(マドゥロ政権の是非を問う住民投票で投票する女性ら=ベネズエラの首都カラカスで12日【12月14日 毎日】
路上に置かれた段ボール箱の投票箱・・・国としてオーソライズされた投票ではなく、野党側が勝手にやっているという位置づけでしょうか?)
【ずるずると延命するマドゥロ政権 野党ボイコットの国会議員選挙でさらに権力基盤強化】
南米・ベネズエラ・マドゥロ政権の混迷について、以前このブログでいつ取り上げたか調べてみると、前回は2019年9月18日ブログ“ベネズエラ 混迷する政治・経済のなかで市場重視の動き、与党の国会復帰という“変化”の兆しも”。
1年以上、取り上げていません。
この空白が意味するのは、ベネズエラの混乱を打開するようなドラスティックな動き、あるいはその兆しも、ここ1年以上なかった・・・ということです。
ひところは、いつ崩壊してもいいように思えた強権支配・経済失政・反米左派のマドゥロ政権でしたが、やはり「権力」を握っているものの強みでしょうか、ずるずると持ちこたえて、そうこうするうちに「改革」の機運もしぼんでいくようにも。
反比例して、「改革」を期待された野党勢力を束ねる立場にあるグアイド国会議長の存在感は、次第に薄れていくようにも。
左派政権嫌いのトランプ米大統領も、いかんともしがたく、クーデター騒動以後は放置した感じも。
そうしたマドゥロ政権延命の流れを補強することになるのが、12月6日の国会議員選挙。
これまで野党勢力が優位な国会は、野党勢力を支える唯一の基盤でしたが、国会選挙をボイコットしたことで、その国会も失うことになります。
****ベネズエラ、疑惑の国会議員選 マドゥロ政権、独裁強化狙う 野党はボイコット****
食料や医薬品も不足する人道危機が続く南米ベネズエラで6日、国会議員選がある。
国会で多数を占めてきた野党勢力は「選挙が公正ではない」として不参加を表明しており、与党が勝利し、マドゥロ政権が独裁体制を一層強めるのは確実な見通しだ。
国会を選ぶ力は、あなたたちの手中だけにある。野党が再び勝つなら、私は大統領府を出る」。マドゥロ大統領は3日、カラカスでの集会で声を張り上げ、国会議員選の勝利に自信を見せた。
2015年にあった前回の議員選は野党が圧勝した。これを受け、マドゥロ派が多数を占める最高裁が立法権を国会から奪ったり、政権が国会の上位に「制憲議会」を置いたりし、国会を無力化してきた。
このため、今回の選挙結果が政権運営に与える実質的影響はない。しかし、選挙を経れば政権が「正統性」を主張する根拠になり、意味合いは大きい。
政権は選挙に向け、8月には拘束していた野党政治家100人以上を釈放。「野党も参加する、開かれた選挙だ」と主張する。
だが、最高裁がテロ事件への関与の疑いなどを理由に野党幹部を解職し、後任に政権に近い議員らを指名。
主な野党勢力は「手続きが公正ではない」として選挙をボイコットしたが、最高裁が指名した野党幹部が候補を擁立した。選挙管理を担う「全国選挙評議会」(CNE)のメンバーも、憲法が定める国会の承認を得ずに、最高裁が選定した。
選挙の公平さへの懸念は、国外からも出ている。政権は、欧州連合(EU)に選挙監視団の派遣を要請したが、EU側は「公正な信頼できる選挙という、派遣の条件が満たされていない」として、選挙の延期を提案したほどだ。
ボイコットする野党も、選挙でダメージを受ける。18年の大統領選ではマドゥロ氏が再選を果たしたとしているが、野党は「選挙は不正で、再選は無効」と主張。大統領職が空位になったとし、グアイド国会議長が憲法規定を根拠に暫定大統領への就任を宣言し、米国や欧州諸国、日本など、50カ国以上の支持を受けている。
しかし、来年1月で国会議員の任期が終われば、グアイド氏は「暫定大統領」を名乗る根拠を失う。野党も政権打倒を掲げながらまとまることができず、欧米による制裁頼みが実情だ。
これまで、トランプ米政権はマドゥロ政権に厳しい姿勢を取り、資金源となる国営石油会社も経済制裁の対象とした。バイデン次期大統領は、こうした制裁の継続について明言していない。
ただ、人道危機やマドゥロ政権による弾圧については「ベネズエラの人々とともに立ち上がる決意を再確認した」とツイートしており、批判的な立場はトランプ政権と変わらない。
人道危機も深刻なままだ。ベネズエラの人口は15年には約3千万人だったが、国連難民高等弁務官事務所によると、今年11月までに約545万人が難民や移民として国を逃れた。新型コロナの流行で国境は閉鎖されたが、抜け道を通って隣国コロンビアに越境したり、小舟でカリブの島国へ渡ったりする人々もいる。【12月6日 朝日】
