孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ポーランド、ウクライナ、グルジア  ロシアとの関係改善へ向けた動き

2010-03-12 22:20:31 | 国際情勢

(ポーランド南部にある古都クラクワ 「カチンの森」の惨状を伝える写真に涙する女性
“flickr”より By themactep
http://www.flickr.com/photos/themactep/2598777949/)

【カチンの森】
以前も取り上げたことがありますが、ポーランドとロシアの間には「カチンの森事件」と呼ばれる歴史問題があります。
旧ソ連西部カチンの森などで、第二次大戦中の1940年春、ポーランドを占領していたソ連(当時)がポーランド人の戦争捕虜らを大量処刑(約4400人)したとされる事件です。処刑されたのは、共産主義の政治教育受け入れを拒んだ将校、官僚、教師らです。43年にドイツ軍がカチンの森(正確には、スモレンスク近郊のグニェズドヴォ村)で大量の死体を発見し発覚しました。
その後明らかにされた資料では、ポーランド人犠牲者の数は約1万4500人にのぼり、他にソ連人多数も殺害されていたとのことです。(犠牲者の数については、“ポーランド人将校ら2万人以上”とする見方もあるようです。)

旧ソ連はほぼ半世紀にわたり、この虐殺について「ナチスの仕業」と主張。
両国がともに共産陣営にあった冷戦時代、ポーランドでカチンの森事件を語ることさえ「タブー」でした。
89年にポーランドに民主政権が誕生し、本格的な真相解明が始まり、90年にゴルバチョフがカチンと同じような埋葬のあとが見つかったメドノエとピャチハキを含めて、ソ連の内務人民委員部がポーランド人を殺害したことを認めました。ただ、旧ソ連を引き継ぐロシアは今も戦争犯罪とは認めていません。
「カチンの森事件」をめぐる見解の相違は、冷戦構造崩壊後、ポーランドとロシア両国の緊張が生じた要因の一つとされてきています。

【未解決の過去と決別】
この事件から70年の追悼式典に、ポーランドのトゥスク首相が招かれ、ロシアのプーチン首相と共に出席することが、2月3日、ロシア政府によって発表されました。プーチン首相とトゥスク首相の電話協議で、ロシア側がトゥスク首相を招待したとのことで、トゥスク首相は「犠牲者の追悼にも、両国関係の友好促進にとっても重要な一歩になる」と語り、招待に応じることを表明しています。【3月6日 毎日より】
ポーランド側は、その後、カチンスキ大統領も式典に出席することとし、両国間の関係改善・雪解けが期待されています。

****カチンの森:露とポーランド首脳が現地訪問へ 和解に期待*****
第二次世界大戦中にポーランド人2万人以上が犠牲となった「カチンの森事件」の犠牲者家族を支援するポーランド政府系組織「戦争殉教者追憶保護協会」のプシェボズニック事務局長は毎日新聞の取材に応じ、ロシアとポーランド両国首脳が初めてそろって現地訪問することについて、「ロシア側から招待されたことに意義がある。大きな変化が起こる」と両国の和解に強い期待を示した。
事務局長は、事件から70年の節目を迎える来月、プーチン露首相がポーランドのトゥスク首相を現地の追悼式典に招待した点を「ロシア側の英断だ」と前向きに評価した。

事務局長によると、事件でポーランド人を大量処刑したのはソ連内務人民委員部(秘密警察)だったが、スターリンら当時の最高指導部が直接、処刑を指示した。こうした背景から、事務局長は「『カチンの森』は共産主義体制が生んだ戦争犯罪」と指摘した。
その上で事務局長は「事件をめぐる歴史論争に終止符を打てれば、未解決の過去と決別できる。ポーランドとロシアの2国関係はきっと正常化に向かうだろう」と、関係改善に期待を示した。

ポーランドでは、旧ソ連とその後継国家ロシアに対して複雑な感情が根強く残る。独ソ不可侵条約(1939年)とその秘密議定書によりポーランドは第二次大戦でナチス・ドイツとソ連に分割占領された。冷戦時代にはソ連軍主体のワルシャワ条約機構軍が駐留し、ソ連に抑圧された苦い経験もあるからだ。
しかもカチンの森事件について、90年にソ連のゴルバチョフ大統領が犠牲者名簿を公表し、ソ連の関与と責任を認めた。ソ連側はそれまでほぼ半世紀にわたり「ナチス・ドイツの犯行」と主張していた。その後エリツィン大統領が「国家ぐるみの指示があった」と認め、当時の記録も公開したが現在は記録は再び秘密文書扱いで非公開となっている。【3月12日 毎日】
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両国間には「カチンの森」だけでなく、ポーランド分割の歴史や旧ソ連が対ナチスのワルシャワ蜂起を見殺しにした歴史などもあります。
そうした歴史は直視する必要がありますが、徒に敵意を煽るのではなく、悲劇を繰り返さないために関係国間の関係を良好なものにしていく努力を、その歴史から汲み取ることが重要に思われます。

