孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア産石油・ガス取引をめぐる買い手・売り手双方の思惑が絡み合う混沌状態

2022-05-31 23:20:16 | 資源・エネルギー

(「サハリン2」の洋上施設【ウィキペディア】)

【EUのロシア産石油禁輸 ハンガリー譲らず全面禁輸には至らず】
EUは化石燃料(石油・ガス・石炭)の脱ロシア依存方針を3月24,25日に開催された首脳会議で決定し、行政を担う欧州委員会が5月4日、原油は6か月以内、精製した石油製品はことしの年末までに、輸入を禁止する制裁案を打ち出しています。

しかし制裁の発動には27の全加盟国の一致が必要で、供給の多くをロシアに頼るハンガリーやスロバキアが反発、調整が続いていました。

30日の首脳会議ではロシア産石油について大半の輸入を禁止することで合意したものの、ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至りませんでした。一方で、「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」(フォンデアライエン委員長)とも。

****EU、ロシア産石油禁輸で合意 パイプライン経由は対象外****
欧州連合は30日、ベルギー・ブリュッセルで首脳会議を開き、ロシア産石油について、大半の輸入を禁止することで合意した。ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至らなかった。
 
全面禁輸をめぐっては、これまで数週間にわたって折衝が続けられてきた。しかし、自国経済への打撃を懸念するハンガリーが強く抵抗したため、パイプラインによる輸入を禁輸対象から外すことで妥協が図られた。
 
シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は首脳会議中に「ロシア産石油の3分の2以上が直ちに(禁輸)対象となる。ロシアの戦費調達源を断つものだ」とツイッターに投稿。「ロシアに戦争を終わらせるよう最大限の圧力をかけることになる」と述べた。
 
ドイツとポーランドもロシア産石油をパイプライン経由で輸入しているが、両国は輸入停止方針を打ち出している。このため欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、EU全体で「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」と語った。
 
EUの対ロシア制裁は今回で第6弾となる。今総会では石油禁輸のほか、ロシア最大手銀行ズベルバンクを国際銀行間通信協会(スイフト)の決済網から排除する措置や、ロシア国営テレビ局3社への制裁、戦争犯罪を問われている個人のブラックリスト掲載なども承認された。 【5月31日 AFP】
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まずは海上輸送分から禁輸という妥協です。
パイプライン経由分についても、ドイツなどが独自に取引を止めるということですが、ハンガリーなどにパイプライン経由でのロシア産石油輸入を認める期間は、明らかにされていません。

ハンガリー・オルバン政権がEU内にあって独仏の西欧的民主主義とは異なる、むしろロシア・中国を称賛するような独自の政治的価値観を掲げて独仏などと対立していることはこれまでもたびたび取り上げてきました。

ハンガリーがロシア産石油に大きく頼る状況であることは事実ですが、今回の執拗な抵抗は、上記のようなEU主要国との政治的対立が背景にあると想像されます。

****なぜハンガリーはEUの「ロシア産石油の全面禁輸」を阻止したのか その思惑とウラ事情****
(中略)EUの一員で、NATO=北大西洋条約機構の加盟国でもあるハンガリーは内陸国。ロシア産石油への依存度は6割近くにのぼり、輸入禁止措置は経済に大きな影響をもたらします。(中略)

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「これはエネルギー問題ではなく、何よりも政治的問題です」

ロシアのプーチン大統領と近い関係にあるとされるオルバン首相。また、独特の事情も。

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「オルバン首相はEUから(資金拠出への)譲歩を引き出すため、制裁を利用しているのです」

実はハンガリー、去年の性的少数者への差別的な法律の施行や、司法・メディアへの介入が原因でEUとの関係が悪化しています。法の支配に反するとして、EUからの一部の資金が拠出されない状況ですが、今回はEUの全会一致のルールを逆手に自国の主張を押し切った形です。

大きいとは言えないハンガリーの存在が、EU全体に影響を及ぼす事態となっています。【5月31日 TBS NEWS】
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また、対ロシア禁輸に限っても、“ヨーロッパではロシアからの原油や天然ガスがなくては困る国が多く、表向きはロシアへの経済制裁に同意するポーズを見せているものの、裏ではロシアとの取引を続けている国もあり、ハンガリー、チェコ、ブルガリア、スロバキアなどが、その典型的な例です。”【5月30日 浜田かずゆき氏 MAG2NEWS】というように、各国(特に中東欧諸国)の事情は異なります。

