孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  戦術核配備の演習 「核戦力部隊は常に臨戦態勢」 「国家元首には恐るべき決断が必要」

2024-05-09 23:17:13 | ロシア

(「紛争が絶えないため、国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」とのキリル総主教の話を伏し目がちに聞くプーチン大統領【5月8日 テレ朝news】)

【ウクライナ支援体制を強化する欧米】
ウクライナに対し物量に勝るロシアが優位に戦局を展開している現状ですが、ロシア・プーチン大統領としても今後に楽観はできない状況にあります。

ウクライナの苦境に反応して、西側の支援体制はむしろ強化される方向にあります。一番は5月5日ブログ“ウクライナ  物量に勝る露軍に対し後退 米の支援再開で立て直し図る 長距離ATACMS実戦投入”でも取り上げたようにアメリカが約610億ドル(約9・4兆円)の支援法案を可決して、ウクライナへの大規模な武器提供を再開したことです。アメリカの武器支援にはロシア領内を脅かしかねない長距離ATACMSも含まれています。

更にイギリス・キャメロン外相はウクライナのロシア本土攻撃を容認する発言を行っています。
また、フランス・マクロン大統領はウクライナが窮地に陥れば西側は地上部隊派遣の選択肢を「排除すべきでない」との考えを繰り返し表明しています。

欧州はウクライナ支援・対ロシア防衛強化の方向でまとまりつつあります。

****仏独も国防政策の転換を本格化 欧州の対ロシア防衛態勢確立へ英国との結束がカギ****
ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国がウクライナ支援と対露防衛を主導する方針を打ち出す中、これまで経済的思惑に根差した対露融和姿勢が目についたフランスやドイツも国防政策の転換を本格化させた。

マクロン仏大統領は4月29日、英誌エコノミスト(電子版)とのインタビューで、米欧諸国はウクライナへの地上部隊派遣の選択肢を「排除すべきでない」と改めて主張した。

欧米の軍事専門家が本紙に語ったところでは、露軍が前線での攻勢を強め、ウクライナ軍が防衛に集中する必要が強まった場合、米欧がウクライナ西部の後方地帯に軍部隊を投入して兵站を担当することが想定の一つに挙げられている。

フランスには対米自主外交を唱えたドゴール元大統領の流れをくむ「ドゴール主義」の伝統が残る。ウクライナを巡る米国の関与低下が懸念される中、マクロン氏の発言は「欧州自主防衛」の強化に向けた流れの中で存在感の発揮を図っている可能性もある。

ドイツは、2022年に独軍の再建に1千億ユーロ(約16兆6千億円)を投じると表明した。このまま国防費が拡大すれば数年内に国内総生産(GDP)比3・5%に達する見通しだ。国内では11年に停止された徴兵制の再開に向けた議論も活発化しつつある。

米国では、民主党と共和党の大多数がウクライナ戦争の勝利とプーチン露政権への対抗の重要性を掲げる一方、中国こそが自国の最大脅威だとする見方が超党派で共有されている。
誰が次の米大統領になるにせよ、米国が対外戦略の軸足を中国に移し、欧州の比重を相対的に低下させるのは避けられそうにない。

英国の軍事専門家は「米国の欧州戦略の行方に左右されることなく欧州が対露防衛態勢を確立するには、英仏独が結束を強めることが肝要だ」と強調した。【5月8日 産経】
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【効果を発揮するアメリカのロシアへの二次制裁】
また、経済の面でも、アメリカが昨年末に発動した対ロシア制裁が相当に効果を発揮しそうな流れで、これまでロシアにとって最大の実質的支援国であった中国の金融機関の腰が引け始めています。

****【牙を剥くロシアへの二次制裁】「プーチンの戦争」支えた対中貿易に異変、禁輸分野からふさがれる“抜け穴”****
ウクライナ侵攻を続けるロシアを経済面から支えてきた中国との貿易関係に異変が起きている。米国のバイデン政権が昨年末、対ロシア貿易にかかわる中国の銀行に対する制裁圧力を高めたことをうけ、彼らがロシアとの取引から次々と手を引き始めているためだ。同様の動きは、経済面ではロシア寄りだった中国以外の第三国にも広がっている。

