孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国のウイグル族弾圧問題 背景に人権意識の欠如 米「ウイグル強制労働防止法案」 自治区トップ交代も

2021-12-25 23:35:13 | 中国
(5月、中国新疆ウイグル自治区カシュガルの縫製工場で働くウイグル族の作業員ら=共同【12月25日 中日】)

【中国政治体制における人権意識の欠如】
中国の女子テニス選手、彭帥(ホウ・スイ)さんの件については、北京五輪を前にして中国政府は、本人が上海でシンガポール紙の取材に応じて性的暴行の事実を否定し、自由の身だと主張した(させた?)ことで幕引きを図りたいようですが・・・。

****女子テニス「彭帥さん」は北京五輪開催を前に軟禁中 一蓮托生のIOC・バッハ会長と中国当局の思惑とは?*****
中国の有名女子テニス選手、彭帥(ホウ・スイ)さんが、中国共産党元最高指導部メンバー(中央政治局常務委員)で中国元副首相の張高麗氏から性的関係を強要されたことをソーシャルメディアで公表してから1カ月半。

その動向に注目が集まる中、19日には上海でシンガポール紙の取材に応じ、性的暴行の事実を否定し、自由の身だと訴えた。北京五輪を前に国際的な批判を避けるべく、中国当局は必死なのだという。
 
11月頭、彭帥さんは中国版ツイッターのウェイボーで、張氏と男女関係にあったことなどを告白した。投稿は配信間もなく削除され、彭帥さんも行方不明となった。
「彭帥さんは中国当局に身柄を拘束され、取り調べ施設で尋問も受けていたようです」(事情に詳しいジャーナリスト)
 
その後、共産党系のメディアは彭帥さんが市内のレストランで食事をしたり、テニスの大会に来賓として招かれたりする場面を動画で公開したが、彭帥さんの肉声が聞き取れないなど、編集・検閲のあとがありありと見えた。
 
それからIOC(国際オリンピック委員会)は、バッハ会長とテレビ電話を通じて彭帥さんが会話している画像を公開し、「北京市内の自宅で暮らしており、安全だと説明した」と発表していた。

ノーベル平和賞を狙う
「新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧など人権問題で国際的批判が高まり、五輪を外交ボイコットする国が拡大していますよね。そんな中、もう1つの人権問題は抱えたくないし、批判されそうな材料はできるだけ摘んでおきたいというのが、五輪成功が至上命令の当局とバッハ会長の本音でしょう」(先のジャーナリスト)
 
本当に彭帥さんが安全なら先に触れたようなまどろっこしい発表をする必要などないはずだから、中国当局にとって不都合な状況が続いていることは容易に察せられる。
 
12月に入ってから、女子テニス協会は彭帥さんの身柄について憂慮していること、中国でのトーナメントを全て中止することを発表している。

「彭帥さんは反体制指導者やテロ主導者とは違って、言論封殺を続けるにも限界がある。当局には罪をでっちあげるなど強権発動をしてきた黒歴史がいくつもありますが、そうしたところでメリットはなく、五輪成功が危ぶまれるだけ。彭帥さんの機嫌を逆なでしないように、釣魚台国賓館などの施設で丁重に扱っているとされています」(同)(中略)

今回のシンガポール紙の取材で彭帥さんは、「当局の監視下に置かれていない」と述べる一方で、張氏との不倫の事実には言及しなかった。女子テニス協会は「重大な懸念の解消にはつながっていない」と主張したが、世界の反応はそれと同じものだろう。【12月21日 デイリー新潮】
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訴えた女性がどのような処遇を受けたのか・・・政治的観点で言えば、性的暴行の有無よりはるかに重要な問題です。

権力を笠に着て、自身の下半身をコントロールできない馬鹿な男はどこにでもいます。中国にも、日本にも、世界中に。

もちろん、そうしたことの背景にある女性の地位・権利などに関する議論・改善は必要ですが、政治問題としては当該政治家のスキャンダルであり、首を切ってしまえば一応のケリはつきます。

しかし、その事件を隠蔽するために訴えた女性を拘束し、国家のメンツを保つために事実とはことなる証言をすることを強い、監視下におくとしたら・・・それはもはや「国家の犯罪」であり、国家権力による人権蹂躙です。単なる「一個人のスキャンダル」とはレベルが異なります。日本・欧米で同様のことが行われれば、政権は崩壊します。

