孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア原油輸出への制裁をかいくぐる「影の船団」とそのリスク

2024-06-15 22:59:08 | ロシア

(昨年マレーシア沖で炎上したガボン船籍のタンカー「パブロ」【6月12日 WSJ】)

【G7、制裁逃れるロシア「影の船団」取り締まり強化】
欧米はロシアの原油輸出に対して上限価格を設定する制裁措置を課していること、その制裁が効果を発揮しているのか賛否両論があることは、これまでも取り上げてきました。

否定的な見方の根拠は、現実にロシアの原油輸出が相当額にのぼっており、顕著な減少が見られないことです。

効果を認める見解は、たとえロシアからの輸出が中国・インドなどへ行われていても、制裁があることで買い叩かれ、ロシアの利益は確実に圧縮しているとの見方です。

制裁措置は、欧米企業が独占的な地位を占める海運保険を通して実効性を持たされていますが(上限を上回る場合は付保を許可しない)、これをかいくぐるのが「影の船団」と称されるもので、老朽船を使用して保険を付保せずロシア原油を中国・インドなどへ運ぶ闇タンカーです。

欧米側もこの闇タンカー対策を強化しています。

****G7、闇タンカー取り締まり強化 制裁逃れる露「影の船団」とは****
主要7カ国首脳会議(G7サミット)が14日発表した首脳宣言には、ウクライナに侵攻するロシアから中国などに原油を運ぶ「影の船団」と呼ばれる闇タンカーの取り締まり強化が盛り込まれた。

首脳宣言は、G7などによる制裁を回避する影の船団について「詐欺的な代替的輸送行為」だと非難した。こうした輸送に関与した者のほか、ロシア産原油に設けた上限価格違反や影の船団の利用によって利益を上げた団体や個人に対し、新たに制裁を科す。

G7などは2022年12月、ロシア最大の収入源の一つである原油輸出を抑制するため、市場で取引する場合の上限価格を1バレル=60ドル(約9400円)とする追加制裁を導入した。上限価格を上回る取引には、海上保険などを引き受けないよう保険会社に義務付ける仕組みだ。
 
だが、制裁は限定的な成果しかあげられていない。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシア産原油、石油製品などの輸出収入は23年の月平均で147億1000万ドル。世界的な原油高の恩恵を受けた22年の181億5000万ドルからは減少したが、高い水準にとどまっている。

主な原因として挙げられるのが、廃船間際の老朽船を使う影の船団と呼ばれる闇タンカーによる輸送だ。
 
闇タンカーは欧米の保険に加入せず、船籍を頻繁に変更するのが特徴で、ロシアとのつながりをたどりにくい。位置情報を隠し、タンカー同士が沖合で接近して原油を移し替えるなどするため事故も起きやすい。
 
22年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後から数が増え、現在は1400隻程度存在するとみられている。NGOなどが動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定されている。【6月15日 毎日】
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【制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているアフリカ・ガボン】
この「影の船団」で大きな役割を果たしているのがアフリカ中部のガボンだそうです。
ガボン・・・・多くの者にとって、ほとんど馴染みのない国にです。

****ロシアの石油輸送、小国ガボンの役割拡大****
アフリカ中部のガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超えると海運業界関係者はみている

西側が制裁措置の対象とするロシアやイランの石油輸送を目的とした老朽タンカーの運行が増えている。こうした動きはタンカー乗組員を危険にさらすほか、環境破壊を招く恐れもある。
 
制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているのが、世界の海運業界では意外な新顔ともいえるガボンだ。ガボンはアフリカ中部の小国で、海運関連よりも熱帯雨林などで知られる。最近ではクーデターの発生でも注目された。
 
船舶ブローカーや船主など海運関係者によると、ガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超える規模に膨らんでいる。ロイズリスト・インテリジェンスでは、このうち70隻以上は所有者がはっきりせず、制裁対象の石油輸送に特化した闇タンカーである「影の船団」の一部だとみている。
 
