孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  統一政府樹立に向けた一定の合意も ただ、トランプ大統領・イスラエルの関心はイランへ

2017-11-24 22:37:27 | パレスチナ

(ゲリラ的なストリートアートで世間を賑わすロンドンを拠点とするアーティスト「Banksy(バンクシー)」が,パレスチナのガザ地区で描いた風刺的グラフィック【2015年2月27日 HYPEBEAST】)

自治政府議長選挙実施で合意
パレスチナ自治政府を主導する主流派ファタハやガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスなどパレスチナ各派は21日、統一政府樹立に向けエジプトの仲介による協議をカイロで始め、議長選挙実施等の一定の合意に達しています。

****<パレスチナ>「18年末までに議長選」各派が共同声明****
パレスチナ自治政府の主流派ファタハとイスラム原理主義組織ハマスなどのパレスチナ各派は22日、2018年末までに自治政府議長選挙と評議会(議会)選を実施することで一致した。

日程は自治政府のアッバス議長の決定に委ねる。21日から行われていたカイロでの協議を踏まえ、共同声明を出した。
 
ファタハとハマスは10月12日に和解合意を発表。ハマスが07年から実効支配してきたガザ地区の行政権限を12月1日までに自治政府に完全移譲することを目指している。
 
ロイター通信によると、今回の協議では選挙実施で合意した。一方、ガザ地区の治安体制に関する合意は得られず、自治政府による経済圧力の解除が進まないことに対するハマスの不満も噴出。ガザの行政権限が期限通りに移行されるかは不透明だ。
 
ファタハとハマスはエジプトの仲介を受けて協議を続ける。両者を含む各派は来年2月にカイロで再び会議を開く。【11月23日 毎日】
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基本的には、自治政府やイスラエルとの対立に加え、エジプトやカタールなどもハマスへの支援を控える国際環境の変化のなかで、ハマスのガザ統治が行き詰まったということでしょう。
このままでは、ガザ地区住民の不満がハマスに向けられることになります。

ガザ地区行政権限のハマスから自治政府への移譲を完全に実現するためには、ハマス軍事部門の解体あるいは自治政府コントロール下に置くことが必要になりますが、それではハマスの存在意義がなくなりますので、ハマスが了承することはないでしょう。その“不一致”をどのように取り繕うかが今後の焦点になりそうです。

【「社会的和解」演出も
こうした和解協議を下支えする動きも、“演出”されています。

****<ガザ>進む「社会的和解」 100遺族、報復放棄を明言****
パレスチナ自治区ガザ地区で、「社会的和解」が進んでいる。

イスラム原理主義組織ハマスがガザを武力制圧した2007年前後に肉親を殺された100家族が、報復の放棄を明言した。

これと並行して、ハマスと、パレスチナ自治政府を主導するファタハも、10年来の分断解消を目指し政治的和解を進める。「統一パレスチナ」は復活するのか。現場で探った。

今月9日、ガザ市内で社会的和解の記念式典が行われ、代表家族が握手した。
 
「度重なる戦争で、職も電気もない。こんな生活は、もううんざりだ」。和解に応じたガザ市のサミフ・ハサニさん(63)が言う。
 
07年5月16日、ファタハの警察官だった次男バハさん(当時26歳)がハマスとの衝突で頭を撃たれ死亡した。「貧しい人への喜捨を私にお願いする優しい子だった」とサミフさんはしのぶ。
 
愛する息子を奪ったかもしれない相手を、許せるのか。ガザには「復讐(ふくしゅう)の文化」が今も息づく。内戦が残した確執は、ハマスとファタハの政治的和解の障壁になりかねないとされる。

だが、サミフさんは「和解に前向きな家族は多い。(国家建設という)パレスチナの大義のためにも、統一政府が必要だ」。(中略)
 
社会的和解を主導するのは、ガザ地区の保安警察長官としてハマスを弾圧し、自治政府のアッバス議長との確執でアラブ首長国連邦(UAE)に逃れたダハラン氏だ。パレスチナの和解に積極姿勢を見せるエジプトも支援する。応じた家族にはUAEの資金で5万ドル(約570万円)の和解金が支払われる。
 