おそらく中国にあっては、そうした国家権力のメンツのために一個人を“黙らせる”ことは「日常茶飯事」であり、当たり前のことと理解されており、中国共産党にしても、習近平主席にしても、日本や欧米が問題にする人権の概念が基本的に理解できないのでしょう。

相次ぐ人権派弁護士弾圧も同様でしょう。

****中国「人権派」2人、所在不明に 当局拘束か****
中国の人権活動家として知られる元弁護士ら2人が12月上旬から相次ぎ半月以上も所在不明となり、「当局に拘束された」との見方が強まっている。

2人は国外にいる重病の家族を見舞うため出国を希望していたが、「国家安全」を理由に当局に阻止されていた。23日には有志でつくる中国人権弁護士団が、自由や出国の権利を奪うのは「政府が負う人道主義に反する」との抗議声明を発表した。

関係者によると、所在不明の2人は元弁護士の唐吉田氏(53)と、作家の郭飛雄氏(55)。過去に体制批判などで当局側に拘束されたことがある。

今月10日の国際人権デーに、唐氏は北京市内の欧州連合(EU)代表部でイベントに出席予定だった。だが同日、知人に「代表部周辺は安全ではない」と連絡し、所在不明となった。

日本留学中の唐氏の長女が5月、意識不明の重体となり、都内で入院中。唐氏は長女に会うため6月に来日を試みたが、福建省の空港で「国家の安全と利益に害を及ぼす恐れがある」と当局に阻止されていた。

唐氏を支援している東大の阿古智子教授は、「拘束されたとみてほぼ間違いない」と指摘。北京冬季五輪を前に「国際的な騒ぎになると困るため、監視下に置いたのだろう」と話す。

唐氏は今月20日、「10年前と同じだ」と一度だけ知人に短い連絡を寄せた。民主化運動を組織した疑いで連行された2011年2月を指すとみられる。当時は拷問に近い仕打ちを受けて肺結核を患っており、阿古氏は「今回も十分な食事も与えられず、尋問されている恐れがある」とみる。

一方、郭氏は「また逮捕された」との発信後、今月5日頃、所在不明に。末期がんの妻が住む米国に向かう際、上海の空港で1月に出国を阻止された。李克強首相に手紙を出すなど渡航の許可を求めていたが、認められないままだった。

23日に声明を出した中国人権弁護士団は、「中国の国際イメージのさらなる悪化につながる。考えを改めるべきだ」と非難した。また、民主派を支援する台湾の「華人民主書院協会」も24日、記者会見で「親の情や人権は国家安全に優先する。2人の出国を認め、家族に早く会わせて」と要求した。【12月25日 産経】
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国家・社会の秩序を乱す輩はテロリストの類であり、そうした連中に人権はない・・・という理解でしょうか。

【ウイグル族弾圧問題への習近平主席の関与も】
こうした人権に関する基本認識を欠如した政治体制のもとで、新疆ウイグル自治区における100万人が収容施設に拘束されたとも言われるウイグル族弾圧が起きています。

共産党・習近平氏にとっては、国家の治安を守り、(漢族価値観での)統一を進め、ひいてはウイグル族住民の雇用などの改善にもつながる・・・どこが悪いのか?・・・といったところでしょう。

“中国の元警官がウイグル拷問証言 「殴って蹴った」、米CNN報道”【10月9日 共同】
“子供の名前を自由に付けられない、家の中でもウイグル語は禁止…中国政府による“ウイグル人弾圧”のヤバい実情”【11月3日 文春オンライン】

ウイグル族弾圧に関しては、習近平主席自身の発言がその後の展開に大きく影響しているとの「証拠」も明らかにされています。

****ウイグル問題の文書流出、習氏の強い関与裏付け***
中国による少数民族ウイグル族への人権侵害疑惑を巡り、習近平国家主席が先頭に立って弾圧を指示していたことを示す新たな証拠が浮上した。英国を拠点とする非政府組織「ウイグル・トリビューナル」(独立民衆法廷「ウイグル法廷」)が中国政府の流出文書の写しをウェブサイトに掲載した。
 
その文書は、新疆ウイグル自治区の動向を巡り、2014~17年に習氏や共産党幹部が非公開で行った演説の内容などが含まれ、一部は最高機密扱いとなっている。ウイグルへの強制的な同化政策はこの時期に策定・導入された。
 
それによると、習氏は少数民族に関して宗教の影響や失業問題の危険性について警告しており、新疆の支配を維持する上で、主流派である漢民族と少数民族の「人口割合」の重要性を強調している。
 