ガボン以外では、同じアフリカの島国コモロやカメルーンの国旗を掲げるタンカーもある。
 
影の船団は、こうした目立たない「旗国」を選ぶことで、保険加入や船員の待遇改善などを通じて海洋の安全維持に長年寄与してきた枠組みの外で活動している。
 
海運に特化した法律事務所HFWのパートナー、ウィリアム・マクラクラン氏は「誰にとっても大きな問題だ。こうした船の多くは、80年代と90年代の大規模なタンカー事故以来、世界が構築してきた検査・監督体制の枠外にある」と指摘する。「事故が起こるのを待っているようなものだ」
 
マレーシア当局によると、昨年はガボン船籍のタンカー「パブロ」がマレーシア沖で炎上し、乗組員3人が死亡した。公開データベースによると、タンカーは貨物を積んでおらず、船齢26年だった。マレーシア当局者は、現在でもパブロの所有者を突き止めようとしていると語った。【6月12日 WSJ】
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【「影の船団」が沿岸国に及ぼすリスク】
タンカーの所有者がわからないというのも、素人的には不思議ですが、そういうもののようです。

老朽船で所有者もはっきりせず、保険も付保していませんので、事故を起こしやすく、事故が起きると対応が非常に困難です。

****露産原油を運ぶ影の船団 世界に及ぼすリスクは 識者に聞く/上****
ウクライナ侵攻を受け、欧米や日本はロシア産原油の輸出制限を試みたが、「影の船団」と呼ばれる闇タンカーが密輸に関与し、制裁を骨抜きにしようとする。

米シンクタンク大西洋評議会スコークロフト戦略安全保障センター、シニアフェローのエリザベス・ブロー氏は、影の船団がもたらす「別のリスク」も指摘する。2回にわたって報告する。【聞き手・ブリュッセル宮川裕章】

 ――影の船団とはどのようなタンカーを指すのでしょうか。
 ◆所有者が判然とせず、(世界の海上保険の大半を占める)欧米の保険に加入しないのが特徴だ。また所有者を追跡するのは非常に困難で、タンカーは、ある国の船籍で航行したかと思えば、すぐに別の国に船籍を変更する。廃棄処分間近の古い船などが使われることが多い。

 ――世界にどのようなリスクをもたらしますか。
 ◆事故による油漏れなど環境へのリスクだ。影の船団には廃棄処分間近の老朽船が使われるほか、多くの場合、欧米の保険に加入していないため、保険加入時に義務づけられる定期的なメンテナンスなども受けていないケースが多い。

また沖合で別の船と接近して原油を移し替える時に危険が生じるなど、通常のタンカーより事故のリスクが格段に高い。

 ――ロシア政府の原油輸出による収入の動向や、NGOや調査企業、各国海運当局などによる航行ルートの分析から、影の船団は露産原油の輸送に関与しているとみられています。ロシアは、事故のリスクを意図的に武器としているのでしょうか。
 ◆最初から意図的だったとは思わない。ロシア政府やロシア企業は制裁をかいくぐりながら、輸出や貿易を続けることを意図し、影の船団はそのための手段だとみられる。

だが、影の船団がさまざまな国の領海で事故を起こす可能性があることは、ロシアにとって非常に都合がいい。
 
自由な航行を保証する海洋法上、ロシアから来るタンカーの接近を禁止したり止めたりすることは難しい。また、影の船団に保険がかけられていないと、事故後の処理費用は現実的に、沿岸国が負担することになる。つまり、ロシアは自らは害を被ることなく他国に脅威を与えられる。

例えば、露産原油を運ぶ老朽化したタンカーが日本の領海に入り、事故で油漏れを起こせば、日本の納税者が事故の処理費用を負担しなければならなくなる。

 ――タンカーの所有者が判然としないため、責任の所在が分からなくなるからですか。
 ◆影の船団のタンカーの所有企業は多くの場合、登録した住所に郵便受けがあるだけで、所有者にたどりつくことが困難だ。また、所有者はロシアやベネズエラ、イランなどの実態不明の保険に加入することが多く、保険金が支払われない可能性が高い。結局、被害を受けた国の納税者が費用を支払わなければならなくなるのだ。(中略

