孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カザフスタン  ロシア主導のCSTO平和維持部隊介入でロシアとの微妙なバランスに変化の可能性

2022-01-07 22:51:12 | 中央アジア
(握手するカザフスタンのトカエフ現大統領(左)とプーチン氏(2019年11月)【1月7日 WSJ】)

【トカエフ大統領  強硬姿勢で秩序「基本的に回復」か】
昨日ブログ“カザフスタン 拡大する反政府デモ ロシア主導の軍事同盟が介入を発表 実力者の前大統領は失脚か”でも取り上げた、燃料費高騰に端を発するカザフスタンでの反政府行動は、トカエフ大統領の“警告なしの射殺”も許可する強硬な排除姿勢によって、デモ参加者に26名の死者を出しながらも一応の鎮静化の方向にあるようです。

****カザフスタン、デモ隊26人死亡 治安部隊が「特殊作戦」で一掃****
タス通信は7日、抗議デモが拡大した中央アジア・カザフスタンでデモ参加者26人が死亡したと報じた。地元メディアを引用して伝えた。デモ隊側の死者は数十人と伝えられていたが、具体的な人数が明らかになるのは初めて。
 
治安当局はデモ隊を一掃する「特殊作戦」を5日夜から実施した。カザフ内務省によると治安部隊側の死者は18人。
 
タスによると、治安当局は3千人以上を拘束し、デモ隊が占拠した行政庁舎など全ての建物を管理下に置いた。【1月7日 共同】
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****カザフ大統領、デモ隊は「テロリスト」 さらなる騒乱に射殺命令****
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は7日、デモ参加者を「無法者」や「テロリスト」と呼んだ上で、さらなる騒乱が起きれば射殺するよう命じたと表明した。

燃料価格高に端を発した抗議デモが全国的に広がってから1週間が経過するなかテレビ演説し、最大2万人の「無法者」が主要都市アルマトイを襲い、国有財産を破壊したと述べた。

その上で、「対テロリスト」作戦の一環として、法執行機関と軍隊に「警告なしに射殺する」よう命じたと表明。「武装勢力は武器を捨てておらず、犯罪を継し続け、あるいは準備している。この勢力との戦いは最後まで続ける必要があり、投降しない者は誰であろうと粉砕する」と語った。

大統領はまた、デモ隊との話し合いを求める訴えを拒否。「愚かだ。犯罪者や殺人者とどのような話し合いができるというのか」と述べた。

さらに、ロシアのプーチン大統領をはじめ、中国、ウズベキスタン、トルコの首脳の支援に感謝の意を示した。【1月7日 ロイター】
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****カザフ大統領、秩序「基本的に回復」=デモ武力鎮圧****
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は7日、反政府デモを治安当局が武力鎮圧している状況をめぐり、「全ての地域で憲法上の秩序が基本的に回復している」と表明した。治安当局幹部らが参加した会合で語った。
 
トカエフ氏は「法執行機関が懸命に働いている」と述べ、各地の機関が状況を掌握していると強調した。デモ隊を「テロリスト」と表現し、「依然として武器を使用し、市民の財産に損失をもたらしている」と非難。「武装した戦闘員が完全に排除されるまで対テロ措置を続けなければならない」と訴えた。

タス通信は7日、地元テレビを引用し、デモ参加者の26人が殺害され、拘束者が計3000人以上に達したと伝えた。デモ参加者の死者はこれまで「数十人」とされていた。

治安当局は6日に最大都市アルマトイでデモの武力鎮圧を進め、中心部の広場からデモ隊を排除した。しかし、アルマトイでは7日も銃撃戦が続いており、死者はさらに増える恐れがある。【1月7日 時事】 
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【ロシアが主導する軍事同盟の介入】
この過程で、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)の平和維持部隊がトカエフ大統領からの支援要請を受けて派遣されました。

****ロシア軍事同盟がカザフスタン介入、平和維持部隊を派遣へ****
ガス価格の値上げを機に全土に抗議活動が広がり、非常事態宣言が発令された中央アジアのカザフスタン情勢で、アルメニアのパシニャン首相は5日、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊をカザフスタンへ派遣すると発表した。

CSTOは旧ソ連構成国で組織するもので、現在の議長国はアルメニアとなっている。

同首相の声明によると、カザフスタンの国内情勢の安定化を図る平和維持部隊の派遣期間は限定されている。派遣は、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けた形となっている。(後略)【1月6日 CNN】
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****デモ参加者数十人死亡、ロシア軍事同盟は鎮圧支援を開始 カザフスタン****
燃料価格引き上げを機に全土に抗議活動が広がった中央アジア・カザフスタンで、最大都市アルマトイの警察当局者は6日、一連の衝突でデモ参加者数十人が死亡、数百人が負傷したと明らかにした。同国に派遣されたロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)はデモ鎮圧を支援する作戦を開始している。(後略)【1月7日 CNN】
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このロシア空挺部隊を含む平和維持部隊が、どのくらいの規模で、どのような活動を現地で行っているのかについては、よく知りません。

