孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  中国との関係悪化が続く ニュージーランドも対立の板挟みに

2021-06-25 22:55:21 | オセアニア

****豪NZ首脳、1年3カ月ぶり直接会談 中国人権問題で足並み****

オーストラリアのモリソン首相(写真中央左男性)とニュージーランド(NZ)のアーダーン首相(中央右女性)は31日、対面で首脳会談を行った。香港と新疆ウイグル自治区の状況に懸念を表明し、中国の人権問題で足並みをそろえた。(中略)

 

ニュージーランドのマフタ外相は先月、安全保障上の機密情報を共有する5カ国「ファイブアイズ」の役割拡大について「違和感」を表明した。ファイブアイズの中国に対する批判的な姿勢をニュージーランドは共有していないとの見方が出ている。【5月31日 ロイター】

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【豪中対立エスカレート WTO提訴合戦も】

オーストラリアと中国の関係が極めて悪化していることは、これまでも取り上げてきました。

(2020年11月30日ブログ“オーストラリア 対中国 「どん底」を抜けて更に悪化 フェイク画像問題に怒るモリソン首相”など)

 

対立が激しさを増した直接のきっかけは、2020年4月に、コロナウイルスの爆発的感染が中国から世界へ広がった経緯について「独立した調査が必要だ」とモリソン豪首相が述べたことへの中国の反発でしたが、そんな“きっかけ”から離れて、両国の対立と言うか、中国のオーストラリア叩きは執拗に続いています。

 

その背景には、中国とアメリカの厳しい対立、オーストリアが「クアッド構想」と称されるアメリカ主導の中国包囲網の一翼を担っていることがあります。

 

ただ、同じクアッドメンバーである日本に対しては、どちらかと言えば、関係改善を進めることでアメリカとの関係にくさびを打ち込むような戦略なのに対し、オーストラリアに対しては徹底的に叩くという差異があります。

 

やはり日中間には政治的・経済的にも多岐にわたる深い関係がありますので、そうそう簡単にはバッシングする訳にもいかないが、オーストラリアならそこまでの関係はなく、安心して叩けるといったこともあるのでしょうか。

(もちろん、強気なモリソン首相の発言が中国の神経を逆撫でしていることもあるのでしょうが)

 

なお、オーストラリアがクアッドに参加して(最大の貿易相手国でもある)中国を警戒しているのは、単に同盟国アメリカに追随して・・・という話でもなく、南シナ海での自由な航行はオーストラリアにとって死活的に重要という、オーストラリアの歴史的・地政学的事情もあってのことのようです。

 

****インドのコロナ感染拡大があぶり出した、「クアッド構想」に漂う暗雲****

(中略)

■オーストラリア

現在、中国と深刻な対立の中にあるオーストラリアは、中国による南シナ海の軍事的勢力拡大に極めて神経をとがらせている。中国が建設した3カ所の南沙諸島人工島(ファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁)の航空拠点から発進するミサイル爆撃機は、オーストラリア北西部を攻撃することが可能である。

 

それだけではない。南シナ海から太平洋やインド洋に中国潜水艦や海上戦闘艦が進出することにより、オーストラリアは海上封鎖されてしまう可能性すら生じてしまう。

 

かつて第2次世界大戦中には、強力な日本海軍によってイギリスとのインド洋補給航路帯とアメリカとの太平洋補給航路帯を寸断されそうになったオーストラリアは、恐怖のどん底に陥った記憶がある。

 

そのため、クアッドによって、アメリカとの軍事同盟を更に強化して太平洋方面における海上航路帯の安全を確保するのに加えて、インド洋や西太平洋における中国海軍の動きを牽制できるのではないかという期待が強い。(後略)【5月20日 GLOBE+】

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中国はオーストラリア産の大麦や綿、ワイン、ロブスターなどの輸入を制限していますが、最近の話題としては以下のようにも。

 

****豪州産ブドウの対中輸出に遅延、原因把握へ中国と協議=貿易相****

オーストラリアのテハン貿易相は、中国本土向けに輸出された食用ブドウの約20%が国境で足止めになっているとし、原因を調べていると明らかにした。(後略)【5月20日 ロイター】

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****大豊作の豪州産の綿花が行き場失う…豪中対立エスカレートで中国から「ボイコット」され―豪メディア****

2021年5月28日、中国紙・環球時報は、対中関係の悪化によってオーストラリア産綿花が中国に輸出できない状況となり、現地農家から憂慮の声が出ていると報じた。

記事は豪放送協会(ABC)の27日付の報道を引用。3月の降水量が多かったことでオーストラリア産綿花は史上最高レベルの大豊作になるとみられる中、綿花栽培農家は最大の輸出先である中国市場が失われることを憂慮していると説明した。

