孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州 「脱化石燃料」に加えて「脱ロシア依存」 対応が分かれる原発・エネルギー政策

2022-04-11 23:29:15 | 資源・エネルギー
(訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発で、職員の作業を視察するジョンソン首相(右)4月7日、ロイター【4月11日 毎日】 ラフな作業着の着方、日本なら炎上しますね)

【欧州委員会 一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案】
原子力発電に対する考え方が各国の事情によって国によって異なるのは以前からの話ですが、最近も温暖化対策の観点から欧州委員会が一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめたことで、欧州内でも温度差が話題になりました。

EU内でもこの方針に中道左派政権のドイツ(環境政党「緑の党」も連立参加)とスペインは反対していますが、「原発大国」フランスは当然賛成です。

****天然ガスと原子力を条件付きで「グリーン投資」、欧州委が素案****
欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。

欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。

「科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた。

ロイターが閲覧した欧州委の提案の素案では、原子力発電所への投資は、放射能廃棄物を安全に処分する場所や資金を確保する計画がある場合にグリーンと判定される。新規の原発がグリーンに区分されるためには、2045年までに建設許可を得る必要がある。

天然ガス火力発電所については、1キロワット時(kWh)あたりのCO2排出量が270グラム未満、30年12月31日までの建設許可取得、35年末までに低炭素ガスに切り替える計画があることなどが条件。

欧州委関係者はロイターに、エネルギー事情が異なる加盟国の移行を支援する上で、「一見グリーンに見えない解決策も一定の条件下では理にかなう」と述べ、天然ガスや原子力への投資には「厳しい条件」が付くと指摘した。

提案の素案は、EU加盟国と専門家委員会で審査され、1月中に公表される予定。公表後、欧州議会で審議される。【1月3日 ロイター】
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****「脱原発」の見直しを進める欧州と孤立する環境原理主義のドイツ****
(中略)EUの執行部局である欧州委員会は年が開けた1月1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーに位置付ける方針を示した。これにドイツとスペインは反発しているが、フランス発のこの流れが止まることはまずありえない。

反露・反中の環境政党と組むという劇薬
ドイツで脱原発に強いこだわりを見せているのが、SPDと連立を組む環境政党、同盟90/緑の党(B90/Grünen)だ。脱原発を公約に支持を広げた経緯がある同党にとって、その撤回は受け入れ難い。共同代表の一人であるハーベック副首相兼経済相が気候政策を担当していることもあり、同党は今年末に定めた脱原発目標の実現に執着する。

電力価格の高騰に伴い、ドイツでも脱原発の在り方を見直そうという世論が高まっている。ただ、そうした声に耳を傾けてしまうと、B90/Grünenは環境政党としての「レゾンデートル」を失うことになる。

一方、クリーンな化石燃料である天然ガスをロシアから「ノルドストリーム2」を通じて購入することも、B90/Grünenには受け入れ難い。(後略)【1月22日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「原発推進」か「脱原発」か  エネルギー脱ロシア依存でも対応に違い】
このエネルギー対策、原子力発電対策は、ロシアのウクライナ侵攻によって、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るというロシア依存の高い欧州にあっては安全保障の観点からも大きな問題となっています。

****「原発推進」か「脱原発」か “ロシアリスク”めぐり割れる欧州****
ウクライナ侵攻により、ヨーロッパではロシアに依存してきたエネルギーの調達方法を見直す動きが加速しています。原子力発電所をめぐっては、ドイツとフランス、2つの大国で対応の違いがより明確になっています。(中略)

福島第一原発事故の後、電力の原発への依存を70%から50%に引き下げることにしたフランス。しかし、マクロン大統領は方針転換を表明し、温暖化対策ともに『エネルギーの自立』を訴え、新たに最大14基を建設する計画を発表しました。

フランス マクロン大統領
「ガス、石油、石炭への依存から初めて脱却する国になることができます」

EUの加盟国は石油や天然ガスの輸入でロシアに依存してきましたが、ウクライナ侵攻で状況は変わり、ロシアへのエネルギー依存からできるだけ早く脱却することで合意。原発の稼働延長を決めた国も出ています。

