孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク・シリアで対ISの軍事作戦が開始されるも、両国ともに問題も

2016-05-25 22:48:29 | 中東情勢

(ファルージャ奪還作戦を開始したイラク政府軍【5月24日 NHK】)

イラク ファルージャ奪還作戦開始で懸念される残された住民
IS(イスラム国)支配地域が縮小しているなど、ISの劣勢を報じる情報がこのところ多くなっていますが(テロ活動の活発化とか、リビアへの拠点移動などの話は別途あります)、イラクとシリアでほぼ同時期にIS支配拠点の奪還作戦が始まっています。

イラクでは、昨年12月のラマディに続いてファルージャ奪還作戦が開始されています。
首都バグダッドの西方約50キロに位置するファルージャは、2014年1月以降、2年半近くにわたってISに掌握されています。

路上や住宅など至る所に地雷や爆弾が仕掛けられていることなどから作戦は難航も予想されますが、時間をかければ奪還は可能でしょう。

問題は人質として取り残されている住民をどう保護するのかということです。

****イラクのファルージャ奪還作戦、1万世帯が立ち往生か****
イラク軍が過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」からの奪還を目指す中部ファルージャで、約1万世帯の住民が脱出できずに立ち往生しているとして、国連が懸念を表明した。

ファルージャは首都バグダッドの西方約65キロに位置するイスラム教スンニ派住民の多い都市。ISISが2014年1月、イラク国内で最初に占拠し、現在まで支配を続けている。

イラク軍は23日、ファルージャ奪還作戦の開始を宣言。住民にはビラを散布し、軍が設置した安全な退避ルートを通って市外の避難キャンプへ向かうよう勧告した。

政府はまた、避難を希望する住民が電話または文字メッセージで連絡できる直通回線を設け、逃げられなかった場合は自宅に白旗を掲げるよう国営テレビで呼び掛けた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はファルージャ市民のため、アミリヤと西郊のハバニヤに1000世帯を収容できる避難所を用意した。

しかし現地の活動家らによれば、ISISは住民の移動を阻止し、多くの通信回線を切断している。政府軍とISISとの戦闘に数千人が巻き込まれる恐れがあるという。

国連は「約1万世帯が非常に危険な状況にある」との見方を示した。国連の声明によると、この数日間に退避ルートを使って逃れ、緊急支援を受けている住民は約80世帯にとどまっている。

ファルージャから南へ約30キロ離れた郊外のアミリヤ地区へ、幹線道路をたどったり農地を横切ったりして逃れた住民もいる。しかし避難する過程で死者が出る例もあり、この中には女性や子どもも含まれているという。

ファルージャでは奪還作戦が始まる前から戦闘が激化し、米軍主導の有志連合は直前の1週間だけで21回の空爆を実施していた。政府軍が近隣の都市ラマディを昨年12月に奪還した際に補給路を断って以来、市内では食料、医薬品不足が深刻化していた。

23日には政府軍とISIS系メディアの双方が、ファルージャでの地上戦の映像を公開した。イラクのオベイディ国防相は戦況について「予想を上回る順調さだ。敵は完全に崩壊しつつあり、兵士の意気も揚がっている。戦闘はまもなく完了するだろう」と述べた。【5月25日 CNN】
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残されている住民については、“国連のドゥジャリク報道官は「われわれの推定では、ファルージャ市内には依然5万人が残っている。人道状況は明らかに、極めて不安定だ。市民の安否を強く懸念している」と述べた。市内に残っている市民について、イラクは5万人を上回る数字を想定。米軍は6万─9万と推定している。”【5月25日 ロイター】との報道もあり、はっきりしませんが、いずれにしても万単位の数にのぼるようです。

なお、以前はファルージャ人口は30万人ほどと言われていましたので、相当部分は避難しているようではありますが、上記記事にもあるように、イラク軍は市民に退避するよう指示、国連も避難所を用意してきましたが、残った住民の退避は進んでいません。

IS側は狙撃手を配備して、“人間の盾”ともなる住民の退避を阻止しているとも報じられています。

***IS狙撃手、住民の脱出を阻止 イラク・ファルージャ****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の支配下にあるイラクのファルージャで、住民らの救援のために政府軍が設置した「人道回廊」をISの狙撃手が標的としていると米国防総省の報道官が13日、明らかにした。
 
