孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  内戦からの復興 仏教ナショナリズムの新たな脅威 いわゆる“中国「負債トラップ」”

2017-11-23 22:33:01 | 南アジア(インド)

(スリランカ東海岸トリンコマリー のツアー広告写真【http://www.saiyuindia.com/int_tour/IFLKC/index.html】)

少数派タミル人地域が“穴場リゾート”に 「平和が一番」】
ヒンズー教徒が多い少数派タミル人の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」と仏教徒多数派シンハラ人の中央政府の間で25年以上(LTTE発足からは37年)にわたって続いた激しい内戦は、2009年5月に政府側の勝利で終結しました。

内戦終結から時間は経過しましたが、多数派シンハラ人と少数派タミル人の和解・融合がどこまで進んでいるのか?

内戦勝利を成果として掲げるラージャパクサ前大統領が、敗者タミル人に対する強硬な姿勢をとったことは、和解の足を引っ張ることにもなりました。

1993年、2006年、そして内戦終結後の2010年の3回、スリランカを旅行しましたが、短い観光旅行であっても、出会ったシンハラ人が見せるタミル人への憎悪・恐怖は感じ取れました。

ラージャパクサ前大統領は汚職体質・縁故主義が国民から批判され2015年1月の選挙で敗北しましたが、長年流血の対立を続けていたシンハラ・タミルの融和については、国民一人一人の記憶に刻み込まれた憎悪・恐怖が癒えるまでにはまだ時間が必要でしょう。

もちろん、内戦の傷跡は今でも残っています。

****スリランカ内戦で夫を失ったタミル人女性ら、性的搾取の被害者に****
スリランカのチャンドリカ・クマラトゥンガ元大統領は15日、同国で長く続いた多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との間の内戦を生き延びたタミル人女性たちが、軍隊のみならずタミル人の役人らからも性的に搾取されていることを明らかにした。
 
シンハラ人とタミル人の和解を進める「国民統合・和解事務局」の代表を務めるクマラトゥンガ氏によると、2009年5月に終結するまで37年にわたって続いた内戦で夫を亡くした女性らが、役人らによる性的搾取の被害者となっているという。役人たちは行政的な手続きを進める際に、頻繁に性的な関係を持つよう強要するとされる。
 
クマラトゥンガ氏は同国の外国特派員協会での会見で、「今でも役人らによる性的虐待が多数存在し、タミル人の役人すらも、さらには村落部の下級の役人すらも行っている」と述べた。

また「彼らは書類に署名するためにさえ、女性に虐待を加えており、当然ながら軍関係者も性的虐待に手を染め続けている」と語った。
 
内戦が激化していた大統領の任期中、反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」による自爆攻撃で片目を失ったクマラトゥンガ氏は、「女性たちが生計を保てるようになれば、彼女たちは強くなり、より安全を感じることができ、搾取されることもなくなる」と述べ、女性たちが弱みにつけ込まれないようにするには、彼女たちの生活環境を改善することが一番であると訴えた。
 
内戦後の余波として、多くの女性たち、とりわけ夫を失った女性たちが、政府からの給付金や援助を受ける際に必要な身分証明書や出生証明書を入手するのに苦心しているとされる。【2月16日 AFP】
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そうしたなかにあっても、復興は一定に進んでいるようです。

****かつての内戦地が「穴場リゾート」に変身 青い海にクジラ、ホテル開業ラッシュ****
2009年まで25年以上続いた内戦で荒廃したスリランカ北部から東部にかけての少数派タミル人地域が、インド洋沿いの“穴場リゾート”に生まれ変わっている。

手付かずの砂浜が海外からの観光客を引きつけ、ホテルなどの開業が相次ぎ、復興の支えとなっている。
 
東部トリンコマリー。最大都市コロンボから車で約8時間かかるが、青い海にクジラが回遊し、さまざまな魚が取れる。12年にレストランを開いた元避難民のウィリアム・ウィンストンさんは「内戦で人は消えたが、自然が守られた。欧米を中心に毎年2割ほど客が増えている」と喜ぶ。
 