サキ米大統領報道官は6日の会見で、カザフスタン政府によるロシア軍部隊の派遣要請が正当なものかどうかについて「疑問を持っている」と表明。現段階で判断できないとしつつ、人権侵害などが起きないか、国際社会はロシア軍の動向を警戒していると強調しました。

****米大統領報道官、ロシア主導部隊のカザフ派遣経緯に疑問****
 米ホワイトハウスのサキ報道官は6日の会見で、抗議デモで混乱する中央アジアのカザフスタンにロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が派遣されたという報告を注視していると述べた上で、CSTOが部隊派遣を決めた経緯には疑問があるとの考えを示した。

カザフの主要都市アルマトイで6日、燃料価格高に端を発する抗議デモの参加者が再び治安部隊と激しく衝突した。CSTOはデモ鎮圧への支援要請に応じ部隊派遣を決め、ロシアは空挺(くうてい)部隊を送り込んだ。

サキ氏は「(カザフによる)要請の性質や、正当な招請だったかどうかに疑問がある。現時点では不明だ」と述べた。

その上で、米政権は人権侵害やカザフ国内機関差し押さえにつながる恐れのあるあらゆる行動を注視すると説明した。

米国務省によると、ブリンケン国務長官は6日、カザフのトレウベルディ外相と会談。「米国はカザフスタンの憲法上の制度とメディアの自由を全面的に支持することを改めて伝えたほか、平和的かつ権利を尊重した危機の解決を提言した」という。【1月7日 ロイター】
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アメリカの“疑問”が何に基づくものかは知りませんが、今のところは、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けて派遣されたということに関する反証は報じられていません。

【ロシアに従順姿勢をとりながら、ロシアの影響を薄めるよう尽力してきたナザルバエフ前大統領 「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損った」】
ただ、今回の混乱が短期的に封じ込まれたとしても、トカエフ大統領からの支援要請を受けてロシア軍が派遣されたということは、長い視点で見ると非常に大きな意味を持ちます。

失脚も報じられているナザルバエフ前大統領は強権的支配者ではありましたが、カザフ人のアイデンティティーを強化し、ロシアの歴史的な影響を薄めるよう尽力してきました。

トカエフ大統領の介入要請は、「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損った」ことにもなります。
ナザルバエフ前大統領がこの件を了解していたのか・・・知りません。
反対したので安全保障理事会議長を解任されて失脚したのか・・・知りません。

ロシア軍の今後の動向次第では、カザフスタンの民族主義者を刺激する可能性もあります。
また、今後のカザフスタンとロシアの関係がどのように変化するのかも注目されます。

****カザフ暴動とロシアの介入、微妙な関係に亀裂も****
ロシアは軍部隊を派遣 情勢が一気に緊迫化する恐れも

ヌルスルタン・ナザルバエフ氏はカザフスタンの初代大統領に就任した1990年以降、両にらみの路線で国家運営を行ってきた。
 
国内では、カザフ人のアイデンティティーを強化し、ロシアの歴史的な影響を薄めるよう尽力してきた。しかしながら、外交・国防政策に関しては、ロシア政府に従順な姿勢を示し、カザフスタンは常に戦略的な同盟国であり続けるとロシアに確約した。
 
こうした微妙なかじ取りはカザフスタンにとって奏功していた――これまでは。

ロシアはカザフスタン内の複数の親ロシア派地域において、表だって分離・独立の動きを促進しようとしたことはない。これは他の旧ソ連圏の隣国に対して総じてみせている態度とは一線を画す。

カザフスタンは石油・ガス収入のおかげで、国民当たりの国内総生産(GDP)水準でマレーシアやメキシコにほぼ匹敵しており、国家として今後も安泰で、存続できるとの印象を強めていた。
 
ところが、ここ1週間に起こった流血の暴動により、従来のあらゆる前提が試される局面を迎えた。
 
ナザルバエフ氏は、2019年に大統領職を退いた後も、同国の安全保障理事会の議長として多大な影響力を維持してきたが、カシムジョマルト・トカエフ大統領によって今週、その要職から解任された。

トカエフ氏がまず着手した事柄の一つが、ロシアに対して平和維持部隊を派遣するよう依頼することだった。ウラジーミル・プーチン大統領は要請を快諾した。

暴徒化した市民の抗議デモが拡大し、カザフスタンが国家として予想外のぜい弱さを露呈する中、ロシアの軍事介入はこれまでにない重大な要素を今回の危機にもたらした。

地政学的な意味合いも宗教的な影響もない、単に燃料価格の引き上げに対する地元市民の反発が生んだ国内の衝突が、ここにきて一段と危険な事態へと発展する恐れが出てきたのだ。
 
