孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン洪水被害、日本も自衛隊ヘリ派遣 イスラム武装勢力は外国援助を拒否 いっそアフガンは?

2010-08-13 22:50:36 | 国際情勢

(パキスタンで洪水被害者救助にあたる米軍とパキスタン軍 “flickr”より By The U.S. Army http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/4878605031/)

【援助合戦】
パキスタン北西部を襲った大雨に伴う80年ぶりとも言われる洪水被害は、北西部だけでなく、パキスタンを南北に流れるインダス川下流域の中部パンジャブ州や南部シンド州にも広がっています。
国連などによると、これまでに少なくとも1600人が死亡。被災者は1400万人を超え、このうち少なくとも600万人が速やかな支援を必要としています。 

しかし、政府の救援・援助活動は被害の拡大に追いついていないのが現状のようです。
洪水被害が拡大していた今月1日にザルダリ大統領がフランスとイギリスへ外遊に出たことも、国民の不満に油を注ぐかたちになっていることは、8月7日ブログ「パキスタン タリバン支援の「二枚舌」 民生安定は二の次の国軍・政治家」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100807) でも取り上げたところです。
外遊の目的の一つは、妻の故ブット元首相との間の一人息子で、オックスフォード大を卒業したばかりの長男ビラワル氏(21)が7日に英中部で初演説し政治家デビューを果たすのを見届けることだとも。(結局、ビラワル氏は高まる批判を受け、初演説を取りやめたそうです。)【8月7日 朝日より】

こうした状況で、アメリカとイスラム過激派勢力の“援助合戦”の様相も呈しているとか。
アメリカは10日、新たに2000万ドル(約17億円)の追加食糧支援を発表し、同国の食糧支援の合計は5500万ドル(約47億円)になっています。また、アメリカ政府は、同国のヘリコプターが1000人を超えるパキスタン人を救助したと発表しています。【8月11日 AFPより】

アメリカは、人道上の配慮に加え、対テロ戦を有利に展開するため、パキスタンに広がる反米感情を押さえ込みたいとの考えから、洪水被害者援助に積極的に取り組んでいますが、一方で、もたつく政府対応をよそにアルカイダやタリバン、イスラム過激派ラシュカレトイバとの関係が指摘されるイスラム系団体が、食糧や医薬品などの提供を始めていると伝えられています。【8月6日 産経より】

【TTP:「外国の援助を受け入れるべきではない」】
被害の中心である北西部はイスラム過激派の勢力が強いエリアでもあり、外国援助に対する拒絶、妨害の動きも報じられています。
****パキスタン水害:「人道救援妨害」の懸念高まる*****
パキスタンで続く史上最悪級の大雨洪水被害で、最大被災地の北西部に拠点を置く武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が政府に対し、「外国の援助を受け入れるべきではない」と脅していることがわかった。外国軍部隊による救援活動を念頭に置いた発言とみられる。TTPは北西部で活動する欧米系援助団体も敵視しており、米国主導の「対テロ」戦の長期化で、05年のパキスタン大地震では見られなかった「人道救援への妨害」の懸念が高まっている。

地元テレビによると、TTPのアザム・タリク報道官が10日、「(TTPは)被災者を救援できる」と声明を出し、外国からの救援を拒否した。実際に攻撃するかどうかは言及しなかったが、日本など各国に救援要請を始めた政府への強いけん制となった。
TTPが脅迫した背景には、米軍など外国軍が国内で活動することへの警戒心とともに、洪水が起きているインダス川流域が、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍の物資輸送路と重なっているためだ。TTPと共闘するアフガンの旧支配勢力タリバン幹部は11日、犠牲者への追悼と同時に「NATO輸送路が冠水したことを歓迎する」との声明を出した。
その一方で、北部地域やインダス川沿いの被災地では、数十万人が道路や橋の崩落で孤立。政府による死傷者数などの被害調査も進んでいない。そうした地域の多くが武装勢力の活動域とも重なっていて、「雨と治安」という二重の障壁が救援活動を阻んでいる。
しかし、政府や「対テロ」同盟諸国側、武装勢力側からは現在のところ、人命救助を優先するための「停戦」などを模索する動きは見られない。

水害はパキスタンだけでコントロールできない状況に陥っている。流域で決壊状態にあるインダス川の大規模支流が、大雨の続くアフガンやインドから流入しているためだ。インダス川とチナブ川の合流地点では市域の9割が水没した。
情報省によると、8万人以上が死亡したパキスタン大地震の際は、米軍もアフガン国境地域で救援活動を行ったが、武装勢力が脅迫や攻撃に乗り出すことはなかった。インドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方の国境を救援物資輸送のため開けるなど、周辺国との人道協調も目立った。
しかし今回は、政府による国際社会への救援要請が遅れたことや治安悪化への懸念を背景に、各国による救援の動きは遅い。【8月12日 毎日】
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TTPのタリク報道官は、「米国その他の外国による援助は征服につながる」、「米国の援助を受けるべきではない。受け取らないのであれば、われわれが洪水被災者のための救済金として2000万ドル(約17億円)を提供できると」述べ、アメリカが10日に表明した援助額に匹敵する資金を自分たちが出せると断言しています。
さらに、「政府がメンバーを一切逮捕しないと約束すれば、ハキムラ・メスード司令官の指揮の下、われわれ独自の救援物資を人びとに届けるつもりだ」とも語っています。
パキスタン政府の救援活動が遅々として進まないなか、被災地ではイスラム教系慈善団体の存在感が強まっています。【8月11日 AFPより】