スリランカの住民は仏教徒中心のシンハラ人が7割強を占め、北東部を中心にヒンズー教を信じるタミル人が2割弱だ。1980年代以降、政府軍と反政府武装組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の内戦に発展し、少なくとも8万人以上が死亡した。

トリンコマリーも荒れ、ホテルは兵士の駐屯地に。内戦の時代には宿泊施設などは数えるほどしかなかったと地元の人々は口をそろえる。しかし、2009年以降は避難民が帰郷し、新築したり改装したりして、高級ホテルから安価な宿泊所まで多数の施設が開業した。
 
ビーチ沿いの農家、クルクラ・シンハムさんは内戦中に親族が殺害され、隣国インドに逃れ、約15年の難民生活を送った。自宅は内戦で破壊されたが、畑を再び耕し、トタン製の雑貨店でパパイアや飲み物を販売する。1日に1000スリランカルピー(約740円)の収入を得る日もある。
 
「内戦中は考えられなかった大金だ。村では電気もつき、兵隊に突然拘束されることもない。平和が一番」。シンハムさんが満足げに話した。【10月3日 SankeiBiz】
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「村では電気もつき、兵隊に突然拘束されることもない。平和が一番」・・・・そのとおりでしょう。
平和であれば、やがては両者の憎悪・恐怖の感情も癒され、(融和に向けた努力があれば)融和が実現する日も・・・と楽観的に期待したいものです。

かつては東部トリンコマリーは一般観光客が訪れる場所ではありませんでしたが、タミル人エリアの北部中心都市ジャフナと併せて、近いうちに旅行するのもいいかも。

台頭する仏教ナショナリズム イスラム教徒の緊張
しかし、民族的・宗教的嫌悪感というのは容易に火が付く種類のものであるのも事実です。

****イスラム教徒と仏教徒衝突=夜間外出禁止令も―スリランカ南部****
スリランカからの報道によると、ラトナヤケ南部開発・治安相は18日、南部ゴール近郊でシンハラ人の仏教徒と少数派のイスラム教徒との間で衝突が発生したと明らかにした。

地元警察によると6人が負傷し、19人が拘束された。警察は衝突を受けて、17日にゴール一帯に夜間外出禁止令を出したが、18日に解除した。
 
衝突の原因について、地元紙デーリー・ミラーは警察当局者の話として「イスラム教徒の女性2人がシンハラ人のバイクにはねられた。その後、無関係の者が『報復』としてシンハラ人の家を襲い、衝突がエスカレートした」と伝えた。【11月18日 時事】 
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2011年の国勢調査によると、スリランカの人口は70.2%を仏教徒が占め、ヒンドゥー教が12.6%、イスラム教9.7%、キリスト教7.4%【2014年6月18日 CNN】となっています。

また民族的には、シンハラ人(74.9%),タミル人(15.3%),スリランカ・ムーア人(9.3%)(一部地域を除く値)【外務省HP】となっており、このムーア人がイスラム教に対応していると思われます。

ムーア人は、8世紀から15世紀にかけてスリランカを訪れ、スリランカに住み着いたアラブ人商人達の子孫とされ、主に東部沿岸地域に多いようです。

タミル人との内戦が終わった一方で、近年は過激な仏教僧に扇動された仏教ナショナリズムが台頭しており、イスラム教徒を対象にした排斥行動も報じられています。

今回のゴールでの衝突の詳細は知りませんが、背景にはそうした仏教ナショナリズム台頭による社会的緊張があるのではないでしょうか。

9月には、過激派仏教僧らの集団がロヒンギャ難民施設を襲撃する事件も起きています。

****過激な仏教僧の集団、ロヒンギャ難民の保護施設を襲撃 スリランカ****
スリランカの最大都市コロンボ近郊で26日、国連(UN)がイスラム系少数民族ロヒンギャの難民のために用意した保護施設を過激な仏教僧らの集団が襲撃する事件が発生した。当局はロヒンギャ難民の移動を余儀なくされている。
 