イラク駐留米軍のスティーブ・ウォーレン報道官はイラクからのビデオ通話による記者会見で、首都バグダッド
の西方約50キロのファルージャでISの狙撃手が住民たちの脱出を阻止し、同市は医薬品などの基本的な物資の大幅な不足に直面していると語った。
 
イラク政府は「人道回廊」を通じてファルージャの住民たちの脱出を促してきたが、「ISIL(ISの別称)」は回廊沿いに狙撃手を配置するなどして、同市から出ようとする住民らを殺害しようとしており、脱出しようとする人々はほとんど成功していないという。
 
ウォーレン報道官によれば、イラク軍はこれまでに3つの人道回廊の設置を試みたが、そのほとんどは狙撃手のために放置状態にあるとし、「ここ数週間、回廊はまったく使われていないことから、狙撃手のうわさは住民の間に広まったとみられる」と語った。
 
その一方でウォーレン報道官は、現在はイラクの治安部隊がファルージャを「おおむね」包囲しており、徐々にISの支配を崩しつつあると付け加えた。【5月14日 AFP】
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ファルージャは首都バグダッドの西方50キロほどにあって、日本的な感覚からすると首都のすぐ近くにISの拠点都市が存続してきたというのも奇妙に思えます。

ただ、ファルージャはイスラム教スンニ派住民の多い都市で、シーア派主導のイラク政府への不満も強い地域であることから、その奪還作戦も遅れていました。

フセイン政権崩壊後の2004年には激しい反米闘争が行われ、アルカイダが拠点として米軍との激しい戦闘が行われたイラク内戦を象徴する都市でもありました。

今回の奪還に向けては、イラク政府軍の他、イスラム教シーア派の民兵や、地元のスンニ派のグループなども参加しています。al jazeera netでは、シーア派民兵とともにイラン兵及びイランの軍事司令官の参加も報じられていますが真偽はよくわかりません。【「中東の窓」http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5053715.html

シーア派民兵による「報復」の懸念も
ファルージャ残存住民の扱いで懸念されるのは、戦闘に巻き込まれるということ以外に、シーア派民兵がスンニ派住民に報復的な残虐行為を行わないか・・・ということもあります。

イラク政府もその点に関する国際的な監視の目があることは承知してはいますが、銃弾が飛び交う戦場にあってシーア派民兵のコントロールがどこまで可能か・・・不安視されているところです。
そうした戦闘意欲の高い民兵の協力がないと軍事作戦が進められないところが、イラク政府軍の限界でもあります。

住民としては、退避しようとすればISから狙撃され、残れば戦闘に巻き込まれ、生き残ってもISに協力としたとしてシーア派民兵の報復を受ける恐れがあるということで、非常に困難な状況に置かれています。

シーア派指導者サドル師の動きで、シリア政府内の混乱も
一方、5月1日ブログ“イラク政治をかく乱するポピュリスト・サドル師の「グリーンゾーン」突入”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160501でも取り上げた、シーア派指導者サドル師を中心とするイラク政府内部の混乱も収まっていません。

政府改革を求めるサドル師支持者は5月20にも「グリーンゾーン」に突入しており、この際は死傷者を出すに至っています。

****治安部隊の発砲でサドル師派のデモ参加者2人死亡、イラク****
イラクの首都バグダッドで20日に発生した旧米軍管轄区域「グリーンゾーン」にデモ隊がなだれ込んだ事件で、治安部隊の発砲によって少なくとも2人のデモ参加者が死亡したことが分かった。複数の当局者が21日明らかにした。
 
政治改革を求めているイスラム教シーア派)の若い指導者ムクタダ・サドル師によって約1か月前に始められた一連の抗議行動で死者が出たのは初めて。イラクの指導層は政治的混乱がさらにエスカレートする恐れがあると警告を発している。(中略)

治安部隊は、デモ隊が3週間前に初めてグリーンゾーンに突入し議会に乱入した時よりも厳しい対応を取り、デモ隊に激しく催涙ガスを浴びせた。
 
イラクの治安・医療当局者によると、20日の衝突で治安部隊は高圧砲水砲や音響爆弾なども使用し、少なくとも57人の負傷者が出たという。一方のデモ隊にも石やがれきなどを投げた者がいた。デモの最中に治安部隊側が実弾を発砲し、そのほとんどは空に向けたものだったが、デモ隊のうち2人が銃弾を受けて死亡した。

