孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド総選挙をにらんで、LTTE軍事制圧論が強まるスリランカ

2009-05-11 22:23:43 | 国際情勢

(かつてLTTEの行政拠点だったキリノッチの難民キャンプ 空爆や砲撃、それらからの避難のトラウマで震え怯える少女 “flickr”より By trokilinochchi
http://www.flickr.com/photos/tro-kilinochchi/2799218401/)

【インド総選挙とスリタンカ情勢の関係】
スリランカではタミル人反政府組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)が政府軍に追い詰められて、長い内戦の最終段階にありますが、一方で「人間の盾」としてLTTEに留め置かれた住民がまだ5万人ほどいるとも言われ、その住民の戦闘による犠牲が大きく報じられています。

隣国の「世界最大の民主主義国」を自負するインドでは下院総選挙の最中で、5回に分けて行われる投票も最後の投票(13日)と開票(16日)を残すのみという終盤にさしかかっています。
この選挙では、選挙後の組閣・首相選びのキャスティングボードを握るのではないかと、「ダリット(被差別民)の女王」とも呼ばれる、地方政党・大衆社会党(BSP)のマヤワティ党首(53)が注目を集めています。

両方とも、このブログでも何回か取り上げたことがあり、また、最近の情勢などもメディアで報じられていますが、「なるほどね・・・」と思ったのが次の記事です。
この両者が密接に関係しているようです。

****スリランカ:強まる軍事制圧論…政府、インド総選挙を注視****
内戦が最終局面を迎えたスリランカで、インド下院総選挙の開票がある16日前後までに反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)支配地域を軍事制圧すべきだとの意見が政府内で高まっている。
スリランカ・タミル人と同じ民族が住むインド南部タミルナド州の地方政党が連立政権作りの鍵を握り、スリランカ政府に停戦圧力をかけることを連立参加の条件にする可能性があるためだ。

スリランカ政府関係者は毎日新聞に対し、インドの最大与党「インド国民会議派」と最大野党「インド人民党」がともに過半数を大幅に下回るのは確実で、地方政党の支援なしでは政権を作れないとの分析を示した。このため、インドでどのような新政権が発足してもスリランカ内戦をめぐる対応は厳しくなる、との懸念が政府内に広がっているという。

インド総選挙は13日にタミルナド州などである第5回投票が最後となるが、スリランカ情勢が選挙結果にも大きく影響しそうだ。
同州はスリランカ・タミル人への同情心が強く、多くの有権者が今回、スリランカ問題への対応で投票先を決める「浮動票層」となっている。このため各党は、同州を天王山と位置づけ、激しい選挙戦を展開してきた。
国民会議派を中心とする連立政権の一角、同州政府与党「ドラビダ進歩同盟」のラマドス総裁は5月上旬、「タミル人の独立を支援する」と公言。他の地方政党も、スリランカへの停戦圧力の必要性を訴えた。
一方、会議派は91年総選挙中に当時のラジブ・ガンジー首相が同州でLTTEに暗殺されて以降、スリランカ問題への積極的な関与を避けてきたが、今回はラジブ氏の妻ソニア総裁や長男ラフル幹事長を投入し、タミル人支援の強化を約束した。スリランカへの不干渉を続けてきた人民党も初めて「スリランカ政府に和平を求める」と方針転換し、同州の地方政党との連携強化を進めている。

ただ、インド・ジャミア大学のジャマール教授(政治)は「各党のタミル人支援の公約の大半は票集めの手段にすぎない」とみており、本気で圧力をかけるかどうかは疑問だと指摘する。【5月11日 毎日】
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【ネール・ガンジー家とLTTE】
インドの選挙では票集めのための“ばらまき公約”乱発は広く行われており、記事最後にあるように、今後どこまでインドがスリランカに関わるかは確かに疑問ではあります。
特に、ネール・ガンジー家とLTTEの間には激しい確執があります。

タミル人が多く暮らすインドは、87年に反タミル大暴動とタミル・ゲリアの反撃で混乱するスリランカに軍事介入までした経緯がありますが、独自の路線をとるLTTEとの関係が悪化し撤兵、その後スリランカとは距離を置くようになりました。
これに反発するLTTE支持者によって、91には当時のラジブ・ガンジー首相が暗殺される悲劇が起こっています。

先月にもインド内務省は、インド政府がスリランカ国軍によるLTTE掃討作戦を支持していることに反発するLTTEが、ソニア・ガンジー総裁や長男のラフル・ガンジー下院議員(38)襲撃を計画していると、全国の警察に警戒を指示しています。

