孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領  北欧二か国NATO加盟問題で強気姿勢 ロシア・ウクライナ仲介外交も

2022-06-01 22:43:44 | 中東情勢
(【5月17日 TBS NEWS DIG】北欧二か国のNATO加盟に強い言葉で反対するトルコ・エルドアン大統領)

【北欧二か国のNATO加盟阻止で強気姿勢のトルコ・エルドアン大統領】
NATO拡大の非を主張してウクライナに侵攻したロシア・プーチン大統領の思惑が裏目に出て、長年中立的な立場を維持してきたフィンランド・スウェーデンがNATO加盟に舵を切ったこと、しかし、ロシアの孤立化を加速させ、「プーチンの戦争」の失敗を明らかにするものとして欧米の大勢が歓迎するその流れにトルコ・エルドアン大統領が待ったをかけていることは周知のところです。

****北欧2国は法改正の必要も、トルコ外相がNATO加盟巡り言及****
トルコのチャブシオール外相は31日、フィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請に関して、トルコの要求を満たして支持を得るためには、必要ならば法改正を行うべきとの見解を示した。

トルコは北欧2カ国について、同国がテロ組織と見なすクルド労働者党(PKK)などに対する支援停止や国内活動の制限、同国がテロ容疑者と特定したメンバーの送還のほか、トルコの反テロ作戦の支援や武器輸出制限の全面解除を求めている。

チャブシオール氏は、先週トルコを訪れた両国の代表団にトルコ側の要求を渡しており、回答を待っていると説明。(中略)

チャブシオール氏は、ストルテンベルグNATO事務総長が3カ国による協議をブリュッセルで開くことを提案していることも明らかにした上で、2カ国から回答があるまでは協議を開いても意味がないとの認識を表明した。【6月1日 ロイター】
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エルドアン大統領が北欧二か国のNATO加盟に異を唱えている理由の中核は両国のクルド人勢力に融和的な対応、トルコへの武器輸出制限にあるとされています。

“PKK(トルコからの独立を目指す少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」)をテロ組織と位置付けるトルコと、クルド人への同情論が根強い欧米諸国の溝は深い。北欧2国ではクルド人がトルコ当局に弾圧されているとの見方が強く、クルド人難民を受け入れている。トルコは加盟を認める条件としてPKK関係者らの引き渡しを北欧2国に要求するとみられるが、人権を重視する2国は容易に応じない見通しだ。”【5月24日 AFP】

“トルコは2019年、隣国シリアの北部一帯を実効支配する少数民族クルド人の武装勢力「人民防衛隊」(YPG)への軍事作戦を展開。PKKと一体の組織と見なしているが、両国はこれを機にトルコへの武器の輸出を制限していた。”【5月26日 AFP】

【強気姿勢の背景にあるトルコ国内事情 心中には欧州の二重基準への不信感も?】
更に深堀して言えば、エルドアン大統領がこの問題で強気姿勢をとる背景としては、これまでも取り上げてきたように(エルドアン大統領の非教科書的な低金利政策もあって)トルコ国内における通貨安、インフレの進行が改善しない状況があるのでしょう。

****トルコ中銀、22年のインフレ予測を2倍近くに上方修正 42.8%****
トルコ中央銀行は28日、年間インフレ率が6月に70%前後でピークに達し、年末に42.8%前後に低下するとの見通しを示した。

前回の年末予測は23.2%。2倍近くに上方修正したことになる。24年末には1桁台に低下する見通しという。

トルコでは一連の非正統的な利下げとそれに伴う通貨危機でインフレが進行。エネルギー価格の高騰も影響している。(後略)【4月28日 ロイター】
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2023年の選挙を控えて大統領・与党への支持が低下する政治状況で、エルドアン大統領としては国内での失政を“華々しい”外交成果でカバーする必要があります。

北欧二か国のNATO加盟阻止が“華々しい”外交成果となりうるのは、以下のような事情あってのことです。

・トルコ国内の反PKK感情は非常に強く、国内的に反PKKをアピールできる
・ロシアとの関係が非常に深いトルコはウクライナ問題で仲介外交を行っているが、北欧二か国のNATO加盟阻止に尽力することで、ロシアにアピールできる
・シリアでクルド人勢力と連携するアメリカを巻き込んで、アメリカの対応の変更、更にはアメリカからのF-16戦闘機などの武器供与問題を前進させることができる

