(【11月2日 テレ朝news】 中国軍はソマリア沖合で夜間に行った実弾射撃訓練の映像を公開。その存在感を誇示するようにも)
【アメリカ スーダンのテロ支援国家指定解除で関係強化へ】
アフリカ・スーダンについては、10月5日ブログ“スーダン ダルフール紛争の和平合意調印 「テロ支援国家」指定の解除のために米が求めるものは”でも取り上げました。
30年にわたる独裁政権を築いたバシル前大統領が、民主化を求める民衆のデモと、軍のクーデターにより2019年4月に失脚しました。
その後、実権を握った軍に対し、民主化勢力は民政への移行を求めてストライキなど「不服従」の抗議行動を展開。
紆余曲折はあったものの、アフリカ世界では珍しく・・・と言ったら失礼でしょうが、また、ダルフール紛争やバシル強権支配といったスーダンのネガティブイメージとは異なり・・・と言ったらももっと失礼でしょうが、「民主化」に向けて歩みだしています。
10月5日ブログでも取り上げたように、スーダンの今後にとって、アメリカによるテロ支援国家指定解除が重要課題となっていましたが、大統領選挙のさなか、「外交成果」が欲しいトランプ大統領との「話」がついたようで、大きく進展しています。
****スーダンの「テロ国指定」解除へ=米大統領選直前に成果狙う―トランプ氏****
トランプ米大統領は(10月)19日、ツイッターで、スーダンのテロ支援国指定を解除する方針を示した。
トランプ氏は「スーダンが米国人のテロ犠牲者やその家族に3億3500万ドル(約350億円)を支払うことで合意した」と表明。支払いが完了すれば、指定解除するという。スーダン暫定政権のハムドク首相はツイッターで「民主制移行への最大の支援だ」と歓迎した。
米国は、テロ支援国指定解除の条件として、スーダンにイスラエルとの国交正常化を要求したとされる。世論調査でバイデン前副大統領にリードを許すトランプ氏は、11月3日の大統領選直前に、新たな外交成果をアピールする狙いがあるようだ。【10月20日 時事】
********************
テロ支援国家指定解除とセットになっていたと言われるイスラエルとの国交正常化の方も。
****イスラエルとスーダン、国交正常化で合意 トランプ氏仲介3例目****
米ホワイトハウスは23日、イスラエルとアフリカ北東部のアラブ国家、スーダンが国交正常化に合意したと発表した。トランプ米大統領の仲介によるもので、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化で合意したのはアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンに続いて3カ国目となる。
トランプ氏は11月3日に迫った大統領選を前に、自身の支持基盤でイスラエルへの支援を信仰の柱に据える福音派などキリスト教右派へのアピール材料として外交成果を誇示するとみられる。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し「イスラエル、スーダンにとって信じられないほど素晴らしいディール(取引)だ」と強調した。
今回の3カ国による共同声明は、「地域の安全保障を高め、スーダン、イスラエル、中東、アフリカの人々にとって新たな可能性を開く」と国交正常化の意義を訴えた。経済・貿易分野で関係構築を進める方針で、まずは農業分野での協力を実施する。
またこれに先立ち、トランプ政権は23日、スーダンのテロ支援国家指定を解除すると議会に通告したことを明らかにした。(後略)【10月24日 産経】
********************
トランプ大統領らしい「取引」外交の成果でしょう。(イスラエルとの国交正常化が、中東情勢にどういう変化をもたらすかは、別途検討を要する問題ですが)
【ソマリアから撤退するアメリカ スーダンに進出するロシア 紅海周辺での大国のせめぎあい】
スーダン、さらにはソマリア・ジブチなどの「アフリカの角」・紅海をめぐっては、アメリか、ロシア、中国といった大国の思惑が渦巻いています。
アメリカは、テロ支援国家指定解除でスーダンとの関係を強化する一方で、ソマリアからの撤退を明らかにしています。
