孤帆の遠影碧空に尽き

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イタリア  ベルルスコーニ前首相の政権復帰表明で政局混乱 財政改革の行方への懸念も

2012-12-15 22:39:22 | 欧州情勢

(今年2月頃のモンティ首相(左)とベルルスコーニ前首相(右) “flickr”より By daw_news http://www.flickr.com/photos/68221559@N04/6917865989/

緊縮策が「景気後退の悪循環を招いている」】
イタリアでは昨年11月、ベルルスコーニ首相(当時)が、自身の金銭・セックススキャンダルと政治的無策も絡むなかで、信用不安が高まる金融市場の圧力に押し切られる形で退陣しました。当時、イタリアの10年物国債の利回りは、「危険水準」とされる7%超で欧州の債務危機の最大の懸案の一つとなっていました。

ベルルスコーニ退陣を受けてモンティ内閣が選挙を経ずに誕生。モンティ氏は経済学者で首相就任直前に名誉職である終身上院議員に指名されています。組閣は難航しましたが、国会議員が1人もいない実務者内閣を組閣、最大政党であるベルルスコーニ前首相の率いる自由国民党などの支持で政権を維持してきました。

健全財政化に取り組むモンティ内閣によってイタリアを取り巻く金融市場は落ち着きましたが、痛みを伴う改革には国民の不満も大きくなっています。

****イタリア:財政緊縮策に抗議、15万人デモ行進…ローマ****
イタリアのモンティ政権が進める財政緊縮策を巡って(10月)27日、ローマで約15万人(労組などの主催者発表)による抗議のデモ行進が行われた。一部が警官隊と小競り合いになったが、大きな混乱はなかった。これに関連し、最大与党を率いるベルルスコーニ前首相(76)は27日、緊縮策が「景気後退の悪循環を招いている」と批判し、モンティ政権の不信任に動く可能性を示唆するなどイタリア政界をかく乱している。

デモはモンティ政権発足から来月で1年になるのを前に実施。「モンティ政権を追い出せ」などの横断幕を掲げて行進した。参加した労組活動家のリュック・チボーさん(53)は「モンティ政権は増税で人々を圧迫している。社会のシステムを変え、富裕層や政治家が貧困層を助けるべきだ」と緊縮策への不満をあらわにした。

一方、前首相はミラノでの記者会見で「モンティ首相の下では景気後退は終わらない」と指摘。自ら率いる中道右派政党・自由国民が「現政権への信任を取り下げる方が良いかどうかを数日中に決める」と述べた。
下院第1党の自由国民が不信任を決めれば、モンティ内閣は総辞職を強いられ、来春予定の総選挙が前倒しされる公算が大きい。そうなれば政治空白を招き、モンティ政権下で沈静化した債務危機がぶり返す恐れがある。

前首相は所有するメディアグループ絡みの脱税事件で26日に有罪判決を受けたばかりで、政権をけん制する思惑もあるようだ。次期総選挙で首相候補にはならないとしつつ「(判決は)判事の独裁。競技場(政界)に残り、司法改革に取り組む義務を感じている」と述べ、下院議員候補として再出馬する可能性を示唆した。【10月28日 毎日】
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事実上の「不信任」】
ベルルスコーニ前首相はこのところ、政界を引退するとか、いや政権復帰を目指すとか、その発言が二転三転していましたが、結局内閣信任投票においてモンティ首相から離反することを明確にし、今のところは4度目の首相就任を目指す意向を示しています。
一方、ベルルスコーニ前首相の離反を受けて、モンティ首相は予算成立後の辞任を表明、イタリア政局は大きな混乱に直面しています。

****伊首相辞意 欧州危機の対応に影 ベルルスコーニ氏は復権に意欲****
イタリアの政局が欧州債務危機の不安材料となる恐れが強まってきた。
財政健全化を進め、国際社会や金融市場の信用の厚いモンティ首相が2013年の予算成立後に辞任すると表明。一方で危機対応をめぐり昨年、退陣に追い込まれたベルルスコーニ前首相が4度目の首相就任を目指す意向を示すなど、来年の総選挙を前に政治情勢は不透明感を増している。

モンティ首相は8日、ナポリターノ大統領と会談。大統領府はその後、首相が「任務継続は不可能になった」として、議会で審議中の予算成立後に辞任する意向を大統領に伝えたとの声明を発表した。
10日にはイタリアの国債価格が急落し、欧州株も売られるなど、経済学者のモンティ氏が主導してきた同国の改革の行方に市場の不安は強まっている。

辞意のきっかけは、議会最大勢力で政権を支えてきた中道右派、自由国民の“造反”だ。ベルルスコーニ氏率いる同党は6日、上下両院で行われた信任投票で棄権。かろうじて政権は信任されたが、アルファノ幹事長は「政権の役割は終わった」と語り、首相は事実上の「不信任」と受け止めた。

