(大阪市で6月28日、会談するトランプ米大統領(左)とブラジルのボルソナーロ大統領【6月29日 朝日】)
【経済不調で支持率もじり貧傾向】
「ブラジルのトランプ」とも称される極右・元軍人のブラジル・ボルソナロ大統領への国民支持は大統領選挙当時の熱狂から冷めて低下しているようです。
****ブラジル世論調査、ボルソナロ政権発足後初めて不支持が支持上回る****
24日に発表されたXPインベストメントスとイペスペの世論調査で、ブラジルのボルソナロ大統領率いる現政権の不支持率が、1月1日の大統領就任以来初めて支持率を上回った。
政権発足以来の5カ月は、第1・四半期の経済がマイナス成長となる公算が大きいなど経済の低迷に加え、改革課題に対する政治的な支持獲得の失敗などが目立った。
調査は20─21日、1000人のブラジル人を対象に実施。その結果、36%がボルソナロ政権は悪いまたはひどいと回答。今月行われた前回調査を5%ポイント上回った。
政権が良いまたは素晴らしいとの回答の割合は、前回の35%から34%に低下した。調査の誤差は3.2%ポイント。
経済の現状については前政権と「外的要因」が原因と考えているブラジル人が大半だが、現政権のせいと考えるブラジル人が、わずか3週間前に比べて2倍の10%となった。
将来の見通しも悪化しており、ボルソナロ大統領の残りの任期が良いまたは素晴らしいと見ている人の割合は47%と、前回調査の51%から低下。悪くなる、またはひどくなると見ている人は、同27%から31%に上昇し、楽観的な見方と悲観的な見方の差がこれまでで最も小さくなった。【5月27日 ロイター】
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どこの国においても、支持率を左右する最大要素は「経済」ですが、ブラジルの場合、あまり芳しくありません。
****世銀によるブラジルの成長予想 1.5%に悪化****
世界銀行(WB)がブラジルの経済成長見通しを悪化させた。
4日付伯メディアによると、世界銀行は同日発表した世界経済の見通しについての報告書の中で、ブラジルの2019年の国内総生産(GDP)の成長予想をプラス1.5%とした。今年1月の発表ではプラス2.2%としていたが、一気に0.7ポイント引き下げた。
ただし、悪化はしたものの、プラス1.5%という予想はブラジルの金融市場による見方に比べてまだ楽観的だ。国内の100を超える金融機関のアナリストらの見方をまとめてブラジル中央銀行(BCB)が毎週発表する週次レポートの最新版によると、ブラジルの金融市場は同国経済の19年の成長率をプラス1.13%とみている。(後略)【6月6日 サンパウロ新聞】
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世界銀行(WB)が経済成長見通しを低くしたこと自体は、ブラジルに限った話ではなく、世界銀行は、アメリカと中国の間で緊迫している貿易紛争、投資を冷え込ませる構造的な諸問題、そして様々な国々、特にユーロ圏内における予想以上の減速といったリスクを背景に、世界経済全体およびラテンアメリカ経済の成長見通しも低く見直しています。
ただ、かつて「BRICs」ともてはやされたブラジルとしては1.5%という水準は不本意なレベルでしょう。
ラテンアメリカにおける経済的主導国という地位も、経済好調なメキシコに奪われつつあります。
人口動態の面から長期的にみても、ブラジルの生産年齢人口の伸びは低下しており、2030年にはマイナスに転じるということで、先行きの見通しはよくありません。【6月11日 森川央氏 「ブラジル経済の先行きに暗雲」より】
【課題の年金改革も難航】
経済界からボルソナロ大統領に期待されていたのは年金改革ですが、年金制度の改革というのは、あのプーチン大統領の支持率さえ急低下させたように、どこの国でも極めて困難な課題です。
日本でも、年金問題が焦点となっているように、政権にとって年金問題は鬼門です。ただ、将来を考えると避けて通れない問題でもあります。
****もたつく年金制度改革****
期待感がしぼんできている原因の一つが、ボルソナーロ政権への失望である。政権発足時(1 月)のボルソナーロ政権への支持率は 65%1と高かったが、4 月には 32%に低下している。
家族の汚職疑惑や社会政策、銃規制緩和への警戒に加え、大統領の指導力への失望が人気低下に拍車をかけている。
そして特に、ビジネス界や投資業界で支持率低下が顕著である。ファンドマネジャーやエコノミスト約 80 人に対するアンケート調査によると、ボルソナーロ政権への支持率は86%(1 月)から 14%(5 月)に低下している
低下の理由は年金制度改革の遅れである。ビジネス界では年金改革への期待が大きかったので、新政権が国会内での多数派工作に手間取り、ほぼ 3 か月を空費したことが失望を招いたのであろう。
もっとも年金制度改革の見込みが消えたわけではない。(中略)
年金改革は今後の連邦政府の財政負担の軽減となるだけでなく、企業にとっても負担軽減が期待できる。また年金改革は経済構造改革のための大事なステップと考えられており、年金改革が成立すれば税制改革にも弾みがつくと期待されている。
従って、年金改革が実現すればブラジルの中長期的な成長率も上昇するというストーリーが描けるが、実際の効果については吟味する必要がある。【6月11日 森川央氏 「ブラジル経済の先行きに暗雲」】
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【銃規制緩和で治安回復?】
ブラジルの抱えるもうひとつの問題が治安の悪化。
****17年の殺人被害者、6万5602人と過去最悪=ブラジル****
ブラジルの政府系機関「応用経済研究所」などは5日、2017年の同国の殺人被害者数が前年に比べ4.9%増加し、6万5602人に達したと発表した。殺人発生率は過去最悪の人口10万人当たり31.6人。世界銀行によると、16年の日本の発生率は0.3人、米国は5.4人。麻薬戦争が続くメキシコは19.3人だった。
