孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  中国漁船の現代「蟹工船」への反発 保守化・圧政回帰への流れにジョコ大統領は?

2020-05-24 22:33:00 | 東南アジア

(インドネシア人船員の遺体を「海葬」する中国漁船 【5月16日 Share News Japan】)

【中国漁船はインドネシア人船員を酷使する現代「蟹工船」か】
1週間ほど前に目にした記事。

どういう事情かはわからないものの、「一帯一路」を掲げて世界への貢献、地域の安定・平和を口にはするものの、中国の東南アジア諸国蔑視の臭いがプンプンするようにも感じられ、気になっていました。それ以前に、人間性の問題でしょうか。

****中国漁船がインドネシア人船員の遺体を海に投げ入れ****
中国漁船で操業中に亡くなったインドネシア人船員の遺体が海に投げ入れられたとの報道を受け、インドネシア政府は14日、国連人権理事会に「水産業での人権侵害に注視するよう求めた」と発表した。
 
発端は、韓国のテレビ局・MBC(文化放送)による今月5日の報道だった。MBCが入手した映像は太平洋上で3月30日に撮影されたといい、漁船の甲板で男たちがオレンジ色の布に包まれた棺を抱え、海に投げる様子が映っている。
 
この報道についてインドネシアのルトノ外相が7日に開いた会見によると、中国漁船で働いていたインドネシアの男性船員が死亡し、3月に海に投げ入れられた。昨年12月にも同じ船で働いていたインドネシアの船員2人の遺体が、同様に海に沈められた。

3人の死因は不明だが、中国人船長は「いずれも感染症にかかっていたため、他の船員の合意のもとで海葬にした」と説明しているという。(後略)【5月16日 朝日】
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「海葬」と言えば聞こえはいいですが、遺体を海に処分した・・・とも。

この件に関して、東南アジアに詳しい大塚智彦氏が下記のように報じています。やはりインドネシア側で批判の声が広がっているようです。

単に水葬の問題だけでなく、劣悪な労働環境の問題もあって、現代の「蟹工船」のようです。

****中国漁船船員水葬の波紋拡大*****
中国漁船に乗り組んでいたインドネシア人船員が操業中の太平洋で病死し、その遺体が海に投棄された「水葬」事件は、その後別の中国漁船でも同様の事案が発生していたことなどが新たに判明した。

こうした事態を受けてインドネシア政府は中国政府に抗議して真相解明を求めただけに留まらず、中国漁船に船員を斡旋、派遣していたインドネシアの派遣業者を人身売買容疑で容疑者認定したほか、スイス・ジュネーブにある国連人権理事会(UNHRC)に対して問題提起をするなど中国との2国間関係にとどまらず、国際問題に発展しようとしている。

こうした背景には中国漁船によるインドネシア人乗組員への過酷な環境での労働や人権侵害に抵触するような操業実態が次第に明らかになったことなどにより、国際社会、特に東南アジア各国がより厳しい目を中国に向け始めているという状況もある。

今回の一連の経過は4月27日に韓国南部釜山漁港に寄港した中国漁船3隻の船団から1人のインドネシア人船員が急病で地元病院に急搬送されたが、肺炎の疑いで死亡したことに端を発している。

さらに1隻の漁船で密かにインドネシア人船員が撮影したという動画が韓国の文化放送(MBC)によって放映されて、ネットで拡散された。その映像に対しインドネシアでは衝撃が走った。

その動画には太平洋サモア沖海域で操業中に病死したとされるインドネシア人船員の遺体が入っているとみられるオレンジ色の遺体袋が甲板から中国人の手によって海中に「投棄」される様子が記録されていた。

この動画放映をきっかけに航海中のインドネシア人船員が1日18時間労働、酷い時には30時間連続労働、食事は6時間おきに10から15分、海水ろ過水か海水そのものを飲まされていたなどの過酷を通り越した人権上問題がある中国漁船の労働実態がMBCなどの取材で次々と明らかになったのだった。(※参考=5月14日「中国漁船、死亡船員を水葬に」)

このためインドネシア外務省は3隻に乗っていた残るインドネシア人14人を即刻帰国させるとともに、5月7日には駐インドネシア中国大使館の肖千大使を外務省に呼んで事実関係の調査報告を求める事態になった。
 
■ ソマリア沖インド洋でも水葬事例
外務省や国家警察などの調査でその後、別の中国漁船に乗り組んでいたインドネシア人船員ハルディヤント氏がアフリカ北東部ソマリア沖で操業中に死亡、遺体は同様に1月23日、海中に投げ込まれて「水葬」されていたことが5月18日に判明した。(中略)