そして、多いときには年間8億豪ドル、同国の綿花総生産量の70%を輸出し、同国にとって最大の綿花輸出相手国である中国との関係が悪化したことにより、今年収穫した綿花が中国にほぼ輸出できない状況になっていると指摘。業界関係者の話として「すでに中国の紡績工場が、オーストラリア産綿花のボイコットを迫られている」と紹介した。(後略)【5月31日 レコードチャイナ】

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オーストラリアもWTO提訴で応戦しています。大麦に続いてワイン。

 

****ワインの輸出が激減、オーストラリアが中国をWTO提訴へ=「中豪関係がさらに悪化」―独メディア****

中国がオーストラリア産ワインに不当廉売関税(アンチダンピング関税)を課していることについて、オーストラリア政府は19日、世界貿易機関(WTO)に提訴することを明らかにした。独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版は「すでに緊張していた中豪関係がさらに悪化することになる」と報じている。

オーストラリア政府は同日の声明で、この決定は「オーストラリアの醸造業の利益を守るため」と強調した。6カ月前には、オーストラリアは中国の大麦製品に対する「懲罰的関税」をめぐりWTOに抗議していた。ただ、同声明では「紛争解決のために中国側と直接協議することについて、常にオープンな姿勢を持っている」とも言及した。

仏AFP通信は、「オーストラリアと最大の貿易相手国である中国との間の紛争が再びエスカレートしたもの」と指摘。オーストラリアのモリソン首相は「経済的脅迫をしようとする国には対応する」と繰り返し警告してきたと伝えた。

中国は昨年11月、ダンピングを理由にオーストラリア産ワインに最高で218%の関税を課すことを決定。最大の海外市場である中国のこの措置により、オーストラリアのワイン産業は大きな打撃を受けた。当局のデータによると、昨年12月から今年3月までのオーストラリアの対中ワイン輸出量は前年同期比で96%減少したという。

オーストラリアのテハン貿易相は、WTOの訴訟手続きは困難を伴い、2〜4年かかることが予想されるとし、「あらゆる可能なメカニズムを利用して、中国政府と貿易紛争およびその他の意見の相違を解決するよう努める」と表明した。【6月21日 レコードチャイナ】

 

一方、中国も。数年前のオーストラリアの対応を突然WTO提訴。“報復”と思われます。


****中国、オーストラリアをWTO提訴 鉄道車輪など3品目の関税巡り****

中国商務省は24日、鉄道車輪など3品目に対するオーストラリアの反ダンピング(不当廉売)・反補助金措置を巡り、世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表した。

 

豪政府は今週、中国が豪産ワインに関税を課すと決定したことを巡り、WTOに提訴すると表明。中国側の今回の措置は報復と見られる。豪州はまた、中国が豪産大麦輸入に関税を課す決定を下したことを巡ってもWTOに提訴している。

 

中国商務省の高峰報道官は提訴について、豪州が鉄道車輪、ウィンドタワー、ステンレス鋼シンクの輸入に対して課している関税は不当だと説明した。(中略)

 

テハン豪貿易相は、2国間のチャンネルなどを通じた何らかの通知もなかったとして、中国による提訴は驚きだと指摘。3品目への関税は2014年、15年、19年に課したものだとした上で、記者団に対し「なぜ今頃になってこうした行動を取ったのか」と疑問を示した。【6月25日 Newsweek】

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【オーストラリア世論 対中国感情悪化】

当然ながら、こうした険悪な両国関係は国民感情に影響しますし、その結果、世論が更に厳しい対決姿勢を政治に求める、それに対して報復が・・・というスパイラルにもなります。

 

****豪意識調査、6割が「中国は安全保障上の脅威」 45%が「北京冬季五輪不参加」求める****

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所は24日までに、豪州国民を対象に行った中国などについての意識調査の結果を発表した。

 

中国を「安全保障上の脅威」と見る人は63%で、前年調査から22ポイント増。豪中対立が深まる中、国内での警戒感の高まりが浮き彫りとなった。

 

豪州は昨年4月、新型コロナウイルスの発生源をめぐって第三者調査を要求したことを発端に中国との関係が悪化。中国は豪州産大麦やワインに高関税を課す報復措置を取っている。

 

調査では中国を「安全保障上の脅威」とした割合が増加する一方、「中国は経済的なパートナー」と回答した人は34%にとどまった。18年調査では82%、前年調査では55%が「経済的なパートナー」と答えており、対中感情が急速に冷え込んでいることがうかがえる。同研究所は「中国への信頼は過去最低水準に落ち込んでいる」と分析している。

