孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中絶禁止をめぐるせめぎあい 来年大統領選挙にも大きく影響

2023-12-14 22:36:38 | アメリカ


(米国の中絶規制の現状【6月25日 毎日】 前回大統領選挙結果とほぼ重なり合います)

【選挙を左右する中絶問題】
アメリカ社会を分断する「文化戦争」、その中核に人工中絶をめぐる問題があり、大統領選挙の行方にも大きく影響する・・・といった話は、これまでも再三取り上げてきました。

昨年6月にアメリカ連邦最高裁が、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を覆し、その最高裁の判断を受け、中絶を全面禁止する州は13州に達しています。規制強化を狙う中絶反対派と中絶権利擁護派の対立は収まる気配がなく、2024年の大統領選で重要な争点になります。

****米有権者の約3割が人工妊娠中絶に対する立場で投票先を判断、世論調査****
米国調査会社のギャラップは6月21日、人工妊娠中絶は、支持する有権者にとって依然として重要な問題との調査結果を発表した。

2023年5月1~24日に実施した本調査によると、「人工妊娠中絶に関して自分と同じ立場をとる候補者にのみ投票する」と回答した有権者は、1992年の調査開始以降最高の28%となった。

「人工妊娠中絶に関して自分と同じ立場をとる候補者にのみ投票する」と回答した有権者を立場別でみると、人工妊娠中絶支持派が33%、反対派が23%で、支持派の方が人工妊娠中絶の問題を重視する傾向にある。(中略)

また、「人工妊娠中絶の問題は重要でない」と回答した有権者は、1992年の調査開始以降最低の14%となった。2015年は28%、2022年は16%と下降傾向が続いていた。

なお、「人工妊娠中絶に関する候補者の立場は多くの重要な要素の1つにすぎない」と回答した有権者は56%で、2019年の48%から上昇傾向にある。

ギャラップは調査結果の総括として、2022年6月24日に連邦最高裁判所が女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」の破棄をきっかけに人工妊娠中絶の支持派が増え、投票の際に候補者の人工妊娠中絶に対する立場を重視するようになったと指摘している。

減少傾向にある人工妊娠中絶の反対派は以前ほどこの問題に熱心でなくなっており、有権者にとっては、現行法の維持よりも、人工妊娠中絶を認める法改正を望む気持ちの方が強いことがわかるとしている。

(注)共和党は623人、民主党は511人を対象に調査。【6月23日 吉田奈津絵氏 JETRO】
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【争点化は民主党・バイデン大統領に有利に作用】
昨年12月に行われた中間選挙で、苦戦が予想されていた民主党が踏みとどまったのも、中絶支持派が民主党候補に投票したことが大きな要因とされています。

共和党支持層でも女性の場合、共和党サイドが進める過激な中絶禁止には難色を示す者が少なくなく、この問題が争点となることは中絶支持派の民主党・バイデン政権にとっては数少ない(唯一?)有利なポイントともいわれており、実際、11月初旬に行われた各州の住民投票・選挙でも、総じて中絶支持・民主党サイドが勝利しています。

****米オハイオ州でも中絶規制にNO 住民投票で擁護派の勝利続く****
米中西部オハイオ州で7日、人工妊娠中絶を選ぶ権利を明文化する州憲法改正の是非を問う住民投票があり、賛成多数で承認されることが確実となった。AP通信が報じた。

連邦最高裁が2022年6月に各州による中絶禁止を容認して以降、州単位の住民投票では中絶擁護派が勝利を続けており、保守色が強まるオハイオ州でも中絶規制強化への抵抗感が示された。

住民投票では、州憲法に「中絶を含む生殖医療を受ける個人の権利」を明文化する是非が問われた。米メディアによると、同州では妊娠22週までの中絶が合法だが、22年の最高裁判決後に一時「妊娠6週より後の中絶禁止」を定めた州法が発効。レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も例外としない極端な州法だった。

州裁判所の判断で州法の施行は差し止められているが、州最高裁で審理が続いており、中絶擁護派は「州憲法に中絶を選ぶ権利を明文化しなければ、州法施行を止められない」と訴えていた。

最高裁判決以降、22年に計6州で行われた住民投票では、いずれも中絶擁護派が勝利している。バイデン大統領は7日夜に声明を出し、「米国民は再び、基本的な自由を守るために投票した」とオハイオ州憲法改正を歓迎した。

今回の住民投票では、中絶を争点に据えた場合に民主党が有利になることも実証された。バイデン氏は再選を目指す24年大統領選で共和党のトランプ前大統領と再対決する可能性を念頭に、「オハイオの人々は、極端な中絶禁止を課そうとするMAGA(トランプ派)共和党の試みを拒絶した」と強調した。