来年予算は年内に成立する見通し。首相の辞任により、来年3~4月の実施が見込まれていた総選挙が前倒しされる可能性が高まっており、その場合、早ければ2月にも行われる。

昨年11月に発足したモンティ政権は過去約1年間、累積債務が国内総生産(GDP)比約120%に上る財政の改善のため歳出削減などに取り組み、労働市場改革なども断行。同国への市場の信頼を回復させた。
だが、来年も経済成長はマイナスの見込みで、失業率は過去最悪。国民の不満は強く、世論調査では、ユーロに懐疑的な主張や反緊縮を掲げる政治勢力「5つ星運動」が支持率2位に台頭している。

自由国民が信任投票で棄権に回ったのは、支持率が3位に低迷する中、こうした世論を取り込み党勢回復を図るためとみられる。8日には、モンティ首相への批判を強めるベルルスコーニ氏が従来の姿勢を一転させ、首相候補として総選挙に出馬する意向を示した。

モンティ首相を支え、支持率が3割強で首位の中道左派の民主党は、首相候補のベルサニ書記長が基本的に改革路線を踏襲する考えを示すが、国民の「痛み」への配慮も示し、改革が確実に継続されるかは不透明さも残る。

欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領は10日、「モンティ首相が行ったこと以外によい選択肢はない。彼はユーロ圏の安定維持に大きな助けとなった」と語った。【12月11日 産経】
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モンティ首相の辞任表明については、改革への国民の不満に迎合するベルルスコーニ前首相らに対抗して、前倒し総選挙に向けて、改革路線堅持を目指す捨て身の反撃に出た・・・とも見られています。
しかし、金融市場では改革の頓挫を不安視する向きも強まっています。モンティ首相の辞任表明でイタリア国債10年物利回りが急上昇(価格は急落)、株価は急落しています。

改革を頓挫させないよう首相の職をかけた反撃
****伊首相、捨て身の辞意表明 構造改革の継続狙う****
・・・・「ノーベル平和賞を受ける私たち欧州が、誤った道を歩むわけにはいかない。ナショナリズムとポピュリズムに警戒が必要だ」。モンティ氏は8日、仏カンヌでの国際会議の場でこう発言。とって返したローマで大統領に辞意を伝えた。
批判の矛先は、この日に首相返り咲きを目指す意向を示したベルルスコーニ前首相に向けられていた。「国民は緊縮策で破滅に陥りつつある」「独仏両国の言いなりになっている」と批判を強めていたからだ。

経済学者のモンティ氏は昨年11月、財政不安のさなかに退いたベルルスコーニ氏の後を大統領に託された。増税や規制緩和など矢継ぎ早の対応で、市場は落ち着く方向に向かった。
ただし、マイナス成長は続き、失業率も高まった。国民には「改革疲れ」の感が漂う。11月には就職難を訴える学生や労働組合が、反緊縮デモや集会を繰り返し、警察当局と衝突した。

選挙で選ばれたわけではないモンティ氏の基盤は、ベルルスコーニ氏率いる「自由の国民」と、民主党の2大政党。ベルルスコーニ氏らの離反がはっきりしたことで、改革を頓挫させないよう首相の職をかけた反撃に出たとみられる。
2月に前倒しが予想される総選挙では、改革を続けるかどうかが争点になる。

ベルルスコーニ氏には中小企業主らの支持が厚い。お笑い芸人ベッペ・グリッロ氏が率いる「五つ星運動」は「(改革が)救うのは国民ではなくユーロと金融機関だ」と批判。2009年に始動し、支持は20%近くに達している。
支持率トップの民主党の首相候補、ベルサーニ書記長はモンティ改革の継続を掲げるものの、支持母体の労働組合は労働市場改革などに強く反発している。

劣勢にみえる首相だが、下がったとはいえ支持率はなお33%。経済界にも続投を期待する声がある。財界のリーダーである高級車メーカー・フェラーリのモンテゼモロ会長は、続投の受け皿となる新しい政治団体の設立を表明した。旧キリスト教民主党系の中道政党も賛同する。

首相の辞意表明にローマのタクシー運転手は「厳しい緊縮は嫌だが、やらないわけにはいかない」。国民も厳しい選択を迫られる。

■市場も反応 くすぶる不安
モンティ首相の辞意表明を受け、10日の欧州金融市場では、財政不安からイタリア国債が売られ、10年物の利回りは一時4.9%台に上昇した。財政再建に取り組んだモンティ氏の退陣で、構造改革が遅れる可能性があるとの見方が出た。イタリアの株価指数は一時、前週末比3%超下げた。財政不安があるスペインの国債も売りが先行した。