政治リスクコンサルティング会社プリズム(ロンドン)の中央アジア担当アナリスト、ケート・マリンソン氏は「ナザルバエフ氏が権力を握っていた30年間に達成した偉大な功績の一つは、カザフスタンの国家主権を定着させたことだった」と指摘する。

「トカエフ大統領は一夜にしてこれを損ない、愛国的な傾向を強めるカザフ人を侮辱した。そのため、ロシア軍がカザフ人を攻撃する構えをみせれば、安保情勢が一気に緊迫する恐れがある」
 
カザフスタンが国家として独立した1991年、民族的なカザフ人は母国にありながら少数派だった。飢饉(ききん)の影響に加え、旧ソ連時代にロシア人をはじめ他民族が大量に入植してきた結果だ。

ナザルバエフ氏はロシア人が多く住む北部にカザフ人を移住させることに注力し、首都もアルマトイから北部のアスタナに移転。テュルク語族系のカザフ語を話すよう奨励した。現在でもカザフ北部・東部の複数の地域はロシア系が圧倒的に多いが、カザフの人口全体に占めるロシア系の比率は18%と、独立時から半減した。
 
こうした取り組みのすべてが、かねてロシアの国家主義者による標的となっていた。例えば、アルマトイ出身の扇動政治家であるウラジーミル・ジリノフスキー議員は常々、カザフスタンの大部分をロシアに併合するよう唱えている。

ところがプーチン氏は長らく、こうした主張を退けてきた。ウクライナに侵攻しクリミア半島を併合した直後の2014年8月、プーチン氏はカザフスタンで国家主義の機運が高まるリスクについて問われ、ナザルバエフ氏は賢明な判断を下しているとして、称賛する余裕を示してみせた。
 
一方で、不吉な予感のする「お世辞」も忘れなかった。プーチン氏は当時、ナザルバエフ氏は「非常にユニークなことをやってのけた――彼は独立国家の状態を一度も知らない領土に国家を構築したのだ」と述べていた。「カザフ人は一度も自ら国家を有したことがない」
 
15世紀に「黄金の大群(モンゴル帝国)」の分裂によって生まれ、約4世紀後にロシア帝国によって吸収されるまで続いたカザフ・ハン国の子孫であることを誇りに思うカザフ人にとって、今後の行方は明確だ。つまり、国家の独立と領土保全は、ナザルバエフ氏のようなロシアに忠実な指導者が実権を握る限りにおいてしか、保証されないというものだ。
 
前出のマリンソン氏は「カザフ人の頭上にはダモクレスの剣(迫る危機)がぶらさがっており、ロシアはいつでも兵士を送り込むことができると考えている」と述べる。
 
政権与党「統一ロシア」の議員はその点をあからさまに強調している。ビャチェスラフ・ニコノフ議員は2020年12月、国内テレビ局に対して「カザフスタンは一度も存在したことがない。カザフスタンの領土はロシアとソ連からの巨大な贈り物だ」と述べている。

今月には統一ロシアの別の議員、サルタン・ハムザエフ氏が「歴史的な母国ロシア」にカザフスタンを再統合するため、国民投票の実施を求めた。
 
シンクタンク、ロシア外交問題評議会のトップ、アンドレ・コルタノフ氏は、ロシア政府関係者で目下、カザフスタンの一部併合を望んでいる者はいないと話す。

ロシアの目的は、2020年のベラルーシ、2013年終盤のウクライナで起こった危機時のように、自国寄りの政権が確実に存続し、旧ソ連圏で民主化運動が政権を倒した「カラー革命」を回避することだという。
 
「ロシア指導部にとって、優先課題は安定性であり、親ロ派の政権が生き残ることだ」とコルタノフ氏は話す。「つまり、それがどう達成されるかは、ロシア指導部にとって重要ではない」
 
ベラルーシでは、少なくとも今のところ、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領によるデモ弾圧が成功している。ウクライナではビクトル・ヤヌコビッチ大統領が革命を阻止できず、2014年にロシアに逃亡した――これがプーチン氏にクリミア半島を併合し、ドンバス地方に侵攻する口実を与えた。

コルタノフ氏は「ここで問題となるのは、トカエフがルカシェンコと同じ道を選ぶだけの政治的な意思を有しているかどうかだ」と話す。
 
その上で、弱腰ぶりを露呈し、ウクライナのような政権崩壊がカザフスタンで起これば、ロシアのカザフスタンに対する戦略的な計算は違ってくるという。

「仮にカザフスタン情勢が変化し、過激な国家主義者が政権を握るようなことがあれば、ロシアの政策もこれに応じて変わる」というコルタノフ氏。「そうなれば問題であり、異なる方法で解決されることになるだろう」【1月7日 WSJ】
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これまでカザフスタンとロシアの関係はナザルバエフ前大統領の“非常にユニークな”手腕によって微妙なバランスを保ってきましたが、今回の混乱とロシアの軍事介入によって、カザフスタン内の民族主義台頭、それに対するロシアの反発といったことを含めて、このバランスが大きく動く可能性があります。

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