こうしたことから中国漁船に乗り組んで航海中に死亡した場合、海中投棄という方法がこれまでも継続的にとられていた可能性も浮上している。

事態を重視したインドネシア政府は5月16日に中国漁船にインドネシア人を船員として斡旋して派遣していた派遣業3社を立ち入り調査し、書類などを押収、捜査した結果「違法な条件で違法に船員を派遣していたことは人身売買に相当する」として3社とその関係者を容疑者に認定、さらに捜査を継続している。

またインドネシア政府はジュネーブ駐在代表を通じてUNHRCに対して「漁業に従事しているインドネシア船員の人権状況について特に問題を喚起したい」と今後協議を行うよう求めた。

中国側に対しても漁船の所有会社、船長などに対する事情聴取を通じてインドネシア船員との雇用契約が国際的な労働基準に準拠したものであるのか、操業中に死亡したとするインドネシア人船員の死因などに関する詳細な事実関係の究明と報告を求めている。

中国漁船の船長は「死因は感染症で他の船員への感染の恐れがあった」「水葬は家族の了承を得ている」「契約では操業中の死亡は水葬とするとなっている」と韓国の捜査機関などに主張していると伝えらえているが、インドネシア側はいずれの主張も確認できないとしている。
 
■ 東南アジアで横暴ぶり目立つ中国企業
今回は太平洋やインド洋で操業する中国漁船の過酷で非人道的対応が焦点となっているが、東南アジアでは中国企業による地方政府や地元住民とのトラブルが最近特に目立つようになっている。

フィリピンではマニラ首都圏で多数の中国人が観光ビザで入国して本土の中国人を対象にしたオンラインの違法カジノやネット詐欺に従事。中国政府の通報で摘発して強制送還させる事案が続いた。

またカンボジアやラオスなどでは中国企業による賃金不払いや工場からの有害物質による環境破壊や周辺住民の健康被害なども報道されている。

こうした事例は、東南アジア各国に深刻な感染被害をもたらせている新型コロナウイルスが中国・武漢から広がったことや、各国がコロナ対策で必死の最中に中国が領有権問題がある南シナ海に調査船を派遣してベトナムやマレーシアの排他的経済水域(EEZ)内に進入して調査をすることなどから、国際的な反発を招いている。一連の中国の行動、活動は東南アジア地域での対中感情の悪化を招いているといえる。

もっともラオスやカンボジアなどは中国政府の「一帯一路」構想に基づく巨額の経済援助、投資・開発・工場誘致などのため正面切って中国を批判することは控えざるを得ない状況となっており、その深刻な影響は一般国民が負わされる事態となっている。

フィリピン政府も南シナ海の領有権問題を中国との間に抱えながらも経済援助や対米関係とのバランスから硬軟両様を使い分ける外交となっており、こうした東南アジア各国の事情が中国に付け入る隙を与えているとの見方が有力だ。

そうした中、やはり親中国といわれるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領だが、東南アジアで最も感染死者数が多く(5月22日時点で1326人)、感染者数はシンガポールに次いで2番目(同2万796人)というコロナ禍の感染拡大が止まらないことに加えて、3月初旬のインドネシア人初感染まで多くの中国人観光客がインドネシアを自由に訪問していたことなどに対して中国、中国人への国民視線が変化してきているという。

そこに今回のインドネシア人船員への深刻な人権侵害が疑われる事案が明るみに出たことで、インドネシア人の対中感情に微妙な影響を与え始めていることは間違いないといえそうだ。【5月24日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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海外で働く労働者への虐待・人権侵害については、これまでも中東などでの家政婦女性の問題が頻繁に起きています。

【南シナ海で相次ぐ中国漁船の違法操業】
ジョコ大統領個人が親中国というだけでなく、インドネシアを含む東南アジア世界における中国の経済的影響力を考えれば、中国との間でことを荒立てたくないと政治指導者が考えるのは当然の話です。

悪く言えば、そうした状況をかさに着て、南シナ海では中国側には東南アジア諸国を軽視する動きも見られます。

****インドネシア、中国を警戒 南シナ海で漁船相次ぐ違法操業****
インドネシア北端のナトゥナ諸島付近で、2019年末から中国漁船が相次いで違法操業を行い、インドネシア側が警戒を強めている。

政府は19年12月に正式に中国側に抗議したが、その後も中国漁船の姿が目撃されたという。国軍の軍艦や戦闘機が現地に派遣されるなど緊張が高まっている。1月8日に現地視察したジョコ大統領は「ナトゥナは過去も現在もインドネシアで、そこに交渉の余地はない」と強調した。
 