ウイグル・トリビューナルはロンドンで、ウイグル族に対する人権侵害の疑いについて審問を開催している。
米ミネソタ在住の中国民族政策専門家、エイドリアン・ゼンツ氏は、ウイグル・トリビューナルから文書の真偽を調べるよう依頼され、他2人の協力者とともに鑑識を行った。

ゼンツ氏によると、今回の文書はニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が2019年に報じた流出文書では明らかにされなかった一部とみられる。NYTは十数ページの内容について報じたが、完全な文書ではなかった。

同氏は、NYTの報道について習氏がウイグルの同化政策の策定に直接関与していたことを示していたが、完全な文書で真相は一段と明らかになると述べている。(中略)

習氏が14年の演説で最初に触れた発言がその後、政府の政策文書にも記され、党幹部らも度々その文言を言及しているなどとゼンツ氏は指摘する。
 
例えば、習氏は14年5月に新疆に関する会合で行った演説で、共産党は「人民の民主的独裁という武器の使用を躊躇(ちゅうちょ)すべきではなく、(新疆の宗教的な過激派勢力に対して)破滅的な打撃を与えることに注力すべきだ」と述べている。
 
さらにこの演説では、強制労働の疑いが持たれているウイグル族への労働プログラムの前触れともとれる発言があった。米国はこの強制労働疑惑を理由に、新疆綿を使った中国品の輸入を禁止している。

文書によると、習氏は「新疆の雇用問題は顕著だ。暇を持て余した大量の失業者が問題を起こす傾向がある」と指摘。その一方で、組織で働けば「民族の交流や融合につながる」と述べている。
 
また今回明らかになった別の演説で、習氏は「人口の割合と安全性は長期的な平和と安定の重要な基礎となる」と述べている。その6年後、新疆における漢民族の割合が15%にとどまるのは「低すぎる」として警告した同地域幹部はその際、習氏のこの発言をそのまま繰り返している。
 
ゼンツ氏は「習氏が発したたった一文が、政策全体に影響を与えるだけの威力を持つ」と話す。

同氏によると、ウイグル・トリビューナルは合計300ページにわたる11文書を入手した。このうち30日に公表したのは3文書のみで、残りは今後公表される見通しだ。【12月1日 WSJ】
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【米中間の対立軸となったウイグル族弾圧問題 米「ウイグル強制労働防止法案」 企業は対応に苦慮も】
こうしたなかで、中国のウイグル族弾圧への批判を対立軸の一つとして前面に押し出すアメリカのバイデン大統領は23日、中国新疆ウイグル自治区からの物品輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法案」に署名しました。同法は成立し、輸入禁止の対象が同自治区での全製品に広がります。

****強制労働阻止「あらゆる手段」=世界に影響波及へ―米ウイグル禁輸法****
中国の人権侵害を理由に新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する「ウイグル強制労働防止法」が23日、米国で成立した。180日後の2022年6月下旬に発効する予定だ。

北京冬季五輪を控える中国に人権問題で最大級の外交圧力を加える狙いで、日本を含め世界各地の企業が影響を被りそうだ。
 
バイデン大統領は法案に署名後、ツイッターに「強制労働をなくすため、あらゆる手段を行使し続ける」と投稿。米国が認定する新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(集団虐殺)の阻止に向け、先進7カ国(G7)を軸に多国間連携を図る決意を表明した。
 
同法は新疆ウイグル自治区で「全部または一部」が生産された製品の米国への輸入を原則禁止。輸入企業に対し、強制労働に関与していない証拠の提示を義務付けた。米政府は発効までに重点審査品目や強制労働に関わる企業などの制裁リストを明示。同自治区以外を経由した迂回(うかい)輸入品にも目を光らせる。【12月24日 時事
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当然に日本企業を含めた企業活動に大きく影響します。米中のせめぎあいの渦中で企業は苦慮する場面も想定されます。

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中国も主要市場の一つのため「中国が強制労働を否定している以上、『新疆綿を使わない』と宣言すること自体による(中国での)事業活動への影響が心配」という。

ある商社の担当者は「米国による輸入禁止の商品や地域が広がったり、中国が報復措置に出たりするのではないかと心配している」と話す。【12月25日 朝日】
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中国の圧力に民間企業がどこまで抗することができるか・・・難しいようにも。あの巨大企業インテルさえも、中国の圧力には抗えないようです。