■「争い長引く」と専門家
今回の騒動を受けて同国のアバディ首相は、「政府施設に乱入する行為は受け入れられない」としたが、「平和的なデモを行う人々の意見は支持する」と述べた。
 
一方サドル師は20日、「平和的なデモ」は今後も続行されると述べ、抑圧を試みた場合は「革命が別の形を取る」と警告した。
 
2014年の首相就任以降、汚職と歳出の抑制を目指していくつかの改革を試みてきたアバディ首相は、最近は政党との結びつきが強い閣僚をテクノクラートに置き換えた新内閣の樹立を目指していた。しかし任命権を権力の源としている与党を含む主要各派がこの構想に抵抗している。
 
サドル師は表面上はアバディ首相の改革を支持しているが、デモ隊がグリーンゾーンに乱入するたびにアバディ首相が弱体化したという印象を与えており、シーア派の他の勢力を激怒させている。
 
デモ隊が議会に乱入した先月末以降、議会は開かれていない。今月26日に開かれる予定だが、20日に新たに騒ぎが起きたことで、どこで審議を行うかという問題が持ち上がっている。
 
イラクの軍事作戦と武装勢力の活動について調査している戦争学研究所のキンバリー・ケーガン代表は「争いは長引き、勝者と敗者が生まれるだろう」と述べ、イラクの政治危機は深刻になりすぎて、全ての勢力が体面を保てるような合意は不可能になってしまったとの見方を示した。【5月22日 AFP】
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シーア派指導者サドル師の一連の動きの背景には、IS退潮を見越して、その後の影響力拡大を狙っているとも指摘されていますが、そうした動きが表面化すれば「挙国一致」体制は崩壊し、イラクには新たな混乱が生じます。

****イラク首都にサドル派民兵が展開 IS退潮を見すえ、シーア派が影響力拡大狙う****
イラクの首都バグダッドで17日、イスラム教シーア派地区などを狙った3件の連続爆弾テロがあり、ロイター通信によると死者数は少なくとも77人に達した。

これを受け、シーア派有力指導者サドル師は、政府の治安維持が十分でないとして、シーア派住民が多い地区に独自に民兵部隊を展開。サドル師は、同国の政治改革をめぐってもアバディ政権に圧力をかけており、影響力の拡大に向けた動きを強める可能性は高い。(中略)
 
サドル師が政府を軽視する形で民兵の配備を進めている背景には、今後のISの勢力減退を見越して、国内での発言力を高めておく狙いもあるとみられる。
 
政治面でもサドル師はこのところ、一部の党派が独占してきた閣僚ポストの配分を変更するといった政治改革の断行をアバディ首相に強く要求。4月には、改革に反対する議員らへの抗議デモのため、警備の厳しい旧米軍管理区域(グリーンゾーン)へ支持者数千人を送り込むなど、活動を活発化させている。
 
イラクではISが急速に台頭した2014年夏、スンニ派からの反発が強かったマリキ前首相が米国などからの圧力で退陣し、アバディ氏の下でISに対抗するための「挙国一致政府」が成立した。その後、米軍主導の有志連合の空爆支援などにより、ISの支配地域拡大には歯止めがかかっている。
 
イラク戦争後の同国では、スンニ派とシーア派の間だけでなく、多数派であるシーア派が内部で勢力争いを繰り広げてきた。このため、ISが弱体化すれば一時的な「挙国一致」体制は崩れ、再び政争が激化することも考えられる。【5月18日 産経】
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シリア クルド人勢力を主力として「IS首都」ラッカ周辺で軍事行動開始
シリアでは、ISが「首都」とするラッカ周辺での軍事作戦が開始されています。

****<シリア>クルド勢力、IS「首都」ラッカ周辺で攻勢開始****
内戦が続くシリアの少数民族クルド人主体の武装勢力「シリア民主軍」は24日、過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」と位置付ける北部ラッカ北方で、大規模な軍事作戦を開始した。ロイター通信が報じた。

米軍主導の有志国連合が空爆によってシリア民主軍を援護する。隣国イラクでも、政府軍と有志国連合がISの主要拠点ファルージャの攻略を進めており、ISは守勢に回っている。
 
報道によると、シリア民主軍は24日、ラッカの北約50キロに位置するアインイーサ周辺からラッカ方面へ進攻を始めた。有志国連合と連携して対IS戦で戦果を上げてきたクルド人民兵「人民防衛隊」(YPG)が主力を担い、反体制派武装勢力も参加している。
 