 

習近平国家主席について「国際情勢で正しい行動を取ると信じているか」と聞いた質問では、約8割が「まったく信じていない」「やや信じていない」と回答。

 

来年2月の北京冬季五輪については「参加すべきだ」が51%、「(新居ウイグル自治区などでの)中国の人権問題を考えると、参加するべきでない」が45%と意見が分かれた。

 

調査は同研究所が毎年行っており、今年は3月に成人約2200人を対象に実施した。【6月24日 産経】

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ただ、注意する必要があるのは、関係が悪化すると、メディアは(読者が期待するような)相手の悪い面しか見ようとしなくなりがちだということ。そうした報道の結果、世論はさらに硬直的なものになっていくというスパイラルが。

 

****在中オーストラリア人「私は中国の真実を話したいが、誰も相手にしない」―中国メディア****

2021年6月22日、中国メディアの海外網によると、中国在住のオーストラリア人フリーライターが「中国の実情を話したいのに、欧米メディアは聞いてくれない」とする文章を発表した。

記事によると、広東省在住のオーストラリア人、ジェリー・グレイ氏が20日にウェブ上で文章を発表し、「自分は多くの外国人専門家や記者よりも中国に関する多くの知識とリアルな経験を持っているにもかかわらず、真実を話そうとすると決まって西側メディアに無視される」と訴えた。

グレイ氏は文章の中で昨年1月30日、英紙ガーディアンにメールを送り、中国での新型コロナ対策の体験談を紹介したところ、先方から「文章を使わせてもらう時は連絡する」と返事があったものの、「それから1年半が過ぎ、何度も連絡してみたが先方から情報は得られていない」と明かしたという。

また、昨年7月には米ニューヨークのニュースメディアから「最近の新疆ウイグル自治区訪問について話がしたい」との連絡があったため受け入れ、現地の写真などを提供しながら記者と話をしたものの「記者は、中国に批判的な内容以外は明らかに何の興味も持っていなかった」とし、先日も広東省広州市のワクチン接種やPCR検査の状況を称賛する文章を発表したところ、豪ABCラジオから出演の依頼があり、興味を示すと同時に「私の考えとABCラジオの考えは一致しない。そちらの視点にはミスリード性があるばかりか、完全な捏造とさえ言えるものもある」と主張したところ、同局がさらなる意思疎通を拒否したと述べたという。

記事によると、グレイ氏は「私は中国問題の専門家ではないが、欧米メディアの大多数の記者や、多くの専門家よりも中国についての専門的知識を持っているし、彼らの中には中国に来たことさえない人もいる。一部の欧米メディアは中国での生活に対する公正な報道をしたがらず、偏見を持った上で世界に対して『自分たちが望む中国像』を見せているにすぎない。その内容は、決して事実ではない」と主張している。【6月25日 レコードチャイナ】

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上記記事の中国在住のオーストラリア人フリーライターの話がどれだけ客観的なものかは知りませんが、一般論で言えば、豪中関係に限らず、日本を含めたすべての国の関係について、自戒・留意すべき点ではあるでしょう。

 

一方、中国メディアには「戦争」に言及した剣呑なものも。

 

****オーストラリアには中国と戦争することの恐ろしさを理解している人はほとんどいない―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は8日、「オーストラリアには中国と戦争することの恐ろしさを理解している人はほとんどいない」とする記事を掲載した。

記事は、オーストラリアのニュースサイト、インディペンデント・オーストラリアにこのほど掲載された、「米国との同盟はオーストラリアを中国との戦争へと導いている」と題した論評を要約して次のように伝えている。

第2次世界大戦での中国人の死者数は少なめの見積もりでも1500万人と驚くべきほどの多さで、中国は戦争の本当の代償を理解している国だ。

オーストラリアの死傷者と戦争の経験は、それに比べると取るに足りないものに思われる。中国と戦争した場合の結果について実際に考えているオーストラリア人はほとんどいない。

オーストラリアは敗者側になる可能性が高い。米シンクタンクのランド研究所など複数の団体によるシミュレーションは、中国がアヘン戦争中に課せられた屈辱的な条項と同じくらいのものをオーストラリアは受け入れざるを得なくなるという結果を導き出している。(後略)【6月10日 レコードチャイナ】

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なお、アメリカは“ブリンケン米国務長官は(5月)13日、中国から経済的圧迫を受けているオーストラリアを米国は決して孤立させないと断言した。”【5月14日 ロイター】と、オーストラリアを支える姿勢です。

