孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

派手なパフォーマンスの米朝交渉の一方で、地道に続くアフガニスタンをめぐる交渉

2019-06-30 22:46:50 | アフガン・パキスタン

(中国とアフガニスタン国境を警備する人民解放軍兵士 【619日 WSJ】)

 

【トランプ大統領の派手なパフォーマンスを今後の交渉進展に結びつけられるか・・・】

今日の国際関係のニュースは、突然のトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の会談一色。

 

トランプ大統領得意の派手なパフォーマンスですが、常識にとらわれないその行動力は称賛すべきでしょう。

また、独裁国トップと独断専行のトップが友好的ムードを醸成するのは、両国の今後の交渉進展にとっても影響が大きいことでもあるでしょう。

 

****北非核化交渉、軌道乗るか 米朝首脳、実務協議再開合意****

トランプ米大統領は30日、朝鮮半島の軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談した。

 

トランプ氏は境界線を挟んで金氏と握手してあいさつを交わし、北朝鮮側に入った後、金氏と一緒に韓国側に戻った。現職の米大統領が境界線を越えて北朝鮮側に足を踏み入れるのは初めて。

 

両首脳は非核化に向けた実務者協議の再開で合意したが、停滞する交渉を再び軌道に乗せる契機となるかが注目される。

 

両首脳はあいさつ後、記者団の写真撮影と質疑応答に応じた。トランプ氏は「金氏と再会し、同席できて光栄だ。境界線を越えることができて誇らしくもある」と述べ、金氏を「ホワイトハウスに招待した」と明らかにした。具体的な時期は言及しなかった。

 

金氏は「不快な過去に終止符を打ち、米国と一緒に明るい未来を切り開きたい」とした上で、「トランプ氏は勇気ある人物だ」と称賛した。米メディアによると、金氏もトランプ氏を平壌に招待した。

 

米朝首脳はその後、韓国側施設で約50分間にわたり話し合い、非核化に向けた実務者協議を「数週間以内」(トランプ氏)に再開することで合意した。

 

米朝首脳の対面は、昨年6月のシンガポールでの史上初の米朝首脳会談と、今年2月のハノイでの2度目の会談に続き3回目。

 

トランプ氏は金氏との面会に先立ち、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とソウルの大統領府で会談した後、一緒に軍事境界線にある非武装地帯(DMZ)を視察した。

 

トランプ氏は、米韓首脳会談後の共同記者会見で、金氏との面会を受けた今後の非核化の見通しについて「道程は長いが、急いではいない」と強調。「北朝鮮は核・ミサイル実験をしておらず、情勢は2年半前に比べて前進している」と主張した。

 

文氏は「朝鮮半島の平和は、対話を通じてのみ獲得ができる」と語り、金氏との面会に踏み切ったトランプ氏を「朝鮮半島のピースメーカー(平和の創出者)だ」とたたえた。

 

トランプ氏は金氏との面会後、ソウル郊外にある在韓米軍の烏山(オサン)空軍基地を訪れ、米軍将兵を激励した。【630日 産経】

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言うまでもなく、重要なのは両首脳のパフォーマンスを今後の実質的交渉前進につなげていけるかどうかです。

実質的交渉とパフォーマンスは別物とも言えますし、両首脳がリーダーシップを発揮して、互いに譲歩しあって合意を得る方向に各々の国内を誘導するなら・・・という期待もあるでしょう。

 

単に国内選挙向けに派手なパフォーマンスを演出した・・・というレベルに終わらないことを願います。

 

【存在意義が曖昧になったG20

一方、G20の方はこうしたパフォーマンスや、各国首脳同士の会談のかげに隠れてしまった感も。

 

****G20は必要か? 大阪サミットで無力さ浮き彫りに*****

大阪で行われた20か国・地域首脳会議(サミット)は、ドナルド・トランプ米大統領の独善的なアプローチと、貿易から気候変動までさまざまな問題に対する各国の見解の相違の拡大に圧倒される形になり、今の世界にG20が担うべき役割はあるのかという疑問が専門家の間で浮上している。

