孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU ロシア産石油価格上限設定に続きガスも検討 EUvs.ロシア「エネルギー大戦」の懸念も

2022-09-09 23:17:43 | 資源・エネルギー
【WTI原油先物チャート|チャート広場 (chartpark.com) 】

【下落への需要減少圧力がかかる原油価格動向】
9月1日からトルコ観光に出かけ、今日帰宅。
この間の情報入手が限られていたので、いささか浦島太郎の感も。

旅行中に円は1ドル=145円付近まで一気に円安が加速し、その後は若干戻して142円付近に。(ささいな個人的問題ですが、旅行する者には円安はこたえます)

一方、原油価格は8月6日ブログ「“意外”にも、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っている原油・穀物価格」でも取り上げたように、すでに下落傾向にありましたが、その後も弱含み基調で、旅行中には米WTI先物で1バレル=81ドル台をつけたようです。ただ、その後戻して今現在の足元は85~86ドル付近。

基本的には世界経済の原則による需要減少が基調になっているようです。

****原油価格の下落を心配し始めたOPECプラス****
米WTI原油先物価格は9月7日、1バレル=81ドル台に急落し、8カ月ぶりの安値となった。供給面の不安がくすぶっているものの、各国の中央銀行による強力な金融引き締めや中国のロックダウンなどが需要懸念を高め、相場の押し下げ要因となっている。原油価格は過去3カ月で20%下落している。

OPECプラスが「日量10万バレルの減産」決定
このような状況下でOPECとロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスは、9月5日に閣僚級会議を開催した。サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相が8月下旬に1年以上ぶりの減産を示唆していたことから、市場の関心を集めていた。

OPECプラスの決定は「10月から生産目標を日量10万バレル減らす」というものだった。原油価格の引き下げを求めるバイデン大統領の求めに応じて9月から増産した分(日量10万バレル)を帳消しにした形だ。

米国では11月の中間選挙に向けて、インフレ対策が争点の1つとなっている。米国のガソリン価格は6月中旬に史上最高値を記録した(1ガロン=5ドル超え)が、直近ではロシアのウクライナ侵攻前の水準に戻りつつある。そのせいだろうか、米国政府はOPECプラスの決定に不満の意を示すことはなかった。

「日量10万バレルの減産」は象徴的な意味合いが強いが、注目すべきはOPECプラスが「生産を調整するために次回10月5日の会合までにいつでも会合を開催することができる」ことに合意したことだ。市場関係者は「OPECプラスが価格注視の姿勢に戻ったシグナルだ」と受け止めている。

原油需要鈍化で供給過剰が続くか
前述のサウジアラビアのエネルギー相は、減産の理由について「核合意再建に伴うイラン産原油の禁輸制裁の解除」を挙げていた。制裁が解除されれば、イランは日量100万バレル以上の増産が可能だと言われている。

だが、サウジアラビアの本当の懸念は、原油市場で先物と現物の価格差が広がっていることにあるようだ。

先物市場ではウクライナ危機で相場が急変し、追加証拠金の支払いや巨額の損失を被った業者の撤退が相次いだことから、流動性が低下し、価格の乱高下が日常化している。世界景気の減退や米利上げに対する警戒感から7月中旬以降、先物価格はヘッジファンドなどの投機筋が主導する形で下落している。

サウジアラビアをはじめとする産油国は「現物の需要が引き続き堅調である」と見ているが、9月に入り米国ではドライブシーズンが終了する。中国でも新型コロナの感染が再拡大し、一部の都市で都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど経済活動が抑制されつつある。インフレ抑制のための積極的な金融引き締めは今後原油需要を鈍化させることは確実な情勢だ。(中略)

サウジアラビアのエネルギー相の脳裏には2014年後半から2015年にかけての原油価格の暴落の記憶がよぎっているのかもしれない。米国の利上げとシェールオイル増産による供給過剰が重なり、原油価格は1バレル=90ドル台から40ドル台に急落したことは記憶に新しい。

いずれにせよ、サウジアラビアをはじめとする産油国が「原油価格の下落」を危惧しだしたことは間違いないだろう。(後略)【9月9日 藤 和彦氏 JBpress】
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【G7はロシア産原油および石油製品の価格に上限設定 ロシア「ガスも石油も石炭も供給しない」】
こうしたなかで、今後の原油価格動向に影響しそうなのが、主要7カ国(G7)がロシアに対する追加制裁としてロシア産原油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意したことです。