バイデン政権は金融分野以外でも、5月にはロシアによる化学兵器使用を認定するなど、対露制裁圧力を高めている。米議会でようやく巨額の対ウクライナ支援が可決され、停滞していた軍事支援の再開にめどが立つなか、11月の米大統領選に向けて、戦況でも確実に成果を出そうとしている米政権の狙いもうかがえる。

「中国との取引が止まった」
「昨年12月、浙江省の銀行が、制裁対象である〝一部の物資〟の支払いを止めたと通告してきた。しかし数週間後には、通貨や商品の種類にかかわらず、ロシアの(企業による)すべての取引を止めたと通告してきたんだ」

中国から機械製品を買い付けていたというロシア中部イジェフスクの同国企業関係者は、中国からの商品購入が突然困難になった状況を、ロシアメディアに打ち明けた。商品の支払いなどの取引を仲介していたのは、中国・浙江省の銀行だ。

このロシア企業関係者によれば、ロシアとの取引を止めたのは、同銀だけではないという。「中国のほかの大手銀行も、私たちの会社の外貨建て口座を凍結した」。浙江省は、中国企業の対ロシア輸出の拠点とみなされていた地域で、打撃の深刻さがうかがえた。

2022年2月に始まったウクライナ侵攻以降、欧米や日本などはロシアの戦争継続能力を削ぐために、経済、金融分野で大規模な対ロシア制裁を科した。

しかし、それらは当初狙った成果を上げることなく、ロシア経済は地盤沈下を避け、さらに成長軌道にすら乗りつつある。中国やインド、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)などが、ロシアの主力輸出品である原油を大量に買い付けたためだ。

特に中国は、原油の大量購入のみならず、ロシアに対し半導体や電子回路、工作機械など、軍事転用が可能な民生用製品の輸出を継続したとされる。結果、ロシアは防衛産業の立て直しに成功し、ロシア軍の戦争継続能力は維持された。中国とロシアの貿易額は、ウクライナ侵攻がはじまった22年に、輸出入ともに実に、前年比で二桁増の伸びとなっていた。

制裁を強化
そのような状況に変化が起きたのは昨年12月のことだ。米バイデン政権は新たに、ロシアによる制裁回避に関与した第三国の銀行に対して、二次制裁を科す方針を表明。ロシアの軍事産業を支える個人や企業との取引を行ったなどと判断される金融機関を対象とした。

米国内などで事業を営む第三国の金融機関には命取りとなる制裁で、これが対ロシアビジネスを事実上支えてきた中国の銀行の動きを封じ込めた。ロシア企業は、中国からの製品購入で支払いを行うことができなくなった。

ロシア側の報道によれば、米国の制裁導入後、中国の銀行は相次ぎロシアビジネスの見直しを開始した。取引に関与している人物や企業がロシアと関係を持っているかどうかが詳細に調べられるようになり、ロシアの市民権を持つ人物が社長を務める中国企業なども、銀行口座を開設できないなどの事態が発生した。2月ごろからは、中国の銀行から「この取引は当行の内部規定に反している」などと理由で、ロシア側からの支払いが返金されるケースが相次いだという。

米政府は手を緩めていない。(中略)

一連の事態は中国以外の国の金融機関にも当然、影響を及ぼしている。米シンクタンクによれば、バイデン政権の制裁導入を受け、トルコの銀行は24年初頭から、ロシアとの金融分野でのつながりをほぼ完全に解消したという。UAEの銀行も、ロシアからの撤退を開始した。

多くのロシア企業のビジネス拠点として知られるキプロスも、米連邦捜査局(FBI)と金融分野の調査で協力を開始したという。インドも、ロシアからの原油輸入の減少が指摘されている。

ロシア経済への影響は
(中略)今回の制裁強化により変化が生まれる可能性がある。特に輸入の停滞は、ロシア国内のインフレ懸念を高める。(中略)

ロシア経済は完成品を輸入に頼る構造となっており、輸入の停滞は物価上昇を引き起こしやすく、政権の中心的な支持層である年金受給者らをはじめロシア国民の生活に打撃を与える。

インフレが引き起こす市民生活への打撃は、ソ連崩壊後のハイパーインフレの記憶を持つ人々に強い心理的影響があり、過去にも繰り返し政権への脅威となっていた。プーチン政権が最も注意せねばならない経済指標とされる。(後略)【5月8日 WEDGE】
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中国の1〜4月の累計での輸出動向については“ウクライナ侵略後も密接な経済関係を保つロシアとの貿易総額は4・7%増だったが、輸出は1・9%減とマイナスだった。米国が昨年末に発動した対露追加制裁が影響した可能性がある。”【5月9日 産経】

