孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  南シナ海における中国との緊張 反中国世論を刺激するスパイ疑惑も

2024-09-09 23:38:18 | 東南アジア

(【6月1日 NHK】マニラの公立高校で行われた中国の威圧的な行動に関する講演会)

【相次ぐ中比両国艦船の衝突】
南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)海域で互いに領有権を主張するフィリピンと中国が激しく争い、現場での衝突を繰り返していることは、これまでも何回か取り上げてきました。

両国艦船がぶつかったとき・・・と言われても、「そんなの何回もあるので、いつの衝突の話?」と確認が必要な状況です。

****中国・フィリピン、南シナ海での船舶衝突めぐり応酬****
中国とフィリピンは8月31日、係争中の南シナ海のサビナ礁近くの海域で、相手の沿岸警備船が故意に衝突したと非難し合った。両国間ではここ数週間、同様の衝突が相次いでいる。

中国中央テレビによると、中国海警局の報道官は、31日正午すぎにサビナ礁付近でフィリピンの船が中国の船に「意図的に衝突した」と発表。「中国は(この海域で)議論の余地のない主権を行使している」として、フィリピン船の「素人同然の危険な」行動を非難した。

一方、フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は、中国海警局の船艇5205がフィリピンの巡視船「テレサ・マグバヌア」に「直接的かつ意図的に衝突した」と述べた。

この巡視船はフィリピンの領有権を主張するため、4月からサビナ礁に停泊している。

タリエラ氏は、巡視船は3回衝突されたと明らかにした。衝突時に負傷した乗組員はいなかったが、船体が損傷し、穴も1カ所見つかった。

タリエラ氏によると、フィリピンの船舶が8月に中国の嫌がらせを受けたのはこれで5回目。 【9月1日 AFP】
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【米中の批難応酬】
フィリピンの後ろ盾となっているアメリカと中国の批難応酬も。

****米、比船への衝突を強く非難 中国の領有権主張は「違法」****
米国務省のミラー報道官は31日、南シナ海のサビナ礁でフィリピンの巡視船と中国海警船が衝突したことを受け、「中国による危険で過激な行動を非難する」との声明を発表し、危険行為をやめるよう求めた。フィリピン側の行動は「法によって認められている」とし、中国の南シナ海における領有権の主張は「違法だ」と批判した。

ミラー氏は「中国海警局船はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内でフィリピンの巡視船に意図的に衝突した」と指摘。8月になって「中国はフィリピンの海洋活動などを攻撃的に妨害している」と非難し、緊張を高めていることを強く批判した。

米国による防衛義務を定めた米比相互防衛条約に関し「南シナ海のどこにおいても、フィリピンの軍や公船、航空機に対する攻撃に適用される」と述べ、中国を牽制(けんせい)した。【9月1日 産経】
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*****「米軍機が妨害」と主張=中国、比船舶との衝突で批判強める****
南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島にあるサビナ礁で8月31日に発生した中国とフィリピンの船舶衝突を巡り、現場上空を米軍機が飛行していたとして、中国側が「妨害行為だ」と批判を強めている。

同礁近海では先月中旬から中比船舶の小競り合いが頻発。習近平政権は、比側を擁護する日米の言動に神経をとがらせている。

中国国営中央テレビ系のSNSアカウント「玉淵譚天」は31日、サビナ礁の現場付近上空を飛行していたとする米軍のP8A哨戒機1機の画像を公開。「米軍が海警局の法執行を邪魔立てした」などと報じた。米国から関連する発表は出ていないもようだ。【9月2日 時事】 
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【衝突した比艦船は日本供与の巡視船 日本も比支援の立場で中比対立に深く関与】
日本もフィリピン側を後押ししています。

*****日本、中国主張の法的根拠否定 南シナ海問題で反論****
在フィリピン日本大使館は31日までに、南シナ海に関する中国の主権主張は国連海洋法条約の規定に基づいておらず、同条約に基づく仲裁裁判所が中国の主権主張を否定した2016年の判断も中国は受け入れていないと批判する声明を出した。