実務を担当する社会的和解委員会によると、対象はハマスやファタハに所属し、05年から11年に衝突や抗争で死亡した人の遺族である約370家族。

委員会のガザ市担当広報官、イブラヒム・タハラウィ氏は、「加害者が特定されないなど、比較的応じやすい事例から始めている」と説明、許すことが難しい場合も少なくないと認める。そのうえで「実績を積み上げて、政治的和解の基礎としたい」と強調した。【11月13日 毎日】
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“5万ドル(約570万円)の和解金”というのは、現地ではかなりの金額ではないでしょうか。
まあ、和解の気運が高まることは歓迎すべきことでしょう。

イスラエルは硬い姿勢維持
統一政府ができたあとの交渉相手となるイスラエルは、“ハマスが(1)軍事部門解体(2)イスラエルの存在承認(3)イランとの関係断絶−−をしない限り、統一政府を将来の和平交渉相手と認めない立場だ。”【11月22日 毎日】とのことで、イスラエルの存在を認めないハマスを含んだ“統一政府”には反対しています。

もっとも、ハマスの方も、「我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」(ハマスのスポークスマン、ファウジ・バルフム氏)と、従来に比較すると柔軟な姿勢を示していること、その背景にはハマスのガザ統治に関する苦しい状況があることなどは、これまでも取り上げてきました。

9月18日ブログ“パレスチナ ハマスが自治政府・ファタハとの和解交渉の意向 信頼を失っている自治政府ではあるが・・・
10月9日ブログ“パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性

イスラエル・ネタニヤフ政権は、依然として国際的批判も強い占領地への入植を進める政策を変えていません。

****<パレスチナ>ユダヤ人 15年ぶり入植許可 ヘブロンで*****
「どうすることもできない」。主婦のハナンさん(44)は、あきらめ顔でつぶやいた。

ヨルダン川西岸パレスチナ自治区の最大都市ヘブロン。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地だ。1967年の第3次中東戦争以降、半世紀にわたりイスラエルが占領する。

占領地への自国民の移住は国際条約で禁じられているが、今年10月下旬に旧市街のハシュダ通りにユダヤ人入植者用住宅31戸の建設許可が下りた。2002年以来、15年ぶりとされる。(中略)

新規の入植地建設計画は西岸全体で多数承認されている。イスラエルのネタニヤフ首相は連立維持のため極右・保守強硬派との連携が不可欠で、なだめる狙いがある。

実際に建設に着手する例は少ないとみられる。今回承認された建設予定地は、貨物コンテナを改良した簡易住宅6戸に6世帯がすでに暮らしていた。警備役の男性は言う。「いずれここにはマンションが建つさ」(中略)

イスラム教の聖地でもあるヘブロンでは、これまでもイスラエルとパレスチナの摩擦が相次ぎ、双方の対立をさらに深める火種となってきた。
 
2014年にはヘブロン近郊でユダヤ人少年3人が誘拐・殺害された事件をきっかけに、イスラエル軍とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、ハマスの実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区で軍事衝突した。
 
今年7月には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)がヘブロン旧市街と「族長たちの墓」と呼ばれる史跡をパレスチナの世界危機遺産として登録。反発した米国とイスラエルは10月になってユネスコからの脱退方針を表明した。
 
対立や衝突と切り離せない歴史を持つヘブロン旧市街への入植者住宅の建設許可は、たとえ小規模といえども重い意味を持つのだ。パレスチナ当局は異議の申し立てをしていると見られるが、許可取り消しの可能性は極めて低い。(後略)【11月24日 毎日】
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“占領地に自国民を移住させることは国際条約で禁じられているが、イスラエル政府は新たな入植地を事実上容認してきた。パレスチナ側は反発し、中東和平交渉の壁になっている。西岸地区の入植者は現在約40万人で、東エルサレム地区も含めると計60万人近くに上っている。”【同上】

トランプ大統領 強引に自治政府を交渉テーブルつかせる動き
ハマス・統一政府に対する対応はアメリカ・トランプ大統領もイスラエルと足並みをそろえており、トランプ大統領の外交交渉特別代表を務めるジェイソン・グリーンブラット氏は19日にアッバス議長と会談して、統一政府はイスラエルを国家として承認し、ハマスの武装解除を行わなければならないと述べています。

イスラエル側の“中東和平交渉の壁”は相変わらずですが、イスラエルの後ろ盾アメリカ・トランプ大統領は、オバマ前大統領とは違ってネタニヤフ首相との相性がいいこともあって、アメリカ・イスラエル主導の和平協議にパレスチナ自治政府を引きずり出す姿勢を示しています。