原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む(うまくいけば)「一石二鳥」の戦略です。

****G7財務相、ロシア産石油価格の上限設定で合意****
主要7カ国(G7)の財務相は2日開催したオンライン会合で、ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意した。原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む。

しかし、バレル当たりの価格上限については「技術的インプットの範囲に基づき」今後詰めるとし、重要な詳細は盛り込まれていない。

G7財務相は声明で「ロシア産原油および石油製品の海上輸送を可能にするサービスの包括的な禁止を決定し、実施するという共同の政治的意図を確認する」と表明した。

価格上限を超えるロシア産石油や石油製品の海上輸送への保険・金融サービスなどの提供は禁止される。

声明はまた、「欧州連合(EU)の第6次対ロシア制裁に含まれる関連措置のスケジュールに合わせて実施することを目指す」としている。EUは12月からロシア産石油の禁輸を施行する。

米国財務省の高官によると、ロシア産原油については特定のドルの価格上限を設け、石油製品については別の2種類の上限を設ける見通し。価格は必要に応じて見直すという。

議長国ドイツのリントナー財務相は会見で、ロシアの石油価格に上限を設けることで、ロシアの歳入が減少するとともに、インフレが抑制されるとし、「われわれはロシアの収入を制限したい。それと同時にわれわれの経済への打撃を軽減したい」と語った。

さらに、G7は上限設定でコンセンサス形成を目指しており、EUの全加盟国が参加することを望んでいるとした。
イエレン米財務長官も声明で「世界のエネルギー価格に下押し圧力をかける、ウクライナでの残忍な戦争の財源となるプーチン大統領の収入を断つという2つの目標」達成に役立つという認識を示した。

ロシア大統領府のペスコフ報道官はG7の声明を受け、世界の石油市場を不安定化させる措置という見方を示し、上限価格を設定する国国への石油販売を停止すると述べた。

G7の高官は、ロシア産石油価格の上限設定を巡り、他国からも参加に向け「前向きなシグナルを受け取っているが、確固としたコミットメントには至っていない」と述べた。同時に「われわれはロシアや中国などに対する結束のシグナルを送りたかった」と述べた。

ウクライナのゼレンスキー大統領のウステンコ上級経済顧問は、ロシアの収入を減らすためにまさに必要な措置」とし、G7財務相会合での決定を歓迎。価格上限が40━60ドルのレンジになるという見通しを示した。
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアの天然ガス輸出にも上限を設けるべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
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当然ながらロシアは。「上限を設定した場合、ガスも石油も石炭も供給しない」と強く反発しています。

****プーチン大統領、対ロシア制裁のG7威嚇「ガスも石油も石炭も供給しない」****
穀物輸出先制限も示唆
ロシアのプーチン大統領は7日、先進7か国(G7)が対露制裁として、露産石油の取引価格に上限を設定した場合、「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と反発した。

輸出が再開されたウクライナ産穀物は「ほとんどが貧しい途上国ではなく、欧州連合(EU)諸国に運ばれている」とし、仲介したトルコのタイップ・エルドアン大統領と輸送先の制限を協議する考えを示した。

極東ウラジオストクで開催中の国際会議「東方経済フォーラム」の全体会合で述べた。米欧に対し、「新型コロナウイルスに代わる制裁熱で、他国を自分たちに服従させようとしている」とも批判した。ウクライナ侵略に関しては、「我々は何も失っていないし、何も失わない」と強調した。

プーチン政権は米欧の制裁を受ける中、今回の会議を通じ、中国やインドなどアジア諸国と関係を強化する思惑がある。

タス通信によると、全体会合に出席した中国共産党序列3位の栗戦書リージャンシュー・全国人民代表大会常務委員長は、「米国とその衛星国の厳しい制裁により、ロシア経済が押しつぶされなかったのは喜ばしい」と述べた。

インドのナレンドラ・モディ首相もビデオメッセージを送り、北極圏開発やエネルギー分野など「多くの問題」で、ロシアとの連携を推進する意思を表明した。

全体会合には、米国と対立するミャンマーの国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官も出席した。マレーシアとベトナムの首脳もビデオメッセージを寄せた。

過去のフォーラムでは日本との関係も重視してきたが、プーチン氏が日本に触れることはなかった。【9月8日 読売】
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ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置がうまく機能するかどうかは不透明な点も。