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選挙に参加しても、数字は政権に都合がいいように「加工・修正」され、「野党勢力も参加した選挙の結果だ」という政権側の言い分だけが残る・・・ということでの、ボイコット選択でしょう。
実質野党がボイコットした選挙ですから、当然なですが(投票率は約30%ながら)結果は与党の圧勝。
****与党、9割の議席獲得=ベネズエラ総選挙****
南米ベネズエラからの報道によると、同国の中央選管に当たる全国選挙評議会(CNE)は9日、国会(一院制)議員選挙で、統一社会党(PSUV)など反米左派与党連合が277議席中91%に当たる253議席を獲得したと発表した。
これまで国会で多数を占めていた野党連合は選挙をボイコットした。新国会の発足は来年1月5日。これにより、マドゥロ大統領が国の全権を掌握する。【12月10日 時事】
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これにより、マドゥロ政権の支配体制はより強固になります。
****ベネズエラ 三権掌握のマドゥロ政権 国際社会のせめぎあいも長期化****
(中略)独裁体制を強める反米左翼のマドゥロ政権が行政と司法に加え、立法府を含めた三権を掌握することになった。
米国や欧州連合(EU)などが選挙を「不当」として結果を受け入れないと非難する一方、ロシアや中国はマドゥロ政権との関係強化を進め、ベネズエラへの影響力を強めていくとみられる。(中略)
これに対し、国会で多数を占めていた野党連合は、CNEの委員の任命権などをめぐりマドゥロ氏側の不正を訴え、選挙をボイコット。野党連合出身のグアイド国会議長は7日、選挙の無効を訴え、新国会が発足する来年1月5日以降も「暫定大統領」として留まる考えを表明した。
新たな選挙の実施などを問う独自の「国民投票」を7〜12日まで行うが、議員の資格を失うことが濃厚となっている。
ベネズエラをめぐり対応が割れる米国と中露のせめぎあいも長期化しそうだ。グアイド氏を支援する米国のポンペオ国務長官は7日、選挙を「茶番だ」と非難し、マドゥロ政権を認めず、グアイド氏を引き続き暫定大統領と認定すると表明した。
だが、米次期大統領に就任する見通しとなったバイデン前副大統領は今回の選挙に関し声明などを発表していない。トランプ政権による石油輸出禁止の経済制裁に苦しむマドゥロ氏は8日、「バイデン新政権が発足すれば、対話の可能性を開くことを期待している」と述べ、米国の政策転換に期待感を示した。
一方、マドゥロ政権の後ろ盾となっているロシア外務省は声明で、「ベネズエラの選挙プロセスは、普段から民主主義の模範を自任する国々よりも、透明性が高かった」と指摘。中国外務省も「ベネズエラの内政問題だ」として、マドゥロ氏への批判を強める米国を強く牽制(けんせい)した。
また、反米路線で一致するイランは燃料不足にあえぐベネズエラに対し、ガソリンを大量輸出しており、今後もマドゥロ政権への支援を続けるとみられる。【12月9日 産経】
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【唯一の支持基盤「国会」を失う野党勢力 グアイド氏の「暫定大統領」根拠も弱まる】
逆に、グアイド氏は国会議員の資格も失い、暫定大統領としての法的根拠も弱まります。
****「民主化の希望の星」が輝き失う南米ベネズエラ****
(中略)野党の指導者で2019年に「暫定大統領」への就任を宣言したグアイド国会議長も議席を失う見込みである。
グアイドには、選挙に参加して公正な選挙でないことをアピールすることも1つの選択肢だったかもしれない。しかし、選挙に参加すれば政権側に選挙に正当性を与える根拠として利用されることも目に見えていた。
徹底的な経済制裁や天文学的なインフレによる経済破綻、失政や人権侵害に抗議する大規模な国民の抗議活動、大量の国民の国外流出等々にもかかわらず、何故マドゥーロは持ちこたえたのであろうか。
これは、キューバの諜報組織やロシアの軍事支援を受けた軍、警察及び民兵組織による徹底した支配により国民の不満を力ずくで抑えていることによる。そのために国営企業等の利権を軍幹部に配分し、政府支持者を優遇するバラマキ政策等により最低限の求心力を維持してきた。
憲法上の規定により暫定大統領就任を宣言したグアイドには、法的正統性の一応の根拠があり、欧米やラテンアメリカ主要国など50か国以上が支持し、一時期グアイドはベネズエラの民主化の希望の星であった。
