孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア経済  ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復

2024-01-10 23:24:45 | ロシア

(2023年12月14日 ニッセイ基礎研究所)

【ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したロシア経済】
昨年12月13日、ロシア連邦統計局は国内総生産(GDP)を公表しました。それによると、ロシアの23年7-9月期の実質GDP伸び率は5.5%となり、ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したとのことです。

****ロシア経済はウクライナ戦争の影響を克服も、中銀は物価安定に苦慮****
~景気底入れは大統領選での再選を目指すプーチン氏に追い風も、物価を巡る問題は依然山積~

15日、ロシア中銀は5会合連続の利上げ実施を決定した。足下の同国経済は底入れの動きを強めており、ウクライナ侵攻前の水準を回復するなど欧米などの制裁の影響を克服している。

他方、戦争の長期化による労働力不足に加え、ルーブル安も重なり足下のインフレは加速しており、中銀は戦争中にも拘らず7月以降に累計850bpもの利上げを迫られている。先行きの政策運営を巡って高金利状態の長期化を想定する一方、利上げ局面の終了に含みを持たせる考えをみせている。

景気底入れの動きは3月の次期大統領選での再選を目指すプーチン氏の追い風となる一方、国民の間に物価高への不満が高まるなかで中銀は難しい対応を迫られる展開が続くと予想される。

他方、足下の原油価格は頭打ちの動きを強めるなど経済の足かせとなる懸念も高まっており、経済、政権にとって「安泰」とはならない状況に留意する必要があろう。(後略)【12月18日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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【ドルベースGDP以上の経済力を持つロシア 中国などとのつながりで経済力維持】
ウクライナ侵攻で欧米からの経済制裁を受けているロシア経済の実態はどうなっているのか? ほとんど制裁は効いていないのか? それとも大きなダメージを受けているのか? 以前からいろんな議論があるところです。

少なくとも、欧米側にあった楽観論は現実のものとはなっていないようです。

****1990年代、世界がルーブル決済できていたら?****
これ(アメリカと西欧は、ソ連と東欧にドル不足という厳しい経済的締め付けを行ったこと)によってソ連・東欧経済は崩壊するのだが、もしソ連・東欧が中国・インド・ブラジル・トルコなどと、当時ルーブル決済できていたらどうなっていたのであろうか。

もしルーブル決済で当時のGDPを測れば、日本との5倍のGDPの1人当たりの格差も実際は2倍弱となり、ソ連・東欧諸国はGDPランキングが劣位の後進的地域ではなかったということになる。

まさにこの問題こそ、アメリカと西欧によるロシアや中国への経済制裁が現在まったく機能していない原因であるし、ロシア経済は弱体で、ロシア軍も弱体で、すぐにウクライナが勝利を収めるであろうという西側の楽観的な臆測が幻に終わった原因であったといえる。

西欧の楽観的観測だが、ウクライナに膨大な西欧の資金援助がそそがれ、ロシアへの経済制裁が強化されれば簡単にロシアは崩壊しウクライナはすぐにでも勝利するであろうと、欧米は当初踏んでいた節がある。

ある意味これは、単に机上の空論(ナラティブ)にすぎないのだが、大方この線に沿って、西側の政府もメディアもロシアの経済力やロシア軍の兵力を試算し、安易な勝利図を描いていた。【12月29日 的場昭弘氏 東洋経済ONLINE】
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しかし、実際はロシアの国力・経済力は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいいと上記的場氏は指摘しています。それを支えているのがインド、トルコ、中国、イランなどとのつながりであるとも。

****ロシアをめぐる世界経済の輪****
これでみると、今でもロシア経済のGDPは2兆ドルしかなく、アメリカの10分の1以下、人口の少ないカナダやイタリアのレベルにしかすぎない。しかし、これはあくまでもドルベースでの計算であり、本当の実力を示すものではない。

実際は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいい。ロケットや航空技術など西側の模倣技術ではない最先端の技術が多くあるのだ。

地政学の専門家だけでなく、ソ連経済や東欧の経済を学び、ウクライナを含む東欧地域に暮らしたものならば、そこにはロシア(旧ソ連)の制度、もっと昔に遡ればオスマントルコの制度が残存し、ソ連崩壊以後の30年という月日だけで簡単に西欧型のシステムに変わりえるものではないことは、理解できるはずである。(中略)