【国内事情優先のインド アメリカは“腫れ物に触る”ような慎重な扱い】
更に、世界的に見ると、対ロシア禁輸制裁に参加せず、逆に安価になったロシア産石油購入を急拡大させているとして注目(一部からは批判)されているのがインド。

****インドのロシア産原油輸入、ウクライナ侵攻以降急増****
リフィニティブ・アイコンのデータによると、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、インドは3400万バレルのロシア産原油を輸入したことが分かった。他の製品を含むロシアからの輸入総額は2021年の同時期と比較して3倍以上となっている。

世界第3位の石油輸入国であるインドは、輸入代金削減のために値崩れの激しいロシア産原油に目をつけた。
インドは今月、2400万バレル以上のロシア産原油を輸入。4月の720万バレル、3月の約300万バレルから急増。6月には約2800万バレルを輸入する予定だ。

政府統計によると、エネルギー輸入の急増により、2月24日から5月26日までのインドのロシアからの物品輸入総額は、昨年同期の19億9000万ドルから64億ドルに増加した。

西側諸国が侵攻に対して制裁に乗り出す中、インドはロシアのエネルギーを継続して輸入していると非難されているが、これらの輸入は国全体の需要のほんの一部に過ぎないとして批判を一蹴。急な輸入停止は消費者のコストを押し上げると主張し、「安価な」ロシア産原油を輸入し続けるとしている。【5月31日 ロイター】
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“米財務省は、ローゼンバーグ・テロ資金調達・金融犯罪担当次官補が24日にインドに出発したと発表した。ウクライナ侵攻を受けてロシアに制裁を科す中、インドのロシア産原油購入抑制を目指し、政府当局者や企業などと協議する。”【5月25日 ロイター】と、アメリカは自制を求めていますが・・・・

アメリカにとってインドは対中国包囲網クアッドの重要メンバーであり、“腫れ物に触る”ような慎重な扱いも。
インドも、対中国戦略を考えるとアメリカと決定的に対立することは望んでいませんが、ロシア制裁不参加については、兵器のロシア依存などもあって、国内事情優先を貫くかまえのようです。
米印ともに“微妙”なところ。

****対中包囲網に期待のインド 不安材料は対露融和姿勢****
インドにとり、中国との対立が長期化する中で、対中包囲網として日米豪印の協力枠組み「クアッド」の重要性は増している。インドはウクライナ侵攻をめぐって対露融和姿勢を続け、国際社会に失望感も漂う。モディ首相には首脳会合を通じ、自由主義陣営の一員としての立場を強くアピールする狙いもあった。

インドにとって、安全保障面の最大の懸案は、2020年の国境付近での衝突を契機に関係が悪化した中国への対応だ。中国は現在も係争地付近で軍事用インフラの整備を進めており、戦力で劣るインドの対応は後手に回っている。

今回、多国間の自由貿易協定に消極的なモディ氏が、米国の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」参加を表明したのは、米国などとの関係強化を通じ対中包囲網を強固にしたい思惑もある。

ただ、インドの対露融和姿勢はクアッドの結束の不安材料となりかねない。米国は直接の批判は避けているが、インドによるロシア産石油購入について「急拡大は望まない」と遠回しにくぎを刺している。

「世界最大の民主主義国」として存在感を示し、対外投資を呼び込んできただけに、モディ氏は自国への反発拡大は慎重に避けたい考えがある。モディ氏は24日の首脳会合で「われわれの相互信頼と決意は、民主主義勢力に新たなエネルギーを与えている」と述べ、民主主義国家としての立場を改めて強調した。【5月24日 産経】
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【ロシア ガスを政治的圧力手段として“活用”】
石油以上にロシアが政治的圧力手段として“活用”しているように見えるのが天然ガス。

NATO加盟に踏み切ったフィンランドに対しては・・・

****ロシア、フィンランドへのガス供給停止***
フィンランドの国営ガス会社ガスムは21日、ロシアからの天然ガス供給が同日停止されたと発表した。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムはガスの代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、フィンランドは拒否していた。
 