20年大統領選ではバイデン氏が当選したが、オハイオ州ではトランプ氏が勝利。24年大統領選でも2大政党の候補による接戦が予想されている。【11月8日 毎日】
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****ケンタッキー州知事選で民主勝利 厳格な中絶規制の共和党及ばず****
来年11月の米大統領選に向けた前哨戦と位置付けられている南部ケンタッキー州知事選が7日投開票され、民主党の現職ビシア知事(45)の当選が確実になった。米主要メディアが報じた。人工妊娠中絶の是非が争点となり、厳格な中絶規制を支持する共和党の黒人キャメロン州司法長官(37)は及ばなかった。

バイデン民主党政権にとって追い風となり、キャメロン氏を推薦した共和党のトランプ前大統領には打撃となる。ビシア氏は中絶の権利を擁護し、竜巻や洪水などの災害対応で指導力を発揮したことを評価された。

中絶の権利を巡っては最高裁が昨年6月、中絶を憲法上の権利だと認めた1973年の判決を覆した。世論調査では米国民の多くが権利を尊重すべきだと回答しており、民主党陣営は今後も争点化を進めるとみられる。

ビシア氏はキャメロン氏について、レイプや近親相姦による妊娠を例外としない厳格な中絶規制を支持していたと指摘。「被害者より強姦犯に多くの権利を与えている。間違っている」と批判してきた。【11月8日 共同】
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【共和党主導州で止まらない中絶禁止の流れ】
しかし、共和党が主導する州での中絶禁止の流れは止まっていません。

****米テキサス州最高裁、先天性疾患胎児の中絶認める地裁判断覆す****
米テキサス州で、妊娠中の胎児に先天性疾患が見つかったとする女性が、人工妊娠中絶の許可を求めて同州を相手取って起こした訴訟で、州の最高裁判所は11日、緊急中絶を認めるとした地方裁判所の判断を覆した。原告の代理人弁護士によると、女性は最高裁判断が出る数時間前に、中絶処置を受けるため同州を離れたという。

ダラス・フォートワース都市圏在住の2児の母、ケイト・コックスさんは妊娠20週目を過ぎている。胎児は染色体異常による先天性疾患「フルエドワーズ症候群」で、出産前に死亡する確率が高く、生まれても数日しか生きられないとされる。

医師らは、人工中絶処置を行わなければ、子宮摘出や命にかかわる危険があると判断。コックスさんは先週、中絶の許可を求めてテキサス州を提訴し、トラビス州地裁は中絶を認める判断を下していた。

しかし、これを受けてテキサス州のケン・パクストン司法長官が、直ちに州最高裁に上訴するとともに、コックスさんの中絶処置を行った医師を訴追すると警告していた。

コックスさんと夫、医師の代理として訴状を提出した「性と生殖に関する権利センター」のナンシー・ノーサップ代表は、コックスさんが他州に移ったことについて、「母体の健康が危険にさらされている。緊急治療室への出入りを繰り返してきた原告は、これ以上待てなかった。これが、裁判官や政治家が妊婦に関する判断を下してはならない理由だ。医師ではないのだ」と非難した。

一方、テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。

同権利センターの専属弁護士、モリー・デュアン氏は「もしテキサス州でコックスさんが中絶処置を受けられないなら、誰が受けられるのか。本件は、例外が機能せず、中絶禁止法がある州での妊娠は危険だということを証明している」と指摘した。

ノーサップ氏も、「コックスさんには州外に行く手立てがあったが、大半の人にはなく、こうした状況は死刑宣告になりかねない」と非難した。

米最高裁は2022年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決を覆す判断を下した。
テキサス州は、レイプや近親姦(かん)による妊娠でも中絶を認めない厳格な中絶禁止法を施行。また中絶手術を受けた本人だけでなく、中絶に協力した人を市民が告発できる州法がある。

中絶手術を行った医師に対しては、99年以下の禁錮と10万ドル(約1500万円)以下の罰金が科された上、医師免許が剥奪される可能性がある。 【12月12日 AFP】
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レイプによる妊娠でも、母体に危険があっても中絶は認めない・・・政策というより、「信仰」の問題のようにも見えます。

“テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。”・・・・いささか詭弁の類でしょう。

実際に医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断して中絶したら、当局から中絶禁止の例外には相当しないと訴えられ、高額罰金・医師免許剥奪ともなり、どの医師もそんなリスクをおかして中絶手術はしないでしょう。