【日本:カラチへ自衛隊ヘリ派遣】
日本も援助活動のため、自衛隊ヘリ部隊を派遣する方針です。
****パキスタン:自衛隊ヘリ部隊派遣へ 大洪水で要請受け*****
政府は、パキスタンでの大洪水を受け、国際緊急援助隊派遣法に基づき、自衛隊のヘリコプター部隊を派遣する検討に入った。(中略)
外務省などによると、パキスタン政府から10日、日本政府に対し、援助物資輸送などのためヘリ派遣の要請があった。米国政府からも、現地の被災状況の説明や、同国が救援のためヘリを派遣したことなどが伝えられた。
(中略)大洪水の被災地となったパキスタン北西部は、イスラム武装勢力によるテロが相次ぎ、治安が不安定な地域。対テロ戦争の長期化で貧困層が増大し、これに大洪水の災害が加わり、政情不安に拍車をかけている。
ただ、日本政府は05年、60万軒以上が被災したパキスタン大地震の際、同法に基づき陸上自衛隊のUH1ヘリ6機を約40日間派遣、支援物資の輸送などの救援活動を行った実績があり、今回も復興を支援したい考え。【8月12日 毎日】
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隣国アフガニスタンで医療活動に従事しているキリスト教系非政府組織(NGO)「国際支援ミッション(IAM)」の医師ら10人が射殺された事件(事件後、タリバンが犯行を認め、一行がアフガン人に対しキリスト教への改宗を企てていたと主張しています)があったばかりですので、TTPの外国援助拒否発言から、日本などの援助活動の危険性も危惧されました。
しかし、その後の報道によれば、日本の活動エリアはそうした危険性が高い北西部地域ではなく、比較的安全な南部地域になるようです。

****パキスタンへ調査団 自衛隊洪水救援 政府が今夜派遣****
死者1600人、被災者1400万人に上るパキスタンの洪水被害を受け、政府が国際緊急援助隊派遣法に基づく自衛隊派遣に向け、13日夜に政府調査団を派遣することが分かった。来週末にもヘリコプター部隊を派遣する方針で、同国南部のカラチで被災住民や救援物資の輸送活動を行うことを想定している。
(中略)政府調査団と調査チームの報告を待ち、政府は自衛隊派遣を正式決定する。
(中略)北部は西隣のアフガニスタンと同様に、イスラム武装勢力によるテロが相次ぐなど治安が不安定なため、最南部のカラチで活動する方向で、パキスタン政府や米政府と調整する。(後略)【8月13日 産経】
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最大都市カラチはインダス川河口の海に面した都市ですが、そんな南部でも洪水被害は大きいのでしょうか?
カラチの属するシンド州北部は大きな被害も出ているようですが・・・。
もちろん派遣部隊の安全は大事ですが、現地の人々から感謝されるような有意義な活動を期待します。

7月には、外務省などが検討してきた国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊ヘリの派遣(来年1月のスーダン南部の独立を問う住民投票での支援)について、防衛省がこれを拒否し見送りになりました。
“北沢俊美防衛相が、輸送や安全面での懸念の割に自衛隊の存在感を示す効果が薄いことから、派遣に強く反対。費用に100億円、準備に半年間、といった防衛省の試算を示したうえで「準備が間に合わない」と岡田克也外相に通告。”【7月13日 朝日】
朝日コラムで、“自衛隊の存在感を示せるか云々ではなく、現地が必要としているかどうかが重要だろう。そうした活動による信頼の積み重ねが日本の将来の外交につながるのではないか・・・”といった趣旨の批判がありましたが同感です。

【タリバン:「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」】
洪水被害は隣国アフガニスタンでも起きています。
タリバンは「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」という言い方をしています。
****アフガニスタン:大雨洪水被害 タリバンも支援拒否 「人道休戦」を否定****
アフガニスタンなどで続く大雨洪水被害は12日、アフガン東部を中心に計114人の死亡が確認された。被害は拡大する見込みだが、旧支配勢力タリバン報道官は同日、電話取材に「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」と語り、米軍などとの「人道休戦」の可能性を否定した。
対米闘争で連携するパキスタンの武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)と同様、外国軍の救援活動への妨害を示唆したものだ。ただ、「被災者には国際的な援助が必要だ。アフガンに軍隊を派遣していない国の救援は受け入れたい」とも述べ、柔軟姿勢も見せた。
被害が集中する東部地域は、パキスタン北西部とともにタリバンの影響力が強く、政府は多くの地域で被害調査すらできていない。救援当局者は電話取材に「救援から孤立する被災者が増えかねない」と危機感を示した。【8月13日 毎日】
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戦闘部隊を派遣していない日本なら援助活動も受け入れられるのではないでようか?タリバンも国際援助自体は必要としているようですので。
援助活動を通じてのタリバン勢力との関係をつくることは、今後焦点となってくるであろうタリバンとの和解協議において、それこそ日本の“存在感”を示すことにもつながるのではないでしょうか?


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