バイデン大統領としても、11月の大統領選挙に向けてウクライナ情勢の悪化、あるいは大規模支援でも情勢が改善しない事態は大きな打撃となりますので、対ロシア制裁強化でロシアに有効に打撃を与えている成果をアピールしたい思惑があります。

【現状は優勢でも見えない終わり 今後への不安 「国家元首には恐るべき決断が必要だ」(キリル総主教)】
****ウクライナ、防御戦立て直し 侵略長期化と対露制裁でプーチン体制の不安要因にも****
ロシアのプーチン大統領が7日、就任式を経て新たな6年間の任期に入る。プーチン氏にとって最大の課題であるウクライナ侵略では露軍が優勢にあるものの、ウクライナも態勢の立て直しを進めており、終わりが見えない。

欧米主導の対露経済制裁は今後も露経済をむしばんでいくとする観測も強く、プーチン氏の政治基盤が今後6年間、盤石であり続ける保証はない。

露軍は最激戦地の東部ドネツク州を中心に攻勢を継続している。(中略)露軍の戦力も損耗しており、攻勢をどこまで維持できるかは見通せない。

プーチン氏は露経済が堅調であり、対露制裁を「打破した」と繰り返してきた。ただ、露専門家やメディアは、経済を押し上げている主な要因は軍需生産の拡大であり、景気の継続性や将来性には疑念が残ると指摘している。

ロシアは国家歳入の3〜4割を占める石油・天然ガス輸出で、制裁前の主要販売先だった欧州での減少分を中国やインドなどでの増加分で補えなえておらず、財政赤字が増加。機械や電子機器、部品などの供給で依存してきた欧米の供給網から切り離されたロシアの生産力の低下が本格化するのは、これからだとする分析もある。【5月7日 産経】
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そうしたなかで、ロシアでは・・・・

****ロシア正教トップがプーチン大統領に「恐るべき決断必要」****
ロシア正教会のトップが通算5期目の任期を始めたプーチン大統領に対し、「国家元首には恐るべき決断が必要だ」などと述べました。

キリル総主教 「紛争が絶えないため、国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」

ロシア正教会のキリル総主教は7日、プーチン大統領の通算5期目の就任式後にクレムリン内の教会でプーチン氏への特別礼拝を行いました。

その後の演説で、「国家元首が恐るべき決断を下さなければ国民、国家が危険に陥る可能性がある」などと述べました。

さらにプーチン大統領を中世ロシアの英雄でドイツ騎士団を打ち破ったアレクサンドル・ネフスキーに重ね、「ネフスキーは敵を容赦しなかったことで聖人となった」などと述べました。 ウクライナへの侵攻を正当化するとともに、さらなる攻撃の激化などを後押しする発言とみられます。

プーチン大統領は伏し目がちにキリル総主教の演説を聞いていました。

また、キリル総主教は演説の最後に「神よ、プーチン大統領がいつまでも権力の座にとどまりますように」と、プーチン氏の終身大統領を望むような発言をしましたが、ロシア正教会の公式映像からは削除されています。【5月8日 テレ朝news】
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ロシア正教会のキリル総主教は熱烈なプーチン支持者であり、ロシア正教会とプーチン政権は一体となって、これまもロシアの独自性を強調・強化してきています。

ですからキリル総主教がプーチン大統領を褒め称えるのは何ら不思議はありませんが、「国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」とは何を意味しているのでしょう。

おりしも、ロシアは戦術核兵器の演習計画を公表しています。

“ロシア国防省は6日、ウクライナ侵攻の拠点となる南部軍管区で、プーチン大統領の指示を受けて「非戦略核兵器」の使用を想定した演習の準備を始めたと発表した。戦術核兵器を意味するとみられる。核使用も辞さないとの姿勢を示してウクライナ支援を続ける欧米を威圧する狙いだ。”【5月6日 毎日】

****ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではない」****
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は9日、同国が戦術核兵器配備の演習を計画していることについて「異例なことではない」との認識を示した。