南シナ海のサビナ礁に向かうフィリピン船が中国海警局の船に衝突され、放水砲を浴びたことを巡り「緊張を高める嫌がらせは容認できない」と投稿した遠藤和也大使に対する中国大使館の抗議に反論した。

日本大使館の声明は、日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だと強調した。【8月31日 共同】
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中国からすれば、「関係ないくせ、口はさむな!」というところでしょうが、日本側は「日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だ」という立場です。

実際のところ、日本は深く中比対立に関わっており、“口”だけでなく艦船をフィリピンに供与しています。
冒頭で取り上げた8月31日の中比両国艦船の衝突におけるフィリピン巡視船は日本が供与したものです。

【中国 「中比関係は岐路に立たされている」 妥協の意思はなし】
こうした事態に、中国共産党機関紙・人民日報は「中比関係は岐路に立たされている」との認識を示しています。

****中比関係「岐路に」、南シナ海巡り人民日報が論説*****
中国共産党機関紙・人民日報は9日の論説で、南シナ海で緊張が高まっているフィリピンとの関係が「岐路に立たされている」との認識を示した。

どちらに進むべきかの選択を迫られているとした上で「衝突と対抗に出口はなく、対話と協議が正しい道だ」と指摘。フィリピンに対し「両国関係の将来を真剣に考え、2国間関係を正しい軌道に戻すために中国と協力すべきだ」と訴えた。【9月9日 ロイター】
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“岐路”・・・・・日米の支援を後ろ盾にフィリピンが更に緊張を高めて、武力衝突に至るか、あるいは、フィリピンが中国主張を認めて穏やかな海を取り戻すか・・・ということでしょうが、中国が妥協するという選択肢は含まれていないでしょう。

【硬化する比の対中国感情】
当然ながら、フィリピン世論の中国への風当たりは険悪なものになっています。中国との衝突はフィリピンにとって軍事的にも経済的にもハイリスクではありますが、マルコス大統領としても強硬な国内世論がある以上、中国に対して“弱腰”はとれないという事情もあります。

****フィリピン大統領 南シナ海情勢で中国に警告 背景は****
シンガポールで31日開幕した「アジア安全保障会議」で、フィリピンのマルコス大統領が南シナ海の情勢などをテーマに講演し、中国による妨害行為でフィリピン側に死者が出るような事態になれば、同盟国アメリカとともに、軍事的な対応をとる可能性を示唆し、中国側に警告しました。

フィリピンでは国民の間で中国への強い反発が広がっていて、専門家は「マルコス政権は、中国と国内世論の両方に対応するという難しい課題に直面している」と分析しています。(中略)

広がる強い反発「私たちは中国がしてきたことに怒っている」
南シナ海で威圧的な行動を続ける中国に対して、フィリピンでは各地で抗議活動が行われるなど国民の間で中国への強い反発が広がっています。

先月15日には、2012年から中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁に近いルソン島西部の港に、中国に抗議する団体のメンバーらが乗ったおよそ100隻の船が集まり、海上で大規模な抗議活動を行いました。

活動には、中国当局によって周辺の豊かな漁場から追い出された地元の漁師たちも加わり、船団を組んで南シナ海を航行し、中国への抗議を示しました。

首都マニラでも先月、市民およそ300人が南シナ海におけるフィリピンの主権を訴えながら、市街地の通りを練り歩きました。

参加者が通り沿いの住宅を訪ね、国旗を掲揚してともに抗議の意思を示すよう呼びかけると、多くの住民が家の軒先などに国旗を掲げていました。

参加した76歳の男性は、「私たちは、中国がしてきたことに怒っている。フィリピンのために闘おう」と話していました。

教育現場で中国の威圧的な行動を解説する講演も
フィリピンの教育現場では、中国の威圧的な行動について知ってもらおうという取り組みも行われています。

マニラの公立高校では、中国に対する抗議活動を行っている団体が、南シナ海の問題に関する講演会を開きました。

団体のメンバーは、中国当局の船がフィリピンの船に対して放水銃を使用してけが人も出ていることや、中国の船によって貴重なサンゴ礁が破壊されている実態などを写真や資料を交えて解説しました。