一方、ドイツは、年末までに「脱原発」を完了させる方針を維持。ロシアに代わる調達先との交渉や再生可能エネルギーの発展によって、最も依存してきた天然ガスでも「2024年夏までには依存ゼロに出来る」としています。

ドイツの専門家も、ロシア軍がウクライナの原発を一時制圧したことで「脱原発の必要性がより明確になった」と話します。

ドイツ経済研究所 ケムフェート教授
「原発は戦争の時代には合わない。これは私たちがウクライナでいま見ていることだ。フランスには学んでほしい」

フランスでは、今週末に行われる大統領選挙の主な候補者のほとんどが原発に賛成。選挙戦で議論されることもありません。

パリ市民
「確かに簡単に攻撃のターゲットになり得ますね。でも代わりはあるのかな?」「原発は他のものよりは悪くないと思う」

ヨーロッパで隣り合う大国で、方針は真っ二つに分かれています。【4月6日 TBS NEWS】
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【EUの脱ロシア依存戦略 禁輸については温度差】
EUはロシア産エネルギーを減らしていくということでは合意しています。

****EU、ロシア産エネルギーへの依存ゼロを計画 27年までに****
 欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は13日までに、ロシア産のエネルギー源への加盟国の依存度を2027年までにゼロにする対策を今年5月半ばまでに示す方針を明らかにした。

27年までにロシア産の天然ガス、石油や石炭への依存度を段階的に減らし、加盟国や欧州全体が保有する資源の活用を訴える内容になるとした。(中略)

同委員長はまた、3月末までに天然ガス価格の上昇が電気料金に波及することを制限する選択肢を提示するとも表明。作業部会を設け、次の冬季へ向けた補充計画も錬らせるとした。

EUは長期にわたる天然ガスの備蓄政策をまとめる必要もあり、毎年10月の初旬までに地下施設における保存量を少なくとも90%にすることを提案するだろうとも指摘。供給面での障害の発生に備えた政策でもあるとした。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けEUは先に、ロシア産の天然ガス輸入を今年3分の2程度減らし、30年よりかなり前には同国産の天然ガスや石油への総体的な需要をなくす方針も示していた。【3月13日 CNN】
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ただ、“禁輸”という話になると温度差が露呈します。

****EU、ロシア産原油・ガス禁輸で温度差 エネルギー依存解消急ぐ****
ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議は25日、2日間の日程を終えて閉幕した。ウクライナに侵攻するロシアへの新たな制裁について協議したが、ロシア産原油や天然ガスなどの輸入禁止について意見が割れ、具体策に合意できなかった。エネルギー供給でのロシア依存が対露戦略上の課題として改めて浮き彫りになった。

一方、首脳会議でEUはガスの共同購入により安定供給を目指す方針を決定。また、米国と液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出拡大で合意し「脱ロシア依存」を急ぐ。

米国は既にロシア産原油、天然ガスの禁輸に踏み切っている。しかし、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るEUでは、依存度の高いドイツなどが慎重姿勢を崩さない。
 
一方、強硬派のポーランドやバルト3国からは禁輸に乗り出すべきだとの声が上がる。ラトビアのカリンシュ首相は24日、首脳会議の会場で報道陣に「(新たな制裁で)最も論理的なのは石油など(の禁輸)に踏み出すことだ」と主張した。
 
双方の溝は埋まらず、採択された声明では、ロシアに対する「さらに強力な制裁に向けた準備ができている」と記すにとどめた。(後略)【3月26日 毎日】
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アメリカの欧州へのLNG輸出が“支援”なのか、米国産ガスのウクライナ問題を利用した“売り込み”なのかは評価の分かれるところですが。

比較的代替調達先が見つけやすい石炭については、ドイツの要請でひと月遅れたものの、8月半ばから“禁輸”となるようです。

****EUのロシア産石炭禁輸案、実質的開始は8月半ばに延期=関係筋****
 欧州連合(EU)加盟国は7日の大使級会合で、ウクライナ民間人殺害を受けたロシアへの制裁措置として、ロシア産石炭の輸入を8月半ばから停止する措置で合意する見通し。EU筋がロイターに明らかにした。実施時期はドイツの要請で1カ月先送りされた。