地元警察によると、サフラン色の僧衣を着た仏教僧らが率いる暴徒は、首都近郊のマウントラビニア(Mount Lavinia)にある保護施設の門を破壊して建物内に侵入。1階にあった家具をめちゃくちゃに破壊した。投石も行われ、おびえたロヒンギャ難民らは上層階に避難したという。
 
この事件で警察官2人が負傷。施設内には子ども16人を含むロヒンギャ難民31人がいたが、死傷者は確認されていない。
 
保護施設に侵入した仏教僧の一人は、自身が率いる過激派組織「シンハラ国民軍」が撮影した動画をSNSに投稿し、施設内にいた難民を「ミャンマーで仏教僧を殺害したロヒンギャのテロリストだ」と非難。組織への参加と保護施設の破壊を呼び掛けた。
 
ロヒンギャ難民31人は約5か月前、スリランカ北方沖を船で漂流していたところを同国海軍によって発見・救助されていた。密入国請負業者の被害者とみられている。【9月27日 AFP】
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タミル人との内戦にしても、イスラム教徒との緊張にしても、観光客が目にする明るい光と風に溢れた島スリランカのイメージとは程遠いものがありますが、現実の一端でもあります。

人の心には“敵”を求めるような部分があるのでしょうか?
タミル人との内戦終結で生じたその“空白”を埋めるように、今度はイスラム教徒への憎しみが・・・・というのであれば悲しいことです。

現実生活で抱える多くの不安・問題が、標的とされやすい少数派への憎悪に集約される、そうした方向で容易に扇動されるということもあるのでしょう。

全政府収入の95%が借金の返済に
国際政治のうえでは、スリランカは中国・インドの影響力争いの舞台としてしばしば登場します。

****スリランカ、中国「負債トラップ」が露呈 財政難に****
スリランカは深刻な債務問題のため、不況に陥っている。過去10年で膨大なインフラ建設に数千億円が投じられているが、計画の大半は利益を出せていない。スリランカ政府は現在、重大な債務危機に直面している。
 
インドのメディア「ポストカード」は7月27日、スリランカの国の総債務は6兆4000億円にも上り、全政府収入の95%が、借金の返済にあてられていると伝えた。うち中国からの借入は8000億円にもなる。同国財務相は「完済に400年かかる、非現実的だ」と答えた。
 
スリランカ経済は、社会主義政権国の特徴で、国有企業が経済に強く介入し、財政支出過多となり赤字が膨らんでいく。中国からの融資と利子に悩まされる国有企業に慢性的な経常赤字が続けば、国家破たんのリスクも増大していく。

抜け出せない中国債務トラップ
中国は、スリランカを含むインド洋沿岸の国を海上輸送の要衝として次々と港湾を建設。インド沿岸をぐるりと囲むため「真珠の首飾り」戦略といわれる。また、ユーラシア大陸をつなぐ巨大経済圏「一帯一路」においても、スリランカは重要ポイントとなる。
 
一帯一路に参加する国に対して、中国は港湾、空港、大型高速道路など戦略的に巨額融資を行っている。返済しきれない負債を負わせることで、中国の経済、軍事、政治事情に従わせる、いわば「トラップ」となる。一連のインフラは中国企業が手掛け、融資し、中国の利益を生み出す目的で建設される。
 
「ポストカード」によると、たとえば、スリランカ南部のハンバントタ港は2010年、中国側から建設費用の85%を借款して、国有企業・中国港湾工程公司が建設した。しかし、年利6%以上の高利で、わずか「一日一隻」という利用率だ。
 