これは全くの個人的憶測ですが、おそらくエルドアン大統領の心には、トルコのEU加盟問題が長年棚ざらしにされ、まったく現実性が見えないなかで、北欧二か国がNATO加盟しようとすると欧米がこぞって歓迎する・・・そういうダブルスタンダード的な扱いに対する反発があるのではないでしょうか

また、シリアやアフリカからの難民問題で「日頃“人権”だ何だとえらそうなこと言ってるくせに、シリアやアフリカから難民が押し寄せると門を閉ざして、トルコに押し付けようとする」欧州への意趣返しみたいな感情もあるのかも。

【問題を複雑化させるシリア北部への軍事介入計画】
エルドアン大統領は、前述事情のうち最後のシリアにおけるクルド人問題を更に大きくクローズアップさせる戦略です。

****トルコ、国境地帯で近く軍事作戦=NATO問題複雑化も****
トルコのエルドアン大統領は23日、閣議後の演説で、南部の国境沿いで近く軍事作戦を行う計画があることを明らかにした。

シリアのクルド人武装勢力を標的にしたものとみられ、欧米諸国からの反発を招く可能性が高い。スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟をめぐる問題もさらに複雑化しそうだ。
 
エルドアン氏はトルコ南部の国境地帯が「頻繁な攻撃にさらされている」と強調した。その上で、脅威に対処するため国境から30キロにわたる安全地帯を築く必要性を訴えた。26日に国家安全保障会議を開いて協議の上、決定を下す見通しという。【5月24日 時事】 
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5月26日、エルドアン大統領が招集した国家安全保障会議は、シリアとイラクに隣接する南部国境地帯での軍事作戦について協議し、終了後の声明で「現在と将来の作戦はトルコの安全保障にとって不可欠だ」と強調しています。

2019年にトルコがシリアに一方的に侵攻した際にも、欧米諸国は反発しています。
この問題はトルコ国内の事情にも大きく関わっています。

****“恐喝外交”トルコの思惑は?北欧2カ国のNATO加盟反対する理由****
ロシアによるウクライナ侵攻は、多くの国に自国の安全保障政策の抜本的見直しを迫っている。北欧のフィンランドとスウェーデンは正式にNATO加盟申請をした。ところが迅速に進むはずだった加盟プロセスを阻止した国がある。トルコだ。

“テロの脅威”強調 シリアへの軍事侵攻を狙う
トルコのエルドアン大統領は5月18日、「この2カ国、特にスウェーデンはテロの温床になっている」と批判し、「だからこそ我々は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟にノーと言う決意を固めたのだ」と述べた。

トルコは、両国がトルコがテロ組織と指定するクルド労働者党(PKK)やギュレン運動(FETO)などのメンバーを匿い支援していること、トルコがテロリストとみなす33人のトルコ送還に同意していないことも批判している。エルドアン氏は「テロリストは返さないのにNATO加盟を要求するのか」と語気を強めた。

NATOへの新規加盟にはNATO加盟30カ国全ての承認が必要だ。トルコは1952年からNATOに加盟している。トルコは「拒否権」を武器に、この機にNATO諸国からありとあらゆる譲歩を引き出そうとしている可能性がある。

そのひとつの証左として、トルコが5月23日にシリア北東部への「軍事作戦」を予告したことが挙げられる。ここは米国などが支援してきたクルド人武装組織シリア人民防衛隊(YPG)が支配する地域だ。トルコは、YPGはPKKの分派にしてテロ組織であり、YPGの存在はトルコの安全保障上の重大な脅威だと主張する。

エルドアン氏はこの「作戦」により、トルコとシリアの国境沿いに30km幅の「安全地帯」を作る取り組みを再開すると述べた。そこに現在トルコに350万人いるとされるシリア人難民のうち、100万人を「自主的に」移住させる計画だ。

トルコは2016年、2018年、2019年と過去3回にわたりシリア北東部に軍事侵攻してきた。しかし米国をはじめとするNATO諸国は、「イスラム国」と戦ってきたYPGを支援してきた背景がある。

トルコが対YPG軍事作戦を開始すると、フィンランドやスウェーデンはトルコに武器輸出禁止の制裁を課した。トルコは両国のNATO加盟に反対する理由のひとつとして、この制裁も挙げている。

