孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブータン  若者は豪へ 観光不振など経済苦境の起死回生策は「ビットコイン採掘」 政権交代へ

2024-01-09 23:49:21 | 南アジア(インド)

(「幸せの国」と呼ばれるブータンで、若年失業率(15〜24歳)が2022年に28.6%と17年の2倍以上に高まった。都市部での就職を希望する若者は多いが、雇用機会が増えていないのが現状だ。企業の少なさに加え、新型コロナウイルス禍で観光業などが打撃を受けたことが響いている。【2023年11月17日 日経】)

【コロナ後の観光不振 揺れる観光政策 観光税65ドル→200ドル→100ドル】
世界幸福度ランキングで2013年には北欧諸国に続いて世界8位にランキングされ、「幸せの国」と称されるようになったヒマラヤの小国ブータンですが、2019年版では156か国中95位に急速に後退している・・・といったあたりの話は、2021年10月28日ブログ“ブータン 「幸せの国」も近代化の社会変化の渦中に 国際関係でも中印対立への対応を迫られる”でも取り上げました。

原因は、鎖国に近い状態にあった以前に比べ、インターネットやスマホも使えるようになって“情報”が入ってくる、観光客とともにいろんな“もの”も入ってくる(アルコールや薬物も)・・・といった変化にともなって、どうしても他国との比較がなされ、自己肯定感が薄れていくといったあたりにあるようです。

「かつてブータンの幸福度が高かったのは、情報鎖国によって他国の情報が入ってこなかったからでしょう。情報が流入し、他国と比較できるようになったことで、隣の芝生が青く見えるようになり、順位が大きく下がったのです」(明治大学大学院情報コミュニケーション研究科講師で行動経済学者の友野典男氏)【女性セブン2021年11月4日号】

経済的にも、基幹産業である観光が環境保護とのバランスで揺らいでいます。

****ブータンの観光税、環境保護と経済のバランス模索****
風光明媚なヒマラヤの王国ブータンでは、清掃隊が森林や山道をパトロールし、観光客が残したゴミを探し、茂みや木に刺さった空の水筒やスナック菓子の袋を取り除いている。

清掃チームを運営する資金は、ブータンが数十年前から課してきた観光税「持続可能な開発料」(SDF)から捻出されている。オーバーツーリズム(観光公害)を避け、南アジアで唯一の「カーボン・マイナス国家」(年間の温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る国)としての地位を維持するための税金だ。

ブータンは先週、SDFを半額の1日100ドル(約1万4500円)に引き下げた。地域経済および雇用の下支えと、自然・環境保護の間でバランスを取ろうと格闘しているのだ。

ブータン政府関係者はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「価値は高く、量は少ない」観光という原則の下、この税金はインフラの整備や自然や文化の保護、化石燃料への依存を減らすための電動交通への投資に充てられると述べた。

人口80万人足らずのこの小さな国が現在脚光を浴びているのは事実だが、これはブータンだけの問題ではない。(中略)

<観光税を自然保護活動に>
(中略)
最近の調査や業界幹部の話によると、エコツーリズムに対する需要は全体的に伸びてはいるが、持続可能な旅行に対して高いお金を払おうという人は少ない。

ブータンは長年SDFを改定し続け、長期滞在をする旅行者には減免措置を適用した。

昨年9月、コロナ禍による2年以上の閉鎖を経て観光客受け入れを再開した際には、SDFを約30年間続いた65ドルから200ドルに引き上げた。

しかしこの増税は、パンデミックの影響と相まって観光客数に打撃を与え、国内の旅行業者、ホテル、手工芸品・土産物店に損失をもたらした。

政府のデータによると、今年1月から8月にかけてブータンを訪れた観光客は約6万人で、SDFによる税収は1350万ドルだった。パンデミック前の19年には、約31万6000人の観光客が訪れ、8860万ドルのSDF収入があった。

今月SDFを引き下げた際、政府は観光部門を復活させ、雇用を創出し、外貨を獲得することが狙いだと説明した。

ブータンは、国の経済規模30億ドルに対し、観光業の寄与度を現在の約5%から20%に引き上げることを計画している。

ブータン観光局のドルジ・ドラドゥル局長は、氷河の融解や予測不能な天候など気候変動の脅威に直面するブータンにとって、SDFは自然保護への取り組みを強化するために不可欠だと電子メールで述べた。「私たちの未来のため、遺産を守り、次世代のために新たな道を切り開くことが必要だ」と訴える。

ブータンの「カーボン・マイナス」アプローチは1970年代に始まった。当時の国王は、保全と開発を両立させる持続可能な森林管理によって経済を成り立たせようとした。(中略)

<将来への懸念>
ブータンは長年、特にインド人旅行者にとっては最高の休暇先だった。インド人は無料で入国できていたが、昨年、1日1200ルピー(約2100円)の税金が導入された。