 

先進7か国を拡大したG20は以前から、憲章や明確な権限、執行力がない、結論が出ないにもかかわらず多額の費用が掛かるサミットを開催している、開発途上国のほとんどが除外されているといった批判にさらされてきた。

 

これまでG20に対する圧力は反グローバリゼーション活動家からのものだったが、2829日の両日行われた今回のサミットはG20の正当性に関わる問題が内部から生じている可能性を浮き彫りにした。

 

安倍晋三首相は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について、全参加国が一致してより踏み込んだ取り組みを表明することを模索していたが、米国が抵抗。議長国の日本は最優先課題を達成できなかった。

 

大阪での最大の課題となっていた米中貿易戦争は、サミットに合わせて開かれた米中首脳会談で協議され、G20は無力だった。

 

カナダのシンクタンク「国際ガバナンス・イノベーション・センター」のトーマス・バーンズ氏は、「G20は協力のためのフォーラムとして設立されたが、問題は、もはやG20がその目的を果たすことができない状況になったのではないか、ということだろう」と語った。

 

G20:さまざまな利害の運命共同体

G20の基本的な目的は世界経済の安定の維持だが、「米国第一」を掲げるトランプ氏の対中貿易戦争によって世界経済は大打撃を受けている。

 

昨年アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれたG20サミットと同様、大阪サミットも世界の2大経済大国の貿易戦争に乗っ取られたも同然だった。残る18か国は不運な傍観者の立場に追いやられた。

 

バーンズ氏は、残念ながらG20には、米国に代わってリーダーシップを発揮できる国が存在しないと指摘。「問題は、リーダーシップがどこにあるのかだ。人々はこれまで、米国のリーダーシップに不満を訴えてきたかもしれない。(しかし)米国は少なくともいくらかのリーダーシップを発揮し、他の国々はそれに反応することができた」「いろいろ考えてみても、他にその役割を果たせる国があるだろうか?」と述べた。

 

G20サミットの議長役を務めた安倍首相は気候変動問題に関する議論を進展させようとした。しかし首脳宣言は昨年使われた言葉を繰り返す内容で、大阪サミットはG20の無力さを浮き彫りにしただけのように見える。

 

早稲田大学の国際政治学者、山本武彦氏は、20か国・地域はいずれも運命共同体だが、その利害はさまざまで、気候変動に関する残念な結果はG20の限界を浮き彫りにしたと述べた。 【翻訳編集】AFPBB News

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もともと利害・立ち位置のことなる各国首脳が一堂に会したところで、それぞれの主張を繰り返すだけで、実質的な前進は望めない・・・・というのは当然のことでもあります。じゃ、何のためこれだけの手間暇・資金を費やして集まるのか?・・・という素朴な疑問も。

 

そうしたG20の会議自体より、その裏で繰り広げられる多くの二か国首脳会談の方に実質的意味があるようにも思えますが、G20の意義が二か国首脳会談の機会「お座敷」を提供するだけというのも寂しい感も。

 

【アフガニスタンで続く地道な交渉】

米朝の派手なパフォーマンスの一方で、地道に続けられている交渉も。

 

****米国とタリバン、7度目の和平協議開始****

米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンは29日、カタールの首都ドーハで7度目の和平協議を開始した。タリバンの報道官が明らかにした。米国側は、9月に予定されるアフガン大統領選前の合意締結に期待を寄せている。

 

タリバンのザビウラ・ムジャヒド報道官はツイッターに、「米代表団とアフガニスタン・イスラム首長国(タリバン時代のアフガンの国号)の交渉団の7度目の協議が、ドーハで始まった」と投稿した。

 

