孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  ドゥテルテ大統領「ワクチンを打たなければ刑務所」 中国には沈黙 次期大統領に娘を?

2021-06-29 22:19:41 | 東南アジア

(河野太郎外務大臣(当時)とサラ・ドゥテルテ・ダバオ市長(フィリピン・ダバオにおいて 2019年2月10日)【5月29日 Japan In-depth】 サラ氏はドゥテルテ大統領の娘で、次期大統領レースの先頭にいますが、父親以上に強気の性格とか)

 

【ドゥテルテ大統領 「ワクチンを打たなければ刑務所に入れる」と警告】

新型コロナワクチンについては、各国とも一定の段階まで接種が進むと、接種を希望しない者が存在することで接種率の伸びが鈍化すし、集団免疫獲得が困難になります。そこで、接種者へのプレゼントの特典を着けるなど、あの手この手の対策に追われています。

 

しかし、そんな悠長な対応はとっていられない・・・という国も。

インドで確認された新型コロナウイルスの変異株(デルタ株)が猛威を振るっているロシアでは、国産ワクチンへの不信感から接種が思うように進まず、2回の接種を終えた人は6月23日時点で人口の約11・4%にとどまっています。

 

そこで“ワクチン拒めば無給? コロナ猛威のロシア、接種強制も”【6月27日 朝日】といった対応も。

“大統領府のペスコフ報道官は24日、「ワクチン接種は任意だ」とする一方で、「義務に反してワクチンを接種しない人は仕事を辞めなければならない。転職は自由だ」と述べ、モスクワ市の方針を支持。国民に接種を強く求めた。”

 

しかし、もっと厳しい対応を示唆するのがフィリピンのドゥテルテ大統領。

 

****ドゥテルテ大統領“接種しなければ刑務所”****

フィリピンのドゥテルテ大統領は21日、新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む国民に対し、「ワクチンを打たなければ刑務所に入れる」と警告しました。

フィリピンは、新型コロナウイルスの感染者が130万人を超え、深刻な感染拡大が続いていますが、ワクチンの接種の遅れが問題となっています。ドゥテルテ大統領は首都マニラの複数のワクチンの接種会場で接種を受ける人が少なかったとの報告を受け、21日の国民向けのテレビ演説で「ワクチンを打たなければ刑務所に入れる」と警告しました。

ロイター通信によりますと、「この国には危機がある。政府の言うことを聞かない国民に憤っている」とも述べましたが、保健当局はワクチン接種は任意だとしています。【6月22日 日テレNEWS24】

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「麻薬戦争」の名のもとに1万人以上を超法規的に殺害しているドゥテルテ大統領の発言ですから、単に誇張した表現と済ますこともできない側面も。

 

フィリピンでは、新規感染者は4月前半の1日1万人を超えるようなピークは過ぎたものの、1日6千人超のレベルがまだ続いています。

 

一方、ワクチン接種率は人口比でまだ一桁。

ただ、フィリピン国民がワクチン接種に消極的なのには、デング熱ワクチンの「苦い経験」もあってのことのようです。

 

****「ワクチン接種しなければ投獄」でも拒否するフィリピン国民が忘れない「苦い経験」****

<ワクチン接種による新型コロナ抑え込みのため過激な言動を繰り返すドゥテルテ大統領だが、国民が従わない訳とは>

 

「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む者は投獄する」。フィリピンのドゥテルテ大統領は、首都マニラの複数の接種会場で接種人数が少ないという報告を受けて、6月21日にテレビ演説で国民に警告した。「私は政府の言うことを聞かない人々に怒っている」

 

常軌を逸した発言で知られる大統領だから、いつもの捨てゼリフだと思いたくなる。ただし、ドゥテルテの場合、とっぴな発言の裏に、断固として実行するという決意が潜んでいることも少なくない。

 

2016年の大統領就任直後に勃発した「麻薬戦争」では超法規的な強硬手段も辞さず、1万人以上の死者を出した。その後、人道に対する罪に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に乗り出した。

 

新型コロナに関しても、ロックダウン(都市封鎖)や感染者の隔離を確実に行うために、時として容赦はしない。今年4月には外出禁止令を破った男性が、警察官からスクワットのような運動を300回強要された後に死亡した。

 

しかし、こうした懲罰的措置も、新型コロナの蔓延を食い止めることはほとんどできずにいる。フィリピンの累計感染者数は130万人以上、死者は2万4000人を超えている。いずれも東南アジアで2番目に多い。

 

安全性への不安と効果への疑問

ワクチン接種も進んでいない。6月22日現在、少なくとも1回接種したのは893万人で、人口のわずか6.1%。年内に全国民1億1000万人のうち7000万人に接種を済ませるという政府の目標は、実現が遠のくばかりだ。