欧州委員会の当初案は、既存契約を段階的に縮小するとし、制裁発動から90日間はロシアの欧州向け輸出が事実上可能となっていた。

EU筋によると、この猶予期間は4カ月に拡大された。域内最大の輸入国ドイツから圧力がかかったという。制裁は正式発表を経て週内か来週初めに施行する見込み。既存契約の下で8月半ばまでロシア産石炭の輸入は可能となる。

ある外交筋は、契約のほとんどが短期のため90日間で大半が完了可能とし、中途でのキャンセルは必要ないと述べた。

ロシアのウクライナ侵攻以降、EUがロシアからのエネルギー輸入を禁止するのは初めてとなる。

欧州委員会は、石炭の輸入禁止により、ロシアの年間収入が40億ユーロ(43億6000万ドル)失われる可能性があると推計している。

今回の措置により、ロシア産以外の石炭の輸入が増え、石炭価格が上昇する可能性がある。ただ、EU以外の輸入国はロシア産石炭の価格下落で恩恵を受ける可能性がある。【4月7日 ロイター】
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【フランス 「原子力産業のルネサンス」】
主要国のエネルギー・原子力発電への対応を見ていくと、フランスはウクライナ以前から【前出 TBS NEWS】にあるように原発拡大策をとっています。

****仏、原子炉最大14基新設へ 「原子力産業のルネサンス」****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、国内に原子炉を最大14基新設する計画を発表した。「仏原子力産業のルネサンス(再生)」を目指す。
 
マクロン氏は北東部ベルフォールの原子力発電用タービン工場を訪問した際、欧州加圧水型原子炉の改良型「EPR2」6基を新設し、さらに8基の新設を検討すると述べた。
 
マクロン氏によると、フランスは2011年の福島第1原子力発電所の事故以来、脱原発という「極端な選択」こそ避けたものの原子力産業への投資を怠ってきた。世界に類を見ない厳しい原子力規制があり、「進歩と科学技術に対する信頼」に基づき新設を決めた。
 
また、既存の原子炉の耐用年数を安全な範囲内で延長するとともに、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに新たな大規模投資を行う方針も示した。 【2月11日 AFP】
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【ドイツ 「脱原発」と「脱ロシア依存」で厳しいエネルギー事情】
「脱原発」のドイツは「脱ロシア依存」もあって、苦しいエネルギー事情です。

****ロシア産石炭と石油、ドイツが年内に輸入停止…24年半ばには対露依存度ゼロへ****
ドイツのショルツ首相は8日、「ロシアの化石資源から自立するため、大きな仕事をしなければならない」と述べ、ロシアからの石炭と石油の輸入を年内に停止する考えを示した。就任後初めて訪問した英国で、ジョンソン英首相との共同記者会見の際に明らかにした。
 
独政府によると、石炭については今月から輸入制限を始め、秋には取引を止める。輸入量の半分を占める天然ガスは、2024年半ばまでにロシアへの依存度をゼロにする方針だ。
 
欧州連合(EU)は8月から露産石炭などの輸入を禁じる。石油禁輸についても11日に協議する見通しで、エネルギーのロシア依存からの脱却を加速させる。【4月10日 読売】
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****ウクライナ侵攻のせいでドイツで暴動が起きるかもしれない****
(中略)3月のドイツの消費者物価指数(CPI)は前年比7.6%上昇した(EU基準)。戦後のドイツの最悪のインフレ率は第1次石油危機時の7.8%だったが、この数字が更新されるのは時間の問題だろう。
 
深刻なインフレの原因はエネルギーコストの高騰にあることは言うまでもない。ドイツはウクライナ危機以前からエネルギー価格の上昇に苦しめられていた。

ガス早期警報プログラムを策定
ドイツでは通常、電力・ガスの契約は1年ごとに更新されるが、今年1月の見通しでは、ドイツの約420万世帯の電気料金は平均63.7%上昇し、360万世帯のガス料金は62.3%値上がりとなっていた。発電所の燃料調達コストが上昇したことや再生可能エネルギーの生産量が減少することなどがその理由だった。
 