ガスムは「供給契約に基づき、(ロシアから)フィンランドへの天然ガス供給は停止された」とし、代わりに同国とエストニアを結ぶパイプライン「バルティック・コネクター」経由で別の供給源から天然ガスを供給するとしている。 【5月21日 AFP】
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すでに4月段階でポーランドとブルガリアに対しても供給を停止しています。

****ロシア、ポーランドとブルガリアへのガス供給停止…「ルーブル払い」拒否を理由に****
ロシア国営ガス会社ガスプロムは27日、ポーランドとブルガリアに対し、パイプライン経由の天然ガス供給を停止したと発表した。

ロシア側はガス代金の支払いを自国通貨ルーブルで求めているが、ポーランドとブルガリア側が拒否したためだ。2国は当面、国内のガス供給に影響はないとしている。(後略)【4月27日 読売】
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更に、オランダ・デンマークに対しても。

****ロシア、オランダへのガス供給停止へ****
オランダの一部国営ガス企業ガステラは30日、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムから、ガス供給を31日に停止するとの通知を受けたと発表した。
 
ガスプロムは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が科した制裁を回避するため、代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、ガステラは拒否していた。
 
10月にかけて20億立方メートル分の供給が停止される見通しだが、ガステラはこれを予期して他の供給元からガスを購入していたと説明。オランダのロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相はツイッターに「一般家庭へのガス供給には影響しない」と投稿した。
 
オランダ政府によると、同国はガス供給の約15%をロシアに頼っており、年間約60億立方メートルを購入している。ロシアは他の欧州諸国に対し同様の措置を取ってきており、21日にはフィンランドへのガス供給を停止していた。 【5月31日 AFP】
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****デンマークのエネルギー大手、ロシアからのガス供給停止を警告****
デンマークのエネルギー大手エルステッドは30日、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの輸出部門、ガスプロム・エクスポートが同社へのガス供給を停止する可能性があると警告した。ルーブル建てでの決済を拒否しているためという。

デンマークエネルギー庁は、ロシアがエルステッドへのガス販売を停止しても供給には直ちに影響はないとしている。また、ガスが不足した場合の緊急計画を準備しているという。【5月31日 ロイター】
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オランダ、デンマークは大きな影響はないとしていますが、そこらは国によって事情は異なります。

****イタリア、ロシア産ガス輸入停止ならGDPに2%打撃=経済団体****
イタリアの経済団体コンフィンドゥストリアは、ロシアからの天然ガス輸入が6月に停止された場合、今年と来年の国内総生産(GDP)が年平均で約2%の打撃を受けるとの見通しを示した。

「ロシアからのガス輸入が止まれば、既に悪化しているイタリア経済に非常に強い影響を及ぼす可能性がある」とし、産業界向けの大規模なガス供給不足やエネルギーコストの一段の上昇がマイナス影響をもたらすと指摘した。

イタリアが昨年輸入した天然ガスのうち、ロシア産は最大の40%を占めた。【5月30日 ロイター】
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ドイツにとっても、すでに完成したにもかかわらず、アメリカの強い要請もあって事業停止している「ノルドストリーム2」の問題がありましたが、ウクライナはドイツ政府に対し、「ノルドストリーム1」経由のガス輸送も停止するか、大幅に削減するよう要請したと明らかにしています。

ウクライナは代替経路の提供が可能としていますが、ドイツからすれば「ノルドストリーム」は、ガス取引においてこれまであまり誠実とは言い難い(ロシア以上に信用できない)ウクライナを避けるために進めてきた事業であり、ウクライナ経由に代替するのは、ウクライナに生殺与奪の権利を与えるような話にも。

一方、ロシアは、ロシアの意向に沿う国にはガス供給を確約。

****セルビア、ロシアと3年のガス供給で合意 首脳が電話会談***
セルビアのブチッチ大統領は29日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、新たに3年の天然ガス供給契約で合意したと明らかにした。(中略)セルビアはガスプロムとの10年のガス供給契約が今月末で期限切れとなる。

