(カザフスタン・アルマトイで燃料価格の高騰に抗議するデモ隊(2022年1月5日撮影)【1月6日 AFP】)
【燃料費高騰からの反政府デモ 警察が数十人を殺害】
中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンで燃料費高騰に端を発する抗議デモが全土に拡大、警察がデモ参加者数十人を殺害したと発表するなど、混乱が広がっています。
****カザフ反政府デモで数十人死亡=ナザルバエフ氏失脚―ロシア軍事介入、流血拡大も****
中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンのトカエフ大統領は5日、反政府デモが全土に広がって混乱する中、地元テレビを通じて国民向けに演説し、ナザルバエフ前大統領に代わって、自身が安全保障会議議長に就任すると発表した。ナザルバエフ氏が失脚したことを意味する。
報道によると、警察当局者は6日、最大都市の南部アルマトイでデモ参加者数十人を殺害したと語った。衝突で治安部隊も13人が死亡、300人以上が負傷。けが人は全土で計1000人以上に上ったという。デモ隊が治安部隊に殴打される映像も伝えられている。
トカエフ氏の要請に基づき、ロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)は平和維持部隊の派遣を決めた。ロシアは精鋭部隊の空挺(くうてい)軍を展開。鎮圧を強化すれば、流血の事態が拡大する恐れがある。
エリートのソ連共産党政治局員だったナザルバエフ氏は30年近くカザフを統治。大統領の座を2019年にトカエフ氏に譲ってからも「国父」として影響力を保持してきたが、実力者の失脚により、中国とロシアに挟まれた地政学的な要衝でもある資源国は大きな転機を迎えた。【1月6日 時事】
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発端となった燃料費については、以下のようにも。
“カザフスタンでは新年から市場経済拡大の一環で液化石油ガス(LPG)の価格が自由化され、販売価格が2倍になり、2日からカスピ海沿いの西部地域で始まった市民の抗議が全土に広がった。”【1月6日 朝日】
“カザフスタン人の多くは、LPGが低価格なことから、自家用車をLPGで走るように改造している”【1月6日 CNN】という事情があって、国民の不満が爆発したようです。
抗議デモの拡大を受けて、内閣は総辞職し、価格調整策が出されましたが、デモは収まりませんでした。
****カザフスタンの抗議活動、全土に拡大 デモ隊と衝突で警察ら8人死亡****
ガス価格の値上げを機に中央アジア・カザフスタンで抗議活動が全土に広がり、内務省は5日、デモ隊との衝突で警察官ら8人が死亡したと発表した。
地元からの報道によると、最大都市アルマトイで行政庁舎や空港などが襲撃を受けた。トカエフ大統領は沈静化のため非常事態宣言を全土に拡大し、ロシアなど旧ソ連6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請したと明らかにした。
トカエフ氏は5日深夜にテレビ中継された演説で自らが同国の安全保障会議議長に就任したことも明らかにした。同議長はこれまでソ連からの独立から2019年まで政権に就き、辞任後もトカエフ政権に影響力を行使してきたとされるナザルバエフ前大統領が就いていた。ナザルバエフ氏の今後の地位は明らかにされていない。(中略)
4日にはソ連からの独立時に首都だったアルマトイ中心部で警官隊との大規模衝突に発展。トカエフ氏は内閣の総辞職を受け入れ、期限付きでLPGなど燃料や食品に価格調整を許可する方針を示したが、抗議は収まらなかった。
一部で反ナザルバエフ氏のスローガンが叫ばれたとの情報もある。
トカエフ氏は5日深夜の演説でデモ隊について「武器が置かれた施設を占拠している」などと批判。アルマトイ郊外で軍の空挺(くうてい)部隊と戦闘になっているともし、「最大限に厳しく対応する」と述べた。
トカエフ氏は19年、ナザルバエフ氏の辞任を受けて大統領に就任。その後、首都の名称がそれまでのアスタナからナザルバエフ氏の名前であるヌルスルタンに変更された際には、アルマトイなどで抗議の動きも伝えられた。
地元メディアは5日朝、トカエフ氏が今回のデモの沈静化を図る中で治安機関幹部だったナザルバエフ氏のおいを解任したと伝えていた。【1月6日 朝日】
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【ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊を派遣】
今回の混乱で注目されるのは、上記記事にも“ロシアなど旧ソ連6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請した”とあるように、ロシアの今後の動きです。
****ロシア軍事同盟がカザフスタン介入、平和維持部隊を派遣へ****
ガス価格の値上げを機に全土に抗議活動が広がり、非常事態宣言が発令された中央アジアのカザフスタン情勢で、アルメニアのパシニャン首相は5日、ロシアが主導する軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)が平和維持部隊をカザフスタンへ派遣すると発表した。
CSTOは旧ソ連構成国で組織するもので、現在の議長国はアルメニアとなっている。