昨年末に稼働中の3つの原子力発電所の運転を停止したことも災いした。ドイツが電力価格の高騰に対処できるカードは天然ガスのみとなってしまったのだが、その矢先にウクライナ危機が勃発し、頼みの綱だったロシア産天然ガスの依存から早期に脱却せざるを得なくなった。
 
その苦境を見透かすかのようにロシアが3月下旬にガス代金のルーブル払いを要求してきたことから、ドイツ政府は「ガス早期警報」プログラムを策定することを余儀なくされた。

プログラムは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階になっており、早期警報が出されると危機対策本部が招集され、緊急事態になると電気の配分について政府が介入するという仕組みになっている。
 
政府は国民に対してエネルギーの節約を強く呼びかけており、1970年代の石油危機を彷彿とさせる状況になってしまっている。
 
エネルギー危機に直面したドイツは、電力の安定供給を優先するため「脱炭素」を先送りせざるを得なくなっている。ドイツの電力最大手RWEは3月下旬、停止した石炭火力発電所の再稼働や、停止が決定されている発電所の運転延長を検討し始めた。
 
だが、欧州連合(EU)が4月上旬、追加制裁の一環としてロシア産石炭の禁輸を打ち出したために、ドイツの石炭火力発電所の一部が運転停止に追い込まれるという逆風にさらされている。(後略)【4月11日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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上記記事は、エネルギー価格上昇に加えて、ウクライナ情勢を受けた食料品価格上昇、インフレによる経済悪化、不動産バブル崩壊の危機で、ドイツの苦しい状況を指摘しています。

【イギリス 原発拡大で脱ロシア依存目指す】
イギリスは原発拡大でロシア依存脱却を図っています。

****英、原発8基新設へ 首相「プーチン大統領の脅しに影響されない」****
ロシアのウクライナ侵攻を受けた世界的なエネルギー不安の中、英国で原子力発電所を新設する動きが加速している。エネルギーのロシア依存脱却を図る狙いがあるが、安全面などからは懸念の声も上がっている。
 
「プーチン(露大統領)のような人物の脅しに影響されてはならない」。ジョンソン英首相は7日、訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発でそう語り、安定したエネルギー供給の重要性を強調した。
 
英政府は6日に発表した新エネルギー戦略の中で、2030年までに最大8基の原発を新設する方針を明らかにした。現在は電力需要の15%前後を占める原発の比率を50年までに25%程度に引き上げる計画だ。

風力や太陽光などの再生可能エネルギーも拡大し、30年には原発を含む「低炭素」電源で需要の95%を賄うという。

IAEA(国際原子力機関)によると、英国では現在11基の原発が稼働中だが、いずれも老朽化が進んでおり、新戦略では小型モジュール炉(SMR)など次世代原子炉の開発を進める方針も示された。
 
背景には、ロシア依存からの一層の脱却を目指す英政府の思惑がある。既にジョンソン政権はロシア産原油の輸入を22年末までに止める方針を表明し、今後は天然ガスの輸入禁止も検討している。

北海油田を擁する英国は他の欧州諸国に比べロシア依存度は高くないが、世界的なエネルギー不安の中、最近は英国でもガスや電気料金が値上がりしており、政府はエネルギー自給力の強化に乗り出した格好だ。
 
ただ原発は建設コストが高く、稼働までには時間もかかるため、即座に光熱費抑制にはつながらない。英メディアによると、野党からは「高額請求に直面する数百万の家庭には何の助けにもならない」(労働党のミリバンド元党首)と批判の声が上がっているほか、原発を危険視する反核団体なども反発を強めている。
 
ウクライナ情勢を受け、欧州各国では原発の存廃を巡る議論が続く。欧州メディアによると、22年末までの全原発停止を決めているドイツは予定通り脱原発に踏み切る方針。一方、25年までの脱原発を決定していたベルギーは、一部の原発の稼働延長を決めた。【4月11日 毎日】
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日本では、NHK世論調査によると“エネルギーの価格が上がっても、ロシアへのエネルギー依存度を下げることを、支持するか聞いたところ、「支持する」が68%、「支持しない」が17%でした。”【4月11日 NHK】とのこと。

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