グルジア:ロシアとの軍事衝突から2年 緊張緩和進まず*****
・・・・サーカシビリ氏の与党「統一国民運動」が議席の8割を占めるグルジア国会は先月、大統領の権限を弱め、議院内閣制に移行して首相の権限を強化する憲法改正案の審議を今秋から始めることを決めた。サーカシビリ大統領は13年で2期10年の任期を満了するが、憲法で3選は禁止されている。このため、大統領退任後、強い権限を持つ首相へ転じるための環境整備とみられている。憲法改正案がまとまれば、与党の圧倒的多数で可決は確実視されている。
このような動きに対し、野党側は「サーカシビリ氏個人のための憲法改正を許してはならない」(ブルジャナゼ前国会議長)と憲法改正反対を訴える。ただし野党連合は昨春、南オセチアに進攻し紛争のきっかけを作ったサーカシビリ氏の責任を追及し、退陣を求める運動を起こしたが、失敗に終わった。今年5月のトビリシ市長選でも「サーカシビリ氏の後継者」といわれるウグラバ市長が再選しており、改憲阻止がどこまで国民の支持を得られるか不透明だ。・・・・【8月10日 毎日】
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大統領から首相に転じて権力掌握を維持するロシア・プーチン首相と同じ方法です。
フィリピンのアロヨ前大統領も同様の方法を検討したとも言われており、最近この方法が流行りです。

【問われるサーカシビリ大統領の資質】
記事にもあるように、09年4月には、ロシアとの軍事衝突を招き、結果としてグルジア経済に大きな打撃を与えたとして、サーカシビリ大統領の退陣を迫る主要野党による大規模な抗議集会がおこなわれました。
また、翌5月には、軍の一部によるクーデター計画発覚や機甲部隊の反乱など、不穏な動きも報じられていました。

こうした反大統領勢力はサーカシビリ大統領を追い詰めるところまではいかず、現在に至っていますが、ただ、サーカシビリ大統領に関連して報じられるニュースは、あまりいいものは少ないようです。
今年3月には、政権寄りのTV放送局が視聴者への十分な断りもなく、「ロシア軍が首都トビリシに侵攻し、サーカシビリ大統領が殺害された」との仮想ニュース、過去のロシア軍戦車の映像など使ったニセ番組を放映、国民がパニックに陥る「事件」がありました。
野党指導者がロシアと共謀したと受け取れる内容で、野党側からは「このニセ番組の1秒1秒すべてを、サーカシビリ(大統領)は承認しているはずだ」との批判がありました。実際、大統領は「非常に不愉快な報道だったが、最も不愉快な点はこれが実際に起こりうる事態に非常に近かったこと、そしてグルジアの敵が考えつきそうなことに近かったことだ」と番組を擁護するような発言をしています。

6月には、ポーランド大統領ら96人が乗った政府専用機がロシア西部カチンの近くで墜落した事件を受けて、大統領が自分の専用機に緊急脱出装置を約700万ドル(約6億3千万円)かけて設置、国家予算の浪費だとして野党からの批判を浴びました。

7月末には、任命されたばかりのベラ・コバリア経済発展相(28)が、ナイトクラブでセクシーポーズを取っている写真がスクープされ、スキャンダルになっています。ロシアのメディアは「ストリップから大臣へ」(露大衆紙)などと報じています。
“1996年に一家でカナダに移住したコバリア氏は父親が経営するパン屋を手伝っていたが、今年2月に冬季五輪の応援で訪れたサアカシビリ大統領に会い、グルジア帰国を決意。そのわずか数か月後に大臣に任命され、あまりの若さと美貌で注目された”【8月1日 読売】
先ごろアメリカで話題になったロシアスパイといい、美しい女性はとかく話題になります。
コバリア氏の報道官はAFP通信に、学生時代だった10年前に米国で撮影された写真だと反論、「こんなゴミにとらわれず職務を遂行する」と批判を一蹴しています。

過去の写真自体は(あまり品がないものであっても)どうでもいいことですが、全く経験のない28歳女性が、パン屋手伝いから、(経済再建が急務とされるグルジアで)帰国後数カ月で大臣に・・・というのはどうでしょうか?
“自身も大統領就任時に36歳に過ぎなかったサアカシュヴァリが若年の大臣を起用したがる傾向を持ち、また、若い世代を権力の中枢に引き上げることによってグルジアをかつてのソ連支配時代と決別させる意図を公言している”との有識者指摘もあるとか【ウィキペディア】
(批判が起きることを承知で大臣を受けるコバリア氏の自信のほども、想像を絶するものがあります)

一連の報道をみていると、サーカシビリ大統領の軽々に物事を判断するような性格も窺えます。ロシアとの紛争の引き金を引くことになったのもそんな資質が関係しているのではないでしょうか。


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