****米インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で****
米半導体大手インテルは23日、仕入れ先に中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪した。中国国内で同通知に対する批判が高まったことで、対応を余儀なくされた形だ。

ロイター通信によると、インテルは仕入れ先に対して同自治区の労働者を使用したり、関係する製品やサービスを調達することがないよう求める公開文書を出していた。これに対し、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が23日付の社説で「荒唐無稽で目障りだ」と反発。中国のインターネット上では同社に謝罪を求めたり、不買運動が呼び掛けられたりしていた。

同社は、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で発表した中国語の声明で、文書は「米国の法律の順守」を表明したものだと説明。同自治区に関する記述は「他意や立場を表明したものではない」と釈明した。

米議会上院は16日に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。

中国外務省の趙立堅報道官は23日の記者会見で、インテルの問題に関して「新疆の製品は品質が優れている。企業が使わないことを選ぶなら、彼らにとって損失だ」と発言。同自治区の強制労働問題については「完全に米国の反中勢力がでっちあげた噓だ」と反発した。【12月23日 産経】
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なお、欧米の対応に配慮して中国企業が中国国内でのウイグル族労働者を解雇する現象も出ているようです。
労働移動施策抑制と評価すべきか、ウイグル族労働者の雇用機会喪失と危惧すべきか・・・

****ウイグル族の解雇じわり、中国の工場で方針転換****
アップルのサプライヤーを含め、米国に製品を輸出する中国の工場で、新疆ウイグル自治区出身の労働者を避ける動きが出てきた。イスラム系少数民族に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと糾弾する西側諸国が、強制労働への監視の目を強めていることが背景にある。(中略)

藍思科技は昨年に新疆の労働者を戻すまで、地元政府の労働移動施策を積極的に活用していた。
同社は2017年以降、国家主導の貧困撲滅プログラムを通じて新疆南西部のカシュガルから、少なくとも2200人の労働者を受け入れてきた。中国民政部管轄の政府部署が掲載した資料から分かった。
 
だが昨夏、新疆に関する追及が厳しくなると、同社は主要施設から400人余りを解雇した。
解雇された従業員は、労働契約が定める期間より前に解雇されたため、1万~1万9000元(約17万~32万円)の手当てを受け取ったという。解雇された元従業員の一人が明らかにした。(中略)

中国の工場は通常、漢民族の雇用を望むことが多く、求人広告ではチベット族やウイグル族をあからさまに差別している。これら少数民族は標準中国語があまり話せないと雇用主は考えており、追加の管理が必要であるほか、安全面でのリスクもあるためだという。労働者の権利擁護を唱える団体への取材で分かった。
 
国家主導の労働移動施策は、安定的な労働力だけではなく(離職率が高い工場には魅力)、雇用した人数に合わせて補助金を提供することで、工場の関心をひきつけてきた。ネットの求人広告や労働移動施策の指針によると、新疆の地元政府は当局幹部や治安当局者を同伴させ、集団で少数民族を工場へと送ることが多い。
【7月21日 WSJ】
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【新疆ウイグル自治区トップが交代】
今後の中国側の対応・報復が注目されていますが、中国から興味深い人事も発表されています。

****新疆ウイグル自治区トップが交代 少数民族収容策「一定の区切り」か****
中国国営新華社通信は25日、新疆ウイグル自治区トップの陳全国・共産党委員会書記が退任し、後任に広東省副書記などを務めた馬興瑞氏が就いたと報じた。

陳氏は2016年の書記就任後、中国側が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ施設にウイグル族など少数民族を収容する政策を急拡大させた。昨年7月には当時のトランプ米政権が、人権侵害に関与したとして陳氏らに対して米国内の資産を凍結するなどの制裁措置を決定していた。
 
同センターには宗教心が強かったり、外国との関係があったりする少数民族住民が多く収容され、その後に国外に出た住民らが人権侵害を告発するケースが相次いでいる。

中国政府は同センターの運用は19年後半に終了したとしており、今回の陳氏の退任の背景には、こうした政策に一定の区切りがついたと中国政府が判断した可能性がある。
 
陳氏は11年から16年までチベット自治区トップを務めた後、新疆ウイグル自治区トップに就任した。【12月25日 毎日】
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自治区トップの交代・・・これ以上ことを大きくしたくないとの中国側のメッセージのようにも解釈できますが、どうでしょうか・・・(もちろん、前述のようにウイグル族政策には習近平氏自身が大きく関与しており、自治区トップだけの問題ではありませんが)・・・米中の緊張緩和につながるのか?
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