孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・ネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝が鮮明に

2023-12-13 23:32:46 | パレスチナ

(ガザ地区南部ラファは12日にかけて夜通し空爆に見舞われた。画像は破壊された家屋を見つめるパレスチナ人(12日、ラファ)【12月13日 BBC】 
また、イスラエル軍は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のジェニンで、「対テロ」作戦を開始したと発表しています。 更に、ガザ地区ではトンネルへの海水注入も ネタニヤフ首相には攻撃の手を緩める兆しはありません。)

【国連総会「人道目的の即時停戦」を求める決議 イスラエル・アメリカの孤立化】
国連安全保障理事会は12月8日、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの紛争について、人道的な即時停戦を求める決議案を採決しまたが、アメリカが拒否権を行使し否決されました。

これを受けて、今度は国連総会の場で、改めて「人道目的の即時停戦」を求める決議がなされました。

****ガザ停戦決議に153カ国賛成=米・イスラエル孤立鮮明―国連総会****
国連総会は12日、イスラエルが侵攻するパレスチナ自治区ガザに関する緊急特別会合を開き、「人道目的の即時停戦」を求める決議を日仏中ロなど153カ国の圧倒的賛成多数で採択した。

反対はイスラエルや米国など10カ国だけで、ガザ情勢を巡る両国の国際的孤立が鮮明となった。英独伊など23カ国は棄権した。

総会決議に法的拘束力はないが、ガザの人道危機が長期化する中、国際社会の総意として軍事作戦を続けるイスラエルとその後ろ盾の米国に停戦を強く訴えた形だ。パレスチナのマンスール国連大使は「総会が力強いメッセージを発した歴史的な日だ」と採択を歓迎した。

決議は中東・イスラム諸国を代表してエジプトが提出した。停戦に加え、民間人の保護やガザで拘束されている全ての人質の即時解放を要求している。イスラエルと交戦するイスラム組織ハマスには言及していない。【12月13日 時事】 
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この動きは、いくつかの重要なポイントを意味しています。
ひとつは、国連、特に安保理が大国の対立・拒否権によってウクライナでも、パレスチナでも有効な対応ができないという以前からの問題。

二つ目は、アメリカがイスラエル支持という基本姿勢を崩していないということ。

そして三つ目は、国際社会のイスラエルに対する視線は厳しさを増しており、イスラエル及びそれを支持するアメリカの立場は孤立化の流れにあること。

10月27日に国連総会が「人道的休戦」を求める決議を採択した際には121カ国が賛成しました。その後ガザ地区での惨状が大きく報じられる状況で、前回は棄権したフィンランドやアルバニアなど欧州の多くの国が賛成に回り、日本やカナダも賛成に転じました。

【バイデン政権支持基盤でもイスラエル批判強まる】
アメリカの基本姿勢は、ユダヤ人社会の政治への大きな影響力もあって従来からイスラエル支持であり、国内世論も全体してはイスラエル支持が過半を占めています。

****米国民55%イスラエル支持 有力紙調査、党派別で差****
米有力紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は11日、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの作戦を米国民の55%が支持しているとの世論調査結果を発表した。

イスラエルの対応が過剰だと考えるのは25%。民主党と共和党の支持層で回答に大きな差があり、来年の大統領選で主要な論点の一つになる可能性がある。

停戦を求める国際世論が高まり、米国内では若者を中心に作戦への抗議デモが起きているが、全体的には依然としてイスラエル寄りである実態が浮き彫りとなった。

調査は11月29日〜12月4日、有権者1500人に実施した。【12月12日 共同】
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しかし、“ギャラップ社が11月1~21日に実施した世論調査によると、民主党員の63%がガザ地区でのイスラエルの軍事行動を支持しないと回答した。また、民主党員で35歳未満の67%、有色人種の64%が不支持を表明している。”【12月12日 NRI】というように、バイデン政権の支持基盤の民主党支持層、特に若い世代や非白人においてイスラエルへの批判的見方が強まっており、このままではただでさえ苦戦予想の次期大統領選挙にも影響してきます。