****ロシア産石油の価格上限設定は機能するか****
(中略)
枠組みの機能を阻む3つの懸念
今回の価格上限措置によって、ロシアの石油・石油製品の輸出収入が減少する一方、石油価格下落で世界のインフレ問題が緩和されるかどうかはかなり不明である。逆に事態が一層悪化してしまうリスクもあるだろう。

第1に、上限価格を低く設定し、それが石油・石油製品の生産コストを下回るようであれば、ロシアは石油・石油製品の生産を停止してしまう可能性がある。そうなれば、世界の石油市況は一段と上昇し、先進国及び世界の経済・物価に大きな打撃となってしまうだろう。

第2に、中国、インドなどロシア産石油・石油製品を輸入する国は、この価格上限の枠組みに参加しない可能性がある。そうなれば、この枠組みはほぼ機能しないだろう。ロシア政府は、価格上限の枠組みを受け入れる国には、ロシア産石油・石油製品の輸出を停止すると脅している。

今回の枠組みは、先進国側につくのか、ロシア側につくのか、新興国に判断を迫るもの、いわゆる踏み絵となっているのである。これをきっかけに、世界の分断が一層加速する危うさもあるだろう。

第3に、産地の偽装によって、ロシア産石油・石油製品への上限価格設定が十分に機能しない可能性がある。先進国からの石油輸入禁止・制限措置を受けて、ロシアはアジア諸国だけでなく、中東諸国への輸出も増加させている。

ロシア産重油は、今やその多くがエジプト経由でサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)に輸出されている。UAEのフジャイラ港では、ロシア産やイラン産の原油が混合され、原産地が偽造される一大拠点となっているとされる。

世界経済悪化で先進国、ロシアは痛み分けか
こうした点を踏まえれば、上限価格設定が、ロシアの石油・石油製品の輸出収入を大幅に制限するとともに、石油価格の下落を通じて世界のインフレ問題沈静化につながる決定打となることはないのではないか。

他方、大幅な金融引き締めの影響などで世界経済は今後減速に向かい、世界の石油需要は縮小する可能性が見込まれる。そうなれば、需給バランスが悪化して、石油価格も明確に下落するだろう。

そうなれば、石油の輸出数量減少と価格低下の双方の影響が、ロシア経済とロシアの財政に大きな打撃を与えることが視野に入ってくるのである。

制裁措置だけではロシアに致命的な打撃を与えることができなかった先進諸国は、結局、自国経済の悪化という大きな犠牲を払うことで、ロシアに大きな打撃を与えることに成功するだろう。結局は、両者が痛み分けとなるのである。【9月5日 木内 登英氏 NRI】
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なお、上限価格設定合意では、日本のサハリン2事業を通じたロシア産石油輸入は対象外になるとか。

****日本のサハリン2事業を通じたロシア産石油輸入が対象外となることの問題****
(中略)そもそも、G7で価格上限措置が表明されてから今回正式合意されるまでかなりの時間を要しており、議論が紛糾した可能性がうかがえる。ロシアとの関係悪化を懸念する中国、インドが賛同を示していないこともその理由の一つだろう。

さらに、日本がサハリン2事業を失うことを警戒したこともその一因かもしれない。今回のG7会合は、日本企業が新会社の下でサハリン2事業を継続することをロシア政府が認めた直後に開かれた。原油価格上限設定の報復として、ロシア政府が日本企業によるサハリン2事業の継続を認めない決定を下すことを日本政府が警戒していたからかもしれない。

また、日本がサハリン2事業を通じてロシアから輸入する石油については、今回の原油価格上限設定の対象外となる方向だ。

日本のサハリン2事業は天然ガスが中心であり、石油の比率は低いが、原油価格上限設定の報復として、ロシア政府が日本企業に今後厳しい条件を提示することで、事実上サハリン2事業の継続が難しくなれば、日本の天然ガス輸入の約9%を占めるロシア産天然ガスの輸入が停止してしまう事態となる。日本はこれを恐れたのではないか。

ただし、日本のロシア産石油輸入だけが価格上限措置が適用されない例外となれば、それは対ロ制裁での先進国の結束という観点から大きな問題を残すことになるだろう。またロシアは、今後も日本のサハリン2事業の継続を、先進国の結束を乱す手段として利用する余地が残る。【同上】
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原油価格の動向には、国内政治の混乱や衝突が報じられている産油国イラクやリビアの動向も影響します。