 

モリソン豪首相は「(豪中の)関係は存続している。貿易だけを見ても、過去最大の数量になっている。これは一つの証しだ。さまざまなことを言ったりやったりしても、この関係には依然として大きな価値がある」【5月19日 ロイター】と、過熱を戒めるような発言も。

 

豪中貿易の最重要品目である鉄鉱石が中国側の制限品目から外されている限りは、多少の問題はあっても・・・といったところでしょう。

 

【米中・豪中の対立の板挟みとなるニュージーランド】

オーストラリアと中国の対立は米中対立という大きな枠組みのなかでの事象でもありますが、豪中の対立は更に隣国ニュージーランドをも巻き込む形にも。

 

****ニュージーランドが中国と敵対する準備、「反中」と「親中」のジレンマ―米華字メディア****

米華字メディア・多維新聞は5月31日、「ニュージーランドが中国と敵対する準備、反中と親中のジレンマ」と題する記事を掲載。ニュージーランドが米豪と中国との間で板挟みになっていると指摘した。

 

記事は、オーストラリアのモリソン首相が30日にニュージーランドを訪問し、翌31日にアーダーン首相と首脳会談を行ったことを説明。モリソン首相の訪問を前にした29日には、ニュージーランドが「ルールに則った貿易システムを守るために努力しており、オーストラリアを支持する」との姿勢を示していたことを伝えた。

 

その上で、「アーダーン首相はニュージーランドが米国と中国のどちらかを選ぶということはないと繰り返し公言してきた。しかし、親密な隣国であるオーストラリアと中国との関係悪化が鮮明になると、ニュージーランドはその影響を考慮せざるを得なくなった」とし、「ニュージーランドが『チャイナマネー』のためにオーストラリアを見捨てたと批判する世論の声は少なくなく、アーダーン政権も一定の圧力に直面している」と評した。

 

また、「(ニュージーランドは)ファイブ・アイズの一員として、米英とは全く異なる姿勢で中国と交流した時に直面する状況のひどさは推して知るべしだ。親密な関係にある隣国同士(豪州とニュージーランド)が、米国との関係では歩調を合わせながら、中国との関係では足並みが乱れるとするなら、それは必然的に波紋を広げることになる」とした。

 

さらに、「中国の視点から見れば、中豪関係の悪化の原因はオーストラリアが米国の“反中”に味方したということになる。米豪の視点から見れば、ニュージーランドが米豪に続かないのであれば親中ということになる」とし、「オーストラリアとニュージーランドの境遇は、米中の中間スペースには限りがあり、反中にせよ、親中にせよ、困難に直面するということを表している」と論じた。

 

ニュージーランドのマフタ外相は5月24日、英紙ガーディアンとのインタビューで「私たちはオーストラリアと中国の間で起こっていることを無視することはできない。彼らが嵐に接近したり、嵐の中に入ったりするのであれば、私たちはその嵐が私たちに近づいてくるのは時間の問題かもしれないと考えなければならない」と発言。「私が輸出業者に送ったシグナルは、新型コロナウイルス流行を背景に、多様性を考える必要があるということ。私たちが属する地域でどのように関係を拡大させていくか。そして、中国との間に重大な事件が発生した場合の衝撃の緩和策。彼らは果たしてこの衝撃に耐えられるかということだ」と述べた。

 

記事は、このマフタ氏の発言から「ニュージーランドは米豪からの圧力を懸念しているだけでなく、もしニュージーランドが米豪からの要請に応じなければならない場合、中国による経済面での措置にどのように対処すべきかを考えている」と指摘し、「ニュージーランドが(米中間で)転々とするスペースは限られている。ベストな策は、米豪からの圧力を跳ね返す力を持ちながら、中国に過度に依存しないことだ」とした。

 

そして、「オーストラリアは中国の当局者に繰り返し連絡し、『事後』に互いの相違点の埋め合わせを図っているが、ニュージーランドは今、『転ばぬ先のつえ』として(中国と関係悪化した時の)衝撃に耐えられるかどうかを考えている。この問題の背後には、ニュージーランドの中国に対する恐れと懸念があり、中国に対する信頼度が極めて低いことを反映している。それと同時に、米豪がニュージーランドをやすやすと見逃すことはなく、今後さらに激しい争いが繰り広げられることを示している」と論じた。【6月2日 レコードチャイナ】

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いわゆる「小国」にとっては、「大国」の争いに中立的な対応を維持するというのは、ときに高度なバランス感覚・政治テクニックを必要とします。

 

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