同首相の声明によると、カザフスタンの国内情勢の安定化を図る平和維持部隊の派遣期間は限定されている。派遣は、カザフスタンのトカエフ大統領からの支援要請を受けた形となっている。
カザフスタンの地元メディアは内務省の報道機関向け情報として、国内各地で起きた暴動で警官や警備関係者の8人が死亡したと伝えた。警官ら317人が負傷したとも報じた。
内務省の公式サイトに載った声明によると、アルマトイ、シムケント、タラズ各市では地元の行政施設が襲われ、窓やドアが破壊された。「暴徒は石、棒、油や火焔瓶を使っている」ともした。
トカエフ大統領は「テロリスト」がアルマトイの空港を占拠し、航空機5機も奪ったと非難。市外で軍兵士と衝突していると述べた。抗議活動の参加者は国家システムを弱体化しているとし、多くは海外で軍事訓練を受けた者だと主張した。
カザフスタンは豊富な石油資源を材料に外資を呼び込み、独立以降、堅調な経済成長を維持してきた。ただ、専制的な統治が国際社会の懸念を時には招き、抗議活動も過酷な手法で封じ込めていた。
ロシアとは密接な関係を築き、米中央情報局(CIA)の世界便覧によると国内の総人口約1900万人のうちの約20%はロシア系。カザフスタンのバイコヌール宇宙基地はロシアの宇宙開発の主要拠点ともなっている。【1月6日 CNN】
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“インタファクス通信によると、ロシア空軍を含む5カ国の部隊が現地に向かっているという。”【1月6日 毎日】ということで、すでに動きだしているようです。
カザフスタンは石油、天然ガス、ウランなど地下資源が極めて豊富な国です。ロシアにとっても重要な貿易相手国であり、またロシアの裏庭として、アフガニスタンや中東に近い安全保障上の要衝でもあります。
いつものように、混乱の背後にアメリカなどの外国勢力がいる・・・と主張するのでしょうか。(実際、かつてのウクライナなどのカラー革命ではアメリカCIAなどが動いたのでしょうが)
****資源大国、カザフスタン****
カザフスタンは石油、天然ガス、石炭、ウラン、銅、鉛、亜鉛などに恵まれた資源大国である。
金属鉱業はカザフスタンにおける重要な経済部門のひとつであり、GDPの約1割(石油・ガスは3割弱)を占め、石油・ガスを含む天然資源は、工業生産・輸出・国家歳入の約6割を支えている。
その埋蔵量は、アメリカ地質調査所(USGS)によるとウランが世界の18パーセント、クロムが同10パーセント、マンガンが同5パーセント、銅が同5パーセント、銀が同5パーセント、鉛が同9パーセント、亜鉛が同8パーセントであり、さらなる開発ポテンシャルを有している。
ウランは恒常的に生産量が増加しており、特に世界金融危機を経てからは伸びが著しく、2010年の間には1万7,803tU(金属ウラン重量トン)を産出して以降[、カザフスタンはウラン生産で世界第1位(1997年は13位)となった。
今後、炭化水素・クロム・鉄は50 - 80年、ウラン・石炭・マンガンは100年以上の生産が可能であると言われている。
一方、輸出の主要部分を占める非鉄金属および貴金属鉱山の開発・生産は12 - 15年程度で枯渇する可能性が指摘されている。
カザフスタンは資源に恵まれている一方、品位の低さなどから開発に至った鉱山は確認埋蔵量の35パーセントにすぎず、10種の鉱物(ダイヤモンド、錫、タングステン、タンタル、ニオブ、ニッケル、ボロン、マグネサイト、マグネシウム塩、カリウム塩)はいまだ開発されていない。
鉱床探査の不足により、近年は埋蔵量減少分が補填されず、質・量ともに低下していると指摘されており、地質調査部門の発展促進が課題となっている。【ウィキペディア】
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【“院政”を敷いてきた前大統領ナザルバエフ氏は失脚か 混乱の背景に同氏への不満も】
この“お宝”を利用して、カザフスタンを長年統治してきたのが「国父」とされるナザルバエフ前大統領であり、その「失脚」の可能性が、今回混乱の二つ目の注目点です。
“中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は5日、反政府デモが全土に拡大する中、地元テレビを通じて国民向けに演説し、ナザルバエフ前大統領に代わって、自身が安全保障会議議長に就任すると発表した。ナザルバエフ氏が失脚したことを意味する。”【1月6日 時事】
ナザルバエフ氏は2019年に退陣したものの、これまで“実力者”として影響力を保持しており、トカエフ大統領の統治はナザルバエフ氏による“院政”とも観られてきました。
ナザルバエフ前大統領の2019年の退陣は突然で、ウズベキスタンの政変などを反面教師として、将来的な影響力保持のための早め・余力を残した形での退陣でした。
****電撃辞任のカザフ前大統領の長女、上院議長に 後継への布石か****
中央アジア・カザフスタンの上院は20日、前日辞任を電撃発表したヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領の長女、ダリガ・ナザルバエワ氏を新議長に選出した。国営通信カズインフォルムが報じた。
ダリガ氏はナザルバエフ前大統領の3人の娘のうち政界で最も大きい存在感を示し、以前から父親の後継者になり得ると目されてきた。今回、上院議長に選出されたことにより、次期大統領候補の一人として注目される。ただしナザルバエフ氏は過去に、自分の娘を後継者とする考えを否定している。