旅行関係者によると、インド人観光客が棄てるゴミや、仏教建築に登って写真を撮るなどの行為が問題になっていた。税金が導入された今は、インドから旅行の予約が入らないという。

ブータン観光局のドラドゥル氏は、ブータンは「観光の量」よりも環境、文化、人々の幸福を優先しているため、インド人観光客に対する税金は少なくともあと2年間は据え置かれる予定だと述べた。

世界中で観光税を検討する場所が増えているが、観光税の導入は、手頃な料金で旅行を楽しみたい人々を排除してしまうリスクと背中合わせだ。

ブータンでのホテル・レストラン協会のジグメ・チェリン会長は、SDFは持続可能性という国のビジョンに沿ったものだが、「ビジネスへの影響」という点では課題もあると述べた。

同氏は、今回の減税によって観光産業の伸びが加速することを望んでいると語った。より多くの顧客と収入を求める地元企業も、同様の考えを示している。【2023年9月3日 ロイター】
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個人的なことを話せば、海外旅行が好きな私は“手頃な料金で旅行を楽しみたい”タイプであり、ブータンのような高額な観光税は受け入れがたく思っています。(コロナ以前は、高額な現地ガイドを必ずつけなければいけないといったルールもありました)

1日65ドルの時代でも「貧乏人は相手にしていないということか」と不愉快だったのですが、1日200ドル・・・「クレイジー、なんか勘違いしてんじゃない。好きにすれば」って感じ。 もちろん、1日1000円、2000円であれば環境保護観点から考えますが・・・

ということで、ブータンには行ったこともありませんし、旅行を検討したこともありません。インドからの観光客が激減したのは当然でしょう。

【若年層の失業率が29% オーストラリアへ流出】
ブータンの最低賃金は月額45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している・・・という状況で、国内に雇用を受け入れる産業も育たず、海外、特にオーストラリアに流出する若者が増加しています。

****高まるブータンの「不幸度」、豪に若者が大量流出****
新型コロナウイルス渦で閉じた国境をオーストラリアが再開したことをきっかけに、国民の幸福度が高いことで知られるブータンから同国に渡る学生が急増している。若者の失業率が2桁に上昇するなど、国内で経済面の「不幸度」が高まっているためだ。

ブータンからオーストラリアにやって来た学生は5月までの11カ月間だけで1万2000人を突破。これはブータンの総人口の約1.5%に当たる。最近の渡航組の大半は西オーストラリア州のパースに落ち着き、保育やホスピタリティー、会計などを専攻する課程に進んでいる。

昨年オーストラリアにやってきた教育コンサルタントのタシ・キプチュさん(25)もその1人。西オーストラリア大学でマーケティングを学んだが、ブータンは「コロナ後に全てが死に絶えた。チャンスがない」という。

ブータンからオーストラリアへの移住は、少数の人道的な受け入れを除けば、かつてはごくわずかだった。しかし2017年にブータンからやって来る学生が増え始め、22年にオーストラリアが国境を再開すると、こうした動きが加速。公式統計によると、ブータンからの学生ビザ申請件数は今年6月末までの会計年度に5倍に膨らんだ。【2023年8月1日 ロイター】
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【政府は豊富な電力を使ってビットコイン採掘】
産業育成でブータン政府が目をつけたのがビットコインのマイニングだそうです。マイニングに必要な電力は巣力発電で豊富ですから。

****「幸せの国」ブータン、経済の起死回生策は「ビットコイン採掘」****
世界で最も孤立した国のひとつであるブータン。その首都ティンプーの南にある丘の中腹には、数十個の輸送用コンテナが静かに横たわっている。その中では、高価なビットコインの採掘マシンが、この国の若き国王とその王国を魅了する貴重な通貨を生み出すために絶え間なく働いている。

「龍王」とよばれるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の治世下で、ブータンは密かに暗号資産のシャングリラへと変貌を遂げ、政府はその土地や資金、エネルギーを投じて、経済的苦境から脱出することを願っている。

しかし、ブータン政府はこれらのマイニング(採掘)施設の場所や規模を明らかにしたことはなく、約4年前に同国が世界初の国営マイニング施設を立ち上げたことも、国外ではほとんど知られていなかった。

ブータン政府がデジタル資産への投資についてコメントし始めたのは、フォーブスが今年5月の記事で、同国の政府系ファンドが、破綻した仮想通貨貸し付けサービスのBlockFi(ブロックファイ)やCelsius(セルシウス)の顧客だったことを報じた後のことだ。

そして今、フォーブスは関係者の証言と複数の衛星画像データに基づき、ブータン政府が運営する4つのマイニング拠点と思われるものの場所を特定した。

それらの施設のうちのひとつは、ブータンの教育と知識のための国際拠点になるはずだった、失敗した「エデュケーション・シティ」と呼ばれる10億ドル(約1400億円)の巨大プロジェクトの跡地に建設されている。(中略)