国際社会においても、国連総会決議に日本・欧州諸国を含めて賛成153か国に増加し、反対は10か国のみということで、その差は歴然としています。こうした状況を利用して中国・ロシアがアメリカの国際的影響力を削ぐ働きかけを強めています。

【米 イスラエル・ネタニヤフ首相に自制を求め、「2国家共存」を目指す姿勢を強める】
上記のような国内・国際状況を踏まえれば、バイデン政権としては、表向きのイスラエル支持は変えないものの、なるべく早期にパレスチナ情勢を収拾すべく、ネタニヤフ首相には自制を強く求める・・・というのが本音でしょう。

バイデン大統領、政権高官の発言も、当初の「イスラエルの自衛権の支持」から、「イスラエルに対し、ガザの民間人の保護を求めてより公に圧力をかけること」に重心が移りつつあります。

更に、紛争終結後はガザ地区を含めたパレスチナ統治を自治政府に委ねる「2国家共存」を改めて前面に出すようになっています。

そのあたりが明確になってきたのが11月に中東・イスラエルを訪問したブリンケン長官の発言です。

****米国務長官、イスラエル首相と会談 民間人保護の具体的措置を検討****
ブリンケン米国務長官は3日、訪問先のイスラエル中部テルアビブでネタニヤフ首相と会談した。イスラエルがイスラム組織ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザ地区への攻勢を強めるなか、戦時下での民間人保護やハマスが拉致した人質の解放に向けた取り組みなどについて協議した。

ブリンケン氏は2日に米国を出発する際、記者団に対し、民間人の犠牲を最小限に抑えるための「具体的な措置」についてネタニヤフ氏らと検討すると説明した。イスラエル軍のガザ地区への地上作戦の激化により民間人の死傷者が拡大していることから、イスラエルの「自衛権」行使に理解を示しながらも国際法の順守を改めて促した。

ブリンケン氏は記者団に「民主主義国家は民間人を守るためにあらゆることをする責任がある」と強調。ハマスが民間人を「人間の盾」にしていることから、民間人保護が「非常に困難になっている」と説明した。

ネタニヤフ氏との会談では、ガザ地区への人道支援の拡大や、パレスチナ国家の樹立を前提としたイスラエルとの「2国家共存」の重要性も訴えた。(後略)【11月3日 毎日】
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****紛争後のガザはパレスチナが統治を、ブリンケン米国務長官が見解****
ブリンケン米国務長官は8日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が終わり次第、パレスチナ自治区ガザはパレスチナが統治すべきだと述べ、イスラエルが無期限に治安維持の責任を負うというネタニヤフ首相の考えに否定的な見解を示した。

ハマスの戦闘員がイスラエルに奇襲をかけ1400人を殺害してから1カ月が経過し、米政府はイスラエルやアラブの指導者たちとの間で、ハマスが支配しないガザの将来について話し合いを始めている。

まだ具体的な計画は出てきていないが、ブリンケン氏は8日、この問題に関してこれまでで最も包括的なコメントを発表した。

東京での記者会見では「紛争終結後のガザ再占領はない。ガザの封鎖・包囲や、ガザの領土縮小もない」と表明。紛争終結時には「ある程度の移行期間」が必要かもしれないが、危機後のガザの統治にはパレスチナの声が含まれるべきだと述べた。

ネタニヤフ首相は6日、ABCニュースのインタビューで、戦闘終了後に誰がガザを統治すべきかとの問いに「イスラエルが無期限で治安全般の責任を担う。われわれが治安の責任を担わなければ何が起こるか見てきたからだ」と応じた。【11月9日 ロイター】
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【鮮明になってきたネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝】
こうしたアメリカの姿勢の変化は、イスラエル、特にネタニヤフ首相とは一致していません。