また、中国がSNSなどを通じて偽の情報を拡散し、フィリピン国内の世論の分断を図ろうとしているという指摘もあることを紹介し、生徒たちに注意を呼びかけていました。

生徒の1人は、「中国がこんなことをしているとは知りませんでした。私たちは勇敢になるべきだし、中国の抑圧を許してはいけません」と話していました。

団体によりますと、講演の依頼は国内各地の学校から寄せられているということです。

中国への反発が急速に拡大 背景に政権の情報公開
中国に反発する動きが急速に広がっている背景には、マルコス政権が南シナ海での中国の威圧的な行動を積極的に公開するようになったことがあります。

フィリピンでは、前のドゥテルテ政権が中国との経済的な関係を重視する一方、南シナ海での中国船の活動はほとんど公表しませんでした。

おととし(2022年)就任したマルコス大統領も当初は抑制的に対応していましたが、去年、フィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー光線の照射を受けたことをきっかけに、方針を大きく転換。

照射を否定する中国側に反論するため、現場で撮影したとする映像を公開するとともに、国内外のメディアに沿岸警備隊の巡視船などへの同行取材を認め、威圧的な行動を繰り返す中国船の実態を積極的に公開するようになりました。

その結果、民間の世論調査会社がことし3月に実施した調査では、フィリピンの主権を守るため南シナ海で軍のパトロールなどを増やすべきだと回答した人が7割以上を占めるようになりました。(後略)【6月1日 NHK】
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【比の反中感情を更に悪化させる“市長が中国籍で中国のスパイだった”という疑惑】
そうしたフィリピン世論を逆撫でするような事件も。
中国系犯罪組織に関与した疑いなどでフィリピン北部バンバン市長(「町長」とするメディアもあります)を解任されたアリス・グオ氏が実は中国国籍で「中国のスパイ」ではないかとの疑惑が出ています。

****出生や通学の記録なし…「中国のスパイ」疑惑の市長事件が波紋 フィリピンの反中感情に火****
フィリピン北部のバンバン市長を解任され、不法出国後に逮捕された中国系のアリス・グオ容疑者(34)を巡る事件が、比国内で波紋を広げている。

グオ容疑者は詐欺組織の運営に関与していただけではなく、実際は中国人で、比国籍を偽装していた疑いが浮上。中国による南シナ海での圧力を巡って比国内で反発が広がる中、市長が「中国共産党のスパイ」だったとの疑念が強まり、市民の反中感情は悪化している。

組織から殺害すると脅されていた
比当局は6日、中国系詐欺組織の運営に関与したとして、収賄容疑などでグオ容疑者を逮捕した。警察とともに共同記者会見に臨んだグオ容疑者は、「(組織から)殺害すると脅されていた」と述べた。

事件の端緒は3月、バンバン市内の「POGO」と呼ばれるオンラインカジノ施設への強制捜査だった。POGOはドゥテルテ前政権下の2016年に導入された制度で、比当局が認可したオンラインカジノ事業者を指す。

だが、近年は犯罪の温床になっていることが問題視され、恋愛感情を抱かせて金をだまし取るロマンス詐欺や、マネーロンダリング(資金洗浄)の拠点となっていた。

比捜査当局はバンバン市内のPOGOを巡り、運営側の中国人ら9人を逮捕した。その関連捜査で、組織の拠点がグオ容疑者の関連企業の土地にあったことから、グオ容疑者の事件への関与が浮上した。