 

ドゥテルテは21日の演説で、村の指導者は接種を拒否した人の名前を記録するべきだとも言及した。さらに、学校の対面授業の再開延期と、フェイスシールド着用の義務付けの継続も発表した。

 

接種率が低い理由の1つは、国民が躊躇していることだ。調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズが5月に発表した世論調査では、政府のワクチン接種プログラムを信頼すると答えた人は成人のわずか51%。フィリピンの食品医薬品局が承認したワクチンを無料で接種できるなら受けたいと答えた人は32%だった。

 

接種を迷う理由として、39%の人が副反応への不安を挙げ、21%はワクチンの安全性と効果に疑問を呈した。さらに、11%の人が「ワクチンが怖い」「信用できない」と答えている。調査機関パルスアジアによる最近の調査では61%が接種しないと答えている。

 

国民の不信の理由として考えられるのは、デング熱ワクチンの経験だ。フィリピンでは16年からフランスの製薬大手が開発したデング熱ワクチンの大規模な集団接種を行ったが、接種により深刻な症状が出ることが17年に発表され、政府はこのワクチンの使用を禁止した。

 

新型コロナのワクチンでは、アストラゼネカ社製を接種したごく少数の人に血栓が見つかり、シノバック社製に対する不信感も広がるなど、国民は不安を募らせている。

 

こうした状況を受けて、フィリピン政府は5月中旬に、接種の直前までワクチンの製造元を明かさないと通達した(自分の番が来て希望するワクチンでなければ、別の列に並び直すことになる)。

 

ドゥテルテの「脅迫」は、感染拡大を食い止めるために必要な規模の接種を実現できないかもしれないという懸念の裏返しでもある。ワクチンは十分に確保しているフィリピンだが、前途は多難だ。【6月29日 Newsweek】

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こうした状況で、コロナ規制も延長されました。

 

****フィリピン、コロナ規制を7月半ばまで延長****

フィリピンのある高官は29日、ドゥテルテ大統領が首都とその近郊州で移動や営業の制限を7月中旬まで延長したと明らかにした。

 

 新型コロナウイルスの感染は、首都地域では4月のピーク以降減少しているものの、一部の州では拡大が続いている。 

 

首都と近郊州では娯楽施設やアミューズメントパークの利用、コンタクトスポーツは禁止。レストランやジム、屋内の観光施設は40%の収容人数での営業が認められる。

 

 一方、首都圏以外の21の市や州では、依然厳しい規制が続けられる。 オマーン、アラブ首長国連邦、その他南アジアのほとんど国からの旅行者受け入れ停止も延長される。【6月29日 ロイター】

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【中国の南シナ海進出に沈黙する大統領 国内には批判も】

超法規的殺人も厭わないコワモテのドゥテルテ大統領ですが、なぜか中国にはいたって従順。

 

南シナ海の問題では仲裁裁判所での勝利判決もほとんど活用することなく、最近でも、閣僚から噴き出した中国批判に、「これは私から内閣への命令だ、西フィリピン海(南シナ海の比国内での呼称)問題の議論は、相手が誰であろうと控えるように」とくぎを刺す一幕も。

 

****比、南シナ海で対中監視強化も効果限定的****

中国が一方的に自国の海洋権益が及ぶとしている南シナ海南沙諸島周辺海域に多数の漁船を繰り出して領有権争いをしているフィリピンなどに高圧的姿勢を示していることに対してフィリピン政府は、同海域での中国の動きへの監視態勢を強化する方針を明らかにした。

 

ただ、ドゥテルテ大統領は中国から提供されている多数のコロナウイルス対策のワクチンなど巨額の経済支援への思惑もあり、あくまで「監視態勢」の強化であるとし、どこまで「やりたい放題」の中国に実効性のある対応となるかについては疑問視する見方が支配的だ。

 

フィリピンのシリリト・ソベハナ国軍参謀長は地元ラジオ局の番組で5月4日にフィリピンが実効支配する南沙諸島の「パグアサ島(英名ティトゥ島)」に新たに補給基地を建設する計画があることを明らかにした。

 

さらにフィリピン沿岸警備隊のアルマンド・バリロ報道官は5月25日、パグアサ島に軍が設置する補給基地に加えて、周辺海域への警戒監視能力を一段とグレードアップした監視態勢を構築するとともに南沙諸島に近い南部パラワン島のエルニドに地域の「作戦用の運用司令部」を新たに設置する構想を明らかにし、必要となる予算をドゥテルテ大統領に求めるとした。