銃器が使用された割合は72.4%に達した。ボルソナロ政権は治安対策として銃器をめぐる規制緩和を急いでいる。
犠牲者の9割は男性で、5割以上は若者、4分の3は黒人だった。15〜19歳の男性の死因で「殺人」は6割を占め、ファベーラ(貧困街)を牛耳る麻薬密売組織絡みの暴力が年々深刻化していることが浮き彫りとなった。【6月6日 時事】
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日本的発想では、治安を改善するためには銃規制を強化ということになりますが、「ブラジルのトランプ」ことボルソナロ大統領の発想は逆です。
****1人4丁まで所持可能 ブラジル、市民の銃規制を緩和****
南米ブラジルのボルソナーロ大統領は15日、市民の銃所持の規制を緩和する大統領令に署名した。警察による審査が簡素化され、25歳以上なら条件を満たせば銃を所持できる。ブラジルでは治安悪化が社会問題になっており、ボルソナーロ氏は大統領選で治安回復を公約に掲げ、市民が銃で武装すべきだと訴えていた。
ブラジルでは市民の銃所持は法律上認められてきたが、警察による厳しい審査があり、事実上、銃は買えなかった。今回の規制緩和で、犯罪歴や精神疾患がないなどの条件を満たせば、25歳以上なら1人4丁まで銃を所持できる。
ボルソナーロ氏は署名後、「これで善良な市民が家庭で平和を手に入れることができる」と演説した。ただし、銃所持が治安回復につながることを疑問視する市民も多く、直近の世論調査では61%が銃所持に反対だった。【1月16日 朝日】
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市民が銃で武装して治安回復・・・・どう考えても「逆効果」にしか思えませんが、「銃保持は個人の権利」と考える大統領ですから・・・。
なお、ブラジルでは刑務所内での受刑者同士の衝突が頻発しています。
****刑務所内での殺人事件が相次ぐブラジル、また1日に40人死亡****
ブラジル北部アマゾナス州の刑務所4か所で27日、受刑者が合わせて40人以上殺害された。当局が発表した。ギャング同士の抗争とみられている。
同国の刑務所は深刻な過密状態にあり、受刑者が施設内で死亡する事例が相次いでいる。アマゾナス州では前日26日にも、刑務所1か所で15人が死亡する事件が発生したばかり。
銃やナイフなどの凶器は使用されておらず、同州の発表によると、27日に殺害された受刑者らは「窒息死」したとみられるとしている。
刑務所関係者らの話では、事件は同じ犯罪組織に所属し、州内での麻薬取引に関わっていた受刑者らの衝突が原因で発生したと考えられるという。
政府は刑務所内の安全対策強化を目指し、職員を追加派遣した。【5月28日 AFP】
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ひょっとして、ギャングは刑務所内で殺し合いをさせとけばいい・・・・という、大統領の施策でしょうか?
【アマゾン開発の加速、政敵少数者への厳しい対応では“面目躍如”】
それはともかく、銃規制緩和は型破りな極右・元軍人大統領の面目躍如と言ってしまえばそれまでですが・・・ボルソナーロ大統領はこれまで、性的少数者の公民権上の権利はく奪につながりかねない大統領令にも署名。アマゾン地域の熱帯雨林での商業活動も認めています。
アマゾン地域の熱帯雨林での商業活動ということでは、アメリカに続いて日本も誘いを受けているようです。
“ブラジル大統領、アマゾン地域で「米国と共同開発望む」”【4月8日 ロイター】
****日本はアマゾン共同開発を=ブラジル大統領、首脳会談で提案へ****
ブラジルのボルソナロ大統領は20日、今月末の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に出席する際に安倍晋三首相と首脳会談を行い、アマゾン熱帯雨林地帯の共同開発を提案する意向を明らかにした。経済発展を重視するボルソナロ氏は、NGOなどから、環境保護に後ろ向きだと批判されている。
ボルソナロ氏はフェイスブックに投稿した動画で「われわれは25日夜にサミットのため日本にたつ。日本の首相と個別会談を持ち、手を携えてアマゾン地域の生物多様性を(共同開発により)活用する協定を提案する」と述べた。具体的内容については明かさなかったが、「誰もアマゾンを破壊したいとは思っていない」と強調した。【6月22日 時事】
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この話がどうなったのかは知りません。
性的少数者への厳しい姿勢に関しては、性的少数者差別を禁じる最高裁判断をも強く批判しています。
****同性愛者差別違法化は「誤り」=最高裁判断に保守派大統領―ブラジル****
ブラジルで、連邦最高裁が同性愛者差別を犯罪と判断したことに、強硬保守派のボルソナロ大統領が「完全な誤りだ」とかみついた。同氏は過激な物言いで物議を醸すことが多く、最近では日本人を「ペキニニーニョ(ちっこい)」とやゆし、「差別的だ」と批判されている。
最高裁は13日、同性愛者や性転換者らへの差別は犯罪とする見解を8対3の賛成多数で決めた。同国では同性婚も認められているが、差別を禁ずる法的根拠はなかった。最高裁は、禁止法が制定されるまで、違反者には人種差別禁止法違反に準じて1〜3年の禁錮刑か罰金を科すとした。
これに不満を唱えたのは、かつて「息子がひげ面の男と現れるくらいなら、事故で死んでくれた方がまし」と発言するなど同性愛者への嫌悪を隠さなかったボルソナロ氏。
14日、記者団に「最高裁は尊重するが、決定は完全な誤りだ」と強調。経営者らが訴訟沙汰を恐れて同性愛者の雇用に慎重になるとして、かえって「同性愛者が損をする」と持論を展開した。【6月15日 時事】
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【身内の犯罪関与疑惑も ガタつく政権内部】
“息子がひげ面の男と・・・”云々はともかく、息子の「犯罪」についてはどうなんでしょうか?