****米、パレスチナ代表部の閉鎖警告=和平交渉再開へ圧力―国際刑事裁捜査支持に反発****
米国務省当局者は17日、パレスチナに対し、ワシントンの総代表部(大使館に相当)の閉鎖を警告したことを明らかにした。国際刑事裁判所(ICC)によるイスラエル当局者の捜査や訴追を支持したことが理由。

トランプ大統領が「究極のディール(取引)」と見なす中東和平交渉の再開に応じるようパレスチナ側に異例の強い圧力をかけた形だ。
 
米国内法には、パレスチナがICCによるイスラエル当局者の捜査を支持しただけでも、パレスチナの総代表部を閉鎖できる規定が存在する。

かねて中東問題ではイスラエル寄りの姿勢を見せてきたトランプ政権は、パレスチナ自治政府のアッバス議長が9月の国連総会の一般討論演説で、ユダヤ人入植問題などに関してICCに捜査と訴追を呼び掛けたことを問題視したとみられる。
 
ただ、今後90日以内に大統領が「パレスチナがイスラエル側と意味のある直接交渉を始めた」と判断すれば、パレスチナは総代表部を維持できるという。

国務省当局者は「パレスチナとの外交関係を断つつもりはない」と指摘。和平交渉を後押しする姿勢に変わりはないと強調した。【11月18日 時事】 
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かなり強引な手法で、パレスチナ自治政府側は当然反発しています。

****パレスチナ、米の脅迫拒絶=トランプ政権、さらに圧力強化か****
米国務省当局者がパレスチナに対し、ワシントンの総代表部閉鎖を警告したのを受け、パレスチナ自治政府のマルキ外相は18日、「いかなる圧力も脅迫も受け入れない」と反発し、米国の揺さぶりを拒絶した。

しかし、総代表部閉鎖問題は手始めにすぎず、米国はさらに圧力を強める可能性がある。パレスチナが抵抗し続けることができるかは不透明だ。
 
マルキ外相はパレスチナラジオのインタビューに対し、米国側に詳しい説明を求めていることを明らかにした上で「ボールは米国側にある。この問題に関する米国務省とホワイトハウスとの協議の結果を待っている」と指摘。反発の一方で米国の対応を見守る考えも強調した。【11月18日 時事】 
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現実問題として、パレスチナ自治政府側も対イスラエル交渉はアメリカ頼みのところがありますので、アメリカの“要請”を無下に拒否し続けることも難しいところはあります。今後の展開次第でしょう。

****パレスチナ、米国との接触を一時停止=ワシントンの代表部閉鎖警告で****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、米国がワシントンにあるパレスチナの代表部を閉鎖すると警告したことを受け、自治政府の閣僚や当局者に、米国とのあらゆる接触を一時停止するよう命じた。パレスチナ当局者が21日、明らかにした。
 
この当局者は「最近の米国による受け入れ難い措置を受けた対応だ」と説明。ただ、AFP通信によれば、アッバス議長は、トランプ政権によるパレスチナ和平実現に向けた取り組みに協力する姿勢は変わらないことを強調したという。【11月22日 時事】
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トランプ大統領・イスラエルの視線は、ヒズボラ・イランに
トランプ大統領がどこまでパレスチナ和平協議を本気で考えているかは知りませんが、トランプ大統領・イスラエルの視線は、パレスチナというよりは、レバノンの武装勢力ヒズボラ、そしてヒズボラを支えるイランに向けられていることは、10月9日ブログ“パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性”でも取り上げたところです。

アメリカ・イスラエルに加えて、やはりイランを敵視するサウジラビアも加わって、シリア・イラク・レバノン、イエメンなど中東で影響力を拡大するイランに対抗しようとする中東全体を見据えた新たな動きが顕著になっており、レバノンのハリリ首相の突然の辞意表明など、周辺国はその荒波で揺れています。

パレスチナ和平協議が行われるにしても、トランプ大統領・イスラエルとしては“イラン封じ込め戦略”の枠組みの中で動かしていくという話になるでしょう。

トランプ大統領・イスラエル・サウジアラビアの“イラン封じ込め戦略”の話は長くなるので、また別機会に。

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