孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  首都でも東部でも戦闘が続く  議会選挙はリベラル勢力勝利か

2014-07-29 22:55:54 | 北アフリカ

(首都トリポリの空港周辺での戦闘 【7月29日 TBS Neswi】http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2261419.html)

複数の武装勢力が各地で衝突
5月24日ブログ「リビア 首都で武装勢力が対峙 6月の議会選挙で混乱に拍車の恐れも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140524)でも取り上げたように、カダフィ政権崩壊後のリビアでは、多くの武装勢力が内戦時の武器を保持したまま残存し、新たな国家体制を構築する作業が進まないなかで、政府軍・武装勢力が入り乱れて戦闘を行う混乱が拡大しています。

武装勢力・民兵組織は、宗教色の濃淡、地域、部族などで様々な組織・勢力があります。

****リビア首都の戦闘、2週間で97人死亡 400人超負傷****
リビアの首都トリポリの空港周辺で続く武装勢力間の戦闘により、ここ2週間で97人が死亡、400人以上が負傷した。

同国の保健省が27日、発表した。戦闘が急速に激化する中、エジプトと西側諸国の各政府は自国民に対しリビアからの退去を勧告している。

軍と医療当局が27日に伝えたところによると、これとは別に東部のベンガジ市では、政府軍とイスラム武装集団との24時間にわたる戦闘で、兵士ら38人が死亡した。

トリポリの武力衝突は、過去3年間空港を支配・管理していたリベラル派民兵組織「ジンタン旅団」を、イスラム勢力を中心とする武装グループの連合体が襲撃したことから始まった。
この連合体は以降、リビア第三の都市ミスラタの武装勢力の支援も受けている。

エジプト外務省の報道官はAFPの取材に対し、トリポリで26日にグラートロケットが民家に着弾して23人が死亡したと述べた。死者にはエジプト人が含まれるが、正確な人数は不明という。

トリポリ国際空港の支配をめぐって争う武装勢力の激しい戦闘のため、米国は26日に在リビア大使館の全職員を国外退避させた。これに続き、ドイツと英国、エジプトの各政府も自国民の退去を勧告。ベルギー、マルタ、スペイン、トルコはそれ以前から退去を勧告している。【7月28日 AFP】
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戦闘は西部の首都トリポリと、東部の中心都市ベンガジの両方で起きています。

東部ベンガジに関しては、“イスラム系武装勢力が2日間にわたってリビア軍特殊部隊の拠点を襲撃。一般市民を含む少なくとも38人が命を落とした。”【7月27日 時事】とのことです。

ただ、5月24日ブログでも触れたように、東部ベンガジでの戦闘は、もともとカダフィ旧政権下で軍将官であり、カダフィ独裁政権打倒で中心的な役割を果たした世俗派とされるハフタル氏とイスラム武装勢力の争いと報じられていました。

一方、議会・政府はイスラム主義勢力が強く、政府と世俗派ハフタル氏は対立関係にあり、ハフタル氏と連携する武装勢力(【7月28日 AFP】で登場するリベラル派民兵組織「ジンタン旅団」の戦闘員とも言われています)が首相選定を行う議会に乱入するという混乱も起きていました。

しかし、東部ベンガジでは“政府の命令に反する形で一部の軍ヘリコプターなどがハフタル氏側について戦闘に参加したとみられており、政府が軍を掌握できていない実情も浮き彫りとなった”とも。

このように、5月段階ではイスラム主義勢力主導でハフタル氏と対立していた政府ですが、【7月28日 AFP】では“政府軍とイスラム武装集団との24時間にわたる戦闘”と記されています。

この「政府軍」が政府の意向に沿って動いている部隊なのか、一部の軍が政府の意向とは異なりハフタル氏などの勢力と連携してイスラム武装勢力と衝突しているのか・・・・よくわかりません。おそらく後者ではないでしょうか。

どんな出来事でも、表の動きとは別に、“裏事情は・・・・”“実際のところは・・・”という話になると、日本国内の出来事でもよくわからないものであり、ましてや海外のことになると雲をつかむようなことにもなります。

ただ、リビアの現状は、報道されるニュースを見ていても、表の動きすらよくわからないところが多々あります。
現在、リビア政府が衝突する武装勢力に対しどういう立ち位置にあるのか、政府軍がどういう動きをしているかなども、そうしたよくわからない話のひとつです。

機能不全に陥った制憲議会から暫定議会へ 治安安定は困難
6月25日には議会選挙が行われました。

****リビア暫定議会選:世俗派とイスラム勢力、議席争い焦点****
リビアで25日、暫定議会選挙(定数200)が行われた。世俗派とイスラム勢力の議席争いが焦点。

東部ベンガジを中心に世俗派武装組織とイスラム過激派組織との武力衝突が激化しており、選挙後に発足する暫定政府が治安改善を実現できる見通しはない。

選挙は新憲法策定を担う制憲議会が世俗派武装組織の圧力を受けて解散したことに伴うもので、新憲法成立までの間、暫定的に国会の役割を果たすとみられる。

東部では元軍将校のハフタル氏率いる世俗派武装組織と政府軍の一部が、イスラム過激派との衝突を続けており、投票が円滑に行われるかは不透明だ。

また西部の少数民族ベルベル人は、民族の権利が保障されていないとして、選挙をボイコットした。

リビアでは2011年に内戦を経てカダフィ独裁政権が崩壊したが、反カダフィ派の武装解除が進まず、混乱が続いている。【6月26日 毎日】
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“政府の統治能力が弱体化していることから、状況が改善するのは難しい”【6月26日 NHK】というのが、大方の見方です。

