孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  TPP参加をにらみながら、日本産食品輸入解禁問題で苦慮する蔡政権

2020-12-10 23:04:32 | 東アジア

(【11月30日 東亜日報】米国産豚肉の輸入解禁問題で、豚の内臓が飛び交う台湾議会  日本の国会はそんな品のないことはしない・・・と言うべきか、あるいは、そんな元気はない・・・と言うべきか)

 

【大荒れの米国産豚肉輸入解禁問題】

「食の安全」に関する問題は、国民にとって身近な問題なだけに、大きな感心・議論を呼ぶことにもなります。

 

台湾の議会は、以前から議員同士の激しい衝突が話題になるような「血の気の多い」傾向がありますが、その台湾議会で「食の安全」が大きな議論になると、議場で豚の内臓などが投げつけられる事態にもなるようです。

 

****台湾議会で豚の内臓飛び交う、米国産豚肉の輸入解禁に野党反発****

台湾の立法院(議会)で27日、政府が米国産豚肉の輸入規制緩和を決定したことを受け、野党議員らが議場で豚の内臓などを投げ付けて抗議した。

 

時に荒れることで知られる台湾議会では、対立する議員同士で激しい衝突が頻繁に繰り広げられるが、この日はとりわけ奇抜な戦術が用いられた。

 

野党・国民党の議員らは、バケツ何杯分もの豚の内臓を議場にばらまき、さらにその腸や心臓、肝臓などを与党議員らに向かって投げ付けた。

 

台湾政府は先に、添加物のラクトパミンが入った餌で飼育された米国産の豚肉の輸入を来年1月1日に解禁すると発表。ラクトパミンは赤身を増すための添加物で、欧州連合や中国などでは使用が禁止されている。

 

米政府関係者らは、米国と台湾が貿易協定の締結を目指す上で、米国産の豚肉と牛肉の輸入制限が大きな障害となっていると明言。

 

台湾議会で多数派を占める蔡英文総統率いる与党・民主進歩党は、この輸入規制を緩和することによって、米台の合意締結に向け地ならしをしたい考え。

 

しかし台湾では多くの国民が米国産豚肉の輸入に反対しており、一連の選挙で敗北続きの野党がこの問題を捉えて攻勢に生かそうとしている。 【11月27日 AFP】

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上記の米国産豚肉と似たような問題が、東京電力福島第一原発事故から続ける福島など5県産の食品禁輸措置の扱いにもあります。

 

日本からすると、科学的根拠のない措置ということになりますが、「食の安全」にこだわる国民感情的にはそう簡単な話でもありません。

 

【扱いが難しい日本産食品輸入解禁問題 TPP参加との兼ね合いで蔡政権苦慮】

米国産豚肉問題がアメリカと台湾の貿易協定締結にかかわっているように、日本食品禁輸問題はTPPとかかわってきます。

 

****日本食品禁輸問題 蔡政権のジレンマ*****

「私たちは欧米のやり方を採用すべきで、中国のやり方を採用すべきではない」

 

4日、台北市内の路上で記者団に囲まれた、台湾の駐日大使に当たる謝長廷・駐日経済文化代表処代表は、福島県などの日本産食品の輸入解禁問題についてこのように話した。

 

11月に台湾に戻った謝氏は、新型コロナウイルスの感染予防に伴う14日間の自宅隔離を終えてから、蔡英文総統、蘇貞昌行政院長(首相に相当)らを相次いで訪ねた。メディアにも積極的に登場し、日本の食品輸入解禁問題などについて精力的に活動していた。

 

2011年の東京電力福島第1原発事故を受け、当時の台湾の馬英九・中国国民党政権は福島県などの食品を輸入禁止とした。

 

しかし、それは科学的データに基づく措置ではなく、生産地の地名だけを根拠にしていた。中国が実施した日本食品の禁輸措置と同じく乱暴なやり方で、日本政府から猛抗議を受けていた。

 

16年に発足した蔡政権は規制緩和に前向きだったが、野党、国民党が主導した18年11月の住民投票で、禁輸継続が賛成多数となったため、これまで、投票結果とは異なる政策を実施できなかった。

 

その投票結果に伴う禁輸継続の期限は11月下旬で終了した。謝氏を中心に台湾の与党、民主進歩党の知日派たちは「安全を確認したうえで、早く解禁すべきだ」と主張している。

 

謝氏らが解禁を急ぐ理由の一つは、台湾が目指している環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の参加への影響があるからだ。

 

食品禁輸問題で、国際的な安全基準に準じる行動を台湾に求めている日本は、21年のTPPの議長国を務める。台湾を受け入れることに前向きな姿勢を示しているものの、食品禁輸問題では台湾に不信感がある。

 

逆に言えば、食品禁輸問題をクリアすれば、台湾はTPP加盟問題で日本の全面的な協力が得られる。日本はTPP加盟国の中で、最も影響力のある国だ。

 