 

パグアサ島に構築予定の監視機能に関しては高性能の監視カメラや夜間監視カメラなどを装備して「周辺海域での海難事故などの救難捜索機能」に加えて「操業するフィリピン漁民の保護」、そしてなにより最近活動を活発化している中国の動きに対する警戒監視強化が念頭にあることを示している。

 

■中国の漁船展開、海上民兵が乗り組みか

南沙諸島周辺海域では3月以降、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内のウィトサン礁や周辺のティザード礁周辺に多数の中国漁船が集結する事態となっていた。一時その中国漁船の数は多い時で240隻となったためフィリピン政府は抗議した。

 

しかし、中国側は「天候悪化で避難している漁船に過ぎない」と弁明したが、天候が回復した後も現在まで停泊し続けている。5月18日現在でも約120隻が残っているとの情報がある。

 

特にティザード礁は中国以外に台湾、フィリピン、ベトナムも領有権を主張しており、中国の一方的な行動に各国から批判の声が上がっている。

沿岸警備隊は今後も海軍、海洋漁業省などの関係機関と協力して「必要な処置を講じる」との姿勢を示している。

 

■ドゥテルテ大統領の優柔な対応

こうした中国の一方的に「既成事実」を作ろうとするかのような強気の行動に対してドゥテルテ大統領は外交ルートを通じて再三抗議はしているものの、国内では「あくまでポーズに過ぎない」との批判が出ている。

 

というのも南シナ海での中国の行動に対してあらゆる発言、主に中国批判の発言が各方面からでることにドゥテルテ大統領は業を煮やし、5月18日には「外相と報道官以外はフィリピンと中国の間の南シナ海問題に関する公の発言を控えるようにせよ」との指示まで出す事態となっている。

 

こうしたドゥテルテ大統領の姿勢に対してフィリピンのメディアなどからは「収束が見えないコロナ禍で中国から大量のワクチン提供を受けていることが背景にあるのは間違いない」と指摘している。

 

ドゥテルテ大統領は2016年の大統領就任以来、対中国では「是々非々」を唱えながらも中国による経済支援やインフラ整備協力、投資などへの「政治的配慮」から南シナ海問題でも断固として強い姿勢を打ち出せないでいる。

 

こうしたフィリピン側の「優柔」な対応に付けこむかのように中国は5月1日から8月16日まで「南シナ海の北緯12度以北での全ての船舶による漁業活動の一時停止(漁業モラトリアム)」を一方的に宣言した。

 

北緯12度以北には南沙諸島は対象外だが、中国とベトナムが領有権を主張している西沙諸島や中国とフィリピンが領有権を争っているスカボロ礁が含まれていることからフィリピン外務省は中国に対して強く抗議している。

 

抗議は「中国の措置は国連海洋法条約にある周辺国の海洋権益を脅かすものであり、国際法上の根拠がない」というもので、フィリピンとしての立場を主張した。

 

■関心は中国より次期大統領選へ

中国は1999年以降、この海域に独自の同じような漁業モラトリアムを出しており、フィリピン政府の抗議もいってみれば「毎年の恒例行事」となっており、実質的効果のない応酬と国内からも批判を浴びている。

 

こうした中、2022年に予定される次期大統領選挙ではドゥテルテ大統領の長女で南部ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が現時点で最有力候補と目され、再選禁止で大統領選に出馬できないドゥテルテ大統領自身も副大統領選への出馬も取りざたされている。もし実現すれば、親子の正副大統領(娘が大統領で父親が副大統領)誕生という異例の政権が発足することになる。

 

地元報道ではドゥテルテ大統領は副大統領選への出馬に関して「立候補は神の意思次第」とまんざらでもない姿勢を示すなど、もはや最大の関心は中国問題でも、遅れているコロナ感染対策でもなく「自身の将来」になっていると厳しい批判も起きている。

 

こうしたフィリピン・ドゥテルテ大統領の姿勢や対応は、ますます中国を増長させて南シナ海で一方的に権益を確保と領土拡張に邁進させる一因ともなっているのが現状だ。【5月29日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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中国批判を避けるドゥテルテ大統領ですが、フィリピン国内には強い反中感情もあるようです。

 

****フィリピン独立記念日に燃え上がる反中感情****

<「フィリピン海」の領有を主張し、海上民兵を送り込み、サンゴ礁で石油の掘削まで始めた中国と弱腰のドゥテルテに対し、激しい抗議デモが行われた>

 

フィリピンがスペインの植民地支配から独立して123年目の独立記念日を迎えた6月12日、一部の人々は祝典に参加する代わりに、首都マニラにある在フィリピン中国大使館前に集結し、南シナ海における中国の活動に抗議した。(中略)