トランプ米大統領も、武力介入も選択肢にあることを匂わせ、最大限の圧力政策として、ベネズエラ原油の輸入禁止やベネズエラ原油を購入する第3国企業に対する制裁措置を含めた経済制裁を強化し、体制の変更を目指した。
2019年4月には、グアイドらが軍隊に決起を呼びかけ、あと一歩というところまで事態は動いたが、結局失敗に終わった。
この事件とその後の強硬派のボルトン補佐官解任を契機に、トランプのベネズエラに対する関心は低下したようにも見えた。ノルウエーの仲介工作やEU、リマグループ(マドゥーロ政権に批判的なラテンアメリカ諸国のグループ)の対話呼びかけも実ることなく、結局トランプ政権は何らの成果もあげることなく退陣となる。
来年1月にグアイドが議員の地位を失えば暫定大統領としての法的根拠も弱まるであろう。マドゥーロは、議会での多数も獲得し、民主主義の体裁を備えた完全な独裁権力が完成する。
その必要があれば、グアイドの身柄の拘束に踏み切るかもしれない。更に、米国の外交政策の空白をついて、ベネズエラ原油を中国に輸出することを計画しているとも報じられている。
就任直後のバイデンは、このような事態にどう対応するのであろうか。難問山積のバイデンにとり、政策アジェンダにおけるベネズエラの優先度がそう高いとは思われない。
従って、トランプの導入した制裁措置を直ちに見直すこともないであろうが、マドゥーロが取ろうとしている制裁回避策や反対派の弾圧や人権侵害、人道上の危機に効果的な対応ができるのか疑問である。
EU側には、政権側との対話を求める一部野党指導者とのコンタクトを通じて外交上の努力で事態の改善を模索しようとの動きも見られる。
バイデンも、グアイドに対する道義的支持は維持するものの、圧力だけでなく外交交渉によるアプローチに切り替えることになるであろう。マドゥーロも制裁緩和は実現したいので、交渉に応ずる素振りは見せるかもしれないが、むしろ自信を深めており、民主化等の面で実質的な譲歩をするとは思われない。【12月14日 WEDGE】
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【政権の是非問う住民投票】
議員選挙はボイコットするものの、前出【産経】に(野党勢力主導で)“新たな選挙の実施などを問う独自の「国民投票」を7〜12日まで行う”とあります。
たぶん、その結果が下記記事でしょう。
****ベネズエラで政権の是非問う住民投票 投票率が国会議員選上回る****
南米ベネズエラの国会は12日、独裁色の強いマドゥロ政権の是非を問う住民投票について、開票率87%時点の投票率が31%に上ったと明らかにした。
国会で多数派の野党連合が「不正が行われる」としてボイコットした6日の国会議員選の投票率を上回った。
住民投票に法的拘束力はないが、野党連合は、マドゥロ政権の正当性を否定する民意が示されたと主張している。
国会によると、7〜12日の住民投票では、有権者数2070万人の31%にあたる646万人が投票した。国内在住の321万人が投票所で票を投じ、国内の241万人と国外在住の84万人がオンラインで投票した。
住民投票ではマドゥロ政権の正当性や国会議員選の公平性について尋ねたが、国会は回答の内訳を明かさなかった。ただ、野党連合を主導するグアイド国会議長は13日、「住民投票の参加者は(国会議員選を)はるかに上回った。民主主義のための闘いを続ける」とし、新国会が発足する2021年1月5日以降も現国会を継続すると主張した。
国会(1院制、277議席)議員選では、マドゥロ大統領率いる与党が9割にあたる253議席を確保。マドゥロ氏は唯一、影響下に置いていなかった国会も掌握し、独裁色を強めるとみられる。議会選の投票者数は625万人で、投票率は30%だった。
マドゥロ氏は10日、住民投票について「誰も法的意味があると考えていない」と有効性を否定していた。【12月14日 毎日】
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住民投票の開票・集計作業は誰が行っているのでしょうか?
「住民投票ではマドゥロ政権の正当性や国会議員選の公平性について尋ねたが、国会は回答の内訳を明かさなかった。」・・・どうして?
議員選挙同様に結果数字は政権側に修正されるから?
野党勢力に都合の悪い結果だったから?(国会議員選挙に投票した層と住民投票の層が重なるなら、政権支持者が多数をしめるという結果にもなるかも)
よくわからないことが多い「住民投票」です。