****ソマリアから米部隊の大半撤退へ、トランプ氏が命令****
米国防総省は4日、ドナルド・トランプ米大統領が、ソマリアに駐留する米部隊の大半を撤退させるよう命じたと発表した。ソマリアには約700人が駐留し、イスラム過激派組織「アルシャバーブ」対策やソマリア軍の訓練に当たっている。
国防総省は、トランプ氏が「国防総省と米アフリカ軍に、2021年初頭めまでに人員と資産の大部分をソマリアから撤退させるよう命じた」と明らかにした。
国防総省はこの対応について、米国がアフリカから撤退するわけではないとした上で、「米本土を脅かす恐れのある過激派武装組織を弱体化させ続けると同時に、大国間競争でのわが国の戦略的優位を維持し続ける」と述べた。 【12月5日 AFP】
***********************
“アルシャバーブがホテル襲撃、11人死亡 ソマリア首都”【8月17日 AFP】というように、破綻国家ソマリアがイスラム過激派アルシャバーブの影響力から脱した訳でもありませんが、もともとアメリカは、ソマリアには1993年の「ブラックホークダウン」以来の「トラウマ」があって、あまり深入りしたくない地域ですから、イラク・アフガニスタンから撤退するなら、ソマリアに残る手はないでしょう。
一方、アメリカの空白を埋めるように、この地域への進出を目論むのがロシア。
****ロシアがスーダンに海軍拠点 紅海沿岸、アフリカの足場****
ロシア政府は8日、海軍の拠点をアフリカ北東部スーダンの紅海沿岸に設置することで両国政府が合意したと発表した。
兵員最大300人が駐留、艦船が最大4隻停泊できる事実上の海軍基地とみられ、ロシアが重視するアフリカ大陸進出の足場となりそうだ。
トランプ米政権は4日、スーダンに近いソマリアから約700人の駐留米軍の大部分を撤退させると発表したばかり。シリア内戦と合わせ、米国のプレゼンスが低下する中東・アフリカで、ロシアの存在感が強まっている。【12月9日 共同】
*********************
紅海沿岸のジブチ(海賊対策にあたる日本の自衛隊の基地もありますが)には、中国が大規模基地を建設しており、米中ロの「大国」がせめぎあう形にもなっています。
****スーダンめぐり米露綱引き 近隣ジブチには中国軍基地 紅海周辺で強まる角逐****
アフリカ北東部のスーダンに米露など大国が関心を寄せている。約30年間、政権を掌握したイスラム色の濃いバシル大統領が昨年失脚したのを受け、トランプ米政権は今年10月、イスラエルとの国交正常化合意と引き換えにスーダンの「テロ支援国家」指定を解除。
11月にはロシアが紅海に面するスーダンのポートスーダンに海軍拠点を建設する方針を表明した。貧困に悩むスーダンには有力国との関係を強化して経済低迷を打開する狙いがある。
スーダンでは昨年、物価高を受けて反政府デモが相次ぎ、バシル政権は軍のクーデターで崩壊した。同年8月には軍民合同の暫定政権が発足し、民政移管プロセスが始動した。
米国はスーダンが国際テロ組織アルカーイダのビンラーディン容疑者らに居場所を提供したなどとして、1993年からテロ支援国家に指定していた。貿易の障害となっていた指定が解除されたことで、米国や技術立国イスラエルなどとの関係強化への道筋が整った。
スーダンはロシアとの合意内容を確認していないもようだが、ロシアが海軍拠点を建設すれば、さらなる経済的利益を見込める。
ただ、エジプトやサウジアラビアなどはスーダンの軍部に肩入れしてきたとの見方があり、スーダン国内では反イスラエルの世論も根強い。民政移管がスムーズに実現するかには不透明な面もある。
11月には隣国エチオピアの軍事紛争で4万人以上の難民がスーダンに流入しており、経済再生が遅れることも確実だ。
ロシアが拠点設置を目指すスーダンなど紅海周辺は近年、国際的な軍事情勢が変化している。
北はスエズ運河、南はアデン湾にはさまれた紅海は欧州とアジアを結ぶ国際海運の大動脈で、アデン湾に面するジブチには米国が基地を設置し、ドローン(無人機)によるイスラム過激派への反テロ作戦を展開してきたとされる。
中国はこの米軍基地の至近距離に軍事基地を建設し、2017年に運用を開始した。アフリカは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の重要地域だ。
米中が火花を散らす中、ロシアはスーダンに足場を築いて紅海一帯に存在感を示す狙いがうかがえる。この地域で米中露が角逐する構図が続きそうだ。
