孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ローマ法王  中東聖地巡礼で各教の信者らに対話推進を呼び掛け

2009-05-12 22:34:58 | 国際情勢

(エルサレムのホロコースト記念館「ヤド・バシェム」の展示を見つめるイスラエル女性兵士 “flickr”より By ImageMD
http://www.flickr.com/photos/imagemd/858587144/)

【“国際的に認められた国境の中で安全に暮らせるよう”】
幼稚園、中学・高校はカトリック系でしたが、それ以上のキリスト教との縁はない私には、“ローマ法王”の存在もぴんと来ないところがあります。
しかし、キリスト教世界では大きな影響力をもつ存在なのでしょう。

そのローマ法王ベネディクト16世が、中東のキリスト教聖地巡礼に訪れています。
法王は5日間にわたり、ユダヤ、キリスト、イスラム教の3大一神教にとっての聖地、エルサレムや、ヨルダン川西岸のイエス生誕の地ベツレヘムなどを訪問し、ユダヤ教などの宗教指導者らと対話を行うほか、イスラエル、パレスチナ双方の政治指導者とも会談することになっています。

イスラエルのベングリオン国際空港に到着した法王はパレスチナ和平について、「より安全で安定した未来を望む無数の老若男女の希望は、イスラエルとパレスチナの交渉の結果にかかっている」「(双方が)国際的に認められた国境の中で安全に暮らせるよう、公正な解決に向けた困難を克服するために、あらゆる手段を尽くすよう願いたい」と語っています。
“法王は「パレスチナ国家」との用語は使わなかったが、国際社会が求めている2国家共存案の実現を急ぐよう期待を表明したものと受け止められている。”【5月12日 産経】

****聖地で祈りささげる=エルサレム旧市街を訪問-ローマ法王****
中東の聖地巡礼中のローマ法王ベネディクト16世は12日、エルサレム旧市街のイスラム教聖地「岩のドーム」とユダヤ教聖地「嘆きの壁」を相次いで訪れ、祈りをささげた。
ユダヤ、キリスト、イスラム各教がいずれも聖地とみなすエルサレムの帰属をめぐっては、イスラエルとパレスチナ自治政府が厳しく対立し、中東和平交渉の難題の1つとなっている。法王は「3宗教の道が交わる聖地は、過去の誤解や対立の克服を促す役割を果たしている」と述べ、各教の信者らに対話推進を呼び掛けた。【5月12日 時事】
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【ホロコーストとバチカン】
これを契機にユダヤ、キリスト、イスラム各教信者の対話推進が進めば喜ばしいことですが、ここのところローマ法王は政治的配慮を欠いた言動が多く、今回訪問はその過ちをなんとかフォローするのが精一杯というところで、それ以上のイスラレル・パレスチナ関係の進展は期待できません。

ユダヤ教との関係では、第2次大戦中のローマ法王ピオ12世の評価に関する問題があります。
ピオ12世は、ドイツ・ナチスのユダヤ人虐殺を見て見ぬふりをしたとしてユダヤ人団体から批判されています。
一方、バチカンはホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)への批判を避けたのはナチスの反発で事態を悪化させる可能性が強かったためで、実際には各地の施設にユダヤ人の保護を指示し、犠牲拡大を防ぐ最大限の努力をしていた、としています。

昨年10月、バチカンの世界代表司教会議にユダヤ教徒として初めて招かれたイスラエル・ハイファの宗教指導者が、バチカンがピオ12世を聖人の前段階である「福者」にする手続きを進めていることに触れ、「我々は彼の沈黙を忘れることができない」と中止を求めたのに対し、バチカンの列聖省の神父が、ピオ12世に批判的なイスラエルのホロコースト記念館「ヤド・バシェム」の展示を取り上げ、「歴史の偽造だ」と発言。ベネディクト16世のイスラエル訪問は「展示が変わらなければ、ないだろう」と語ったことで、対立が表面化していました。【08年10月25日 朝日より】

更に、今年2月には、ナチス・ドイツによるホロコーストの存在を否定する発言をした英国のリチャード・ウィリアムソン司教らを復権させたことが大きな波紋を呼びました。
特に、法王の出身国ドイツで強い批判を呼びました。
ドイツで最大部数を誇るビルト紙は社説で「法王は重大な間違いを犯した。何よりも、法王がドイツ人だということが問題だ」、「ベネディクト16世は、世界におけるドイツのイメージを著しく損ねている。600万人のユダヤ人を殺害したことを否定する発言をした人間は、ドイツでは訴追される」と批判しています。
メルケル首相も、法王の行動は看過することはできないとし、バチカン当局に対し、ナチス・ドイツのホロコーストが「否定できない事実だと明確にすること」を求めました。【2月5日 AFPより】