和平協議の開始とほぼ同時に、アフガン北部でタリバンによって政府側民兵少なくとも25人が殺害されたとの報道が飛び込んできた。北部バグラン州ナフリン地区で29日未明、政府側民兵がタリバンに包囲された兵士らの救出を試みたが、返り討ちに遭ったという。

 

和平協議の狙いは、米史上最長となるアフガニスタン戦争の終結だ。合意内容は、米国が17年以上駐留させてきた軍を撤退させる見返りに、タリバンが過激派をかくまわないことを約束するものとなる可能性もある。タリバンは2001911日の米同時多発攻撃の後、国際テロ組織アルカイダのメンバーをかくまっていた。

 

これまでの和平交渉では、テロ対策、外国軍の駐留、アフガン国内各勢力間の対話、恒久的な停戦という四つの問題が議論の中心となってきた。

 

米当局者らは先に、今度のアフガン大統領選前の合意締結に期待していると述べていた。アフガン大統領選はこれまでに2回延期され、現在は9月に予定されている。 【翻訳編集】AFPBB News

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実際の交渉事は、このアフガニスタンをめぐる交渉のように、地味で難しいものです。

特に、タリバンの場合、交渉に反対する強硬派の存在もあって、どこまでタリバン内部で意思統一できているのか定かでない面もあります。

 

また、本来は一方の当事者であるべきアフガニスタン政府をタリバンが相手にしていないことも、事態を難しくしています。

 

【アメリカ撤退後の影響力を競い合う中国・ロシア】

更には、パキスタン、ロシア、中国など関係国の思惑も重なって・・・と言いだすと、話はいよいよ難しくもなります。

 

パキスタンがインドに対抗する影響力をアフガニスタンに形成したいという思惑で、タリバンを支援してきたことのほか、中国・ロシアもアメリカ撤退後のこの地域における影響力拡大を狙っています。

 

****中国とロシアが縄張り争い、変わる中央アジア ****

米アフガン撤退と中国「一帯一路」で交錯する各国の思惑

 

米国がアフガニスタン戦争からの出口を模索するなか、中央アジアは新時代を迎えつつある。2001911日の同時多発テロ事件後、米国はアフガンに平和と安定をもたらす取り組みを続けてきた。それが終わろうとしている今、中央アジアでロシアと中国が影響力を強めようと競い合っている。

 

地域の専門家によると、中国とロシアはいずれも、イスラム武装勢力のアフガン国内の活動や国外への進出を警戒している。また、中国は習近平国家主席の下で押し進めている広域経済圏構想「一帯一路」で国内企業が投資した多額の資金を保護したい考えだ。

 

中ロ政府はここ数年、アフガンでの自国の国益保護に一段と積極的な手を打っている。両国はアフガン政府の政治的支配力が弱まりつつあるなか、アフガン国内でタリバンが勢力を広げ、過激派組織「イスラム国(IS)」など国境を越えて活動するイスラム武装勢力の脅威にも直面しているとの認識を持つ。

 

米国のアフガン和平担当特別代表を昨年9月から務めるザルメイ・ハリルザド氏は、約18年続いてきたアフガン戦争の完全終結に向け、和平交渉に中ロ政府を含める努力を重ねてきた。

 

米国と中ロの関係が多方面で悪化しているなかで両国の協力を取り付け、ユーラシア大陸の二つの大国が和平を妨害するのを防ぐためだ。

 

ハリルザド氏の働きかけは実を結びつつあるようだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は和平交渉における米ロの取り組みを評価し、「良い結果」が生まれることを望むと述べた。

 

プーチン氏のこうしたコメントは、中国がアブドゥル・ガニ・バラダル司令官率いるタリバン幹部を北京に招いて会合を開いたことを受けたものだ。中国外務省の報道官は、この協議が行われたかどうかを確認することはできないと述べた。

 