この港から北へ30キロ、マッタラ国際空港がある。同じく建設費の9割ほどが中国の融資で、中国港湾が建設担当。しかし、蓋を開ければ開業後の月の収入はわずか約1万5000円程度。米フォーブスに2016年「世界で最も空いている国際空港」などと評された。
 
親中派の前ラジャパクサ大統領(2005~2015)は、三期当選を可能にする改憲を強行するも、汚職・独裁といびつな親中政策により大統領選で敗北。

現地メディアは、前大統領の地元であるハンバントタ県に、現地経済にそぐわない港湾と空港が建設されたのは、同氏の意向があったとみられている。

脱中国依存の政権も方向転換せざるを得ない
アジアでも主力港のひとつとされる同国西部コロンボ港では2014年、中国の潜水船が突然、寄港した。国内外で「インド洋の中国軍事港にさせられるのでは」と危惧が高まった。

2015年、過度の中国依存の見直し、日本インドなどとのバランス関係を目指すと選挙で訴えたシリセーナ大統領が誕生し、すぐさま軍事開発と疑われた中国資本によるコロンボ港整備工事の中止させた。
 
しかし、止められない赤字拡大と財政難で、2016年に再開を認めた。さらに今年はじめ、スリランカ政府と中国政府によるハンバントタ港の運営権の99年貸し出し契約案が取り沙汰された。合意内容は、スリランカ海軍の担う治安警備の権限を、中国側が全面的に行うとの内容だった。
 
「スリランカは中国の植民地ではない」と、国民の強い反発を買い、合意は一時棚上げされた。ハンバントタでは、現地市民や僧による中国資本の開発に抗議するデモが発生し、軍が放水で強制解散させた。
 
特徴的な「99」という数字には、中国語で久久(ジョウジョウ、永久)と同音で、つまり「永久に手にいれる」との意味合いがあるとされる。99年契約は、ほかにも中国嵐橋集団の豪州北部ダーウィン港のリースが知られている。
 
国民の声もむなしく、AP通信によると7月29日、両国国営企業はハンバントタ港の長期貸与の合意文書に調印した。スリランカは、「中国軍の利用はない」としている。同港ではさらに、中国資本1600億円で大型港湾都市が建設されている。
 
スリランカの「中国植民地化」を、インドは強い脅威と見ている。今年5月に北京で開かれた「一帯一路」サミットに、インドは欠席。同外務省報道官は声明で、この返済をほぼ不可能にする中国「トラップ」を非難した。「一帯一路は主権を侵しており、開発支援を受けた国は借金苦に見舞われている」。【7月31日 大紀元】
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返済しきれない負債を負わせることで、中国の経済、軍事、政治事情に従わせる中国の「負債トラップ」はよく指摘されるところで、スリランカはその代表事例とされています。

中国からの支援・融資が多くの問題を惹起しているのは事実ですが、ただ、“返済しきれない負債を負わせる”と言っても、何も無理やり貸し付けた訳でもなく、スリランカ側も希望して負った借財です。やや、中国を目の敵にした一方的表現にも思えます。

最大の責任は、貸した中国ではなく、採算の取れない事業を行うスリランカ側(より具体的には、採算を無視して地元に大規模事業を誘致したラジャパクサ前大統領)にあります。

いずれにしても、中国からの借金にがんじがらめになっているシリセーナ大統領は、背に腹はかえられず中国寄りの姿勢を強めているようです。

****スリランカ、法相を解任=中国への港貸与批判****
スリランカのシリセナ大統領は23日、ラジャパクサ法相を解任した。同法相は、同国南部の港の運営権を中国に長期貸与することに批判的だったとされる。
 
スリランカは7月29日、南部ハンバントタ港の運営権を、11億ドル(約1200億円)で99年間貸与することで中国側と合意した。

シリセナ大統領は5月の内閣改造でも、中国との関係深化に批判的だったラナトゥンガ前港湾・海運相を港湾貸与に関わる同ポストから石油・資源開発相に転任させている。【8月23日 時事】
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