そうしたアメリカとイスラエルの溝(あるいは、バイデン政権の強硬策を続けるネタニヤフ首相への苛立ち)を報じる記事が、今日は目立ちました。

バイデン大統領はネタニヤフ首相に対し「無差別爆撃によって、その支持を失い始めている」と警告。

****「無差別爆撃」は国際社会の支持失う バイデン氏、イスラエルに警告****
ジョー・バイデン米大統領は12日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、同国はパレスチナ自治区ガザ地区への「無差別爆撃」によって、イスラム組織ハマス掃討作戦への国際社会の支持を失う恐れがあると警告した。

バイデン氏は首都ワシントンで開かれた集会で、イスラエルは10月7日のハマスによる奇襲攻撃後、「世界中の大半から支持」されたが、「無差別爆撃によって、その支持を失い始めている」と述べた。

ネタニヤフ氏に第2次世界大戦で連合国がドイツを「じゅうたん爆撃」し、日本に原爆を投下したことを引き合いに出されたが、戦後、「同じことが繰り返されないように」国際機関が設立されたのだと説明し、2001年9月11日に起きた米同時多発攻撃の後、米国は「過ち」を犯したと繰り返し伝えたという。

バイデン氏はネタニヤフ氏について、自身が率いる対パレスチナ強硬派による右派連立政権に関して「厳しい決断」を迫られていると指摘。「彼は良い友人だが、政権と共に変わらなければならないと思う。この政権のせいで、彼は身動きが取れなくなっている」と述べた。

ネタニヤフ政権については、「イスラエル史上最も保守的」で、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を望んでいないとの認識を示した。

バイデン氏の発言は、ハマス掃討後のガザの統治をめぐるイスラエルと米国の溝の広がりを浮き彫りにしている。米政府は、パレスチナ自治政府がガザを統治すべきだと訴えているが、イスラエルでは冷ややかに受け止められている。

ネタニヤフ氏は12日のバイデン氏との協議後、ハマス掃討後のガザの統治の在り方について、米国との間に「見解の相違」があると述べた。

「合意に達する」ことを願うとした上で、1993年にパレスチナの暫定自治を認めたイスラエルとパレスチナ解放機構とのパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)に言及し、「オスロ合意の過ちは繰り返さない」と明言した。 【12月13日 AFP】
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ネタニヤフ首相「オスロ合意の過ち」・・・・ネタニヤフ首相が何を指しているかは言及していません。おそらくハマスのテロにイスラエルの安全が脅かされているということを言いたいのでしょう。

バイデン大統領「この政権のせいで、彼は身動きが取れなくなっている」・・・・「最も右寄りの政権」と評される現在のネタニヤフ政権に対し、極右閣僚の交代を求めているといえます。
かなり厳しい要求です。

ネタニヤフ首相の強硬姿勢は変わっていません。かねてより議論のあったトンネルへの海水注入も開始。

****イスラエル軍、ガザのトンネルに海水注入=ハマス壊滅作戦、効果に疑問も****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は12日、米当局者の話として、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの地下に張り巡らされているイスラム組織ハマスのトンネル網に海水の注入を始めたと伝えた。

ハマス戦闘員らが隠れる地下トンネルの攻略にてこずる中、水を使って地上へ追い出し、ハマス壊滅を急ぐ狙いだ。ただ、バイデン米政権内には効果を疑問視する声もあるという。

同紙によると、イスラエルは11月に地中海から水をくみ上げるポンプを設置。海水注入は初期段階で、今後数週間に及ぶ可能性がある。【12月13日 時事】 
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どれだけ実効性があるのか? 中にいる人質はどうなるのか?

実効性というより、あくまでもハマス壊滅を目指すという国内外への政治的メッセージの意味合いが強いとの指摘もあります。

ただ、「人質が犠牲になっても止むを得ない」という姿勢は、人質救出を求めるイスラエル国内世論の批判を強めるかも。 いまもガザ地区で拘束されている人質135人のうち19人の死亡を確認したと、ロイター通信が報じています。

(ネタニヤフ首相は拒否しているものの)ポスト・ハマスの青写真としてアメリカ側が改めて強調している「2国家共存(解決)」へのステップ、そのハードル、それでも他に方法はない・・・等については話が長くなりますので、また別の機会に。
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