【価格上限 ガスでも検討 ロシアとのエネルギー全面戦争か】
需要が今後縮小する可能性が見込まれる石油もさることながら、ロシア依存ということでも、市民生活を直撃するということでも、この冬に向けて価格高騰が強く懸念されているガスの方が問題かも。

****英、電気・ガス料金の上限8割引き上げへ 燃料の貧困懸念****
英ガス電力市場監督局は26日、電気・ガス料金の上限を10月から80%引き上げると発表した。同国では冬を前に、生活費が高騰している。

Ofgemは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、天然ガスの卸売価格が高騰していることを理由に挙げた。
上限は固定料金契約を結んでいない顧客に適応されるもの。標準的な家庭の使用量の場合、年間の価格上限は現行の1971ポンド(約32万円)から3549ポンド(約57万円)となる。

複数の慈善団体は発表を受け、市民は近年で「最も厳しいクリスマス」を迎えることになると非難した。
貧困問題の専門家は、上限価格が2倍近くになることで、数百万人が暖房か食事のどちらかを犠牲にせざるを得ない燃料の貧困状態に陥る恐れがあると指摘する。

英国のインフレ率は1982年以来の最悪の水準となっており、年内にも景気後退入りすると予測されている。 【8月26日 AFP】
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欧州各国は似たような状況ですが、EUでは、石油だけでなく天然ガスについても価格上限が見当されています。

****EU、ロシア産石油に続き天然ガス価格に上限設定を検討****
欧州連合(EU)が、ロシア産の石油に続き天然ガスにも価格の上限を設けることを検討すると明らかにした。EUのロシア原油価格の上限設定の方針を受け、ロシアのプーチン大統領が「参加国にはエネルギーを輸出しない」と圧力をかけたことに対応する性格が強い。EUとロシアの「エネルギー全面戦争」の機運が高まっている。

●EUvsロシア「エネルギー大戦」
EU行政トップのフォンデアライエン欧州委員長は7日、ベルギー・ブリュッセルで開かれた記者会見で、「ロシアのプーチン大統領によるウクライナでの非道な戦争の資金源を断たなければならない」とし、「9日のエネルギー相会議で、ロシアから輸入する天然ガスの価格の上限を設けることを提案する」と明らかにした。

価格上限制は、ロシア産エネルギーを一定価格以下で購入しなければ海上輸送を許可しないとする制度で、事実上ロシアのエネルギー輸出を統制し、ロシアの収益を制限するという構想だ。

フォンデアライエン氏が天然ガスの上限価格の設定を提案したのは、プーチン氏が同日、ロシア・ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、「石油の上限価格の設定に参加する国には、石油や天然ガスを輸出しない」と明らかにしたことへの対応とみられている。EUが、ロシアにエネルギー主導権を奪われないという考えを明らかにしたのだ。事実上、ロシアにエネルギー全面戦争を宣言したも同然という見方もある。(中略)

●「ロシア天然ガスの威力が弱まった」
EUがエネルギー対決に乗り出した背景には、ロシアのエネルギー武器化に対する備えをある程度終えたという自信が作用したとみられている。米紙ニューヨーク・タイムズは同日、「ドイツをはじめEU国家の指導者の間で、これまでのエネルギー備蓄と代替エネルギー確保の努力によりエネルギー武器化の威力を一定部分減少させることができるという自信が生まれている」と指摘した。

ロシアの天然ガスの輸入の割合が高いEU諸国は、ロシアのエネルギー依存度を減らすための努力を続けてきた。昨年、ロシアの天然ガスに全エネルギー消費の49%を依存していたドイツは、天然ガスの輸入先を多様化し、公共機関の屋内温度や夜間照明の使用を制限する省エネ措置を施行した。この結果、先月ロシアの天然ガス依存度が10%以下に下がった。

フランスは今冬に使用する天然ガスの92%を備蓄している。イタリアも、ロシアのエネルギー依存度を40%から23%まで下げることに成功した。フォンデアライエン氏は、「ウクライナ戦争初期、40%だったEUのパイプラインによるロシアの天然ガスの輸入の割合が9%までにまで減少した」とし、「これまでの努力が成果を出している」と話した。

同紙は、「ロシア産エネルギーからの独立がどれほど成功しているかは依然として疑問」とし、「ロシア政府関係者は、エネルギー危機による経済的苦痛で、EUの決意は最後には崩れると見ている」と伝えた。【9月9日 東亜日報】
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