この問題は3月には、否定発言を知らないまま解除したのは「間違い」だったと、法王が自らの過ちを認めることになりました。世界のカトリック教徒約10億人の頂点に立つ法王が、自身の過失を認めるのは異例のことだそうです。

そもそも、バチカンがイスラエルと国交を樹立したのは93年と、比較的最近のことなのも驚きです。
“前法王ヨハネ・パウロ2世は過去のキリスト教の反ユダヤ主義への関与を謝罪、00年にはイスラエル訪問も実現したが、双方は教会施設の所有権など多くの懸案を抱えたままだ。”【08年10月25日 朝日】という関係のようです。

今回、ベネディクト16世は、問題となったエルサレムのホロコースト記念館「ヤド・バシェム」を訪れ、犠牲者を追悼しました。
“記念館で、ドイツ出身の法王は、ユダヤ人600万人が犠牲となったナチスによるホロコーストを「恐るべき悲劇」と表し、犠牲者の苦しみが否定、過小視、忘れ去られることはないと述べ、反ユダヤ主義を非難した。法王がホロコースト記念館を訪れて追悼の意を表すことで、イスラエルとの関係を修復につなげたいとの狙いが法王庁にはある。”【5月12日 AFP】

イスラム教との関係では、ベネディクト16世は06年9月、母国ドイツの大学での講義で「ムハンマドが新たにもたらしたのは邪悪で冷酷なものだけ」などとする14世紀のビザンチン皇帝の言葉を引用して、イスラム各国に反発が広がった問題があります。

【イスラエルとパレスチナ自治政府】
いろいろ問題の多い法王ですが、まあ、腐っても鯛というか、やはり政治的影響力は持つ存在です。
迎える側のパレスチナ自治政とイスラエルの間の政治的駆け引きも激しくなっています。

****ローマ法王:イスラエルに到着 政治的な駆け引きが激化****
法王は5日間の滞在中、エルサレムなどの聖地巡礼のほか、占領地ヨルダン川西岸のパレスチナ難民キャンプも訪れる。
イスラエル警察は11日朝、パレスチナ自治政府が法王訪問に合わせて東エルサレムのホテルに前日開設した臨時会見場を強制閉鎖した。自治政府は「記者会見を日々開いて東エルサレムが(将来の)パレスチナ国家の『首都』と法王に訴える」(関係者)構えだったが、エルサレムを「永久不可分の首都」とするイスラエルが横やりを入れた形だ。
自治政府はまた、法王が13日に訪問する西岸ベツレヘムの難民キャンプで、イスラエルが建設した「分離壁」の目前に歓迎用の会場建設を進めているが、イスラエルはこれについても中止を命令した。占領実態をアピールしようとする自治政府と対立した形だ。【5月11日 毎日】
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“政治的な駆け引き”の内容もさることながら、イスラエル警察がパレスチナ自治政府の臨時会見場を強制閉鎖したり、「分離壁」前の歓迎用会場建設に中止を命令したという、両者の関係の実態に目が行きました。
普段何気なく“パレスチナ自治政府”という言葉をひとつの国家のように使用していますが、あくまでも“自治政府”であって、“国家”でありません。
イスラエル当局のコントロールの下にある実態が窺えます。

法王はユダヤ教関係者やギリシャ正教の聖職者らと対話をするほか、ネタニヤフ・イスラエル首相、アッバス・パレスチナ自治政府議長とも会談する予定です。
期待はできませんが、中東和平に消極的といわれるネタニヤフ・イスラエル首相に対し、何らかの働きかけがあるといいのですが。



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1 コメント

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秋田の聖母マリア (フランシスコ)
2010-02-16 11:26:08
ブログを拝見いたしました。
カトリックスクールのご出身なのですね。

兄弟姉妹の皆様、
秋田の聖母マリアの奇跡の巡礼地を知っていますか?

1973年から1982年まで、秋田県秋田市郊外の小さな修道院で、聖母マリアの不思議な出来事がありました。

当時は、世界的に大騒ぎになり、奇跡に立ち会ったカトリック神父が出来事を記録した著作は、4ヶ国語に翻訳され、現在も世界で読まれています。

世界のカトリック教徒の間では「Our Lady of Akita」の名前で知られています。

世界11億人のカトリック教徒の間では、よく知られた出来事なのです。

ぜひ、ホームページをご覧下さい。

http://www.newlifejm.net/japan_top.html
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