ただ、それ以前の話として、この選挙の結果がどうなったのか報道がなく、“よくわからないなあ・・・”と思っていたのですが、1週間ほど前に結果に関する報道がようやくありました。
どうも世俗派・リベラル派が勝利したようです。

****リビア暫定議会選、リベラル勢力が勝利か 機能不全の制憲議会と交代****
フランス公共ラジオによると、リビアの選挙管理委員会は21日、6月に行われた暫定議会選の結果を発表した。立候補は無所属に限定されたため正確な勢力図は不明だが、リベラル勢力が勝利したとみられる。

定数200のうち188議席が決まり、リベラル勢力が50議席以上、イスラム勢力は30議席以下との推定が出ている。当選議員は今後、会派を形成する。

暫定議会は、両勢力の対立などで機能不全に陥った制憲議会と交代。招集後に新首相を指名、憲法起草委員会による憲法案策定を待って国民投票で是非を問う。憲法公布後の総選挙で正式な議会が発足する。【7月22日 msn産経】
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もっとも“正確な勢力図は不明”ということで、また、どういう勢力図になっても混乱がおさまるとも思えません。
どうしてイスラム主義勢力が後退したのか・・・もちろんそうした事情はよくわかりません。

トラウマを抱えるアメリカは大使館閉鎖
比較的わかりやすい話としては、アメリカが大使館を閉鎖したということがあります。

リビアでは2012年9月、東部ベンガジの米領事館が襲撃を受け、駐リビア米大使ら米国人4人が死亡する事件があり、アメリカ国内では未だにこの問題を巡ってオバマ政権の責任を問う議論がなされています。
ウクライナとかガザ、シリア・イラクと、議論すべき問題は山ほどあるのですが・・・・。

次期大統領を狙うとされている当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏にとっても、大きな政治的傷となっています。(“傷”にするために共和党側が執拗に問題にしている・・・とも言えますが)

そういう事情というか、トラウマがありますので、また問題が起きる前に早々に引き揚げたというところでしょう。

****米、リビア大使館を閉鎖 要員は一時退避 民兵同士の戦闘激化で****
米政府はリビアの首都トリポリの米大使館を閉鎖し、要員全員を陸路で隣国チュニジアに退避させた。

米国務省のハーフ副報道官は声明を発表し、大使館付近で民兵同士の戦闘が激化したことによる一時的な措置だと説明した。(中略)

ケリー米国務長官は26日、パリで記者団に「要員に危機が迫っており大使館での外交活動を一時中止する。大使館閉鎖ではない」と述べ、引き続き対リビア外交や戦闘中止に向けた働きかけを行うと強調した。(後略)【7月28日 産経】
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石油生産は比較的順調 トリポリ燃料施設に被害も
首都トリポリでも、東部ベンガジでも戦闘が収まらず、外国大使館が閉鎖されるという状況で、経済も大混乱か・・・というと、そうでもないようです。

前回ブログでも“リビア西部の油田とパイプラインが12日に稼働を再開し、同国の原油生産量が倍増する見通しとなった。”【5月13日 WSJ】という話をとりあげましたが、現在も、“トリポリ以外の地域では石油生産にある程度の改善が見られている。”【7月23日 WSJ】とのことです。

ただ、“リビアのトリポリ空港周辺で激しい戦闘が発生し、ガソリン輸送車が炎上した。最近のリビア情勢悪化で石油インフラに被害が出たのは初めて。”【同上】というように、トリポリでは戦闘の影響も出ています。

更に、27日にはトリポリ郊外の燃料貯蔵施設をロケット弾が直撃して、制御不能状態になっています。

****リビア、燃料貯蔵施設の火災が「制御不能」に 戦闘で消火できず****
リビアの首都トリポリ郊外にある燃料貯蔵施設で発生した大規模な火災が28日、制御不能となり、大災害に発展する恐れが懸念されている。

この火事は27日夜、600万リットル以上の燃料が入ったタンクにロケット弾が直撃して発生。同国政府は、「別の燃料貯蔵施設でも火災が発生し、非常に危険な状況」だとして、「予測不能な被害を伴う大災害」に発展する恐れを警戒している。

この燃料貯蔵施設はトリポリの国際空港へつながる道沿いにあり、同市から約10キロ離れている。周辺では今月中旬から、対立する武装勢力間の激しい戦闘が繰り広げられている。

消防隊が消火活動に当たっているが、戦闘が続いているため何度も火災現場からの避難を余儀なくされている。
国営燃料会社の広報担当者は、「消防隊はすでに現場から退避した。制御不能の事態に陥っている」と発表。

一方政府は火災現場から半径3キロ圏内の住民に対し、「自宅からの即時避難」を呼び掛けた。同時に政府は声明で武装勢力に対し、「直ちに停戦」するよう改めて訴えた。

しかし現地で取材に当たっているAFPのカメラマンによるとロケット弾の応酬は続いている。当局は、9000万リットルの天然ガスが貯蔵されている施設に火が燃え移る可能性を危惧している。【7月29日 AFP】
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現在でもトリポリは燃料不足に苦しんでいますが、上記火災で更に事態は悪化しそうです。

カダフィ独裁政権が倒れて事態はかえって悪化したような感があるリビア情勢ですが、現在の状況が過渡期の苦しみであった・・・と思えるような日が来てもらいたいものです。

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