ポーランドとアメリカは1月20日、見直し後の新しい東欧ミサイル防衛(MD)計画に基づく地対空迎撃ミサイル「パトリオット」の配備先をロシアの飛び地・カリーニングラード州との国境から約60キロしか離れていないポーランド北部モロングに決定したと発表しました。
ロシアのセルジュコフ国防相は2月19日、ロシアへの脅威が欧州で発生した場合、ロシアの飛び地・カリーニングラード州に新型ミサイルシステム「イスカンデル」を配備すると述べ、欧州でミサイル防衛(MD)配備を検討するアメリカの動きを牽制しています。
「カチンの森事件」追悼式典への出席で、こうしたポーランドとロシアとの関係が一気に変わるものでもないでしょうが、ロシアとの距離をどのように保つか・・・今後も模索が続くと思われます。

【「正しい方向へ」】
一方、親欧米路線をとり、ロシアとの関係が悪化していたウクライナでは、周知のように親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が誕生しました。
ヤヌコビッチ大統領は5日、ブリュッセルの欧州連合(EU)本部訪問に続いて、就任後初めてロシアを訪れ、メドベージェフ大統領、プーチン首相と会談しました。
ウクライナ大統領の訪露は08年6月以来で、両大統領は、ウクライナのユーシェンコ前政権下で悪化した関係の修復を進めることで合意しました。

****ウクライナ:大統領がロシア首脳と会談 関係修復で合意*****
両国首脳は、今年前半にメドベージェフ大統領がウクライナを公式訪問し、閣僚らを交えた「国家間委員会」を開いて諸問題を協議することで合意。会談後の共同会見でヤヌコビッチ大統領は「我々は力を合わせて(関係改善へ)急転換する」と述べ、メドベージェフ大統領も「正しい方向へ(の転換を)」と応じた。

ヤヌコビッチ大統領は会見で、2017年に駐留協定が期限切れを迎える、ウクライナ南部でのロシア黒海艦隊に対する基地貸与問題を巡り「近く回答できると思う」と述べるにとどめた。ロシア産天然ガスについてウクライナ側が価格引き下げを期待していた問題は協議されなかった。
ヤヌコビッチ大統領は1日に最初の外遊としてブリュッセルの欧州連合(EU)本部を訪れており、ロシアは2番目。「日程上やむを得なかった。(ロシアは)理解してくれると思う」と語った。【3月6日 毎日】
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また、ウクライナ最高会議(国会)は11日、ヤヌコビッチ大統領の側近で与党・地域党党首代行のミコラ・アザロフ元第1副首相(62)を新たな首相に選出しました。アザロフ新首相は、ロシア生まれで84年にウクライナに移住した経歴を持っています。
これにより、ヤヌコビッチ大統領の政権基盤も固まり、今後、親欧米路線からの転換が進むものと見られています。

【「正常な対露関係は重要だ」】
08年夏にロシアと軍事衝突を起こしたグルジアでは、野党指導者が今月に入り、相次いでロシアを訪れていることが報じられています。ロシアとの関係改善を模索して、「親米反露」の立場を取るサーカシビリ大統領をけん制する狙いとか。

****グルジア:野党が親露路線 「親米反露」の大統領けん制****
グルジアの有力野党指導者のブルジャナゼ前国会議長は今月5日にモスクワを訪れ、プーチン首相と会談した。ブルジャナゼ氏は席上「ロシアは大国の一つであり、正常な対露関係は重要だ」と発言。プーチン氏も「関係改善を望む人たちとの間ならば、紛争以前の関係に戻せるかもしれない」と訪問を歓迎した。別の野党指導者であるノガイデリ元グルジア首相も9日からロシアを訪問した。
ブルジャナゼ、ノガイデリ両氏は04年に誕生したサーカビシリ政権で要職を務めたが、後に野党指導者に転じた。特に「民主運動・統一グルジア」の党首を務めるブルジャナゼ氏は、13年に予定される次期大統領選の有力候補の一人。同氏がロシアを訪れた背景には「まずは今年5月の地方選挙をにらんで、(現政権の弱点である)対露問題に焦点を当てる狙いがある」(外交筋)とみられる。

このような動きに対して、サーカシビリ大統領は「反政府感情にとらわれ、反愛国的な行動を取る勢力がいる」と批判している。
ロシア政府はサーカシビリ政権との間で、関係改善に応じない立場を崩していない。だが一方で、両国政府はロシア国内で数十万人といわれるグルジア国民が働いている事情などを考慮して、今月1日に双方の国境を挟む検問所1カ所で業務を再開した。さらに緊張緩和に向けた環境整備にも踏み出している模様だ。【3月11日 毎日】
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【ロシアとの距離をいかに保つか】
旧ソ連の諸国や東欧諸国にとって、ロシアとの関係、どのような距離を保つかは最大の問題です。
過去の歴史もあって、ロシアへの警戒感も根強く存在しますが、ロシアとの関係悪化は“グルジアのような結果”にもなりかねず、また、経済的にもロシアとの強い結び付きもあります。
EUの東方拡大にさらされるロシアにとっては、かつてのソ連の裏庭のこうした地域での影響力の再構築が重要課題となっています。

ポーランド、ウクライナ、グルジアの最近の動きを見ると、アメリカの影響下でこれまでロシアへの対決姿勢を強めていた各国において、ロシアとの関係改善を模索する動きが始まっているように見えます。


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