ナトゥナ諸島付近は、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)と中国が管轄権を主張する「九段線」の一部が重なっており、これまでも両国がにらみ合ってきた。インドネシア政府によると、19年12月中旬に中国漁船約60隻が中国当局の船に同伴される形でEEZ内で違法操業したとされる。 
 
ジョコ氏は海域で活動する国軍部隊を視察。また中国漁船に不安を募らせる地元の漁業者との面会後、「外国船はEEZを通過することはできるが漁業は認められない。豊かな海洋資源に対する主権を守る」と述べた。 
 
南シナ海での海洋権益を巡っては、フィリピンやベトナムが中国と対立してきたが、インドネシアは従来は中立的な立場だった。

ところが16年ごろからナトゥナ諸島近海で中国漁船の違法操業が相次ぎ問題化。17年には海域の名称を「北ナトゥナ海」にすると発表し、翌年には国軍基地を整備した。 
 
ただ、中国との過度な対立は避けたいのが実情で、地元メディアが1月以降も海域で中国漁船の姿が目撃されたと伝えていたが、ジョコ氏は「インドネシア領海には入っていない」と否定した。 
 
一方、中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は8日の定例記者会見で、両国に「領土主権の争いはなく、南シナ海の一部海域で海洋権益の主張が重複している」と説明。「我々はインドネシアと引き続き相違点を適切に処理し、両国関係と地域の平和、安定の大局を守ることを望んでいる」と述べた。【1月9日 毎日】 
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しかし、冒頭の「海葬」事件のような話で国民の対中国感情が悪化すれば、ジョコ大統領としても、これまでのようい「穏便に」済ませることも難しくなると思われます。

【保守化、圧政への回帰の流れにジョコ大統領は?】
ジョコ大統領の国内政治における立ち位置に関しては、比較的国民支持は高いものの、与党の実権は党首のメガワティ元大統領が握っており、ときにメガワティ氏らの意向が優先することもある・・・というところ。

そのあたりに関して“数々の衝突が舞台裏で起きている。専門家はジョコ・ウィドド氏が離党する可能性があるとすら見ているぐらいだ。”【下記記事】とも。

現在、インドネシア政治は保守化の傾向を強めています。、ジョコ大統領はこうした動きに必ずしも賛同しないものの、強く抵抗もできないというのが実態でしょう。

今後は、メガワティ党首らの意向によって、圧政のスハルト時代に回帰するような動きも見られるようです。
ジョコ大統領がこの流れに抗することができるのか、それとも流されるのか?

****コロナ禍で加速化するインドネシアの独裁政権回帰****
新型コロナ感染者数と同時に増加する数値
3月初に新型コロナウイルスの第一感染者が確認されてから、2カ月で1万人を突破したインドネシア。現在は世界平均と同等の7%程度に低下したが、4月上旬の致死率9.5%は世界的に見ても高く、その対策は国際社会から批判されている。
 
インドネシア政府は4月3日に新たな保健省令を発効し、自治体が発行するガイドラインに基づく強制性の低い行動制限「大規模社会的制限(PSBB)」を発動した。
 
この実行性担保を目的として、警察長官は翌日に5つの警察内部向け通達文書を発出したが、この中の一つ「サイバー空間での犯罪対応について」に注目が集まっている。政府・大統領への侮辱行為を告発する項目が含まれていたのだ。
 
コロナ禍で政府への侮辱行為の容疑で逮捕された人数は、公開された情報だけでも3名以上。この容疑による身柄の拘束は、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が着任した2014年7月から2020年3月の新型コロナ流行前の6年間でたった10人程度。ここ2カ月の間に政府のコロナ対応を侮辱したことで逮捕された人数は。明らかに特異に見える。
 
新型コロナ感染者数と同時に増える政府批判の逮捕の裏には、インドネシアで起きている政界でのうねりが透けて見える。(中略)

圧政のスハルト政権、混沌のジョコウィ時代
現在こそ民主国家であり、世界最大規模の2億人近くを巻き込む大統領選挙を5年に一度行うインドネシアだが、かつては「新秩序」という名の独裁政権が32年間も続いており、軍出身のスハルト元大統領が絶対的存在だった。(中略)