ロシアが西側の圧力に屈しないのは、ロシアの周りに、ロシアの仲間の国々が多くいることである。インド、トルコ、中国、イランなどの大国は、ロシアの仲間である。

一国の経済力は、友好国の存在を抜きに語れない。人口、技術、生産力など、こうした友好国との生産システムが構築されているからである。かつてソ連下ではコメコン諸国内での分業があったが、それと同じようなものが今築かれつつある。

国家と国家との戦争は、1対1に限ったわけではない。周りにいる友好国が何らかの形で参加していれば、その国は強い。まして強い農業と工業に欠かせない原料や燃料をもち、実際にものをつくる工業力をもつ国が周りにあれば無敵ともいえる。【同上】
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ロシアの仲間の国々・・・特に、中国の存在が大きいと言えます。

****ロシア、23年石油輸出は半分が中国向け=副首相****
ロシアの2023年の石油輸出は半分が中国向けとなる見通しだ。また、インド向けは2年間で40%に拡大したという。ロシアの国営通信がノバク副首相の発言として27日に伝えた。

ノバク氏は「現在の状況では主要なパートナーは中国で、そのシェアは約45─50%に拡大している。もちろんインドもだ」と述べた。

「以前は基本的にインドへの供給はなかったが、2年間でインドへの供給シェアは40%になった」と語った。

欧州の比率は約40─45%から約4─5%に低下しているという。【12月27日 ロイター】
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****ロシア、対中ガス輸出5割増 アジアシフト鮮明****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムのミレル社長は28日、今年の事業を総括し、中国への天然ガス輸出量が225億立方メートルを超え、昨年より5割増えたと発表した。パイプライン「シベリアの力」を通じた輸出が順調に伸び、2025年には380億立方メートルまで拡大すると自信を示した。アジアシフトを鮮明にした。

ロシア極東から中国へのガス供給ルート構築も進めており、27年までに輸出が始まるとの見通しを示した。モンゴル経由で中国に輸出する「シベリアの力2」と呼ばれる計画にも取り組んでいるとした。【12月29日 ロイター】
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【一方で、深刻な技術喪失・資本と人材の流出も】
一方で、ロシア経済のダメージを強調する見方もあります。

****知的人材と資本の流出が止まらない...すでに「経済戦争」では敗戦状態のロシア*****
ジェフリー・ソネンフェルド(エール大学経営大学院教授)、スティーブン・ティエン(同大学チーフエグゼクティブ・リーダーシップ研究所研究責任者)

<ウクライナの苦戦ばかりが伝えられるが、外国企業が撤退し、人材も流出、ルーブルは無価値同然のロシア。懐事情が厳しい点を見落としてはならない>

戦況は膠着状態で、政治の機能不全のせいで欧米の支援は揺らぎ、資源や注目は中東で新たに勃発した戦争のほうに転換──。今やウクライナは、2022年2月のロシア軍の侵攻以来、おそらく最も厳しい状況に直面している。

だからといって、得しているのはウクライナの敵、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だという欧米メディアの皮肉な見方は飛躍しすぎだ。

昨年12月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニストが「今年の勝者」の1人にプーチンを選出。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、多国籍企業1000社以上がロシアから撤退したことが逆効果になり、プーチンと取り巻きの富が膨らんでいると示唆した。

だが、プーチンは万事順調、と思い込む罠に陥ってはならない。プーチンに圧力をかける効果的な手段を捨て去ることも許されない。

実際には、あらゆる証拠が示すように、企業の「ロシア脱出」は数々の損失をもたらしている。ロシア経済が巨大なツケを払っていることは、経済データを見れば明らかだ。

譲渡された資産が無価値同然なら、ロシアもプーチン一味も得はしない。ロシアで事業展開するアジア企業や欧米企業の一部資産は没収され、大半の企業はロシアを離れるため進んで巨額の損失を計上した。だが、こうした企業の行為は好感され、時価総額が急増する結果になっている。

石油大手の米エクソンモービルや英BPの撤退で、ロシア側は資源探査に不可欠な技術を失っている。

WSJは昨年3月、現地のジャーナリストの記事として、大規模な供給崩壊でロシアの各部門の工場が休業に追い込まれていると報道。勇敢にも真実を伝えた記者の1人は当局に逮捕され、現在も拘束されている。