要するに今はトルコにとって、NATO諸国、特に米国から批判も制裁もされずにシリアに新たに軍事侵攻する千載一遇のチャンスなのだ。

トルコ国営アナドル通信は5月20日、次のような論説を掲載した。

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコの要求は非常に明確だ。2001年9月11日に米国がテロの標的となった際にNATO条約第5条(注:加盟国が攻撃を受けた場合に他の加盟国が反撃する集団的自衛権の行使を定める)が実践されたように、自国を標的とするテロに対して同盟が共通のスタンスをとることをトルコは要求しているのである。

NATO加盟国はトルコにとってのテロ組織であるPKKやYPGに対し、トルコ同様に敵対し、トルコのテロとの戦いを支援しなければならないのだ、とトルコは要求する。

迫る大統領・議会選 国内向けアピールか
ではなぜトルコは、恫喝まがいの外交をしてまでシリアへの軍事侵攻を強行しようとしているのか。それはおそらく、トルコの大統領選挙、議会選挙が2023年に迫っているからである。

ロイター通信は5月6日、「物価高騰でトルコ国民の家計は非常に窮迫しており、来年6月に予定される大統領・議会選で長らく続いたエルドアン大統領の統治時代に幕が下りる可能性も出てきた。実際、世論調査でエルドアン氏の支持率は低下が止まらない」と伝えた。

ウクライナ戦争による原油や食料の高騰は、経済危機をさらに悪化させる可能性が高い。好調な経済を生み出す術のないエルドアン氏は、国民に経済危機を忘れさせ、国家的大義に目を向けさせ、野党からの批判を封じ込める必要がある。過去3回行われたシリアへの国境を越えた「軍事作戦」と「テロとの戦い」が、その点において一定の効果をあげた経緯もある。

シリア北部にクルド人戦闘員の存在しない「安全地帯」を設置することができれば、トルコ国民を安心させることができる。トルコ国内のシリア難民をそこに移住させれば、反難民感情が高まっているトルコ国民を満足させることもできる。

加えて、そこに街を建設しインフラを整備する仕事をトルコ企業にもたらすこともできる。2019年以降、トルコはシリア北部のトルコ支配地域で約5万戸の住宅を建設しており、2022年末までにさらに10万戸の住宅と、学校、病院の建設、各種インフラ整備を目指している。「安全地帯」という名ではあるが、実質的にはトルコの領土拡張に近い。

トルコは実は、外交、安全保障、経済の面において中国とロシアに大きく依存した国でもある。トルコは2013年には中ロが主導する安全保障機構である上海協力機構 の「対話パートナー」となった。NATO加盟国であるにも関わらず、ロシアの地対空ミサイルシステムS-400を導入していることでも知られている。

2020年には中国との通貨スワップ協定に基づき初めて人民元による貿易決済を実行、2021年にはスワップ上限を60億ドルに引き上げた。

NATOにトルコが加盟している限り、トルコが今回のような恐喝外交でNATOを揺さぶり、譲歩を引き出そうとする問題は今後も繰り返される可能性が高い。【6月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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独裁者・強権支配者の常で、エルドアン大統領も現実主義的な側面と、感情に突き動かされるような側面の両面があります。北欧二か国のNATO加盟問題でエルドアン大統領がどこまで強硬姿勢を貫くのか・・・どこかで妥協するのだろうとの見方も多々ありますが、よくわかりません。

【ロシア・ウクライナ首脳への仲介外交展開 ただ、進展は困難】
エルドアン大統領はロシア、ウクライナ双方の首脳への働きかけを活発におこなっています。
ただ、今のところ成果が期待できる状況にない・・・との見方が支配的です。

****トルコ大統領、プーチン氏に国連交えたウクライナとの協議を提案****
トルコのタイップ・エルドアン大統領は30日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、露軍が侵攻を続けるウクライナ情勢を中心に協議した。

トルコ大統領府によると、エルドアン氏はロシアとウクライナが一刻も早く信頼を醸成する必要があると指摘し、イスタンブールで国連を交えた協議の開催を提案した。
 
会談では、露軍による黒海沿岸封鎖でウクライナからの穀物輸出が滞っている問題についても協議した。
露大統領府によると、プーチン氏は、安全な船舶航行に協力する用意は表明しつつ、米欧が対露制裁を解除すれば「ロシア産の農作物や肥料を輸出できる」と述べた。

エルドアン氏はロシアとウクライナ双方の合意を前提にした「監視メカニズム」の設置を提案した。(後略)【5月31日 読売】
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トルコが「監視メカニズム」の役割を担う準備があると述べていますが、その詳細は不明です。ウクライナ・ゼレンスキー大統領にも同様提案を行っています。