ここ数年、アフガン安定に向けた事態打開が米当局者が言うほどには進んでいないことが明白になるにつれ、中ロはタリバンやアフガン政府との関係を広げてきた。ロシア政府はアフガンの各政治勢力や議員らとの結び付きを強化している。安全保障についても、米国に任せるのではなく、自ら対応し始めた兆候が見られる。

 

米国防総省が20176月に議会へ提出した報告書によると、中国はアフガン国境の警備強化や国境地域への投資保護を目指し、同年初めにアフガン北東部のバダフシャン州で8500万ドルを投じることを決めた。

 

だが中国政府は、それ以降のさまざまな報道を否定している。こうした報道の中には、中国およびアフガン当局者の話として、戦略的に重要な同州ワハーン回廊で中国が資金提供して基地を建設中という内容もあった。中国政府は、アフガンに軍を派遣する計画はないとも繰り返し言明している。

 

アフガンの隣国タジキスタンの当局者は昨年、国境の自国側に3040カ所の警備所を新設あるいは再建する権限を中国政府に付与する秘密協約が2015年もしくは16年に交わされていたと明かした。この当局者は懲罰の懸念から匿名で取材に応じた。

 

この合意により、アフガン国境の大部分で中国の国境警備隊がタジキスタンの警備隊に取って代わったという。同当局者によると、中国政府はタジキスタンがこうした地域で武装勢力の侵入を抑える能力がないと見なしているという。

 

同当局者は「中国が国境警備を完全に掌握した地域もある」とし、「自分たちの車両で、自分たちで警備している」と述べた。

 

中国外務省の報道官は、そのような話は聞いたことがないと否定。過去の同様の報道についてコメントを求められると、それは真実ではないと一蹴した。

 

アフガンでの米国の取り組みが行き詰まったことを受け、ロシアも一段と積極的になっている。

 

アフガン当局者によると、ロシアは昨年、アフガン北部ジョージャン州でISを標的とする空爆を承認するよう政府に圧力をかけた。だが、米国が強く反対し、ISの脅威に対応するには米空軍の力で十分だとアフガン政府に請け負ったことで、ロシアの提案は退けられたという。

 

ある欧米当局者が後で語ったところによれば、ロシア当局はISに対処する上でロシアの軍事支援を受け入れる用意があるかなど、アフガン政府の見解を定期的に聞き出していた。ロシア国防省はコメント要請に応じていない。

 

米軍のアフガン撤退の範囲やそれに伴って生じる軍事・政治的な空白がどの程度になるかはまだ定かではない。同地域の専門家は、米国の支配が終われば中ロが一気に進出するような隙ができるとの懸念は行き過ぎだと指摘する。

 

国際危機グループ(ICG)のアジア担当ディレクター、ローレル・ミラー氏は、大規模な軍事介入もあり得ないと語る。「英国、ソ連、米国のアフガン介入の歴史を振り返れば、天才でなくとも『地上軍の派遣? いい案ではない』と分かる」

 

一方、米軍が撤退した後、中ロの地政学的な競争や過去の恨みがアフガン国境を越えて作用する可能性は排除できないともミラー氏は指摘する。同氏はアフガンとパキスタンで国務省の特別代表代行を務めた経験を持つ。

 

ミラー氏は中国が巨額を投じる一帯一路に言及し、「中央アジアでロシアと中国の競争が起こるのは容易に考えられる」と語る。「中国が経済回廊を保護するため西方へ進出するのをロシアが容認するとは考えにくい」【619日 WSJ

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中国・ロシアは、アメリカに対抗する形で両国の蜜月を演出していますが、ロシアにとって“裏庭”中央アジアに中国の影響力が拡大するのは容認しがたいものでしょう。

 

アメリカの撤退、統治できないアフガニスタン政府、拡大するタリバンという事態を受けて、中ロも互いの影響力を競い合うことにもなっているようです。

 

長引く紛争に翻弄されるアフガニスタンの人々の苦悩は・・・と続けるつもりでしたが、長くなったので、また別機会に。


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