一方、中国の習近平国家主席はすでにTPP加盟への意欲を表明しており、急がなければ、中国がTPPに先に加盟してしまい、ほかの国際組織と同様、台湾の加盟が阻止される可能性がある。

 

しかし、蔡政権は今のところ、日本の食品解禁問題に関して動きが鈍い。2日、民進党の内部会議に出席した蔡氏はこの問題について「まだ議論していない。先に解決しなければならないことがたくさんある」と話した。

 

蔡政権は8月、添加物ラクトパミンが入った餌で飼育された米国産豚肉の輸入解禁を決めたことで、野党から猛反発を受けた。11月の立法院(国会)本会議では、野党議員がブタの内臓を行政院長に投げつけるなど大混乱が起きている。

 

豚肉問題もまだ解決していないのに、日本食品を解禁すれば、野党は「食品の安全問題」で蔡政権への攻撃を一層強め、支持率が急落することを政権側は懸念しているようだ。

 

台湾メディアは「日本側の希望は、東日本大震災から10年となる来年3月11日までに問題を解決することだ」と伝えている。これに対し、民進党関係者は「日米中とも複雑に絡み合っている問題で、簡単に決断できない。必ず解決するから、もう少し待ってほしい」と話している。【12月8日 産経】

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台湾は、中国の反対によって多くの国際機関から排除されていますが、先日締結された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にも参加しておらず、中国が加盟している以上、今後の参加も認められません。

 

****台湾緊張、巨大経済圏RCEPの成立に「新たな敵の出現」の声―中国メディア****

中国メディアの環球網は16日付で、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、さらにASEAN10カ国が東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を締結したことで、台湾では「新たな敵」が出現したなどと、緊張が走ったと伝えた。

台湾各メディアは15日、RCEPの成立について「台湾経済の新たな敵」「RCEP参加国間では関税が大幅に引き下げられ台湾製品の輸出が排斥される」「台湾のサービス業界もRCEP参加国の進出についての障壁が、さらに大きくなる」「投資も困難になる」など、緊張感に満ちた報道をしたという。

環球網によると、与党民進党当局は、世論の鎮静化に力を入れている。政府・経済部の王美花(ワン・メイホア)部長は同日、「RCEP成立に伴う関税減税や自由化の程度は、参加国がすでに設定している自由貿易協定と比べて、全体的な対象としてそれほど増えておらず、減税が実現するまでの期間は長い。影響については今後、監察する必要がある。台湾企業は早い時期から準備をしている」と述べた。

また、台湾国営の中央通訊社は、台湾排除の動きがさらに強まって、台湾が「経済の辺境」になる存在リスクはある一方で「専門家は、米中の争いは終息しておらず、全世界の反中の波は継続する情勢だ。台湾にとってよい転機がもたらされる」と論じた。

一方、野党である国民党は「台湾にとってRCEP参加国を相手とする貿易額は、台湾の全貿易額の59%、RCEP参加国に対する投資額は台湾の海外投資額の65%を占める」、「排除されたことでマイナス効果が発生することは必至」と指摘。

さらに「民進党は米国に頼ることしか考えていない」として、RCEPに関心を示さず、参加しようとする勇気もなかった」、「常に中国への恨みを煽る言論で台湾の民衆の情緒を『巻き上げ』た」などと主張。台湾を苦境に陥れない事態の根本的原因は、民進党政権の対大陸政策だと批判した。【11月16日 レコードチャイナ】

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TPPについても、中国が参加の意向を表明していることから、その中国に先んじて参加しなければ、参加できなくなり、いよいよ台湾経済が孤立化するとの危機感があります。

 

そのためには、日本との貿易上の問題となっている食品禁輸措置を緩和したい・・・というところですが、「食の安全」の問題は国民感情が絡むだけに難しい・・・というところのようです。

 

****日本食品禁輸の解除「急がない」 台湾の行政院長が表明****

台湾が東京電力福島第一原発事故から続ける福島など5県産の食品禁輸をめぐり、台湾の蘇貞昌(スー・チェンチャン)行政院長(首相)は8日、解除を急がないとの考えを表明した。立法院(国会)で野党国民党の質問に答えた。台湾メディアが報じた。

 

台湾では2018年11月に解除の是非を問う住民投票があり、解除反対が多数を占めた。政権は投票から2年間は住民投票の結果と反する施策がとれないが、その効力が先月末に切れた。

 

台湾メディアによると、蘇氏は国民党の立法委員(国会議員)から、「中国や韓国は禁輸を続けているが台湾は解除するのか」と問われ、「そうした考えはない」と回答。「食品の安全に関わる問題は科学的な証拠と国際基準に基づいて判断する」と説明した。【12月8日 朝日】

