孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  支持が拡大した極右AfD 相次ぐスキャンダルで党勢に陰りも EU離脱主張

2024-05-25 23:33:06 | 欧州情勢

(スキャンダルが相次いでいるAfD筆頭候補者マクシミリアン・クラー氏
そのスキャンダルの真相や発言内容はともかく、民族衣装の綺麗なお姉ちゃんに旗持たせて颯爽と・・・という感覚は、いかにも・・・という感も。 ドイツのリベラルな政権与党に批判的な保守の立場の川口マーン恵美氏も「世間にはたまに、自分が男であるだけで威張っている人間がいるが、氏の言動にはしばしばその傾向がある。」とも)

【6月欧州議会選挙で拡大が予想されている極右政党】
6月に、欧州連合理事会とともにEUの立法府にあたる欧州議会の選挙が行われます。

****欧州議会****
直接選挙で選出される欧州連合の組織。欧州連合の機関において欧州連合理事会とともに両院制の立法府を形成している。

現在では、多くの分野で、共同決定手続が適用され、理事会と欧州議会の双方が同意することが必要になっており、決定権は理事会にあるという分野は限定的になっている。(中略)

欧州議会は立法権を持つものの、ほとんどの国内議会とは違って法案提出権を持たない。またごく一部の例外を除いて、立法や予算の決定と監督に関する権限を理事会との間で共有している。

そして欧州連合の政策執行機関である欧州委員会は欧州議会に対して説明義務があり、とくに欧州議会は欧州委員会人事案や欧州委員会委員長の選任について拒否権を持ち、また欧州委員会を総辞職させることができる。
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今回の欧州議会選挙では極右勢力の躍進がかねてから予想されています。

****なぜ欧州議会選挙で極右の躍進が予想されているのか****
国際協調による負担が有権者の不満を蓄積

6月の欧州議会選挙を前に、EU加盟国の多くでは、現政権が支持を落とす一方、極右勢力が台頭。この背景には、生活苦を中心とした不満の高まり。消費者が体感する豊かさはコロナ前を下回る水準。こうした生活苦は、現政権による以下3点の国際協調的な政策に起因する面もあることから、市民は自国民優先の主張への支持を強めている状況。

第1に、移民の急増。現政権が寛容に対応してきたコロナ明けの移民労働者の増加は賃上げ圧力の緩和に作用した一方、不法移民の増加も招いており、社会的な軋轢が増大。極右勢力は移民への社会福祉の提供を批判するなど、生活苦の責任を移民に求める風潮を形成。

第2に、気候変動対策。ドイツでは暖房設備に再生可能エネルギー利用が義務付けられるなど、経済的負担の重さが気候対策疲れを引き起こしている可能性。

欧州投資銀行(EIB)の調査によると、前回選挙時の2019年にEU市民は「気候変動」を最大の困難として挙げていたものの、2023年には「生活費上昇」を重視する回答者が急増。

第3に、ウクライナ支援。ロシア制裁やウクライナ支援にもかかわらず、情勢変化は乏しく、対外的な支援がむしろ加盟国の経済情勢や財政を厳しくしているとの見方も。

とりわけ、2022年6月以降、EUはウクライナからの輸入品への関税を停止したことで、安価な同国産農作物の輸入が急増。EU内の農家は自国優先の対応を求め、抗議活動を実施するなど不満が拡大。【5月22日 藤本一輝 日本総研】
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【ドイツ 極右AfD躍進 進む社会の分断】
EUの中核ドイツにあっては極右AfD(「ドイツのための選択肢」)が支持を拡大してきました。
ドイツでは社会の分断が進んでおり、AfD躍進は分断の原因でもあり、また、分断を受けての結果でもあるでしょう。

****ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に社会の分断****
ドイツでは今年に入って、政治家を標的にした暴行事件が急増している。専門家はポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や、ソーシャルメディアの普及による社会の分断が背景にあると指摘する。

欧州議会選挙と地方議会選挙に向けて選挙戦が進む中、わずか1週間で政治家を狙った暴行事件が3件も発生した。
ドイツ東部ドレスデンでは3日、与党・社会民主党(SPD)所属のマティアス・エッケ欧州議会議員がポスターを貼っていたところ、黒ずくめの集団に殴られて重症を負い、手術を受けた。ノルトホルンでは男が議員に卵を投げつけて顔を殴り、ベルリンでは上院議員がカバンで殴られた。