ブチッチ氏は、セルビア国内のガス貯蔵設備拡大についてプーチン氏と協議したことも明らかにした。

欧州連合(EU)加盟を目指すセルビアに対し、西側諸国は外交政策でEUと歩調を合わせロシアに制裁を科すよう求めている。【5月30日 ロイター】
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【調達の多様化が難しい天然ガス 買い手・売り手とも“仁義なき戦い”状態】
天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源であるとの指摘も。

****現実的にはこんなに困難、欧州が打ち出すエネルギー「脱ロシア依存」の真意****
(中略)
天然ガスを大量に産出できる国は限られる
(中略)ロシアから欧州にパイプラインで輸出されている天然ガスの量を考えると、短期間で再生可能エネに置き換えるのは困難である。再生可能エネのインフラが整うまでの期間については、他の地域からの天然ガス調達に頼らざるを得ないだろう。だが、ロシア以外の調達先を確保するというのは、それほど単純な話ではないのだ。
 
実は天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源である。全世界の天然ガス埋蔵量の大半(約70%)は、米国、ロシア、トルクメニスタン、イラン、カタールの5カ国で占められている。ロシア以外の国から大量調達するにしても、中央アジアの北朝鮮と呼ばれるトルクメニスタンは中国との関係が深く、欧州への供給は容易ではない。
 
イランは依然として米国の制裁対象となっていることに加え、産出する天然ガスの多くが国内向けであり、すぐに輸出を拡大できるわけではない。(中略)

原発の増設と再生可能エネは消費者から見れば同じ
しかも欧州の場合、多くがパイプラインによる輸入となっており、液化天然ガス(LNG)のインフラは乏しい。LNGに切り換える場合、タンカーが接岸する港湾などを整備する必要があるほか、輸送コストの問題も生じる。(中略)

欧州では必要に応じて原発を増設することも検討されているが、原発を増設しても天然ガス不足の問題をすぐに解決できるわけではない。日本と同様、欧州においてもオール電化という家は少なく、ガスは家の暖房や給水に使われるケースが圧倒的に多いからだ。
 
原発と再生可能エネルギーは、環境問題など政治的には大きな違いがあるかもしれないが、物理的には電力を何によって作り出すのかの違いがあるに過ぎず、消費者側から見れば、ガスや石油のインフラから電力インフラへの切り換えが必要という点では何も変わらない。家庭のインフラを変換するには相応の時間がかかるので、結局のところ再生可能エネルギーへのシフトと同じ問題を抱えることになる。(後略)【5月30日 加谷 珪一氏 JBpress】
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液化天然ガス(LNG)を天然ガスに転換する設備をめぐっては、すでに奪い合いが起きており、確保に乗り出す欧州によってオーストラリアが押し出されるという事態も。

****欧州の天然ガス争奪戦、豪のLNG輸入計画がピンチ****
欧州諸国がロシアに代わる天然ガス供給源の確保を急ぐ中、オーストラリアの液化天然ガス(LNG)輸入計画が脅かされている。LNGを天然ガスに転換する設備を欧州諸国に抑えられたためで、人口の多いオーストラリア南西部は2年後に天然ガス不足に見舞われかねない。(後略)【5月312日 ロイター】
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また、一昨日ブログでも取り上げたように、ロシアがイランから顧客を奪うといった競争も。

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。(後略)【5月25日 日経】
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買う方も、売る方も、“仁義なき戦い”状態のようですが、そういう状況もあっての日本の対応でしょう。日本外交にしては珍しい自己主張です。

****「サハリン2」、どけと言われてもどかない=萩生田経産相****
 萩生田光一経産相は31日の参院予算委員会で、日ロ合弁の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」について、「どけと言われてもどかない」と述べ、日本として権益を守る意向を改めて示した。 鈴木宗男委員(維)への答弁。

鈴木委員は、ロシアのウクライナ侵略に関連し「サハリン2(の日本権益)は守られるのか」と質問。萩生田経産相は「サハリン2は、先人が苦労して獲得した権益。地主はロシアかもしれないが、借地権や(液化、輸送)プラントは日本政府や日本企業が保有している」として、権益を維持する意志を示した。【5月31日 ロイター】
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欧州などの「買ってやらないぞ」「でも欲しい」、インドなどの「安くするなら買うよ」、ロシアの「売ってやるものか」「でもどこかに売らなきゃ」・・・いろんなベクトルが絡み合うエネルギー取引事情です。
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