 ――国際社会はこの問題にどう対処すればよいのでしょうか。
 ◆大きな問題だ。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは影の船団を使って自国経済を回そうとし続ける。

それが他の国々にとってよくないメッセージとなる。ルールに従う必要もなく、欧米の保険に加入する必要もなく、ルールに違反しても何も起こらないというメッセージだ。ロシアが影の船団の利用に成功するのを見て、他の不謹慎な国も同じことをするかもしれない。(後略)【2月14日 毎日】

****影の船団がもたらすリスク 世界はどう対処するのか 識者に聞く/下****
 ――老朽船も多いとみられる影の船団が事故を起こすリスクに対し、沿岸国は何ができるでしょうか。
 ◆沿岸国は非常に難しい立場に置かれている。海洋法上、特定の国の船舶の接近を禁止することはできないからだ。

さらに、ロシアとのつながりが疑われる船であっても、必ずしもロシアの旗を掲げて航行するわけではない。(中部アフリカの)ガボンのような国の旗を使うこともある。たとえガボン船籍が影の船団に使われることが多いと広く知られていても、ロシアの船だと証明するのは難しい。

一方、多くの沿岸国は善良で法を順守する国だ。日本もこれらの船舶に対して攻撃的な行動を取ることはないだろう。

 ――有効な対応策はないのでしょうか。
 ◆世界には海洋ルール違反を監視するNGOがある。この分野は、そうしたNGOが活躍できる場だと考えられる。例えば米国に本部を持つ反捕鯨団体「シー・シェパード」はルール違反の疑いのある船舶を追跡することにたけている。彼らは長期間、違法漁業の監視に力を注いできたが、(影の船団の監視が)新たな重点分野になる可能性がある。

結論として、多くの人々は陸上と比べ、海洋で起きることに無関心だ。影の船団は、法を順守し、自国の海域を安全に保つためにあらゆる努力をする国にとって、大きなリスクを生み出している。影の船団がルールを破って領海に侵入しても、沿岸国は基本的にどうすることもできない。この問題への意識を高めることが、対応への第一歩だ。

 ――そもそも影の船団の数はなぜ急速に拡大したのですか。
 ◆一番の理由は、対露制裁に参加しない国がたくさんあるからだ。そうした国々は露産原油を買い、影の船団を受け入れている。

 ――影の船団とみられるタンカーの数はどれぐらいですか。
 ◆正確な数は不明だが、さまざまな海事研究グループや調査企業が調査している。昨年より、その数は倍増し、現在は1400隻程度とみられている。ロシアだけでなく、同様に(欧米からの)経済制裁の対象となっているベネズエラやイランなどとも行き来する。

 ――影の船団とロシア政府との関係を証明するのは可能ですか。
 ◆所有者を特定するのが難しいため、ほぼ不可能だ。誰もが、その存在を知り、目で見ることもできるのに、公式には存在しない。

影の船団には、ロシア政府が直接関与する必要はなく、ロシアの企業、特に原油を輸出する企業が利用している。なぜならロシア企業は欧米による制裁で上限価格以上で原油を輸出できないからだ。だがもちろん、ロシア企業が輸出収入を増やすことは、税収を通じてロシア政府にとって大きなメリットとなる。

 ――影の船団の行き先は、インドや中国だと言われています。
 ◆行き先の特定は容易ではない。こうしたタンカーはロシアの港を出発後、沖合で別のタンカーに原油を移し替え、原油がどこから来て、どこに向かうのか分かりにくくしている。

この移し替えを見抜かないと、外形的には最初にロシアを出航した船が、どこにも行かずにロシアに戻ったように見える。だが世界各国のNGOや調査企業が、影の船団の動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定している。【2月14日 毎日】
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