ロシアも昨年、アフリカ諸国との初の首脳会合を開催するなど、アフリカ重視の姿勢を打ち出している。【12月1日 産経】
********************
【中国 ジブチからさらに内陸へ アフリカ重視では米ロに先行】
ロシアもアフリカ重視の姿勢を・・・と言っても、やはりアフリカ重視で先行するのは中国でしょう。
中国は、単にジブチに大規模軍事基地を建設しただけでなく、ジブチを拠点にエチオピアなど内陸部との関係も強化する動きを見せています。
****アフリカの角、ジブチ共和国の現状****
(中略)ジブチは1977年にフランスから独立した。1991年にイッサ族(ソマリア系)とアファール族(エチオピア系)の武力衝突により内戦が勃発したが、1994年に政府は反政府軍と和平合意し、内戦が終結した。
1999年にゲレ大統領が就任し、2016年に4選を果たして現在に至る。旧宗主国フランスを軸として、エチオピア、ソマリア等近隣諸国、及びサウジアラビアを中心とするアラブ諸国とのバランスのとれた友好・協力関係を築いている。
ジブチの気候は極めて厳しく、夏場の気温は50℃を超え、年間降水量も200mmに満たない荒涼とした大地である。天然資源にも恵まれず、また農耕にも不適な環境である。
そのような中、「一帯一路」を提唱した中国は、アフリカ、欧州進出の橋頭保としてジブチに大規模な投資を行った。
2018年7月に完成したアフリカ最大となる自由貿易区の一部は、世界屈指の交易ルートに位置する戦略的要衝という利点を生かし、貿易・物流のハブとなることを目指したものだ。
総面積約48万㎢(羽田空港の4倍の広さ)、総工費35億ドルの一大プロジェクトである。ゲレ大統領は、式典で「本プロジェクトにより国際通商貿易におけるジブチの地位を大幅に向上させるだろう」と事業を称えた。
2016年には、ジブチ・エチオピア鉄道の全線電化事業が行われている。総工費は40億ドルであり、およそ750kmの両首都間を13時間で結ぶものだ。毎週8万トンの輸送量を見込んでいたが、現在は5千トンにとどまっている。
今後は、この鉄道によりアフリカ内陸部の天然鉱物資源などを運び出し、内陸部に工業製品など供給する交易が予想され、中国のアフリカへの投資はまだまだ続くことが見積もられる。【10月13日 ロイター】
************************
こうした中国のアフリカにおける影響力拡大にアメリカも懸念を示していますが、中国のアフリカ重視は毛沢東以来で、今更の感もあります。
****中国、アフリカを「実験場」に=政治・経済両面で影響拡大―米報告書****
米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が公表した報告書は、中国の対アフリカ戦略の分析に大きな分量を割き、中国式統治モデルの「実験場」としてアフリカ進出を強めている現状に懸念を示した。同委によれば、毎年議会に提出される同報告書でアフリカ情勢を大々的に取り上げたのは初めて。
報告書は「中国政府がアフリカを中国式政治・経済モデルを輸出する実験場と見なしている」と指摘。政治、経済的関与を通じて得た影響力を行使して国際舞台で中国の権益主張を支持させる一方、アフリカや国際組織における米国の影響力を低下させていると憂慮を示した。
経済分野では、中国がコバルトなどのアフリカ産鉱物資源の供給を独占し、価格を自在に設定することを警戒。中国企業がアフリカの新興デジタル経済に着目し、ベンチャーキャピタル市場への投資を拡大して次世代の技術標準を設定しようとしていると分析した。
中国はアフリカや世界各地で軍事転用可能な港湾開発を進め、拠点の確保を図っている。報告書は、中国がアフリカ大陸やその周辺での軍事プレゼンスを拡大すれば「インド洋西部や大西洋南部で米海軍の活動が阻害されることにつながりかねない」と警鐘を鳴らした。
調査委員会のキャロリン・バーソロミュー副議長は「中国が政府一丸となって『人類運命共同体』の青写真を実行に移そうとしているのがアフリカだ」と説明した。【12月2日 時事】
***********************
中国の場合は、「政府一丸となって」と言うより「官民一丸となって」といったところが強みと思われますが、そのあたりの話をしだすと長くなるので、また別機会に。