ブータン政府は、若者の失業率が上昇し、国外移住者と人材流出が急増する中で、未来を確保する手段として、教育都市プロジェクトを国民に宣伝していた。

ロイターは今年8月、ブータンの人口の約1.5%が2022年にオーストラリアに移住し、その多くが雇用と賃金の向上を求めていたと報じた。地元紙のKuenselによれば、ブータンの最低賃金は月額わずか45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している。

エデュケーション・シティはそれを変えるはずだった。2009年、ブータン政府はコンサルティング会社のマッキンゼーに約900万ドル(約13億円)を支払い、10億ドルの「医療、教育、金融、ICTサービスのための世界クラスの地域ハブ」の設計を依頼した。2つの川の合流地点に位置する1000エーカー(約400万平方メートル)のキャンパスは、同国の実験的な国民総幸福量(GNH)経済モデルの道標であり、アジアにおける高等教育ハブとなるはずだった。

しかし、そのいずれも実現しなかった。政治的スキャンダルや、管理上の不手際によってプロジェクトは遅延し、2014年に廃止された。そして、現地に残されたのが道路や橋などに加え、ビットコインのマイニングに必須の電力インフラだった。(中略)

ブータン政府の「起死回生」を担うビットコイン
ビットコインは、ブータン経済の起死回生のプランとして追加された。ブータンの財政は長い間、観光収入と隣国インドへの水力発電による電力輸出によって支えられてきた。

しかし、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行によって、1人1泊あたり65ドル(約9200円)の観光税から得られる年間8860万ドル(約125億円)の収入は激減し、早急な軌道修正が必要となった。複数の情報筋によると、ブータン政府は2020年頃からビットコインの採掘業者や関係者と協議を始めた模様だ。(中略)

ブータンを代表する航空会社や水力発電所、チーズ工場も運営する(ブータン政府の投資部門である)DHIは、ビットコインのプロジェクトの資金を調達するために外貨建て債券を増発したことを開示しているが、年次決算ではビットコインマイニングの収益や投資の内訳を一切明らかにしていない。ブータンの財務省も同様に沈黙を守っている。(後略)【12月29日 Forbes】
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ビットコイン関係の知識が全くないので、こういうマイニングがどの程度確実な収益につながるのかは知りませんが、経済を再建し、若者の雇用を確保するには・・・どうでしょうか? 牧歌的な「幸せの国」のイメージではありませんが。

【経済低迷で政権交代】
政治的には、厳しい経済情勢を反映して、議会選挙で与党が敗退し、政権交代が起きています。

****ブータンで政権交代へ 来年1月に国民議会本選****
ヒマラヤの王国ブータンの選挙管理委員会は1日、11月30日に実施された国民議会(下院、47議席)予備選の開票結果を発表した。与党の協同党は敗れ、来年1月9日に行われる本選に進出できなかった。過去2回の国民議会選と同様、政権交代することが決まった。

国民議会選は、予備選の上位2党が本選に進む仕組み。今回の予備選では五つの政党が参加し、2013~18年に首相を務めたツェリン・トブゲイ氏が率いる国民民主党が約42・5%と最多の票を獲得した。約19・6%を獲得し次点だった新党の縁起党と議席を争う。

王政から立憲君主制に移行する総仕上げとなった初の国民議会選が08年に実施されており、今回で4回目となる。協同党のロテ・ツェリン党首は自身のフェイスブックで敗北を認めた。【12月1日 産経】
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****ブータンで下院本選 「幸せの国」も経済低迷****
ブータンで9日、国民議会(下院)本選の投票が行われた。若年層の失業や観光業の低迷など各種の経済問題に直面する中、本選に臨んだ国民民主党と縁起党は、水力発電部門への投資誘致などを有権者に訴えた。投票は午後5時に締め切られ、結果は10日に発表される見通し。

国民議会予備選は昨年11月に実施され、政権与党および議席を持つ野党が敗退。国民民主、縁起の2党が本選に進んでいた。

世界銀行によると、ブータンでは若年層の失業率が29%に達し、過去5年間の経済成長率は平均1.7%にとどまっている。主要な外貨獲得源である観光業も、新型コロナウイルス禍による打撃から依然、回復していない。

国民民主党がブータン国民8人のうち1人が「食料など基本的なニーズを満たせていない」とマニフェストで指摘するなど、「国民総幸福量」という指標を掲げ、経済の豊かさよりも心の幸せを重視する政策への信頼は揺らぎつつある。 【1月9日 AFP】
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外交面では、インドと中国の間で揺れていますが、そのあたりは2023年11月4日ブログ“インド グローバルサウスのリーダーを目指すも、インド周辺国では中国主導の動き”でも取り上げましたので、今回はパスします。
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