****ウクライナ穀物輸出停滞にトルコが解消案…ゼレンスキー氏「感謝」、プーチン氏「トルコと連携」****
トルコのタイップ・エルドアン大統領は30日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。トルコ大統領府によると、エルドアン氏は、ウクライナの穀物輸出がロシア軍による黒海沿岸封鎖で停滞している問題の解消に向け、国連も参加する監視枠組みの設置を提案した。ロシアの対応が焦点となる。
 
エルドアン氏は会談で、ウクライナが穀物の安全な海上輸送ルートを確保する重要性を強調し、ウクライナとロシアのほか、トルコと国連が参加する監視センターを、トルコ・イスタンブールに設置する案を説明した。

エルドアン氏はロシアとウクライナの停戦協議の継続に「仲介を含む支援の用意」も示した。ゼレンスキー氏はツイッターで、「トルコの支援に感謝する」と謝意を表明した。(後略)【5月31日 読売】
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しかし、黒海港湾からの穀物輸出にしても、停戦にしても難しい状況です。

****トルコがゼレンスキー氏とプーチン氏に“首脳会談”呼びかけも…専門家「時間稼ぎでしかない」停戦交渉は「事実上途絶えている」****
(中略)
■「会談は今後の戦いへの時間稼ぎでしかない」
ホラン千秋キャスター:
まずはウクライナとの電話会談です。その内容について、ゼレンスキー大統領が明らかにしています。「侵略者がもたらす食糧安全保障への脅威とウクライナの港の封鎖を解除する方法をトルコと協議した」ということなんです。

どういうことかと言いますと、ロシアのウクライナに対する侵攻が始まって以降、ウクライナの港湾は封鎖されています。ウクライナ産の小麦はあるけれども、それを安全に輸出するということができなくなっている状況なんです。そのため、安全に港などを通して輸送するための海上ルート確立に向け協議を行ったということでした。

では、その点について、ロシアとはどのような話が行われたのか。電話会談の中でプーチン大統領は、「小麦などの輸送について、ウクライナの港からの輸出も含め、海上輸送を妨げないようにする準備がある」というふうに話したんです。

一見すると協力的なように見えるんですが、「対ロ制裁を解除すれば、ロシアは大量の農作物を輸出できる」とも主張したということですので、なかなか難しそうな状況だなということが伺えます。

さらに最近なかなか耳にすることがない停戦に向けた動きなんですけれども、これに対しては、トルコのエルドアン大統領が「ロシアとウクライナ双方が合意すれば、国連を交えた会談を開催する」というふうに呼びかけたんですが、国連を交えた会談は意味があるのかどうか、停戦に繋がるのかという点について明海大学教授の小谷哲男さんに伺いますと、「ロシアとウクライナにとってトルコとの会談は、今後の戦いへの時間稼ぎでしかない。国連を交えた会談を行っても、停戦する可能性は低い」というふうに指摘しています。 

■停戦交渉は「事実上途絶えている」
井上キャスター:
トルコはフィンランド・スウェーデンのNATO加盟に反対するという立場をとったり、ロシアとウクライナの交渉の仲介を名乗り出たり、何か主導権を握ろうというところがあるんですか。

笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰輔さん:
やはりトルコとしては、欧州とロシアの間で、うまく自国のプレゼンスを高めようという形で、積極的に動いているということだと思います。

井上キャスター:
ロシアとウクライナ、停戦交渉というのは最近なかなか報じられないですが、水面下では行われているんですか、それとも今、途絶えているんですか。

畔蒜さん:
私は事実上途絶えていると思っています。今回のトルコのエルドアン大統領のロシアとウクライナへの停戦の呼びかけも、国連を交えてということであったとしても、明海大学小谷教授が指摘されるように、大きな停戦に向けた動きになる可能性は極めて低いんじゃないかと思います。

井上キャスター:
ロシア・ウクライナ双方ともに有利な立場に立っていないと停戦交渉はしない、そこはまた変わってないですか。

畔蒜さん:
そういうことだと思います。そうだとすると、今の戦況を考えたときには、双方、今、停戦に向けて積極的な意欲があるとはちょっと考えられないということだと思いますね。(後略)【6月1日 TBS NEWS】
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「停戦」はともかく、黒海港湾からの穀物輸出については、ロシアも「世界を飢餓の危機にさらしている」との批判は受けたくないでしょうから、何らかの進展の可能性も・・・と思いたいのですが・・・。
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