こうした“過去のいきさつ”から、“タミル人支援の強化を約束した”とは言え、ネール・ガンジー家が君臨する与党国民会議派がどのようにLTTEとかかわるのかは難しいところです。

なお、スリランカに対する最大の支援国日本も、明石康・日本政府代表を先月末スリランカに派遣して、ラジャパクサ大統領に政治的和解・人道危機の回避への取り組みを求めていますが、LTTEや一部タミル人からは“政府の支援者”とも見られています。
5月9日にはニューヨークの日本・国連代表部前で抗議活動を展開する在米のスリランカの少数民族タミル人らが、日本が内戦で政府軍を支援しているとして、「恥を知れ」などと日本を批判したことが報じられています。

【政府軍攻撃かLTTE自作自演か】
そのスリランカで今、多数の民間人犠牲者が出ていることが報じられていますが、LTTEが政府軍の攻撃によるものと非難しているのに対し、政府側はLTTEによる自作自演だとしています。

****人間の盾378人死亡 スリランカ 非戦闘地域で砲撃*****
スリランカからの報道によると、同国の反政府武装組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)が支配する、北東部ムライティブ周辺の非戦闘地域で、9日夜から10日にかけて激しい砲撃などがあり、少なくとも住民378人が死亡、1100人以上が負傷した。
1980年代から続く同国の内戦でも、1日にこれだけの住民が犠牲になるのは異例。国際社会から懸念の声が高まるのは必至で、政府の今後の軍事作戦にも影響を及ぼしそうだ。
被害状況については、同地域で活動する政府の医師が10日、AP通信と英BBC放送に証言した。
LTTE寄りのニュースサイト「タミルネット」は、スリランカ軍が砲撃など重火器による無差別攻撃を行い、1200人以上の死亡が確認されたと主張。
これに対し軍は、重火器を使った攻撃は否定し、砲撃を行ったのはLTTE側だとしている。軍はメディアや国際機関の立ち入りを禁止しており、正確な状況を把握するのは不可能だ。 (後略)【5月11日 産経】
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また、LTTE幹部は「タミルネット」に発表した声明の中で、政府軍が実施した激しい攻撃によって、「この24時間で、2000人以上の罪もない民間人が殺害された」とも述べています。【5月11日 AFP】
政府軍は先月末から重火器の使用を自粛すると表明し、今回の件についても「軍のイメージをおとしめるために、LTTEが市民に向けて撃ったものだ」と否定しています。
報道関係者や援助関係者の自由な立ち入りが禁止されている内戦地域では、以前からLTTEと政府軍双方が全く異なる“戦果”“犠牲”を報じあってきており、今回の件も確認がとれない実態にあります。

【ダリッドの女王】
一方、インドの総選挙、マヤワティ党首の状況については、“現有議席からほぼ倍増の30議席前後を取ると予想。定数545の1割に満たないが、2大政党が過半数を取れない情勢では、BSPがどちらにつくかで首相が決まる可能性がある。2大政党以外の小政党が結集して政権をつくろうとの動きもあり、その場合マヤワティ氏は最有力の首相候補だ。” 【5月11日 朝日】と報じられています。

建国の父ガンジーは、当時「不可触民」と呼ばれたダリットを敬愛の念を込めて「ハリジャン(神の子)」と名付け、差別根絶を目指しました。しかしカーストはなくなりませんでした。
そんなダリッド出身でニューデリー郊外のスラムで育ったマヤワティ党首ですが、オバマ大統領の“チェンジ”とも比較されます。

確かにダリッド出身の彼女がインド首相になれば、オバマ以上のチェンジであることは間違ありません。
ただ、その政治手法、彼女が何をするのか?、彼女の登場でカースト制がかわるのか?といったことに関して【5月6日号 Newsweek日本語版】には否定的な記事が掲載されています。
マヤワティは、オバマとは逆に、カースト対立を煽ることで権力に近づき、しかも出所の疑わしい巨額の資金を集め、汚職疑惑にまみれている。彼女が首相を3期務めるウッタルプラデシュ州のカースト格差に改善はみられていない・・・というものです。

とは言え、インド政界に与えるインパクトは大きなものがありますので、やはり注目があつまります。
有権者の20%近くを占めるダリッド、更に、カースト制及び既存の政治システムの枠外に置かれている13%を占めるムスリム、そして今回とりあげたタミル人・・・与党国民会議派や野党インド人民党双方に圧倒的な力がなく、こうした政治の周辺部の人々の支持をいかに取り付けるかで今回インド総選挙は争われています。

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