一連の調べで浮かんだのは、グオ氏の経歴を巡る不審な点だ。病院での出生記録や学校への通学記録がなく、捜査当局が指紋を調べると、中国福建省出身で2003年にフィリピンに入国した「郭華萍」という中国人女性のものと一致、グオ容疑者の国籍に疑義が生じていた。

グオ容疑者はこれまで疑惑について、「私は生まれながらのフィリピン人。中国のスパイではない。悪意のある攻撃だ」と否定。だがフィリピン上院の公聴会を欠席したことで、上院が逮捕命令を出していた。

グオ容疑者は7月以降に船で不法出国。出国を受けて市長職を解任された。その後、マレーシアやシンガポールに滞在していたとみられるが、今月4日にインドネシアで拘束後に強制送還されていた。

中国系フィリピン人は動揺
事件を受け、比国内の交流サイト(SNS)などでは、「中国のスパイに派手な浸透工作を許した」「市長をさせたのは国の恥」などと、怒りの声が飛び交う。インドネシアからの送還時、グオ容疑者が比当局者と笑顔で楽しそうに過ごす画像も流出し、「国民への冒涜(ぼうとく)だ」と怒りに拍車をかけた。

8月には南シナ海のサビナ礁付近で、中国海警局の船がフィリピンの巡視船などに衝突する事案が相次いで発生。グオ容疑者の事件も相まって、フィリピンでは反中感情「中比関係は岐路に立たされている」が急速に高まっている。

この状況に対し、推定120万人前後とされる中国系フィリピン人は恐怖感を強めている。シンガポール紙ストレーツ・タイムズは識者の話として、既に中国系フィリピン人が「戦争が起きたら中比どちらを支持するのか」「POGOと関係はないのか」とからかわれる事案が起きたと報じた。記事では、グオ容疑者を巡る事件が、現地に根付いた華人らへの「敵対的行動」につながる恐れがあるとしている。

事件ではグオ容疑者を手助けしたフィリピン当局の協力者がいたとされ、マルコス大統領は「国民の信頼を損ねる腐敗だ」として徹底捜査を指示。現地メディアによると、グオ容疑者は資金洗浄など87の罪で刑事告発され、最長で1200年超の実刑となる可能性がある。【9月9日 産経】
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中国系フィリピン人への暴力といった事態になれば、習近平政権の対応は危険なレベルになる恐れもあります。

【名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家】
フィリピン・マルコス政権は対外的には中国との対立を抱えていますが、国内的にはドゥテルテ前大統領や長女サラ・ドゥテルテ副大統領などのドゥテルテ家との対立があります。名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家といったところ。

ドゥテルテ前大統領の麻薬犯罪絡みの超法規的殺人の扱いや、次期大統領選挙をめぐる思惑などが絡んでいます。
サラ氏の国民的人気を取り込んで大統領選挙に勝利したマルコス大統領に対し、サラ氏側には「一体誰のおかげで大統領になれたと思っているのか!」という怒りも。

****前大統領の「側近」逮捕=人身売買容疑など―フィリピン****
フィリピンのドゥテルテ前大統領の「側近」と言われる新興宗教団体の指導者アポロ・キボロイ容疑者が8日、児童虐待や人身売買などの疑いで捜査当局に逮捕された。同容疑者は、米連邦捜査局(FBI)からも児童を含む人身売買や女性への強制わいせつ容疑などで手配されていた。

ドゥテルテ氏はダバオ市長や大統領当時、頻繁にキボロイ容疑者のテレビ番組に出演し、麻薬密売人を違法に殺害したとされる「麻薬戦争」について自説を展開していた。

ドゥテルテ氏の長女サラ・ドゥテルテ副大統領は捜査当局の動きを「行き過ぎだ」と批判、1日には宗教団体の設立記念式典に出席した。【9月9日 時事】 
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名門マルコス家の老獪さに対し、新興ドゥテルテ家は粗っぽさも・・・。ただし、超法規的殺人も厭わない剛腕です。ただ、独裁者マルコス元大統領時代から考えるとマルコス家の方がもっと暴力的かも。
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