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【中国との距離感を決めかねる国民党の混迷は続く】

一方、豚肉輸入解禁問題では久々に政府への攻勢を強めている野党・国民党ですが、中国との関係をどのように考えるのかという「基本問題」で、依然混迷が続いています。

 

****台湾、迷走続く国民党 「中国に融和的」印象払拭できず****

孫文が創立し、台湾で長く政権党の座にあった国民党が迷走している。世論の嫌う「中国に融和的」とのイメージ払拭(ふっしょく)は進まず、資金難や若者の支持低迷と合わせた「三重苦」の様相だ。打開の道筋は、あるのだろうか。

 

 ■香港支援のデモ、幹部が反対

10月下旬、台北にある国民党本部で若手党員向けの勉強会が開かれ、党青年団長の男性が発言を求めた。

 

「香港支援のデモに党として参加を求めたら、幹部から『今は時期が悪い』と反対された」。幹部の反対は中国への配慮からとみられる。男性は個人の立場で赴き、与党の民進党や、少数政党の幹部らが現場でデモへの支持を訴えるのを、やるせない思いで聞いた。(中略)

 

国民党は、馬英九(マーインチウ)前総統時代の2015年に中国の習近平(シーチンピン)国家主席との会談を実現させるなど、中国との対話のパイプを売りにして、公務員や財界を中心に支持を得てきた。

 

ただ、性急な対中接近や、香港に対する中国政府の強硬姿勢を見た世論に離反され、総統や立法院(国会)選挙で16、20年と連敗。

 

蔡英文(ツァイインウェン)政権が有権者の反発の中で進める成長促進剤を使った米産豚肉の輸入解禁をめぐり、最近の支持率は上昇傾向だが、台湾民意基金会の11月の調査では21・2%。民進党の31・9%とはまだ差がある。

 

今年3月から党を率いる江啓臣(チアンチーチェン)主席(48)は世論に中国への警戒感が強いことを意識し、中台が「一つの中国」に属する、と認めた対中合意の見直しを模索した。だが、馬氏ら党重鎮から反対され、9月の党大会では見直しを断念した。

 

一方で、江氏は10月には蔡政権に対し米国との「国交回復」を迫る決議案を立法院に提案し、民進党とともに通過させた。正式な党名「中国国民党」から「中国」を削る議論が党内で起きるなど、中国を刺激するような行動が続く。

 

中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の報道官は10月、国民党の動きを「台湾は中国の一部で(党名変更など)重大な案件を議論の俎上(そじょう)に上げることは許されない」と批判。「台湾で責任ある政党(国民党)は目を覚まさないといけない」と牽制(けんせい)した。

 

中国政府は16年に蔡政権が誕生して以後、当局間の対話窓口を閉ざし、米中対立の激化で台湾への軍事圧力を強めてもいる。

 

台湾では国民党の対話パイプを使った緊張緩和に期待する声もあるが、党の幹部や立法委員(国会議員)は「国民党上層部と中国との対話パイプは現在、機能していない」と危機感を強める。

 

 ■資金難に若手党員の不足も

国民党の課題は「中国との距離」に限らない。

 

台湾の憲法裁判所に当たる大法官会議は8月、国民党が日本統治時代の土地や施設を入手するなどして得た資産を返還するよう定めた法令を、合法と判断した。今後、768億台湾ドル(約2800億円)の返還を求められる見通しだ。

 

党財政は逼迫(ひっぱく)しており、党関係者によると、党職員の人件費の遅配が起きた。小口寄付の募集に力を入れるほか、台北中心部のビルに入居する党本部の家賃を軽減する方法がないかも検討中だ。

 

この関係者は「党本部では、一部のトイレから紙を撤去することすら行われていた」と苦笑する。党費の値上げや献金者の開拓に加え、年間約4億台湾ドルかかる運営費のうち、6700万台湾ドルの削減をめざす。

 

「三重苦」の三つ目は、若手党員の不足や若者層からの支持低迷だ。40歳以下の党員は今年2月時点で約3%にとどまり、約2割を占める民進党とは対照的だ。党の改革案も、「国民党は過去10年、(新たに有権者になった)若者世代の支持を失ってきた。このままだと次の10年も失うことになる」と指摘する。

 

党は昨年からツイッター発信を強化したが、主要アカウントのフォロワーは11月末で約2万人。民進党の7万6千人超に水をあけられている。

 

江氏と立法院で何度も論争した民進党中堅の立法委員は「江氏ら国民党の若い改革派は、保守派の長老に党の実権を握られている。若手は選挙で党の支援が必要なため、主張で譲歩せざるを得ない」と改革の難しさを指摘する。

 

馬前政権時代に、中台交流の民間窓口機関「海峡交流基金会」の副会長を務めた政治評論家の馬紹章氏は「国民党は、有権者の抱く『自分は中国人ではなく台湾人だ』という意識の高まりに対応できていない」と指摘する。【12月8日 朝日】

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