投票を控えて緊張が高まるのはいつものことだが、政党関係者やアナリストの間からは、何か変化が起きているとの声が出ている。連邦刑事庁の発表によると、身体的傷害を伴う襲撃事件が急増しており、2023年通年の27件に対して今年は既に22件に上る。

ソーシャルメディアによるあおりを受けた対立のエスカレート、ポピュリストによる分断や「口撃」で、選挙戦は殺伐としたムードになっている。

デュッセルドルフ大学の政治学者シュテファン・マルシャル氏は「感情的な二極化が起きており、反対勢力は『敵』に位置付けられている」と述べた。(中略)

政党別で最も被害件数が多い連立与党、緑の党は、党員による昨年の被害報告が1219件と19年から7倍に急増。次に多いのは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の478件、3番目がSPDの420件。

SPDや緑の党など与党政党の関係者は、雰囲気が険悪になって対立が激化したのはAfDによる過激な論調のせいだと非難する。

緑の党の欧州議会議員であるニクラス・ニーナス氏は「公の場で『彼らを追い詰めよう』と放言する政治家がいると、言葉が行動を形成してしまう」と述べた。AfDの前党首アレクサンダー・ガウラント氏は17年の演説で、当時のメルケル首相を追い詰めると発言した。 ニーナス氏は小児性愛者、犯罪者といった言葉を投げつけられているという。

一方、AfDはこうした批判を全面的に否定。共同党首のアリス・ワイデル氏は先週、襲撃事件を政治的利益のために利用しようとする試みは「卑劣かつ無責任」であり、AfDの政治家やメンバーも頻繁に襲撃を受けていると反論した。(後略)【5月13日 ロイター】
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****「外国人は出て行け」人種差別的な歌に非難 ドイツ****
ドイツ北部のリゾート、ジルト島でパーティーの参加者が人種差別的な歌を歌う動画がソーシャルメディアで拡散し、国内で激しい批判を浴びている。オラフ・ショルツ首相も24日、「不快だ」と非難した。

動画では、若者グループがバーのテラス席で、人気のダンス曲に合わせて「ドイツはドイツ人のためのもの。外国人は出て行け」と歌っている。 若者の一人が、禁止されているナチス・ドイツ式の敬礼のようなポーズを取っているのも確認できる。

ショルツ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「こうしたスローガンは不快であり、容認できない」と非難した。
ナンシー・フェーザー内相も独メディアグループ「フンケ」のインタビューで、「ドイツの恥」だと非難し、人種差別の「常態化が忍び寄っている」と警鐘を鳴らした。

警察は、カンペンの町のバーで週末に起きたとみられるこの件について捜査していると明らかにした。 【5月25日 AFP】
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【極右勢力へ抵抗・反発も強まる 相次ぐスキャンダルでAfDの党勢に陰り】
ただ、さすがに極右勢力への抵抗感も強く、AfDの勢いは直近では衰えも見せています。

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AfDの支持率は、2023年中頃に連立与党である社会民主党(SPD)と同盟90/緑の党(B90/Gr)を抜き、最大野党である中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟(Union)に次ぐ2位にまで躍進した。

AfDは、オラフ・ショルツ政権による積極的な気候変動対策や、寛容な移民・難民政策に対して不満を高める有権者の「受け皿」として支持を集めてきた。しかし2024年の年明けに、AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑が浮上したことを受けて支持率が急落し、SPDに支持率2位の座を譲ることになった。

とはいえ、AfDは旧東ドイツを中心に支持を集めており、地方議会でも一定の勢力を築いている。2025年10月までに予定されている次回のドイツの総選挙では、それが主に比例代表制(正しくは比例代表制を主に小選挙区制の要素を加味した小選挙区比例代表併用制)で行われるため、AfDは議席を増やし、国政への影響力を強めよう。【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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“AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑”は激しい社会的反発を生みました。