大統領の息子の犯罪関与についても問題となっています。
****ブラジル検察、資金洗浄疑惑で大統領の息子の銀行取引記録を捜査へ****
ブラジルの裁判所は、資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いを巡り、ボルソナロ大統領の息子であるフラビオ・ボルソナロ上院議員と同議員の元運転手の銀行取引記録を捜査することを検察に認める方針だ。2人の関係筋が13日、ロイターに明らかにした。(後略)【5月14日 ロイター】
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政権内部もガタついています。
****ブラジル大統領がまた閣僚解任、政権発足半年で3人目****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が13日、カルロス・アルベルト・ドス・サントス・クルス大統領府・政府調整庁長官を解任した。政権発足後の半年間で、閣僚の解任はサントス・クルス氏が3人目。
発足以来、ボルソナロ政権内部では軍出身者と極右イデオロギーグループとの対立が続いている。今回解任されたサントス・クルス氏は元軍司令官で、ボルソナロ氏の息子たちや、ボルソナロ氏の「師」と評され軍出身者に批判的な右派言論人のオラーボ・デ・カルバーリョ氏とも衝突していた。
ただ、サントス・クルス氏の後任に決まったルイス・エドゥアルド・ラモス・バプティスタ・ペレイラ氏は陸軍大将で、閣僚22人中の8人が軍出身者という構成は変わらない。
ボルソナロ氏は大統領就任以来、これまでにも2月にグスタボ・ベビアノ大統領府・事務総局長官を、4月にリカルド・ロドリゲス教育相を解任している。
ボルソナロ政権は公約としていた年金改革が発足直後から難航し、経済も悪化。政権への抗議デモが相次いでおり、14日にも労働組合が全国規模でのストライキとデモを呼び掛けている。【6月14日 AFP】
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【「本家トランプ」とは相思相愛】
これだけいろいろあれば、支持率低下もやむを得ないところでしょう。
ただ、「本家トランプ」との関係は“相思相愛”とか。
****「ブラジルのトランプ」と本家、相思相愛 G20で会談****
SNSを駆使した過激な発言から「ブラジルのトランプ」の異名を持つブラジルのボルソナーロ大統領が28日、大阪市で開幕した主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の会場で、「本家」のトランプ米大統領と会談した。
互いをたたえ合い、経済協力の強化などを話し合った一方、トランプ氏は注目が集まる米中首脳会談のアピールも忘れなかった。
ボルソナーロ氏は極右の元軍人で、かつての軍事独裁政権を礼賛し、拷問を正当化する発言などで物議を醸してきた。既存メディアからの批判を「フェイク(偽)ニュース」と決めつけ、言いたいことはSNSで一方的に流すなどの言動がトランプ氏に似ているとされる。トランプ氏をブログで礼賛する外交官を外相に据えるなどし、米国とは良好な関係づくりを目指してきた。
この日の会談で、トランプ氏は「彼は特別な男だ。よくやっている。ブラジルの人々にとても愛されている」とボルソナーロ氏を持ち上げた。ボルソナーロ氏も「(トランプ氏が)大統領選に出る前からファンだった」と応じ、次の米大統領選での再選を応援すると公言した。
ログイン前の続き米ホワイトハウスによると、トランプ氏はボルソナーロ氏の経済改革を支持し、ブラジルの経済協力開発機構(OECD)加盟が改革の後押しとなることを、ボルソナーロ氏と確認したという。(後略)【6月29日 朝日】
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「ブラジルのトランプ」が支持率を下げているのに対し、「本家トランプ」は岩盤支持層を維持し、再選をうかがう勢い・・・ということで、さすが「本家」は違うといったところでしょうか。
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