イラクのクルド系メディア「ルダウ」は「5万人が動員された」と報じており、6年目に入ったシリア内戦で、クルド人勢力による過去最大規模の作戦になるとみられる。
 
ただ、ラッカへの全面進攻がいつ行われるかは不明。シリア民主軍の報道官は軍事作戦開始は認めたが、ロイター通信に対し、現段階ではラッカ中心部ではなく、ラッカ北部周辺広域の制圧を目指していることを示唆したという。
 
米CNNテレビによると、米中央軍のボテル司令官は今月21日にシリア北部の数カ所を極秘訪問し、シリア民主軍幹部とも会談した。ラッカ攻略に向けた軍事作戦についても協議したとみられる。北部のクルド人支配地域では米軍の特殊部隊が対IS戦の支援に当たっている。
 
ただ、ISも敵対勢力によるラッカ攻撃を想定し、防御態勢を固めている模様だ。ルダウによると、ラッカ周辺には地雷や爆弾が多数仕掛けられている。ISは支配地域住民の脱出を厳しく制限しており、住民を「人間の盾」として使うことも予想される。
 
同様の懸念は、イラク軍とISがにらみ合うイラク中部ファルージャでも広がっている。国連や国際人権団体は、民間人の犠牲を避けるよう戦闘当事者に呼びかけている。【5月25日 毎日】
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今回の軍事作戦は、米軍の支援を受けるシリアの少数民族クルド系とアラブ系反政府勢力でつくる合同部隊「シリア民主軍」(SDF)によるものですが、中心となるのはクルド人民兵「人民防衛隊」(YPG)です。

アメリカだけでなく、ロシアのラブロフ外相も24日、SDFによるラッカでのIS掃討作戦に協力する用意があると表明しています。

クルド人勢力の台頭を警戒するトルコ
住民が「人間の盾」として使われることの問題はイラクと同じですが、シリアにあっては、こうした作戦でクルド人勢力がその存在を誇示することを好ましく思わない勢力・国があることが問題にもなります。

シリアの反政府勢力はクルド人がラッカを攻略して実効支配することを危惧しているでしょうし、何より、クルド人勢力の台頭を警戒しているのがトルコです。

トルコはクルド人支配地域と接しており、国内にクルド人反政府勢力PKKを抱えていますので、シリア北部でPKKと連携するクルド人勢力が支配を強固にすることを強く警戒しています。
トルコの関心はISよりは、もっぱらクルド人にあるとも言われています。

アメリカ・ロシアがクルド人勢力の軍事作戦を後押しするという状況で、トルコの反発が強まることが予想されます。

崩壊の危機にあるシリア停戦 ロシアに動きも
一方、シリア停戦は北部アレッポ周辺での戦闘を中心に崩壊の危機にあり、和平交渉も中断したままです。

****シリア和平協議、再開時期決まらず 援助物資の投下要請****
シリア内戦の和平協議を支援する米ロなどの閣僚会合が17日、ウィーンで開かれたが、和平協議の再開時期について合意できなかった。反体制派は、停戦崩壊の危機にあるシリアの状況が改善しない限り、交渉に戻らないとしている。

会合には、シリアのアサド政権と対立する米国、欧州や中東の主要国のほか、同政権を支援するロシアやイランが参加。会合後の共同声明では、ともに戦闘行為の完全停止と援助物資の輸送ルート確保を求めた。

また、敵対する勢力に包囲された地域で人道支援のアクセスが得られない場合、6月1日から食料や薬品、水などの援助物資を航空機から投下を始めるよう、世界食糧計画(WFP)に要請した。

シリア和平協議をめぐっては、反体制派が4月、政権側が停戦を順守していないとして協議を離脱。このところ、特に北部のアレッポ近郊で戦闘が激化している。【5月18日 ロイター】
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ロシアは20日、シリアで別々に空爆を行っているアメリカに対し、次週からの合同作戦を提案しましたが、米国防総省は即座にこれを拒否しています。

なお、、ロシア国防省が25日声明を発し、シリアのヌスラ戦線に対する空爆を一時停止すると発表したと報道があるようです。【「中東の窓」http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5054139.html

こうしたロシアの動き、更にはラッカ周辺の軍事作戦進展を受けてシリア情勢がどうなるのか・・・・わかりません。

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