ロシア政府は6日、フランス、英国、米国からの脅威を受けて、軍事演習の一環で戦術核兵器配備の演習を実施すると表明した。

プーチン氏は「何も異例なことではない。計画されたものだ」とし「これは訓練だ」と述べた。
同氏は隣国ベラルーシに対し、6日発表した核演習の一部に参加するよう提案したとし「定期的に行っている。今回は3段階に分けて行う。2回目にベラルーシの盟友が共同行動に参加する」と述べた。

プーチン氏と同席したベラルーシのルカシェンコ大統領は、こうした演習は3回目だとし「ロシアでは恐らく数十回あっただろう。われわれもそれに合わせる。私がロシア国防相から聞いた話では、一般幕僚がすでに指示の実行を開始している」と述べた。

プーチン氏は昨年、一部の戦術核兵器をベラルーシに移転したと表明した。【5月9日 ロイター】
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また、プーチン大統領は「わが戦略部隊(核戦力部隊)は常に臨戦態勢にある」とも。

****プーチン大統領「核戦力は臨戦態勢」 対独戦勝式典で欧米威圧 軍事パレードの規模縮小続く****
ロシアは第二次世界大戦の対ドイツ戦勝記念日である9日、首都モスクワの「赤の広場」や各地で恒例の軍事パレードを行った。

プーチン大統領はモスクワの式典で「何者にもロシアを脅かすことは許さない。わが戦略部隊(核戦力部隊)は常に臨戦態勢にある」と演説。ウクライナ侵略で対立する欧米諸国を威圧した。一方、パレードの規模は縮小傾向が続き、露軍の損耗を示唆した。

プーチン氏は演説で「欧米のエリート」が世界の対立や紛争を激化させていると主張し、ウクライナ侵略を「ネオナチとの戦い」と改めて正当化した。侵略を対独戦と重ねて国民の愛国心を鼓舞し、支持拡大を図った。「(第二次大戦で)日本の侵略に立ち向かった中国国民の勇気に敬意を表す」とも述べ、近く訪問する中国との連帯を強調した。

赤の広場でのパレードには9千人超の軍人と約70超の兵器が参加。戦闘車両や核搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」、大陸間弾道ミサイル「ヤルス」などが登場した。

ただ、参加した兵器の数は昨年より減少した。昨年は軍人約8千人と100超の兵器が参加。侵略開始直後の2022年は軍人約1万1千人と約130の兵器が、21年は軍人約1万2千人と約190の兵器が参加した。

パレードには、旧ソ連圏からベラルーシのルカシェンコ大統領や中央アジア5カ国の首脳が出席した。一方、ロシアとの確執を深めているアルメニアのパシニャン首相は欠席。アゼルバイジャンのアリエフ大統領も国内行事を優先して欠席し、旧ソ連圏でのロシアの影響力低下を示唆した。【5月9日 産経】
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西側のウクライナ支援強化、アメリカの制裁強化・・・というなかではロシアとしても長期戦を戦うのは決して楽観できる状況ではありません。

ここにきての戦術核兵器の演習計画、核兵器への言及はそうした西側に対し「いよいよの場合は戦術核兵器使用も辞さない」との牽制でしょうか。それが「国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」ということでしょうか。

【核拡散の流れ】
ロシア以外でも、イラン最高指導者ハメネイ師の顧問であるカマル・ハラジ氏は、自国の存立がイスラエルによって脅かされれば核ドクトリンを変更すると述べています。【5月9日 ロイターより】

あるいは、ドイツでは“もしトラ”で核武装論が。“11月の米大統領選を前に、ドイツで独自の核武装論が浮上した。ウクライナ戦争でロシアが勢いづく中、米国で同盟軽視のトランプ政権復活の可能性が浮上し、「米国の『核の傘』に頼れなくなる」という不安が現実味を帯びたためだ。”【5月1日 産経】

韓国では、“北朝鮮の核・ミサイルの脅威を受け、韓国で核武装を求める議論が高まっている。米韓同盟を重視する尹錫悦ユンソンニョル大統領は慎重だが、与党議員らは「米国の『核の傘』に頼らない国防力が必要」などと主張する”“シンクタンク「峨山政策研究院」が昨年5月に発表した世論調査では核武装に賛成する韓国人が70%に上った”【1月4日 東京】

核軍縮は一向に進まず、現実世界では核拡散、ひいては核使用の危険性増大の流れにあります。
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