ベルルスコーニ氏は昨年11月、信用不安が高まる金融市場の圧力に抗しきれずに退陣。イタリアの10年物国債の利回りは当時、「危険水準」とされる7%超で欧州の債務危機の最大の懸案の一つだった。
モンティ政権の緊縮財政は一定の評価を受け、欧州中央銀行(ECB)が9月に打ち出した国債買い入れ策のもと、国債利回りは低下(価格は上昇)し、最近は4%台半ばだった。
ただ、モンティ氏はもともと来春までが任期。市場は次期政権の改革路線の行方に注目している。【12月11日 朝日】
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ベルルスコーニ流の「ジョーク」?】
騒動の引き金を引いたベルルスコーニ前首相ですが、相変わらずのお騒がせぶりです。モンティ首相が出馬するなら自分は身を引く用意がある・・・といった発言をしており、その真意がどこにあるのか注目を集めています。

****ベルルスコーニ氏、返り咲き断念=モンティ首相に出馬提案?―伊****
来年のイタリア総選挙で首相返り咲きを目指すベルルスコーニ前首相(76)は12日、モンティ首相(69)が中道右派の首相候補として出馬を決断すれば、自身は身を引く用意があると語った。ただ「現時点では私が引き続き首相候補」とも述べ、発言の真意をめぐり臆測を呼んだ。

AGI通信によると、ローマで開かれたイベントに出席したベルルスコーニ氏は「もしモンティ首相が(中道右派を)率いるなら、私は出馬しない」と明言。「自ら進んで出馬したのではなく、支持者が推したからだ」と釈明した。
また、自らが率いる政党「自由国民」を軸とする中道右派連合の首相候補になるようモンティ氏に提案したと説明。ただ同氏は出馬意向を示さなかったという。

その直後、「(中道右派の)首相候補は引き続き私だ」「(自由国民の)アルファノ幹事長が首相の有力候補だ」と発言が二転三転。伊紙はベルルスコーニ流の「ジョーク」として、同氏は出馬を断念しないとみている。【12月13日 時事】
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“お騒がせ男”ベルルスコーニ前首相の言動に、イタリアの危機再燃を懸念する欧州首脳も警戒感を強めています。

*****ベルルスコーニ氏けん制に躍起=返り咲きに警戒感―欧州首脳****
イタリアで首相返り咲きを狙うベルルスコーニ前首相に対し、欧州の首脳が警戒感を強めている。同氏の奔放な言動や反緊縮財政の姿勢が、沈静化しつつある債務危機を再燃させかねないためで、13日にブリュッセルで開幕した欧州連合(EU)首脳会議などでは、ベルルスコーニ氏をけん制する発言が相次いだ。

ドイツのショイブレ財務相は「イタリアはモンティ首相の下、前政権と違い多くを成し遂げた」と発言。EU欧州委員会のバローゾ委員長は「(ベルルスコーニ氏が返り咲きを狙う)来年のイタリア総選挙は、構造改革や財政健全化をやめたり、手綱を緩める言い訳にはならない」と訴えた。

一方、ベルルスコーニ氏は党派会合で、学者出身で無党派のモンティ首相が中道右派の首相候補として総選挙に出馬すれば、自分は身を引くと発言。真意は定かではないが、同首相に揺さぶりをかけた可能性もある。【12月14日 時事】
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なお、ベルルスコーニ前首相は、“自由国民党の公式ウェブサイトに掲載された公開書簡では、イタリアを「崖っぷち」に導いているとモンティを批判、状況は(自身が汚職と性的スキャンダルで辞任に追い込まれた)「1年前よりはるかに悪化している」と嘆いている。「企業は倒産し、市場はめちゃくちゃだ。私はこの国が終わりなき経済の悪循環に陥っていくのを見過ごすわけにはいかない」”【12月19日号 Newsweek日本版】・・・と主張しています。

ベルルスコーニ前首相の訴訟については、“イタリア有数の富豪でもあるベルルスコーニ氏は裁判で多数の係争を抱えていることでも有名で、今年10月には脱税で禁錮4年の有罪判決を受けていた。しかし、同国の司法制度では被告のベルルスコーニ氏らには2回の上訴が認められ、事件の時効が来年成立するため、被告ら全員が服役を免れる可能性がある。ベルルスコーニ氏はまた、未成年少女の買春の罪でも起訴されている”【12月9日 CNN】

また、数日前の現地TVニュースでは、ベルルスコーニ前首相が首相復帰を目指しても、その実現可能性は低く、政権復帰云々の発言は、自身の政治勢力の退潮を食い止め、政界への発言力を維持するためのものだといった意見を報じていました。そして政治的発言力に固執するのは、自身の訴訟や経営的に苦しくなっている自身の事業への影響力を行使したいためだとも。
辛辣な意見ですが、「そうかもしれないね・・・」と思わせるところが、不徳の致すところでしょう。

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