****ドイツの「移民追放計画」に全国デモ 欧州で極右への警戒強まる****
ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部らが移民の大規模な排斥を謀議したとの疑惑が波紋を呼んでいる。AfDに対する抗議集会が全土で実施され、数十万人が参加。与党からAfDの党活動禁止を求める声も上がった。

フランスでも極右政党の意向を反映した移民法に反対するデモが発生。6月の欧州議会選を前に右派の台頭への警戒が強まっている。

「人種差別にNOを」
ドイツ全土で20、21両日に実施された抗議集会にはAfDや極右を批判するプラカードを掲げた市民が集まった。20日には各地で計30万人以上が結集。21日にベルリンで開かれた集会には最大で10万人が参加した。26、27日にもフランクフルトやデュッセルドルフでそれぞれ数千人がデモを行い「国内で過去最大規模の抗議活動」(欧州メディア)と報じられた。

きっかけは独調査報道団体による10日の報道だ。報道によると、昨年11月に東部ポツダムでAfDのワイデル共同党首の側近ら約20人が出席する会合が開かれた。参加した右翼活動家が移民や難民のほか、市民権があっても出身地や肌の色が異なる「同化していない国民」を追放する計画を発表した。最大200万人の追放者を北アフリカに住まわせる案も話し合われた。

AfDは「会合は党が主催したものではない」と釈明したが、報道された計画はユダヤ人をマダガスカル島に移送するナチス・ドイツの計画を連想させるとして批判が噴出。

ショルツ首相は27日、ユダヤ人ら110万人以上が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所がソ連軍による解放から79年を迎えたことを受け「右派のポピュリストが(今も)台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と非難した。

人種差別的な計画は独憲法に反しており、ショルツ氏率いる中道左派「社会民主党」の議員がAfDの活動禁止を求めた。

与党などが警戒を強める背景には、AfDの急速な躍進がある。移民排斥を掲げるAfDは2013年に結成後、経済低迷や急増する移民への不満の受け皿として支持を広げた。

謀議の報道後も、AfDは世論調査の支持率で連立与党3党を抜き、2位を維持する。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

ワイデル氏は、AfDが政権に就いた場合、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施を目指すと明言。シリア難民流入など欧州を襲った危機の克服でかじ取り役になったドイツが、EUを不安定化させる恐れが生じている。

フランスでも昨年12月、極右「国民連合」の賛成を得て新移民法が成立。外国人労働者の社会保障の条件を厳格化するなど移民への厳しい内容が盛り込まれた。2万人以上の市民が今月21日、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)同法の廃止を求めるデモをパリなどで行った。【1月29日 産経】
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その後もAfDへの警戒感は根強く、EUのフォンデアライエン欧州委員長は「祖国を独裁者に売り渡している」と批判しています。

****「ドイツを独裁者に売り渡している」 欧州委員長、極右政党AfDを非難****
欧州連合のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は8日、6月の欧州議会選を前にスキャンダルが相次いでいるドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」を「祖国を独裁者に売り渡している」と非難した。続投を目指すフォンデアライエン氏は、元ドイツ国防相。

AfDをめぐっては先月、欧州議会選の同党筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された。クラー議員自身も過去に、ロシアのプロパガンダ疑惑に巻き込まれたことがある。

フォンデアライエン氏は、自身が所属するドイツの保守政党「キリスト教民主同盟」の党大会でAfDについて、「振る舞いは極めて不誠実だ」「欧州議会選を前に、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンのためにプロパガンダを広め、中国のためにスパイ活動をしている」と非難。

「AfDはまず国民と祖国について騒ぎ立て、今度は祖国を独裁者に売り渡している。自らを恥じるべきだ」

さらに、AfDの欧州議会選での公約は雇用を破壊すると指摘し、AfDはドイツのEU離脱を軽率に論じているとも批判した。

6月の欧州議会選では、AfDを含む欧州各国の極右政党が議席を伸ばすとみられている。
反移民を掲げるAfDは昨年、支持率を大きく伸ばし、オラフ・ショルツ首相が所属する中道左派与党、社会民主党を抜き、CDUに次ぐ2位に浮上した。だが、相次ぐスキャンダルを受け、支持率は低下している。 【5月9日AFP】
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“相次ぐスキャンダル”・・・これをAfDの本性があらわれたもの、あるいは、“身から出たさび”と見るか、逆に、AfD以外の政治勢力が寄ってたかってAfDを潰しにかかっていると見るかは立場にもよります。