 

(海上民兵の存在や軍事的意図を否定する)中国大使館の言い分は激しい反発を引き起こし、ここ数カ月間、中国とフィリピンの間で緊張が高まっている。フィリピンの経済団体は中国の撤退を求め、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はこの件について沈黙を守っていることで、かなり批判されている。(後略)【6月14日 Newsweek】

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【大統領の関心は次期大統領選挙 娘のサラ・ドゥテルテ氏擁立?】

“もはや(ドゥテルテ大統領の)最大の関心は中国問題でも、遅れているコロナ感染対策でもなく「自身の将来」になっている”という次期大統領選挙の方は、与党側候補に関して、“「ドゥテルテ一族」と「マルコス一族」という大統領経験者の親族を中軸に進み、そこにパッキャオ氏がどう関わっていくのるかが今後の焦点となる。”とのこと。

 

****次期フィリピン大統領は2世候補の一騎打ち? 来年の選挙へ早くも候補者選定****

<アジアの激動の現代史の舞台となってきたこの地で、また新たな歴史が動き出そうとしている>

 

2022年5月に次期大統領選を迎えるフィリピンでは、与野党それぞれの陣営で有力な立候補者をめぐる情報が早くも飛び交っており、乱戦となりそうな気配だ。

 

現職のドゥテルテ大統領は「大統領の任期は1期6年で再選禁止」との法規定があるため次期大統領選に出馬することは法律を改正しない限り不可能となっている。

 

このためドゥテルテ大統領としては正式には表明していないが、自身も市長を務めた南部ミンダナオ島ダバオの現職市長である娘のサラ・ドゥテルテ氏を意中の後継者として考えている、といわれている。また、最大与党「ラバン」も大勢はサラ市長の大統領選擁立で動いているとされる。

 

こうしたなか、"打倒ドゥテルテ"を掲げる野党「自由党」などはサラ市長の対抗馬となる大統領選候補者の選定を進めているとされ、最近、候補者6人を発表するなど、世論へのアピールを強めている。

 

野党の最有力候補は現職副大統領

(中略)

 

与党は大統領一家を軸に

これに対しドゥテルテ大統領を支える与党側はサラ市長に次いで知名度が高いマルコス元大統領の息子、フェルナンド・マルコス(愛称ボンボン)前上院議員、国民的英雄のボクサーであり現職上院議員でもあるパッキャオ氏などを有力候補者としている。

 

このほかにも元警察長官のパンフィロ・ラクソン氏が6月8日に地元メディアから「立候補を検討している」と伝えられ、その去就が注目されている。

 

サラ市長はミンダナオ島での支持率は高いものの全国レベルではパッキャオ氏やバンバン氏には及ばないと言われている。

 

パッキャオ氏はフィリピン国民の間では絶大な人気を誇り、かつて俳優のジョセフ・エストラーダ氏が1998年に大統領に選出された土壌もあるだけに、大統領選で台風の目になりそうだ。

 

そうした人気を背景にパッキャオ氏は地元テレビ局に対して「他の者にもチャンスを与えるべきだ」と発言。与党内がサラ市長支持一色になることへの警戒感を明らかにし、サラ市長を牽制する動きに出ている。

一部報道ではパッキャオ氏は「ラバン」を離党して新党を立ち上げるのではないか、との観測も出ているという。

 

ボンボン氏はマルコス元大統領の息子として全国的な知名度があり、とりわけ父親の出身地であるルソン島北部での支持率は高い。ただマルコス元大統領が在任中に戒厳令を発令し、反政府を訴えた活動家や学生、市民を弾圧した「フィリピンの暗黒時代」を生んだことは今も多くの国民が記憶している。

 

ドゥテルテ大統領は就任後の2016年11月、実家敷地内に保存されていたマルコス大統領の遺体をマニラ首都圏の「英雄墓地」に埋葬を断行した。歴代の大統領が国民の反マルコス感情への配慮から躊躇してきた懸念を強行突破したことで、マルコス一族とドゥテルテ大統領は急速に接近したと言われている。

 

こうした経緯から与党陣営の大統領選候補は「ドゥテルテ一族」と「マルコス一族」という大統領経験者の親族を中軸に進み、そこにパッキャオ氏がどう関わっていくのるかが今後の焦点となる。

 

いずれにしろ、選挙までまだ1年という現段階から与野党から多くの大統領選立候補者の名前が取り沙汰されており、2022年の大統領選は白熱した乱戦になりそうだ。【6月16日 大塚智彦氏 Newsweek】

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