禁止州以外での手術も現実には困難がつきまといます。

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州外での中絶は、医療費に加えて交通費や宿泊費、子どもがいる場合は育児費など、多額の費用がかかる。

また、支援団体や中絶手術が合法である州の医療機関には、州外からの患者が次々に押し寄せている状態だ。

中絶の権利を擁護する団体「プランド・ペアレントフッド」ロッキー山脈支部のエイドリアン・マンサネレスCEOは、2023年6月のハフポストUS版の取材で「1年で50%も増加しました」と語っている。

また、同団体セントルイス地域と南西ミズーリの医療責任者であるコリーン・マクニコラス医師は「妊娠中絶のインフラはすでに脆弱であり、利用できるクリニックはますます少なくなっています」と述べている。【12月12日 HUFFPOST】
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【最高裁 来年6月に中絶薬の流通規制について判断】
中絶手術が難しいなら中絶薬(日本では最近、薬局購入の試験運用がスタート)で・・・ということで、中絶薬への需要が増えていますが、ここにも規制の波が。

****米最高裁 中絶薬の規制を審理 来年7月までに判断の見通し****
アメリカ連邦最高裁は、薬で人工妊娠中絶を行う経口中絶薬の流通規制について審理すると決定しました。中絶を巡る議論は来年の大統領選挙の大きな争点です。

連邦最高裁が審理するのは、アメリカ国内で2000年に保健当局が承認した経口中絶薬、「ミフェプリストン」の流通規制です。

ミフェプリストンを巡っては連邦控訴裁が8月、処方の条件として医師との対面での診察を義務付け、郵送を禁じる判断を下したことに司法省が反発し、最高裁での審理を求めていました。

CNNは来年7月までに最高裁の判断が下される見通しだと伝えています。

連邦最高裁の判事9人のうち、6人が中絶に反対する保守派で、去年6月には「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする従来の判断を覆したことで、クリニックなどが相次いで閉鎖していて、経口中絶薬の需要が高まっています。

ホワイトハウスは声明で、「全米で女性の自由に対する前例のない攻撃が起きている」と述べ、懸念を示しました。

来年11月に迫る大統領選挙で中絶問題は、結果を左右する大きな争点なだけに最高裁の判断に注目が集まります。【12月14日 テレ朝news】
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常識的に考えると、最高裁判事の構成からして郵送禁止などの厳しい判断が示されることになるようにも思えます。
ただ、「選挙」という点では、11月の大統領選挙前に最高裁の厳しい判断が示されと、批判の高まりで「争点」化するかも。 非常に本末転倒の議論ですが。

【中絶禁止で出産数は増加】
なお、昨年の最高裁判断を受けて中絶禁止州が増えたことで、出生数が増加したとも。

****中絶禁止広まる米国、年間出生数が3万2000人増****
米国で、人工妊娠中絶が憲法上の権利として認められなくなって以降、年間出生数が約3万2000人増えたことを示す分析結果が公表された。 

米最高裁判所は2022年6月、中絶を憲法で保障された権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した。これを受け、多くの州で中絶が非合法化された。 

米ジョージア工科大学、米ミドルベリー大学、ドイツの労働経済研究所(IZA)の研究チームは、2023年1~6月のデータを分析した報告書を発表。

それによると、中絶が禁止された州では、中絶が引き続き合法な州と比較し、出生数が平均2.3%増加していた。(ただし、テキサス州はロー対ウェイド判決が覆される前に中絶を事実上禁止していたため、今回の分析では除外された) 

年齢別では、20~24歳の女性が最も影響を受け、出生数は3.3%増加。25~29歳は2.8%増、30~44歳は2%増だった。人種別では、ヒスパニック系女性が4.7%増、白人女性が3%増、黒人女性が3.8%増だった。 

(中略) 米疾病対策センター(CDC)が22日に発表した別の報告書によると、米国では最高裁による判決前の2021年、中絶が増加傾向にあった。中絶の報告件数は前年比5%増の62万2108件で、15~44歳の女性1000人当たり11.6件だった。

ただし、カリフォルニア、メリーランド、ニューハンプシャー、ニュージャージーの各州はCDCに中絶件数を報告していないため、このデータは不完全なものとなっている。【11月24日 Forbes】
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どこまで正確な統計分析か、本当に中絶禁止の影響なのか・・・そこらは慎重になるべきですか、いずれにしても「結果」であり、出生数への影響からこの問題を議論するのも本末転倒。
問題は望まれる出産だたったのか、出産の結果、母子は幸せになったのか・・・ということでしょう。

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