“欧州議会選のAfD筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された”事件についても、逮捕された側近は、かねて中国側スパイであると同時に、二重スパイとして中国側情報をドイツ当局に渡すことも企てており、当局側はその存在を以前から十分に把握し、監視していた人物とか。

そうした人物がなぜAfD筆頭候補になり得て、なぜ選挙直前の今逮捕されたのか・・・・AfD以外の政治勢力が“AfD潰し”に出ている結果だ・・・とする指摘もあるようです。
(5月3日 川口マーン恵美氏 “ドイツ政府が「AfD潰し」に王手か…!? 欧州議会選挙直前にAfDの筆頭候補者事務所で「中国スパイ」が逮捕され” 現代ビジネス)

AfDは潜在的な過激派政党と扱われていますが、司法もこれを是認しています。

****極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下位審支持****
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を潜在的な過激派政党と国内情報機関が認定していることの是非を問う裁判で、ミュンスターの高等裁判所は13日、認定は相応であり、憲法、欧州や国内の民法に違反していないという下級審の2022年の判決を支持する決定を下した。

情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)は、AfDを21年から潜在的な過激派政党に分類している。

高裁は「AfDが特定の集団の人間の尊厳や民主主義に反する目標を追求しているという十分な証拠がある」と指摘した。

フェーザー内相は「判決は、民主主義が自らを守ることが可能なことを示した」と述べた。AfDは、詳細を明らかにせず、BfVに対する批判の一部を裁判所が認めたと述べ、上訴する方針を示した。

AfDは、今年選挙を実施する東部のいくつかの州で高い支持率を得ているが、党員の人種差別的発言などで最近、厳しい目が向けられている。【5月13日 ロイター】
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【右翼欧州議会会派からも追放】
AfDにとって痛手は、他の欧州各国の極右政党グループからも、そのナチス擁護体質を批判され、会派から追放されたこと。

*****欧州議会会派がドイツ右派を追放 ナチス親衛隊擁護発言、収賄容疑****
フランスの極右政党、国民連合(RN)などで構成する欧州連合(EU)欧州議会の会派「アイデンティティーと民主主義」は23日、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の議員団の追放を決めたと発表した。ナチス親衛隊(SS)出身者を擁護するような発言をするなど、AfD議員の相次ぐスキャンダルが理由。

会派は6月の欧州議会選で躍進が予想されていたが、亀裂が浮き彫りになった。

スキャンダルが相次いでいるのはAfDのクラー欧州議員。SSに所属していた人が犯罪者とは限らないとメディアに語り、RNが強く反発。AfDを排除する姿勢を鮮明にしていた。

ドイツの検察は、ロシアと中国から資金を受け取ったとする収賄容疑でクラー氏の予備捜査を開始。同氏のスタッフも中国のためにスパイ活動をした疑いで拘束されている。【5月24日 共同】
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【党勢陰りをカバーすべく強めているのがEU離脱の主張】
相次ぐスキャンダルで党勢の勢いに陰りもでてきたAfDが最近主張を強めているのがEUからの離脱。

****GDPで日本を抜いたドイツで浮上し始めたEU離脱の現実味****
経済合理性を凌駕する政治の理屈、英国に続く離脱は二度起きるか

ドイツの極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)の共同党首の発言が物議を醸している。同党が2025年の総選挙で政権を奪取した場合、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を実施するという発言だ。

ドイツがEUを離脱すれば、EU単一市場を離脱することになるため、EU加盟国との間の貿易取引に関して免除されていた通関業務が発生する。ユーロ放棄による独自通貨の導入もドイツ経済を強く圧迫するだろう。

EU離脱は、EUに不満を抱える有権者に向けた強いメッセージ。AfDのような民族主義政党によって、EU離脱は定期的に蒸し返される主張となるだろう。(中略)

ワイデル共同党首がEU離脱の是非を問う国民投票の実施を謳った背景には、AfDの支持率の低下があると考えられる。(中略)

政治の理屈は、時として経済的な合理性を凌駕する。そのことを体現したのが、英国のEU離脱だった。(後略)【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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