カザフスタンでは30年近くにわたって政権を握ってきたナザルバエフ氏が19日、突然辞任を表明。これを受け、上院議長だったカシムジョマルト・トカエフ氏が20日、大統領代行に就任した。
ナザルバエフ氏の本来の任期だった来年4月までは、トカエフ氏が暫定政権を運営する見通しだが、大統領選が前倒しされる可能性もある。
また同日には議会が、長きにわたって同国を率いてきた前大統領をたたえ、首都名をアスタナからヌルスルタンに変更することも決定した。採決後にカズインフォルムが伝えた。 【2019年3月20日 AFP】AFPBB News
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****カザフ大統領退任、30年君臨 親族へ権力禅譲への動き****
(中略)同氏の突然の退任の理由としてまず、隣国ウズベキスタンで16年、独裁者だったカリモフ前大統領が在任中に死去したことが指摘されている。
後任のミルジヨエフ大統領はカリモフ時代の路線を否定し、カリモフ氏の親族に対する捜査・訴追も本格化させた。ナザルバエフ氏はこれ“反面教師”とし、自身が健康なうちに退任し、政策の継続性や一族の権益を確保するのが得策と考えたとみられる。
次に、石油など地下資源に依存するカザフ経済が、市況低迷で成長にかげりが見え始めたことだ。今年2月には貧困層などの間で反政権機運が高まり、初の内閣退陣に追い込まれた。(中略)
トカエフ氏はロシアの招待に応じ、大統領就任後初の外遊先としてモスクワを訪れ、今月3日にプーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳は経済面や安全保障面で協力関係を強化していくことで合意した。
ロシアにとって、カザフは地下資源など重要な貿易相手国である上、アフガニスタンや中東に近い同地域は安全保障上の要衝だ。ロシアもカザフも、いずれも国境を接する中国を牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。【2019年4月5日 産経】
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ナザルバエフ前大統領の跡を継ぐ形となったトカエフ大統領については、”外交筋は「トカエフ氏はあくまでつなぎだ」と述べ、ナザルバエフ氏周辺が最終的に(長女)ダリガ氏に権力継承するシナリオを描いていると指摘した。”【2019年4月9日 時事】とも指摘されていました。
“カザフスタンで暴動が拡大した背景には、燃料価格の引き上げに対する憤りだけではなく、ソ連末期から30年以上も実権を握り続けてきたナザルバエフ前大統領への鬱積した不満があるとみられる。(中略)ネット交流サービス(SNS)上では、ナザルバエフ氏の銅像にひもをかけて引き倒そうとする人々の映像や、破壊された銅像の写真が拡散した。”【1月6日 毎日】
そのナザルバエフ前大統領の目論みが今回混乱でついえた・・・ということでしょうか。
そうなると、2019年の早期退陣が裏目に出たということにも。
権力者がなかなか権力の座から身を引かないのは、“院政”だ、身内への権力移譲だと言っても、こういう不確実性があるからでしょう。
もっとも、ロシアの介入で、今後どのように展開するのかはわかりません。
【中国との微妙な関係】
なお、“ロシアの裏庭”とされた中央アジアで中国の存在感が強まっていますが、資源大国カザフスタンにも当然中国が進出しています。
ただ、その関係は微妙なところもあるようにも報じられていました。
****反中感情が高まるカザフスタン、外国人への土地売却を永久禁止に―仏メディア****
2021年5月14日、仏国際放送局RFIの中国語版ウェブサイトは、反中感情が高まっているカザフスタンで、外国人への土地売却が永久に禁止されることになったと報じた。
記事は、カザフスタン国内で反中感情が高まる中で、トカエフ大統領が13日、外国人への土地売却を禁止する法令を発布したと紹介。
同国では2016年より反中感情が高まり、政府が当時打ち出した外国人投資家への土地売却計画に反対するデモが頻発、同年に外国人への土地売却を一時停止する措置が取られており、今回発布された法令はこの措置を永久化するものであると伝えた。
そして、野党の責任者がフェイスブック上でこの法令発布を祝う一方で、15日にアルマトイで実施予定の抗議デモを実施することを呼びかけるとともに「われわれの土地を外国人に永遠に売り出さないよう当局に警告する。56件ある中国による投資プロジェクトにも反対だ」と記したことを紹介している。
報道によれば、野党は4月24日にもアルマトイで集会を開き、中国の提唱する「一帯一路」構想に乗れば自国が「債務の罠」に陥るとして政府に抗議を行ったが、「異例なことに、この集会は政府から許可が下りての開催だった」という。
記事は、カザフスタンが中国と良好な関係を保ち、「一帯一路」構想の重要なパートナーとされてきた一方で、国内では燃料や鉱石資源の豊富な国として中国の従属国になることを懸念する声が出ていると紹介。
また、新疆ウイグル自治区でウイグル族やカザフ族が迫害を受けているとして、市民の間で中国に対する反感が高まっているとも伝えた。【2021年5月14日 レコードチャイナ】
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今回混乱にあたり、もう一人のプレイヤー中国との関係にどう影響するのかも注目されます。
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