公平かつクリーンな政治を標榜し、市民を中心とした大衆主義の色が強い政策を多く打ち出すことで、ジョコ・ウィドド氏はまず地方政治において一躍その名を轟かせた。小さな港町ソロの市長からジャカルタ都知事にまで上り詰めた後、勢いはさらに増した。

都知事就任後わずか2年で、2014年7月の大統領総選挙で華々しく勝利した。今もなおインドネシア政治の舞台で現役を続けている「新秩序」出身の政治家たちとは無縁のジョコ・ウィドド氏は、スハルトの右腕だったプラボウォ氏に圧勝を収めた。

まるでスハルト「新秩序」の続編
ジョコ政権は、まず汚職撲滅の進展で成果を出し始めたように見えた。(中略)しかし、周辺国のフィリピンやマレーシアと比較すると、インドネシアの水準は劣位が続いている。
 
ジョコ・ウィドド氏の大統領着任4年目の2018年は、汚職撲滅委員会(KPK)にとって苦難の絶えない1年だった。(中略)ジョコ・ウィドド大統領は、国民の期待とは裏腹に自身の公約である「汚職撲滅委員会(KPK)強化」を放置していた。
 
言論の自由に関して言えば、ジョコ政権はかえって望ましくない方向に走っている。「新秩序」の勢力に乗っ取られるかのように、就任後早くも言論の自由を制限する兆しを見せた。
 
ジョコ・ウィドド大統領は前大統領任期中に発効された「情報および電子商取引に関する 2008 年度法令第 11 号(UU ITE)」における「名誉棄損」に係る項目の削除案を却下した。この法律では名誉棄損の成立条件が曖昧なため、政府や大企業などによって恣意的に使われかねないと批判の声が殺到していた。(中略)
 
過去の人権問題の解決においても、進展は見られなかった。特にパプア州では、軍人による先住民への圧力が今もなお続いている。さらに、1998年の学生デモ隊への暴力や東ティモールでの人権問題に関わりを持つ容疑者を大臣に抜擢したことも、ジョコ政権に多くの疑問が持たれることにつながった。

国民のさらなる懸念を招く3つの法案
2019年の総選挙で再度出馬したプラボウォに勝ち、ジョコ・ウィドド氏の再選が決定されると、事態はさらに悪化。同年の8月から10月、ジャカルタを中心に数万人の大学生による反対運動が全国で勃発した。きっかけは、3つの問題法案だった。(中略)

ジョコ・ウィドド大統領はこれら法案の策定に関与していなかったと公言し、UU KUHPおよびUU Keamanan Siberへの署名を延期としたが、同内閣の法務・人権大臣が法案策定プロセスに関与していると報道されている。

新内閣は人権よりも経済成長を優先
選挙結果を巡る混乱の中、2019年10月、ジョコ・ウィドド大統領の第二期就任式は行われた。就任演説は、第一期に期待された「クリーンな政治」のメッセージはなく、「経済成長」一色だった。

「汚職撲滅」や「人権問題の解決」「言動の自由の保護」などの言及はなく、他方で「外部環境の変化への対応」「産業育成」「経済成長」が強調された。(中略)

総選挙の対戦相手、かつ最大の野党勢力を率いるプラボウォ氏を防衛大臣に任命したことは国内専門家の懸念を呼んだ。これに加え、プラボウォ氏の政党、Gerindra党の副党院長エディ氏にも同じく大臣の座が与えられた。こうしてGerindra党がジョコ内閣に組み込まれた今では、野党は議席数の1割まで圧倒的に弱くなった。(中略)
 
独裁政権時代に戻ってしまうのか
この疑問のヒントになるのは、ジョコ・ウィドド氏が所属するPDI-P党の党首である元大統領メガワティ氏の演説内容だ。メガワティ氏は2019年8月にバリ島で開催された党総会で、スハルト独裁政権の象徴「国策大綱(GBHN)」復活の必要性を語った。
 
国の長期的な開発計画である「国策大綱(GBHN)」は国民協議会(下院・上院)/国民議会(下院)によって策定される。この場合、国民による直接選挙に大統領の選出を委ねるよりも、両院を通じた「間接選挙」のほうが議会が与しやすい大統領を選ぶことができる。(中略)
 
この動きにはジョコ・ウィドド大統領自身は反対を示しているが、次のインドネシア政権がメガワティ氏の与党が間接選挙で選出する傀儡大統領による独裁政権になる可能性は排除できない。

インドネシアは今、大統領の意思や主張を尊重せず与党PDI-Pが暴走している状態とも見ることができるだろう。(後略)【5月18日 JBpress】
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