本当のところ、ロシアはどうなっているのか。筆者らが信頼性を確認した経済データから検証してみると──。
◇ ◇ ◇
■人材流出
ウクライナ侵攻直後の数カ月間、推計50万人がロシアを離れた。その多くが、ロシアにとって必要不可欠な高学歴の熟練労働者だ。

侵攻から2年近くたつ今、離脱者は少なくとも100万人に膨れ上がっている。試算によれば、この異例の人材大量流出によって、ロシアは技術系労働力の1割を失った。

■資本流出
ロシア中央銀行の報告書にあるように、22年2月~23年6月までにロシアから引き揚げられた民間資本は計2530億ドル。それ以前の資本流出額の4倍以上だ。試算によれば、ロシア在住の富豪の数は33%減少した。

■欧米の技術・ノウハウの喪失
この現象はテクノロジーや資源探査など、幅広い基幹産業で起きている。石油大手ロスネフチだけを見ても、同社の公開資料によれば、昨年末までの1年間の設備投資は100億ドル近く増大。

原油1バレルを輸出するごとに、およそ10ドルの追加経費がかかる計算だ。さらに、同社の北極圏の油田開発計画も、欧米の技術や専門知識に頼り切っていたため継続が危ぶまれている。

■外国直接投資(FDI)の停止
複数の措置によって、ロシアへのFDIはほぼ完全に止まっている。ウクライナ戦争以前、年間FDI額は約1000億ドルに達していたが、侵攻開始から昨年12月までの各月のうち、流入超過を記録したのはひと月だけだった。

■ルーブルの通貨交換性の喪失
多国籍企業の大量撤退ではばかるものがなくなったプーチンは、通貨ルーブルに厳しい資本規制を導入した。ロシア市民による外国銀行口座への送金を禁止し、ドル預金口座からの資金引き出しを最大1万ドルに制限。

輸出企業に獲得外貨の8割をルーブルに両替することを義務付け、ルーブル口座を持つ個人へのドル直接交換、およびドル建て融資やロシアの銀行によるドル販売を停止した。

ルーブル取引高が90%減少したのも、これでは当然だ。ルーブル資産はグローバル市場で無価値に等しくなり、交換不能になっている。

■資本市場へのアクセスの喪失
企業にとって欧米の資本市場は今も、最も深度があって流動性が高く、安価な資金源だ。ウクライナ侵攻以来、欧米金融市場で株式・社債を新規発行できたロシア企業はゼロ。

つまり、もはやロシア企業は、高利で融資する国有銀行(指標金利は16%)など、国内の資金提供源を当てにするしかない。多国籍企業撤退で、ロシアのベンチャー企業は資金調達の選択肢を奪われ、国際的投資家に出資を求めることも不可能になった。

■富の大破壊と資産評価の急落
グローバル多国籍企業の大量撤退が一因で、ロシアでは、あらゆる分野で資産評価が急激に落ち込んでいる。筆者らの調べによれば、国有企業の企業価値はウクライナ戦争以前と比べて75%低下。NYTが指摘したように、多くの民間部門の資産価値は50%目減りしている。

これらの7つの現象は、グローバル企業が大量撤退したせいで、プーチンが強いられているコストの一部にすぎない。さらに、ロシア産原油に価格上限を設定する米財務省の措置など、効果的な経済制裁がロシア経済に与えている打撃も考慮すべきだ。

ロシアによる輸出の3分の2以上を占めるエネルギー資源は、輸出規模が半減している。工業分野でも消費者分野でも、グローバル経済において製品提供国でなかったロシアは麻痺状態にある。

簡単に替えが利く原材料を生産するばかりで、経済超大国には程遠い。今や国家に管理される企業の「共倒れ」体制によって、辛うじて戦争マシンを動かしている。

豊富な経済データを検証すれば、状況は明らかだ。外国企業の前代未聞の「ロシア大脱出」で、プーチンの戦争マシンには支障が出ている。ウクライナが瀬戸際に立たされるなか、極度に楽観視するのは過ちだが。【1月10日 Newsweek】
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・・・・ということで、ロシア経済の状況については、いろんな見方があります。
私個人の印象としては、現時点の戦争遂行という点では西側が期待したような効果はあがっていない。しかし、長期的にみれば、ウクライナがどういう形で結着しようが、西側の資本・技術から切り離され、中国依存を余儀なくされるという形で、ロシア経済は相当に大きなダメージを被ることになっている・・・・といったところでしょうか。
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